控訴趣意書(5)/税関検査時の被告人の言動

投稿日時 2007-11-21 | カテゴリ: 祐美さん(大麻密輸の冤罪)

(5) 税関検査時の被告人の言動
それでは、原判決があげる関節事実を個別的に検討してみよう。まず、税関検査時の木村さんの言動である。
彼女がパスポートを提示して旅具検査を受け始めたときの状況について、税関職員は「特に普通の旅客と変りありませんでした」と言う(天野・記録6頁)。彼女は、税関職員に視線を合わせており、特にそわそわした様子はなかった(天野・記録12頁)。
スーツケースをあけるよう職員に求められたときも嫌がる様子はなく、彼女は「いいですよ」と答えた(天野・記録14頁)。
税関職員が缶詰を取り出したときも「特にそれまでと変っていないようでした」(天野・記録9頁)。
エックス線検査をしてもいいかと問われて被告人は拒否せず同意した(天野・記録9頁)。
これまでの彼女の態度に「有罪意識」あるいは「大麻であることの認識」を示す兆候はまるでない。

しかし、天野証人は、エックス線検査に向う税関職員を見て、木村さんは、大きなため息をつき、少し目に涙がにじんでいるようであったと証言した(天野・記録10頁)。
しかし、この証言は客観的な証拠に反する。まさにこのときの木村さんの様子を撮影した写真(甲19・写真撮影報告書添付写真1、5、33)には目に涙がにじんでいる様子など映っていない。落胆した表情すらない。困惑した硬い表情が写っているのである。
また、天野証言はもう1人の税関職員大泉証人(エックス線検査を実施した税関職員)の証言と矛盾する。大泉氏は、木村さんは「いいですよ」と答え、表情に変ったところはなく何も感じなかった、と証言しているのである(大泉・記録25、45頁)。

エックス線検査を終えて旅具検査台にもどったときも、木村さんの表情に不審な点はなかった(大泉・記録27、35頁)。
エックス線検査の結果缶詰の中に液体が入っていないと感じた税関職員は、缶詰を開けても良いかと尋ねた。これに対しても木村さんは「はい、開けてもいいです」と答えている(大泉・記録29、55頁)。そのときの表情にも特に変ったところはなかった(大泉・記録30、31頁)。
そして、缶詰の中身を取り出して鑑定することについても、木村さんは拒否的な態度を一切とっていない(大泉・記録42頁、43頁)。
このように、まさに缶詰が開けられ中身が取り出されるその瞬間に至るまで、木村さんは、うろたえたり悲しんだり狼狽したりする様子は一切なかったのである。これらの態度から、彼女が缶詰の中に大麻が入っていることを認識していたと認定するというのは、およそ常識に反することである。

缶詰から予想外の物が登場して「驚愕しているといったような様子はなかった」という原判決の認定についてみてみよう。缶詰のX線画像を確認させたときの木村さんの様子について、大泉証人は、検察官から「動揺したりはしていなかったですか」と問われて、「私は、特にそれはわかりませんでした」と答えた(大泉・記録35頁)。さらに次のような問答がなされた。

問:缶詰の中からそういった粘着テープで巻かれたものがでてきたときの被告人の表情は、特に変ったことはありますか。
答:いえ、特に何も感じていないです。
問:自分がフルーツなどの缶詰だと思っていて、その中から変なものがでてきたら、普通はそんなはずがないとか、いろいろ説明をしてくれる人がいると思うんですが、被告人はそういう説明をしたりしていましたか。
答:していません。(大泉・記録37頁)
問:[缶詰の中身を見た後]被告人の表情とうのは、特に変化がありましたか。
答:そのことでは特に感じていないです。
問:自分がフルーツの缶詰買ってきて、その中に変なものが入ってたら、そんなはずはないと、そんなものは買っていないという答をするように思うんですが、そういったことありましたか。
答:いえ、特にないです。(大泉・記録42頁)

