以下、弁護人提出の上告趣意書です。弁護人の上告趣意書作成にあたっては、弁護士がある憲法学者にお会いして助言を頂き、ドイツ憲法学の観点から、新たな論点を織り込んでいます。が、日本の裁判所は機能不全、脳死状態なので、最高裁には黙殺されました。
平成28年(あ)第1444号 大麻取締法違反被告事件
被告人 白坂 和彦
上告趣意書
平成28年11月17日
最高裁判所第三小法廷 御中
弁護人 細江 智洋
上記被告人に対する大麻取締法違反被告事件について,上告の趣意は下記のとおりである。
記
第1 憲法13条,25条,31条及び36条違反
原判決には,以下の点において憲法13条,25条,31条及び36条の違反があるので,破棄されるべきである。
1 大麻を使用する権利について
(1)原審は,大麻の有害性,アルコール飲料や煙草との比較,医療大麻の有用性に関する弁護人の主張について,「大麻取締法の違憲性主張の前提たる大麻の有害性等に関する立法事実についての所論」「は失当である」とし,「大麻の有害性を前提に,それが個人のみならず,社会全体の保健衛生に影響する危険性を否定することができない以上,これを公共の利益の見地から規制することは十分に合理的であり,どの範囲で法的規制を加え,どのような刑罰をもって臨むかは立法政策の問題といえる」としたうえで,「本件における罰条である大麻取締法24条の2第1項の法定刑は1月以上5年以下の懲役であり,選択系として罰金刑が規定されていないものの,懲役刑の下限は1月でその刑期の幅が広く,理論上の酌量減軽が可能な上,執行猶予制度も存在することからすれば,罰金刑を選択できないからといって立法における裁量の限度を逸脱しているということはできず,憲法13条,25条,31条及び36条に違反するものではない」とする。
(2)大麻の有害性について
ア 原審の判示
大麻の有害性について,原審は,「大麻が精神薬理作用を有し,それが人体に有害なものであることは公知の事実である。すなわち,大麻はこれを摂取することにより陶酔的になったり多幸感をもたらす半面,衝動的あるいは興奮状態や不安恐怖状態になったり,妄想や幻覚の発現,パニック反応などが生ずることもあり,とくに多量摂取の場合には,幻視,幻聴が現れたり,錯乱状態になることがあること,身体的依存性については否定的な見解が強い反面,多用者や常用者には精神的依存性がみられること,慢性的な人格障害として,自発性や意欲,気力の減退,生活の退嬰化が生じうることなどが認められているのであり,原判決が説示するように,程度の高低はともかくとして,大麻が有害であることは公知の事実といえる。原証拠を詳しく検討してみても,大麻に含まれるTHC(テトラヒドロカンナビノール)の精神薬理作用は個人差が大きく,大麻には有害性がないとか,無視できる程度に極めて低いなどとは認められず(例えば原審弁31・DVD-R参照),日常生活で実際に影響を受けるようなレベルではないと評価できるだけの根拠はない。」とする。
イ 原審の判示する大麻の有害性の誤り
公知の事実とは,原審でも弁護人が主張している通り,「通常の知識経験をもつ人が疑いをもたない程度に一般に知れわたっている事実」(刑事実務証拠法第四版,判例タイムズ社253頁)であり,典型的には「歴史上の事実,大災害その他新聞,ラジオ,テレビなどで広く報道された著名な出来事」(同頁)である。誰もが真実であると認めているため,証明の必要がないのである。大麻の有害性に関しては,大麻を科学的に研究することによって明らかになるものであり,「公知の事実」で片付けられるものではない。
原審が判示する大麻の有害性は,弁26に含まれている薬物乱用防止「ダメ。ゼッタイ」ホームページの記載内容や,東京高裁昭和53年9月11日判決(判タ369号424頁),東京高裁56年6月15日判決(判タ460号175頁)で指摘されているものとほぼ同一である。
