2-2.教育的予防プログラム(10)

投稿日時 2007-10-21 | カテゴリ: ハームリダクション政策

薬物の使用開始を思いとどまらせたり中止させるためには、教育現場での麻薬教育が重要な位置を占める。この教育的予防プログラムは、対象者の薬物の使用状況から一般に次の3つに分類されている。

まず第1の予防教育、一般に一次予防(primary prevention)あるいは全般的予防(universal prevention)と呼ばれている段階では、未使用者を対象として教育によって薬物の未使用、あるいは不使用をそのまま継続させることを目標としている。

次に麻薬の使用を既に開始しているがまだ常用していない者、あるいは未だ使用者自身にさほどの害を与えていないレベルでの使用にとどまっている者には、使用にあたっての害を最小化したり使用を中止させることに焦点を置いた二次予防(secondary prevention)あるいは選択的予防(selective prevention)と呼ばれる予防教育が行われる。

さらに麻薬の使用が進み、既に使用者に一定の害を及ぼしていたり中毒になっているものには、三次予防(tertiary prevention)あるいは指示的予防(indicated prevention)と呼ばれる一般に中毒治療におけるカウンセリングが行われることになる[1] 。

アメリカの教育現場では、この一次、二次予防の実践は、政府からの資金援助を受けているDARE(Drug Abuse Resistance Education)が長年その役割を担ってきた。
DAREはもともと1983年にロサンゼルス市警と学校が協力して開始したプログラムで、5年生、6年生を対象に、毎週制服警官が学校に呼ばれ子供達に麻薬の危険性を教え、自尊心の育成と友人、大人からの麻薬使用の誘いへの断り方(peer pressure resistance skills)を身に付けさせるための講義が行われる。

現在、年間推定10億ドルから13億ドルの資金が使われ、全米のおよそ7割の学校で広く実施されているプログラムである[2]。
しかしおよそ20年近い歴史を持つDAREプログラムではあるが、このプログラムにはいくつかの科学的調査がその効果に疑問を投げ掛けている。

アメリカの会計検査院(General Accounting Office)が2003年に発表したケンタッキー、コロラド、イリノイ州での調査によれば、DAREのプログラムを受けた生徒は、受講後1年間は非合法麻薬の使用に対して否定的な印象を維持しておりその一定の効果が認められているが、2年、5年、10年の追跡調査では、DAREを受講した生徒と受講していない生徒の間での非合法麻薬の使用状況には差がみられず、その長期的効果がほとんどないことが明らかとなっている[3]。

またそもそもこの20年間でアメリカ国内の若者の薬物使用は一向に減少しておらず、費用対効果という観点から2000年にはソルトレイクシティがDAREプログラムを中止している[4]。
ではこのDAREの失敗の原因はどこにあるのか。

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[1] Marlatt, G.Alan, Weingardt, Kenneth R."Harm Reduciton and Public Policy "in Marlatt, G.Alan (ed.) (1998) Harm Reduction: Pragmatic Strategies for Managing High-Risk Behaviors, New York and London; The Guilford Press, p.365.
[2] Kalishman, Ariel (April 2003) D.A.R.E. Fact Sheet, Drug Policy Alliance, [http://www.dpf.org/library/factsheets/dare/index.cfm].
[3] General Accounting Office(Jan 16, 2003)Youth Illicit Drug Use Prevention: DARE Long-Term Evaluations and Federal Efforts to Identify Effective Programs,[www.gao.gov/cgi-bin/getrpt?GAO-03-172R],pp.5-7.
[4] Eyle, Alexandra,"An Interview with Salt Lake City Mayor Ross C. Rocky Anderson by Alexandra Eyle"in The Reconsider Quarterly Winter 2001-2002 Vol.1 No.4, pp.12-13.






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