奥さんの手記(1)夫の逮捕

投稿日時 2005-01-27 | カテゴリ: NCさん(デンマーク人)

前書

デンマーク人の夫と結婚して5年、2人で毎日楽しく過ごしていました...


1. 夫の逮捕

平成16年7月29日 午前6時頃、私がトイレに入っている時、ドアベルが鳴った。
トイレから出て行くと同時に、夫が玄関を開けた。ぞろぞろと人(警察、税関、入管)が入ってくる。
あっけに取られている間に、2人並んでソファーに座らされ、逮捕状だか捜査令状だかを見せられた。
夫宛の小包の中に大麻樹脂が入っており(成田空港で発見)、調べに来たとの事。

夫はそのまま居間に残り、何人かの捜査官が私を寝室に連れて行った。一人の刑事さんが、私に色々質問してきた。そして、婦警さんが隣で聞いていた。その間に、他の人達がタンスの中や旅行鞄の中、ベッドの下等をあさっていた。旅行鞄の中からジップロックに入った粉石鹸を見つけて、一瞬驚いていた捜査官が可笑しかった。
私は未だ十分に状況が把握できてなく(この時点では、私も容疑者)、他人事の様に冷静に受け答えしていた。(真面目に生きてきてよかった。)

夫宛に大麻入りの小包が送られてきた事について心当たりがあるか?また、知っていたか?との問いに、夫には常々、日本では大麻の取り締まりはとても厳しい事を伝えてあったし、仮に警察に捕まるような事があれば離婚してやると思っていたと答えた。すると、その刑事さん曰く、「そんな無責任な事を言ってはいけない。貴方が旦那さんを立ち直らせてあげなければいけない。」と諭されてしまった。
そんな事を言うのなら、逮捕しに来ないで下さいよ!と内心思った。
この他に、夫との出会い、夫が大麻を吸う事を知っていたか?
そして、私も大麻を吸うのか?と聞かれた。私はタバコを吸わないので、大麻入りのクッキーを食べた事、その際お腹を下してしまった事(デンマークにて)があると答えた。

仕事に行く時間が迫ってきたので、職場に連絡したいが、午前中で済むのか聞いたとろろ、今日は仕事には行けないと言われ、「夫が腰を痛めたので、病院に連れて行く。」と嘘を付いた。電話は居間にあり、夫は居間のソファーに座っていたが、話さないように言われた。

アパートからは何も見つからず、今度は車の中を捜索する為、外に出た。
私の車から始め、もちろん何も無い。
夫の車は修理中で、代車の中を捜索。灰皿を調べている刑事さんが、何かに反応を示した。その後、助手席の下から植物片が入った市販の風邪薬のビンとパイプが出てきた。

この時、初めて事の重大さに気が付いた。刑事さんは私にそれを指差すように言い、写真を撮った。驚きと悔しさ(裏切られた)で涙が出てきた。 私と入替わりに夫が外へ出て、私がアパートの中へ入った。きっと、私と同様に指差して写真撮影をしたのであろう。後で夫から聞いたところ、試薬で検査をして素晴らしい紫色が出たそう。

そして、夫は、「みだりに平成16年7月29日午前7時17分頃、駐車場に駐車中の自動車内において、大麻を含有する植物片約3.428gを所持した」として、現行犯逮捕された。

婦警さんに、夫の着替え等を用意するように言われ、下着やTシャツ、腰痛用のサポーター等をバッグに詰める。どうやら、私は容疑者では無くなった様だ。
捜査官たちが、パソコンや夫の私物を「押収」して行く。17インチのモニターまで持ち出していった。キャビネットだけで良いでしょうに。

夫がアパートから連出される時、私は洗面所に居る様に言われた。手錠をはめられ、腰紐を巻き付けられた夫の姿と、不安な顔を見るのは痛々しく悲しかった。
夫が洗面所の私を見たので、私は声に出さずに"I LOVE YOU."と言った。
夫は"I'm Sorry."と言った。この時が、これからの3週間で私達の最後の会話になるとは、思いもよらなかった。

夫が警察車両で連行され、私も警察の車に乗れるのかな?と少し期待したが、(不謹慎かもしれないが、そんな機会滅多に無いので...)自分の車で警察署に来るようにと言われた。

警察署までの約30分の間、あの大麻は何処から来たのか?考えていた。警察にも話したとおり、私は全く知らなかった。捜査官たちがアパートを捜索している間、"夫宛に大麻入りの小包が送られてきた事は事実としても、何も出てこなければ、何とかなるでしょう。家に大麻がある筈が無い。"と思っていたので、本当に「寝耳に水」だった。
"あれは、前に送られてきた物なのだろうか? しかし、夫宛に外国から荷物が届いたのは、随分前の様な気がする。"
唯一思い当るのは、日曜日に訪ねて来たニュージーランド人の知合いだが...