しかし,「ダメ。ゼッタイ」ホームページの記述が何ら信用性のないものであることは,第一審から弁護人が主張してきた通りである。また,大阪高裁昭和56年12月24日判決(判例時報1045号141頁)では,「当初大麻の有害性として挙げられていた諸効果のうち,その後の研究により,必ずしも大麻の影響と断定することまではできないとする点がいくつか認められるようになり,また,とくに長期摂取した場合の効果や精神病理学上の影響について十分解明されず,今後の研究の成果をまつ多くの問題点が残されていることは事実である」と指摘されているほどであり,原審が判示する大麻の有害性は公知の事実ではない。
第一審,原審で弁護人は世界保健機関等の報告書を元に,大麻の有害性の程度を主張したが,これらの報告書はいずれも上記高裁判決よりも後に出されたものであり,内容の信用性も高いものである。それにもかかわらず,原審はその内容の当否を判断することなく,旧来の誤った認識を元に公知の事実である大麻の有害性を挙げているが,これは明らかな誤りである。
(3)アルコール飲料や煙草との比較について
原審は,「アルコールや煙草については,古くからその社会的効用が認められ,広く一般に受けいれられてきたもので,その摂取の心身に及ぼす影響について周知されているものであって,その悪影響(有害性)に対する医療的な対応も広く周知されているアルコール飲料や煙草と,大麻の有害性を単純に比較できるものではないことが明らかである」とする。
しかし,大麻とアルコール及び煙草を科学的に研究したものとして,原審で弁護人は控訴審弁2,控訴審弁3の論文を提出し,相対的な有害性について主張したものの,原審はこれに対する評価を何らすることなく,単にアルコールと煙草が古くから社会で受容されてきた事実から,大麻と比較ができないと断じている。
科学的な所見から,大麻がアルコールや煙草よりも有害性が低いことは明らかであり,大麻にのみ厳格な規制をする根拠が,社会での受容・周知だけであるとすれば,一旦規制がされればほぼ裁判所による実質的な違憲審査がされないことになる。このような結論が不当であることは明らかである。
(4)医療大麻の有用性について
原審は,医療大麻の有用性について,「大麻の有害性が極め て小さいとまではいえず,また,カンナビジオール(CBD)の割合を高めた大麻であるとか,複合製薬した医療大麻については,研究途上であることが明らかなのであって,有害性を否定しうる程度に有用性が明らかであるとは到底いえ」ないとする。
医療大麻が研究途上であるとしても,第一審,原審で主張し た大麻の有用性が認められることは明らかである。実際に海外では医療大麻が利用されていることも無視できることではない。そもそも,上述した通り,原審が「公知の事実である」とする大麻の有害性に関する認識は,少なくとも昭和50年代の裁判時から何ら変化をしていない。そのような誤った認識の上で,医療大麻の有用性について,現実に利用されている事実を無視して,有用性を否定することは不当である。
(5)原審は,「程度の高低はともかくとして」大麻の有害性は公知の事実であり,「社会全体の保健衛生に影響する危険性を否定することができない以上,これを公共の利益の見地から規制することは十分に合理的であり,どの範囲で法的規制を加え,どのような刑罰をもって臨むかは立法政策の問題」とするが,大麻の嗜好目的及び医療大麻の使用が憲法13条でどの程度保障されるかはともかくとして,大麻所持について懲役刑という刑罰が科されることからすれば,法的規制についての違憲性は実施的に合理性が審査されなければならない。
大麻の有害性については,個人が自己使用する限度においては,自己への加害の程度及び社会への影響はアルコールや煙草と比較しても低い。それにも関わらず,大麻取締法24条の2第1項で懲役刑のみが定められていることによって,大麻取締法違反を犯した者は,ほとんどの場合は逮捕・勾留・起訴され,結果的に執行猶予判決になったとしても,長期間の身柄拘束により,仕事や家族を失いかねず,それまで築いてきた人生そのものが奪われるといっても過言ではない。かかる不利益は大麻の有害性からすれば不合理であるという他ない。
したがって,大麻の嗜好目的及び医療大麻の栽培,所持を一切禁止する大麻取締法3条1項,4条1項2号3号,24条1項,24条の2第1項は,憲法13条,25条,31条及び36条に反し無効である。
2 立法裁量の逸脱について
