「大麻所持」の国際比較:ヨーロッパ編

投稿日時 2008-01-20 | カテゴリ: 「大麻所持」の国際比較

2.各国の個人使用目的での大麻所持に対する罰則規定


第1章で述べたように、個人使用目的での大麻所持に関する罰則規定は、原則的に各国の憲法および法体系の原則に基づいて規定される余地がある。これを反映するように、以下にみるように基本的には禁止行為とされてはいてもその罰則規定は様々である。本稿ではこれをなるべく俯瞰的に把握できるよう、関係法律、罰則(法律上の罰則規定)を挙げたうえで、その実際の運用状況を付記として要約した。

ドイツ
○関係法律:BtMG s.29, s.31 a・1994年3月29日の憲法裁判所の決定
○罰則:禁固5年以下もしくは罰金刑。ただし刑罰は「少量」の場合には減免される。
○付記:憲法裁判所は、大麻所持に対する罰則が憲法に準じたものであることを認めつつ、各州は個人使用目的での所持の場合でかつ、少量の場合は不起訴とするべきとし、その少量の規定は各州の判断に任せている。他に不起訴要件として、第三者を巻き込んでいないこと・未成年者を巻き込んでいないこと・個人使用目的であることなどが挙げられる。
各州の「少量」の規定については以下の通り。
・シュレースヴィッヒ・ホルシュタイン州:30グラム
・ヘッセン州とノルトライン=ヴェストファーレン州:10グラム
・ハンブルグ州:10グラムあるいはマッチ箱1つ分程度
・ベルリン・ブレーメン・ザーランド州:10グラム
・バイエルン・バーデン=ヴュルテンベルク州:6グラム

フランス
○関係法律:公衆衛生法(Code de la sante publique)Art.L.3421-1・刑法 Art. 222-37・法務省2005年4月8日付通達書。
○罰則:使用については禁固1年以下もしくは罰金。所持は禁固10年以下。
○付記:2005年の通達により、個人使用目的での所持は、使用と同じように罰することになった。逮捕者は24時間もしくは48時間の拘留の後、初犯でありかつ常習者でなく起訴が妥当であると思われない場合は、警告のみで釈放されることが多い。常習者の場合、起訴されるか、あるいは医療・社会福祉機関への送致命令が下される。ヨーロッパでは所持に対して比較的厳しい法運用を行っている国といえる。

イギリス
○関係法律:薬物乱用法1971 s.5・1984年警察・刑事証拠法(Section 24 of PACE 1984)・2003年9月通達の全国警察本部長・副本部長組織による大麻取締におけるガイダンス(ACPO Cannabis Enforcement Guidance, September 2003)
○罰則:2年以下の禁固刑。
○付記:2004年1月のクラスCドラッグへの移行に伴い、上記ガイダンスでは、警察官の判断により、未成年者が利用する場所で所持していた場合、常習者であると近隣の人々によって確認された場合、近隣への迷惑行為を伴っていた場合、17歳未満の使用者(警察署にて適切に指導する必要から)の場合などを除き逮捕には慎重であるよう指導されている。 ACPOガイダンス原文
http://www.ukcia.org/pollaw/acpoguidelines/default.html

スペイン
○関係法律:Law 1/1992, Art 25-28
○罰則:公共の場での使用・所持は刑事罰でなく、行政処分によって罰せられる。
○付記:実際に個人使用目的での大麻所持は、逮捕・起訴の対象としては扱われていない。

イタリア
○関係法律:イタリア共和国大統領令309/90, Art.75(DPR)
○罰則:行政処分
○付記:初犯であり、かつ今後繰り返し使用する意図がない場合は警告のみ。2006年に行政処分の適用が厳格化され、大麻所持の再犯者には運転免許の停止と一日夜間の外出禁止などの行政処分が下される
(参考[http://news.bbc.co.uk/1/hi/world/europe/4695368.stm])。

ポルトガル
○関係法律:Law 30/2000, Art.2, n.o 1
○罰則:行政処分
○付記: 10日分の使用量(25グラムの大麻あるいは5グラムの大麻樹脂)以下の所持の場合は、コミュニティーサービス・免許停止・罰金などの行政処分が適用される。それ以上の場合は10日間の留置。上記法律のArt.5, n.o 1により、薬物依存抑止委員会により、依存状態や問題行動の程度に応じ治療が求められる。

オランダ
○関係法律:アヘン法Art.3C・アヘン法指令
○罰則:1976年以降30グラムまでの所持は1か月以下の禁固刑。もしくは2,250ユーロの罰金。30グラム以上の所持は、最高4年の禁固。
○付記:アヘン法指令では、個人使用目的での5グラム以下の所持は、法的優先性が低いと規定され逮捕されることはない。AHOJ-G規準(A:アルコールを出さない H:ハードドラッグの販売を行わない O:騒音など近隣への迷惑行為を行わない J:未成年者へ販売しない G:500グラム以上の在庫を持たない)を満たすコーヒーショップでの1回あたり5グラム以下の売買は捜査対象とはならない。

ベルギー
○ 関係法律:1998年4月17日付指令(Directive de 17 avril 1998)・2003年5月16日付内閣指令 (Directive ministerielle de 16 mai 2003)・ 2005年1月付司法省および司法局による指令(Directive commune de la Ministre de la Justice et des autorites judiciaires du 25 janvier 2005)
○罰則:公共の秩序を乱す行為を伴う場合、禁固3か月から1年。
○付記:2003年の指令により、非合法薬物の使用に対する刑法の適用は最終手段として扱われるべきであると規定された。1回の使用量および24時間以内の使用量として規定される3グラムまでの所持は、個人使用目的として規定される。初犯の場合75-125ユーロの罰金。初犯から1年以内での再犯の場合130-250ユーロの罰金。さらに同じ年に再犯の場合、8日間の拘留と250-500ユーロの罰金。

フィンランド
○関係法律:刑法第50章1および2a
○罰則:罰金もしくは6か月以下の禁固刑
○付記:10グラム以下の大麻樹脂、15グラム以下のマリファナ所持は、5-10日間の拘置に処せられる。警察による捜査、事件化が猶予されることは稀である。(参考:地方行政裁判所において、オランダ人医師によって処方されたフィンランド人の大麻の医療目的での使用を認める判決が下され、それを受けて2008年1月現在、社会保健省は医師の処方に基づく医療使用に関するガイドラインを作成中)

デンマーク
○関係法律:大統領令NO.698/1993 s.27(1) ・2004年の法令No.445 S.3(1)・2004年の検察官指令35
○罰則:罰金もしくは2年以下の禁固刑
○付記:2004年の法令制定以後、それまで警告のみであった単純所持に対し法運用が厳格化され、70ユーロの罰金が科されるようになった。
参考:[http://www.drugpolicy.org/library/041207copenhagen.cfm

スイス
○関係法律:1924年制定の連邦薬物法(Swiss Federal Narcotics Law:LStup)
○罰則:罰金あるいは1年以下の禁固
○付記:州(canton)によって法運用に差があり、売買などに対して西部フランス語圏では比較的厳しい法運用がなされているが、個人使用目的の所持で罰せられることはない。2007年を含め過去に数回連邦議会で大麻合法化の法案が提出されているが否決されている。






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