警察署に着くと、別棟のプレハブの建物に通された。アパートで話を聞いてきた刑事さんが、更に細かい質問をしてきた。今回は、私が話した事をパソコンに打ち込み、調書を作っている。この刑事さんは、静岡県警の銃器薬物対策課の刑事であった。これを知った時、朝の15名という大人数を思い出し、もしかして、私の夫は大物?と思った。(違ったが...)夫を取り調べているのは、地元警察の生活安全課。

事情聴取では、夫との出会い、結婚に至る経緯、静岡に住むようになった経緯、私の職歴、私が大麻クッキーを食べた時の詳細、夫が大麻をどう呼んでいるか?、夫の友人関係、外国から郵便物が届く頻度等を聴かれた。私の答えを文章にしてパソコンに打ち込んでいくので、かなりの時間がかかった。

調書が出来上がって、間違いが無ければ署名捺印。ちょうどお昼になった。これで終わりかと思ったら、13時にまた来てくれとの事だった。
警察署から自宅まで片道30分、行って帰って来たら時間になる事は分かっていたが、アパートに戻った。ほんの6時間前までは、いつもと変わらない朝だったのに...
これから夫はどうなってしまうのか? たまらなく不安で怖かった。

午後、警察署のプレハブに戻ると、刑事さんが、"奥さん、はっきりさせる為に尿検査しましょう!"と言ってきたので、"ちょうど出るところです。"と快諾。
トイレには、婦警さんが付いて来た。婦警さんはまず、トイレットペーパーを少し切って、便器に敷いた。便器に溜まっている水を混ぜられないようにする為だそう。
ドアを閉めても良いのか聞くと、"貴方なら良い。"との事。
採尿後、自分の尿と記念撮影。

プレハブに戻ると、今度は税関の職員から事情聴取された。質問事項は、刑事さんと殆ど同じであった。午前中、隣で聞いてたのだから知ってるでしょ!と言いたかった。
刑事さんからコピー貰えばいいのに。(効率的でなく、生産性が無いお役所仕事)
しかし、税関の人は刑事さんより気を楽に出来た。ジュースも奢ってくれて、良い人だ。

税関が作った調書に、私が言っていない事まで書かれていたので削除をお願いした。
「私はサーファーでもあることから、大麻を知っていた...」
私が大麻を知っていたのは、サーフィンをするからではなく、夫と結婚したからである。

税関の事情聴取が終わり、生活安全課の部屋へ呼ばれた。夫は調書へのサインを拒んでいるそうだ。夫らしい。私は、「長いのもには巻かれろ」だが、夫はそうではない。
通訳(デンマーク人)が、夫からの言伝を持ってきた。
実は、数日後にデンマークから友人が遊びに来る予定であったのだが、それをキャンセルして欲しいとの事であった。
ほんの少し離れた部屋に夫は居るのだが、会えない。話さないから会わせてとお願いしたかったが、出来なかった。通訳に伝言を頼んだ。
「オオバカヤロウ! 怒ってるけど、愛している。」泣き咽た。

午後5時過ぎ、私は開放された。刑事さんと税関の人が、車の所まで送ってくれた。
車に乗り込む際、「浮気されるのと、これとどっちが最悪ですかね?」と尋ねると、税関の人が、「浮気かな~?」と答えてくれた。
家に帰る前に、夫の職場へ行く事にした。朝、夫の職場へは連絡してなかったので。
嘘を付こうと思えば、出来たのかもしれないが、社長さんにはお世話になっているので、事実を伝える事にした。
社長さんは、驚きはしたが、警察に知り合いがいるから、自分からも詳しい状況を聞いてみるとおっしゃった。(これで第1関門クリア)

家に帰り、頭痛がするまで泣いた。デンマークにいる夫の父(76才)へ今日のことを伝え、遊びに来る予定の友人への連絡をお願いした。義父はかなり落ち込み心配していた。次に、私の父へ電話をした。「○○○○の事を嫌いにならないでね。」と前置きしてから、全てを話した。父は、「1人で大丈夫か?そっちに行こうか?」と協力的であった。(第2関門クリア)

暫くして、デンマークの友人から電話がかかって来た。彼は、こういう状況でも日本へ来て、夫に会いたいと言ってきた。今は接見禁止で、私も会えない事を伝えると、もう1度考えてから電話するとの事。

2度目の電話で、日本には来ない事を伝えてきた。私が、小包を誰が送ったか知らないか?と尋ねたところ、
「知っている。自分だ。更に悪い事に、1回目が届かなかった様なので再度送った。
1回目の小包はデンマークの郵便職員がくすねたんじゃないかと思った。」との事。
"この不良外人め!"(夫も含め)と思ったが、何も言わなかった。

夫宛に大麻入りの荷物がまた来る!
何かあれば連絡をするようにと、刑事さんの電話番号を貰っていたので電話をし、この事を伝えた。この刑事さんは、今日だけ応援だったので、明日警察署に連絡するように言われた。

長い1日が終わった。

不安と、夫がこの先どうなるのかという心配と、夫に対しての怒りが入乱れてとても疲れた。

続く






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