(1)一審,原審ともに,大麻の有害性を前提として,どの範囲で法的規制を加え,どのような刑罰をもって臨むかを立法政策の問題であるとして,立法府に広範な裁量を認めている。
確かに,立法府の判断がその合理的裁量の範囲内にとどまる限り立法政策の問題としてその裁量を尊重すべきであるが,合理的裁量の範囲については大麻の規制が個人の自由を制限する側面があることから,無制限に認められるわけではない。
大麻取締法に関する立法府の裁量があるとしても,大麻取締法の規制の目的が,社会全体の保健衛生への危害を防止することにあり,そのための手段として刑罰という個人の自由を著しく制約する方法をとっている以上,結論に至るまでの裁量権行使の態様が,果たして適正なものであったかどうかを審査して違憲性を審査すべきである。すなわち,様々の要素を考慮に入れて時宜に適した判断をしなければならないのに,いたずらに旧弊に従った判断を機械的に繰り返したり,当然考慮に入れるべき事項を考慮に入れず,又は考慮すべきでない事項を考慮し,又はさほど重要視すべきでない事項に過大な比重を置いた判断がなされた場合,立法府が憲法によって課せられた裁量権行使の義務を適切に果たしていないものとして,憲法13条,25条,31条及び36条に違反するというべきである。
(2)日本で大麻取締法が成立するきっかけとなったのは,終戦時にGHQが出した指示であり,それに基づいて大麻取締法の制定の準備がされ,制定に至り,その後同法が運用された(第一審弁57,弁59)。
もっとも,立法当時は,大麻を規制する理由については特に議論はなく,唯一議論が生じたのは,昭和25年大麻取締法の一部改正に関する審議の過程であった(弁57「大麻取締法の生い立ちを考える・その3」)。そこでは,大麻取締法制定時に日本国内では何ら大麻が人体に特に有害であるとか,社会に害を及ぼすとは認識されていなかったことがわかる。
(3)厚生省麻薬課長の証言によると,厚生省は,今まで大麻の保健衛生上の危害ということについて,特別に研究したということはあまりない(弁23,85頁)。同省は,海外で行われている研究レポートをフォローすることで大麻の研究をしている(同,85・86頁)。
同省は,そのホームページにおいて,世界保健機関(WHO)が1997年に発表した報告書である「大麻:健康上の観点と研究課題」(弁25)を掲載し,公開している(弁24)。
同省は,このWHOの大麻に関する報告書以外に,海外の医療大麻に関する文書を保有していない(弁9,弁10,弁11)。
同省は,2009年3月11日から20日までの間,外務省のほか,警察庁,財務省,海上保安庁とともに,第52会期国連麻薬委員会に参加し(弁43),内容が古くなったWHOの1997年の大麻に関する報告書(弁30)の更新を提言し,その提言が可決されている(弁44・2頁,被告人質問35頁)。
(4)検察官は,厚生労働省外郭団体財団法人「麻薬・覚せい剤乱用防止センター」のホームページの記述を大麻の有害性の根拠としている(弁26)。
同ホームページにおける大麻に関する記述は,「DRUG EDUCATION MANUAL」(弁27)という名称の冊子の表紙,中表紙,目次及び「CANNABIS」に記載されている大麻に含まれている成分やその有害作用等を翻訳したものである(弁85,3頁)。
同冊子は,20年以上前に米国テキサス州の団体が販売していた薬物標本レプリカの説明書であり,「本書に収録された主な分野及び掲載された薬物のいずれにつきましても,完璧な分析を行ったものではありません。記述はあくまで人々の注意を喚起し,問題の特定に寄与することを目的としています」(弁85,3頁)との記載がある。
同冊子に書かれている内容は古く,これを販売していた団体も今や使っていない(弁63,弁64,弁65,弁66,弁69)。
(5)麻薬・覚せい剤乱用防止センターの糸井理事は,同センターのホームページの大麻に関する情報が古いことを認め,内容の見直しをすると述べていた(弁30,弁63,弁64,弁68,弁69,弁70,弁75,弁76,弁77)。
同センターのホームページの見直しに際し,被告人は,見直しのための委員会委員に大学教授を推薦する活動を行った(弁78,弁79,弁80,弁81)
