1-1. ハームリダクション政策の基本的アプローチ(2)

投稿日時 2007-09-22 | カテゴリ: ハームリダクション政策

このような考え方に基づき、ハームリダクション政策では、麻薬使用者に対する禁止政策とは異なる治療アプローチが模索される。
禁止政策の基本的方針であるゼロ・トレランス政策(zero-tolerance policy) では、いかなる非合法麻薬の使用も禁止し、完全な使用の停止を罰則と治療によって達成しようとするため、治療プログラムでも完全な使用の中止を治療における必須条件とし、基本的に麻薬の使用を継続している患者の受け入れは拒否される。

これに対しハームリダクション政策では、使用の中止を望ましいものとは考えるが、必ずしもそれを中毒治療に対するアプローチの必須条件とは考えず、麻薬中毒者にとってサービスを受けやすい敷居の低いプログラムを提供することが前提とされている。
中毒者に対しては、「どこに到達するべきか」ではなく、「現在どこにいるのか」という視点が重視され、段階的な改善が奨励される。[3]

具体的には、麻薬そのものを使用したメインテナンス治療や代替物質治療、また麻薬使用の継続を認めた上でのグループディスカッションなどの治療プログラムへの参加、使用形態のより安全な形(例:清潔な注射針の使用、安全な場所での使用など)への移行などが努力目標として設定される。

またこうした段階的アプローチは、一見薬物使用とは関係がないとみなされがちな中毒者の生活全般の改善努力においても同様に採用される。
多くの場合助けを求めてくる中毒者は、麻薬の使用以外にも、家族、他者関係の悩み、経済問題、副次的な健康問題など多様な問題群を抱えている。禁止政策が、こうした彼らの具体的問題にはあまり関心を示さず、彼らを犯罪者や病人と定義し処罰や治療によって使用の中止を促そうとするのに対し、ハームリダクション政策では、中毒者の多様なライフスタイルの構成要素を全体的に扱い、麻薬の使用法、性交渉の状況、健康、栄養、経済状況、中毒者の人間関係など、中毒者の生活全体への包括的なアプローチを重視し、改善の可能な部分から対処し彼らの生活改善と社会適応を図るプロセスが実践される。

つまりハームリダクション政策とは、麻薬の使用に伴う有害性の縮減という方向性さえ保たれていれば、仮に使用が継続されていても、その方向性に向かうあらゆる努力が採用される、問題に対するプラグマティックな政策といえる。
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[3]Marlatt, G. Alan (ed.) (1998) op.cit., p.55






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