1月のある晩、出先から帰ると、寒空の下、玄関の前に若い男が立っていた。
「大麻被害者センターのシラサカさんですか?」と言う。
「大麻被害者じゃなくて、大麻取締法被害者だけど。」
そう答えると、若者は「すいません」とちょっと頭を下げ、「相談したいことがあって来たんですけど」とのこと。遠路はるばる、九州の某県から電車を乗り継いで来たという。当局の人間ではないようだ。ある方法で私の住所を調べたのだそうだ。用件の想像はついたので、お引き取り願おうとも思ったが、本当に九州からならかわいそうな気もしたので、とりあえず家の中に入れた。
居間でコーヒーを飲みながら話を聞くと、父親が癌で、大麻を試させたいのだという。若者本人も大麻の経験はあり、THCのサイトなどを読んで、大麻が癌にも効果があることを知り、分けてもらいたいと思って訪ねてきたとのこと。
前もって連絡もなしに突然このように訪ねて来られたのは、THCを始めてからこれで3人目だ。
その若者が名乗った名前が本名なのか、本当に九州から来たのか、本当に父親が癌なのか、私には確認する術もない。はっきり言って、あまりにも非常識だろう。私の長男とさほど年齢も変わらないだろう若者に、私の言葉は説教じみていたと思う。そもそも私は今は大麻を持っていない。「少しでいいので」と言われても、ないものはないし、仮に父親の病のためだとはいえ、持っていそうな者を紹介したり仲介したりすれば、発覚したとき、それだけで幇助の罪が問われる。私はまだ執行猶予中でもある。
なぜ前もってメールで連絡をくれるなりしないのだろう。メール1本くれればお互いに時間を無駄にせずに済むことなのに。そう言うと、若者は、
「メールとかするの、ヤバイかと思って」
とのこと。話が逆立ちしてないだろうか。
相談対応でも感じることだが、自分の事情しか考えていない者が多いように思う。「仕事もあるので逮捕されるのは困る」とか。逮捕されて困らない者はいないだろう。何度ものメールの往復で急場を凌ぐ対応などをアドバイスしたまま、それきり連絡がなくなり、その後どうなったのか報告もくれない相談者が多い。
若者は、お金の持ち合わせもあまりなく、泊まるところもないと言う。夕飯を食わせ、地酒を振る舞い、一晩の寝床を提供し、翌朝、最寄の駅まで送ってやった。
その後、若者からは礼のメールすらない。これを読んではいるのだろうか。
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