後任の富澤理事も,2008年内にはホームページを見直すと述べていたが(弁82),見直されることはなかった(弁84)。
同センターの指導員がテレビ番組において大麻は暴力性を引き起こすと述べていたことから,白坂氏が富澤理事に対しその根拠を尋ねたところ,富澤理事は根拠を答えることはなく,最後には「嫌です。」などと回答し,極めて不誠実な態度を示した(弁83,弁84)。
(6)大麻の合法化を求める市民団体が,2013年,大麻取締法4条1項2号3号の削除を求める請願書に署名を集め,衆参両議院議長に対し,それを提出した(弁33)。
(7)その後,有志一同が民主党国会対策委員長・松原仁衆議院議員に会い,医療大麻の有用性と大麻取締法の問題点について伝えたところ,同議員は管轄官庁である厚生労働省への説明が必要であろうと判断し,2013年12月25日,同議員事務所において,有志一同と厚生労働省大臣官房長らとの間で会合が行われた(弁13)。
(8)平成28年3月28日に行われた第190回国会参議院予算委員会では,厚生労働大臣が医療大麻について,「もちろん,世界各国における現状については,現在,各国政府関係者に問い合わせて確認を行っているところでございます」と答弁をしている(控訴審弁7)。
(9)以上の経緯と,これまでの科学的文献から明らかにされた大麻の有害性の程度を踏まえれば,以下のことが導かれる。
大麻取締法制定時に,日本国内では大麻の規制すべき理由が明らかではなく,その有害性に関する独自の研究も一切ない状態であった。その後も何ら大麻の有害性に関する研究がされることはなく,海外における知見を収集することもなかった。そして,遅くとも1997年に厚生労働省がWHOの報告を掲示した頃には,日本国内で大麻規制の前提とされている大麻の有害性に関する知見が誤っていることを認識し得たものであり,その後も何ら大麻取締法の維持について見直すことはされなかった。
そうすると,立法府は,大麻の有害性や有用性に関する知見の変化を考慮に入れて時宜に適した判断をしなければならないのに,いたずらに旧弊に従って現行の大麻取締法を維持するという判断を機械的に繰り返しており,また,大麻の有害性の程度という当然考慮に入れるべき事項を考慮に入れず,根拠が不明確であるいわば迷信のように信じられていた旧来の大麻の有害性に関する理解というさほど重要視すべきでない事項に過大な比重を置いて,これまで一切大麻取締法の見直しをしてこなかった。これは,立法府が憲法によって課せられた裁量権行使の義務を適切に果たしていないといえる。
したがって,大麻の嗜好目的及び医療大麻の栽培,所持を一切禁止する大麻取締法3条1項,4条1項2号3号,24条1項,24条の2第1項は,憲法13条,25条,31条及び36条に反し無効である。
3 大麻取締法の厳格解釈としての適用違憲
仮に大麻取締法違反の規定自体を違憲無効と判断できないとしても,上記2で述べた通り,立法府が適切に大麻取締法の制定に関する裁量権行使の義務を適切に果たしていない状況で,現行法を一律に適用するのでは,社会の保健衛生の危害防止の目的から逸脱した法適用がされてしまうことになる。そこで,大麻取締法の取り締まり対象として想定されているのは,社会の保健衛生に対する危害が,単に観念的にではなく,現実に発生しうるものとして実質的に認められるものに限られる。
被告人は,単に比較的少量の大麻を所持していたに過ぎず,大麻の作用について理解があり,現実に健康被害を受けているわけでもない。したがって,被告人については,社会の保健衛生に対する危害が実質的には認められず,大麻取締法4条1項2号3号,24条1項,24条の2第1項は,適用されない。
それにも関わらず,被告人に大麻取締法24条の2第1項を適用することは,憲法13条,25条,31条及び36条に反する。
第2 憲法14条1項違反
原判決には,以下の点において憲法14条1項の違反があるので,破棄されるべきである。
1 アルコールや煙草との不合理な区別
