2 原判決の認定手法の問題点
原審千葉地裁は、木村さんが「氏名不詳者らと共謀の上」大麻を密輸しようとしたと認定し、彼女に懲役5年と罰金100万円の刑を言い渡した。
(1) 証拠の構造
しかし、彼女が缶詰の中身が大麻であることを知っていたという認定を支える証拠は、はなはだしく希薄である。
祐美が缶詰の中身を知っていたことを示す客観的な証拠は何もない。
捜査官は彼女の自宅を捜索したが、彼女が缶詰の中身を知っていたことを示す資料はかけらさえなかった。彼女が大麻というものに関与している証拠すら捜査官は発見できなかった。
(THC注:祐美さんの自宅の家宅捜索に姉のさゆりさんは立ち会っているが、このとき大麻に関係するものを何も発見できなかった捜査官は、さゆりさんに「妹さんは友達に騙されちゃったのかなあ」と印象を語ったという。)
彼女自身の自白もないし、彼女がそれを知っていたと供述する第三者も存在しない。
彼女が「運び屋」として行動していたことを示す状況的事実もまったくない。
本件の缶詰は6個ずつビニール袋に入れられ、封もされず、彼女のスーツケースの最上段に無造作に置かれていた(甲19添付写真3)。外部から見えないようにするための何らの隠蔽工作も施されていない。スーツケースのファスナーをあければ真っ先にこの缶詰が目に飛び込む配置になっている。実際にも、成田で税関職員が最初に目にしたのが缶詰の入ったビニール袋である(天野11~12頁)。
この缶詰は、欧米のグロサリー・ストアの棚に並んでいる缶詰そのものである。原判決は、紙製のラベルの貼り付け方が雑であるとか「底部に製造番号等を示す刻印がない」と言うが、製造番号などが缶の底部に刻印されるという日本の常識を海外製品にあてはめる理由はない。
本件缶詰にはラベル上に製品の容量や賞味期限などが印刷されており(上記写真参照)、正常に販売されている缶詰と異なるところは全くない(*2)。
通常人がこの缶詰を見て、その内容物に不審を抱くことを期待することは不可能である。缶詰を手に持って振ってみるなどすれば、中に液体が含まれていないことに気がつくかもしれないが、祐美さんが缶詰を手に持ったことがないことは明らかであり(*3) 、そのような機会もなかった。
(*2)原審で証言した税関職員は、缶詰に賞味期限の表記がなかったのでおかしいと思ったなどと証言しているが(天野6頁、14頁)、これは事実に反するのみならず、彼らが予断をもって木村さんを見ていたことを物語っている。
(*3)缶詰が入れられていたビニール袋から金井さんの左手嘗紋が検出されたが、それ以外――缶本体12個、粘着テープ等12組――からは彼女の指紋も嘗紋も発見されていない。弁3・指嘗紋検出状況並びに対象結果報告書。
(続く)
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