いずれも検察官の強引な誘導尋問に返答しただけであり、かつ、木村さんの内心を忖度させる尋問に答えさせるものであって、このような証言に証拠価値を認めることはできない。予想外の物が入っていたら「普通はそんなはずがないとか、いろいろ説明をしてくれる人がいると思う」という検察官の意見は、決して人間の通常の反応を言い当ててはいない。意外な出来事に出会ったときの人の反応は千差万別であり、何も言えずに沈黙してしまう人もたくさんいるだろう。血相変えて反論したり、言い訳がましく弁じたてる人が、実は一番怪しいということも良くある話である。

ところで、木村さんが缶詰から予想外の物が登場して動揺していたことは証拠上明らかである。彼女は、そのとき缶詰の一つをさして「私が買った物もあります」と言った(大泉・記録33頁;被告人質問・記録133頁)。
中身が大麻であることを知っていたら彼女がこのような発言をするわけはない。自分が「買った」という缶詰が開けられて大麻が出てくることで、それが嘘であることが簡単にばれてしまうからである。彼女は、以前、アムステルダムで同じアフリカンフードの缶詰を購入したことがあったので、咄嗟にそう説明したのである。彼女は缶詰からアフリカンフードが出てくるに違いないとそのとき信じていたから、そして、いま目の前で展開する出来事の意味を了解できないでいたから、このような発言をしたのである。そんなはずはない。あの缶詰は以前スーパーで買ったことがある。果物が出て来るはずだ。このエピソードは、彼女がまだ事態を飲み込めずに精神的に混乱していることを示している。

つぎに「内容部が大麻であることを示唆するような発言」さえしたという裁判所の認定を見てみる。
缶詰を開けた段階で税関職員は「この匂いわかる?」と尋ねた。木村さんは
「わかりません」
と答えた。
「例えるなら、どんなにおい?身近にあるものだったらどんなにおい?」
「たばこっぽい匂い、葉っぱみたいなにおい」
そう木村さんは答えた(被告人質問・記録31頁;大泉・記録38、55頁)。
職員はさらに続けて、
「これは何だと思いますか」
と尋ねた。
「ソフトドラッグ」
「例えば何?」
「大麻」。
このようなやり取りである(被告人質問・記録97頁:大泉・記録41頁)。
この問答が行われる前に、大泉は、木村さんに、違法薬物のリストが写真と図解で表示されている「申告書慫慂版」を示している(被告人質問・記録97頁;大泉6頁、26頁)。
この一連の流れを端的にみれば、缶詰が開封され、かつ、さまざまな示唆を与えられた上で「例えば何?」と、推測を聞かれて、「大麻」と答えたのであって、最初から中身が大麻であることを知っていたことを示唆するような言動でないことは、明白である。

原判決は、荷物検査の際の「被告人の言動」を認定するにあたって、税関職員の証言のみによっている。彼らは主観的な「印象」や「感想」を述べているに過ぎない。証拠価値は著しく低いことは誰の目にも明らかであろう。ちなみに、成田国際空港の荷物検査台の真上には防犯カメラがある。本件のような事件が起った場合にその映像を保存することは可能であり、保存しているはずである。これを取寄せて確認すれば、「被告人の言動」を客観的に認定することは可能であった。

そして、木村さんは、荷物検査台に並んだとき、自分の何人か前の人が開披検査を受けたのを見て、前に並ぶ人の中には別の検査台に移ろうとした人がいた。しかし、自分はそうしなかった、と供述した(記録82頁)。この様子も防犯カメラの映像で裏付けられたはずである。そうすれば、木村さんの「言動」が大麻を認識していたことを推認させるなどという認定はありえなかったであろう。

原審は、客観的で信憑性が高い証拠を集めることが可能であり、そうすべきであるのに、それを怠り、却って信憑性の低い恣意的な証拠によって恐ろしく偏った事実認定をした。

(続く)






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