大麻の個人使用目的での所持に対する法的位置づけ

投稿日時 2008-01-13 | カテゴリ: 「大麻所持」の国際比較

大麻の個人使用目的での所持に対する法的位置づけ(*1)

1.国際条約の解釈について

大麻の個人使用目的での所持に対する法的位置づけは各国で様々である。
大麻を含めすべての麻薬および向精神薬に関する国際レベルでの規制は、1961年の単一条約、1971年の向精神薬条約(向精神薬に関する条約)、および1988年の麻薬新条約(麻薬及び向精神薬の不正取引の防止に関する国際連合条約)によって規定されており、批准国はこれらの条約に準じ国内での規制を行うことが義務付けられる。

しかしながら、国際条約で要求される内容は薬物統制に限らず、1969年のウィーン条約法条約に規定されているように、各国の法的理念および原則にのっとり独自に法制化することが期待されている。

よって大麻の個人使用に関しても、先の3条約の目的に反しない限りで、批准国が独自に法的位置づけを行うことが可能であることを確認しておきたい。
また以下に述べるように、特に個人使用目的での所持に対する罰則規定については、これら条約自体の中に各国がこれを軽減する裁量があることが認められるのである。

1961年の単一条約については逐条コメンタリー(Commentary on the Single Convention on Narcotic Drugs 1961)が出されている。4条「一般的責務」(General Obligations)に対するコメンタリー23では、

「政府は、法的権限なしに個人使用のため薬物を所持した場合、禁固刑を科することを控える(refrain)ことがありうることを疑う余地はない。それに対し、そのような権限なしに配布を目的とする所持に対しては、禁固刑や他の自由の剥奪(deprivation of liberty)を伴う罰により処罰されなければならない」
United Nations(1973), Commentary on the Single Convention on Narcotic Drugs 1961 .

と述べている。つまり単一条約の趣旨として、個人使用目的での所持と配布目的での所持を区別すると同時に、前者に対しては禁固刑を控える権限を各国政府が持っていることがコメンタリーとして付されているのである。

これに対し1988年の麻薬新条約の第3条2項「違反と制裁」(Offences and Sanctions)では、以下のように所持に対し規定している。

「1961年の単一条約の規定に反し、意図的に麻薬あるいは向精神性物質が個人的使用のために所有、購買および栽培されたときは、各国の憲法上の原則および法体系の基本的考え方に基づき、それぞれの国家は国内法のもとに、犯罪(criminal offence)として規定するための措置を採用する義務がある。」
United Nations, Convention against Illicit Traffic in Narcotic Drugs and Psychotropic Substances of 1988 (訳:筆者)

このように個人使用目的での所持についても、犯罪として規定すべきであると書かれている。しかしながら、この2項で言及されている個人使用目的での所持に対する規定は、同じ第3条1項と対比して検討される必要がある。というのも、第3条1項では配布および販売を目的とした生産・所持・採取等について規定されているが、そこでは2項で言及されていた「各国の憲法上の原則および法体系の基本的考え方に基づき」という文言がそのまま欠落し、何ら留保なく犯罪として規定されることが要求されている。すなわち2項で論じられている個人使用目的での所持については、1項で論じられている販売や配布目的での所持と、本条約では明らかに区別されており、より各批准国の裁量に委ねられるべき行為として規定されているといえる。

原文
Article 3
OFFENCES AND SANCTIONS
1. Each Party shall adopt such measures as may be necessary to establish as criminal offences under its domestic law, when committed intentionally: a) i) The production, manufacture, extraction; preparation, offering, offering for sale, distribution, sale, delivery on any terms whatsoever[…].

2. Subject to its constitutional principles and the basic concepts of its legal system, each Party shall adopt such measures as may be necessary to establish as a criminal offence under its domestic law, when committed intentionally, the possession, purchase or cultivation of narcotic drugs or psychotropic substances for personal consumption contrary to the provisions of the 1961 Convention[…].
(傍線:筆者)

以上のように、大麻の個人使用目的での所持に対する国際条約の規定は、販売・頒布目的での所持と区別し、その罰則規定に対する各批准国独自の裁量権をある程度容認しており、これから見ていくように、各国様々な法的位置づけを生み出しているのである。

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(*1)本稿の1章および2章は、EMCDDA(European Monitoring Centre for Drugs and Drug Addiction) (2005) EMCDDA THEMATIC PAPERS - Illicit drug use in the EU: legislative approaches : Lisbon: European Monitoring Centre for Drugs and Drug Addiction. およびEMCDDAのオンラインデータベースであるELDD(European Legal Database on Drugs) のpossession of cannabis for personal useの内容を主に参照している。特に参照したデータはそのたびに付記した。

(続く)






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