原審は,憲法14条違反の弁護人の主張について,「アルコール飲料や煙草と大麻とでは,それらの有害性の程度を単純に比較するのは困難である上,アルコール飲料や煙草は,古くからその社会的効用が認められ,広く国民一般に受け入れられてきたものであり,その摂取の心身に及ぼす影響についても周知され,その悪影響(有害性)に対する医療的な対応も広く周知されていて,大麻とは事情が異なるのであるから,大麻に対する規制がアルコール飲料や煙草とに対する規制と異なるからといって,不合理な差別であるとはいえず,憲法14条に違反しない」とする。
しかし,すでに述べた通り,弁護人は,大麻とアルコール及び煙草を科学的に研究した論文を提出し,相対的な有害性について主張したものの,原審はこれに対する評価を何らすることなく,単にアルコールと煙草が古くから社会で受容されてきた事実から,大麻と比較ができないと断じている。
科学的な所見から,大麻がアルコールや煙草よりも有害性が低いことは明らかであり,大麻にのみ厳格な規制をする根拠が,社会での受容・周知だけであるとすれば,一旦規制がされればほぼ裁判所による実質的な違憲審査がされないことになる。このような区別が不合理であることは明らかである。
したがって,合理的根拠なく大麻の栽培,所持を規制する大麻取締法24条1項,24条の2第1項は,憲法14条1項に反し無効である。
2 首尾一貫性の原則
(1)憲法14条1項は,法の下の平等を定め,法内容の平等を含んでいる。このことは,法規が制定される際に,論理の一貫性,恒常性,無矛盾性を要請する。立法者がある生活領域の秩序について基本決定を下したならば,それ以降の法律はその決定に矛盾せず,首尾一貫した内容を有することが要請される。かかる首尾一貫性の原則は,ドイツ連邦憲法裁判所においても,ドイツ憲法3条1項の平等規定から引き出されているものである。
大麻取締法を含む薬事法の法領域において,社会全体の保健衛生への危害を防止するという目的の下,立法府に広範な裁量権があるとしても,立法府が一旦決定した基本方針は,細部に至るまで,内容的に矛盾しないよう,首尾一貫して規定しなければならない。もし例外的にそこから逸脱する場合には,例外の強度に応じた正当化が必要であり,その正当化ができない場合には,一定の法領域において体系的に不整合な法規定であり,憲法14条1項に反し違憲であるというべきである。
(2)大麻取締法と同様に社会の保健衛生上の危害を防止することを目的として,平成28年に制定された麻薬及び向精神約取締法は,幾多の改正がされ,新たに問題となった薬物を規制対象と加えていくなど,時宜に応じた対応をしている。
他方,すでに述べた通り,大麻取締法については,大麻取締法制定時に,日本国内では大麻の規制すべき理由が明らかではなく,その有害性に関する独自の研究も一切ない状態であった。そしてその後も何ら大麻の有害性に関する研究をすることはなく,海外における知見を収集することもなかった。そして,遅くとも1997年に厚生労働省がWHOの報告を掲示した頃には,日本国内で大麻規制の前提とされている大麻の有害性に関する知見が誤っていることを認識し得たものであり,その後も何ら大麻取締法の維持について見直すことはされなかった。
そして,大麻に関する知見の変化を立法府が十分に把握できる状態であったのにもかかわらず,大麻取締法のみ,その有害性を研究し,規制を見直さない合理的理由はない。立法府としては,社会の保健衛生に対する危害を防止するために,大麻に関しても,当初未解明であった採用が徐々に明らかになっていることを認識していたのであるから,それがさらに国民の保健衛生に危害が生じるのか,あるいは当初想定されたほどの危害がないのかを検討し,遅くとも1997年のWHO報告を認識してからは,公知の事実とされる大麻の有害性が,近年の研究結果とは異なることが明らかであったのであるから,大麻の有害性に応じた適切な規制を検討する必要があったのである。
(3)したがって,大麻取締法は,首尾一貫性の原則からして,正当化でいきない逸脱があることは明らかであり,一定の法領域において体系的な不整合が生じているため,大麻の栽培,所持を規制する大麻取締法24条1項,24条の2第1項は,憲法14条1項に反し無効である。
以上
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