1-3. ハームリダクション政策の諸形態(7)

投稿日時 2007-09-29 | カテゴリ: ハームリダクション政策

このように麻薬政策には様々な形態が考えられ、ハームリダクションはこれらすべての政策的オプションの中でその実践が可能である。完全な合法化と、アルコールなど合法麻薬と全く同等の扱いは先進国では実践されていないので推論の域を出ないが、医療化政策の国家レベルでの実施は、スイスで既に1994年1月から 3カ年計画でのThe Medical Prescription of Narcotics Programme (PROVE)が実施されている。この計画は、メタドン治療や何らかの治療に失敗した1,000人のハードコアなヘロイン中毒者に限定して、ヘロイン、モルヒネ、注射可能なメタドンを医療機関を通じて供給し、同時に中毒者の健康、住居、雇用、また家庭問題や生活パターンへのカウンセリングと支援を平行して行い、その結果ヘロイン中毒者のリスク行為がどのように改善されるかを調査するハームリダクションの実験プログラムである。
1997年7月にスイス政府が出したこの実験の結果報告では、プログラムを受けた中毒者に以下7項目の改善点がみられたことが確認されている。

1) 犯罪件数、及び犯罪者数が60%に減少し、 非合法な活動による収入が69%から10%に減少した。
2)非合法なヘロインとコカインの使用が劇的に減少した。
3)安定した雇用が14%から32%へと増加した。
4)健康状況の著しい改善とオーバードーズによる死亡事故がなくなった。
5)処方ヘロインが横流しされブラックマーケットが形成されることはなかった。
6)途中で半数がプログラムを中止し他の治療プログラムへ移行し、83名がアブスティナンス(使用中止)セラピーを開始した。
7)刑事司法と医療コストの減少によって一人当たり一日30ドルの経済的便益がもたされた[13]。

このスイスでの社会実験を他の事情の異なる社会に単純に援用することはできないが、スイスでの成功はハームリダクションとしての医療化政策が一定の効果をあげる可能性があることを証明する結果といえる。非犯罪化政策はオランダを始めヨーロッパ各国で麻薬使用に伴うハームリダクションの成果を挙げている。

また完全な禁止政策下においてもハームリダクションの実践が全く不可能なわけではない。禁止政策を掲げているアメリカでも、「アメリカのドラッグウオー」で論じたように、ニクソン政権下の70年代からメタドンプログラムは既に実施されており、また州レベルでは注射針の交換や処方箋なしでの注射針の購入も認められている。しかしながらFDA(Food and Drug Administration)によるメタドンへの厳しい規制によってクリニック数は伸びず、2000年の段階での利用状況はヘロイン中毒者全体の2割弱にとどまっており、注射針の交換プログラムへの国の予算の拠出も未だに認められていない[14]。
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[13] Nadelmann, Ethan A. (February 1998)"Commonsense Drug Policy"in Gray, Mike (ed.) (2002) Busted: Stone Cowboys, Narco-Lords and Washington's War on Drugs, New York; Thunder's Mouth Press/Nation Books, p.180.
[14] U.S. Office of National Drug Control Policy (ONDCP) (April 2000) Fact Sheet Methadone,[http://www.whitehousedrugpolicy.gov], p.1.






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