2-2.教育的予防プログラム(13)

投稿日時 2007-10-24 | カテゴリ: ハームリダクション政策

多くの先進国では、かつてのような職業訓練や師弟制度によって生涯保証された仕事につく時代は過ぎ去り、社会的紐帯が強い地方の製造業が衰退し、都市部ではサービス業など賃金の安いマニュアル化した仕事が増えている。

労働市場が流動化し、フルタイムに代わってパートタイムの仕事が増える一方で、大卒などの高い学歴が必ずしも安定した雇用の確保につながらず、青年期に経済的な自立をすることが難しくなってきている。
これと連動して若者は結婚しなくなり親にもならなくなり、近年、家族社会学がポスト青年期(post-adolescence)と呼ぶライフサイクルの一時期を過ごすものが増えてきた。

パーカーらは、彼らポスト青年期を送る、経済的にも、社会的にもさほど責任を担っておらず、稼いだ金を好きなことに消費できる中流階級の若者達が、生活の中でtaking time out(小休止)する時に、レジャーの一つの選択肢としてドラッグの使用を選択していると調査結果から分析している[11]。

また多くの先進国では、文化の個人化が進み、かつての集合的なカウンターカルチャーやサブカルチャー運動は影を潜めてきた。これと平行して、麻薬の使用用途も種類も個人化、多様化している。彼らの麻薬の使用の動機は、かつての反抗的サブカルチャー精神の表明ではなく、むしろメインストリーム文化である商品の消費、快楽の消費とより親和性が高いように思われる。彼らは社会的に疎外された貧困層や差別階級の人々による中毒的なドラッグの使用と異なり、生活をドラッグにフィットさせるのではなく、余暇活動として他のレジャーと同じように、ドラッグをノーマルな学生生活や社会生活にフィットさせているのである。

こうした現状の道徳的是非はともかく、ハームリダクション政策では若者の間で麻薬が既に広く使用されているという事実、麻薬使用のノーマライゼーション化を認めたうえで、よりプラグマティックな教育的予防プログラムの実践を主張する。まず前提となるのは、合法、非合法、また処方薬も含めた薬物全般の持つ効果と危険性に対する客観的、科学的な事実に基づいた情報の提供である。前述したように、非合法麻薬をいたずらに悪魔化する手法は、何らかの非合法麻薬を経験しその危険性を実体験している若者からは情報ソースとしての信頼性を失う結果を招く。

その結果、彼らが主な情報ソースとしている友人の、時には不確定で特殊な経験的知識に基づく情報が先行し、使用の際に必要以上のリスクを被る可能性が常につきまとう。この情報ソースとしての信頼性の回復こそが、予防プログラムを行う教育現場が取り戻さなければならない最初の課題であると思われる。

このことを前提としたうえで、麻薬のハームリダクション教育の研究者であるスケイジャーにしたがって、ハームリダクション政策が提唱する教育現場でのリスク予防プログラムの目標と実践項目をみてみよう。


  • できる限り使用開始年齢を遅らせること。
  • (完全にやめさせようとするのではなく)使用する量を削減させること。
  • 生徒に使用すべきではない時、場所、状況があることを理解させること。
  • 問題のある使用(やり過ぎ、他のドラッグとの混ぜ合わせ、知らないドラッグ、不純なドラッグの使用など)を回避させること。
  • 麻薬の使用に関して自分自身及び他人への責任感を促すこと。
  • 中毒及び依存を示す兆候に対する知識を持たせること。
  • 問題の多い使用を行う仲間に対するアプローチとアシストの教育。
  • 助けが必要な時に学校、コミュニティなどのサポートリソースがあることを自覚させておくこと。

そしてこれらの目標項目は、次のような事柄を教師が念頭に置く時に効果的に達成される。


  • 多くの生徒がアルコールや他のドラッグの肯定的経験を持っていることを受け入れる。
  • トップダウンではなく生徒とのインタラクティブなディスカッション形式において行う。
  • 生徒に疑念を抱かれる情報ではなく麻薬の否定的、肯定的両面の効果に関する確かな情報を生徒に提供する。
  • 生徒の合理的自己決定を重視し、非裁量的(non-judgemental)アプローチをとる[12]。

大人達の麻薬に対する感情的、否定的反応、若者達から見れば間違った麻薬に対する認識の押し付けは、彼らに大人から極力麻薬の使用を隠す努力を選択させる。そのため子供が不適切かつ危険の多い麻薬の使用方法を実践していても、明らかな身体的、精神的症状が出るまで、親、教師、ホームドクターらがそれを発見することは困難となる。

現代社会のように、洪水のような情報量とその不確実性にあふれた社会環境では、麻薬を使用する若者達は常に危険な立場に置かれており、彼らが準拠できる信頼できかつ確かな情報リソースの確保が求められる。

しかしながら実際の麻薬教育の予算は使用の完全中止をベースとした予防教育にのみ限定されており、一部の私立学校を除いて上述した教育項目はアメリカではほとんど実施されておらず、またそのための訓練を受けた教師の数も少ないのが現状である。
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[11] Parker, H., Aldridge, J., Measham, F. (1998) op.cit., pp.23-25.
[12] Skager, Rodney, op.cit., pp.17-18.






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