違憲審査制度と市民的不服従及び良心的拒否について

投稿日時 2008-03-24 | カテゴリ: 野中の大麻取締法改正論

私は、大麻の医療上の目的、個人的な使用目的、非営利的な目的の為の所持及び栽培で逮捕することや懲役刑をもってこれを禁止することは、憲法に違反する重篤な人権侵害であることから違憲無効であると主張しており、司法はこのような事例については、緊急非難的な人権救済措置として直ちに違憲立法審査権を行使すべきであると考えています。

しかし、現状では、まともな裁判が行われているとはいえない状況が続いており、司法は古い誤った知見や情報に基づく過去の判例のみに固執し、充分な証拠が何一つ示されないままに大麻使用者が有罪とされています。

こうした問題を解決する手段として、司法に大麻取締法の違憲性を問う目的で、市民的不服従の権利あるいは良心的拒否権の行使として、敢えて同法を犯した場合、そのような行為は広く世間に大麻問題を訴える効果はあるものの、最新の科学的知見に基づく証拠を示したとしても、現状で無罪とされる可能性は低く、訴えを起こした本人や家族に対する精神的、経済的なダメージが大きすぎると考えます。

これは明らかに司法の怠慢によるものであり、司法と国家は将来的にもその責を逃れることは出来ないと思います。

このような司法の状況を改善するためには、私たちが力を合わせて正常な政治的反対、政治的多数者への通常の訴えかけなどを行い続ける必要があります。
この考えの背景となるわが国の違憲審査制に関する法制の基本的な概念と市民的不服従と良心的拒否の権利の考え方について以下に示します。


わが国における違憲審査制の基本的な概念について
わが国においては、違憲審査をするための特別の機関が設けられておらず、また、最高裁は、具体的事件を離れて抽象的に法律、命令等が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有するものではないもの、(「わが現行の制度の下においては、特定の者の具体的な法律関係につき紛争の存する場合においてのみ裁判所にその判断を求めることができるのであり、裁判所がかような具体的事件を離れて抽象的に法律命令等の合憲性を判断する権限を有するとの見解には、憲法上及び法令上何等の根拠も存しない」)として訴えを却下した(日本国憲法に違反する行政処分取消請求 最大昭和27年10月8日判決)例もあり、『付随的違憲審査制』を採ると解するのが一般的です。
これは、日本国憲法が、「第6章 司法」の章に、「最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。」(第81条)と定めるからでもあります。

付随的違憲審査制とは、違憲審査をするための特別の機関を設けず、通常の裁判所が、係属した事件に法令を適用するに際し、必要な限りにおいて違憲審査をする方式です。
違憲の法令を適用することに対する個人の権利保護に重点を置く点で私権保障型(ここでいう私権は私人の権利という程度の意味であり、私法上の権利という一般的な用法とは異なる)ともいい、アメリカに由来することからアメリカ型ともいうようです。

34年前の長沼一審判決において、憲法81条に基づいて裁判所が違憲審査権を積極的に行使すべき場合の要件として、次の三つが挙げられています。(1)「憲法の基本原理に対する黙過することが許されないような重大な違反の状態が発生している疑いが生じ」、(2)「その結果、当該争訟事件の当事者をも含めた国民の権利が侵害されまたは侵害される危険があると考えられる場合」、(3)「裁判所が憲法問題以外の当事者の主張について判断することによってその訴訟を終局させたのでは、当該事件の紛争が根本的に解決できないと認められる場合」であります。


市民的不服従と良心的拒否について
ロールズによれば、市民的不服従とは、「(勿論完全にとはいわないでも)かなりの程度正義にかなっている民主政体においてそれが正当化される場合、通常、多数者の正義感覚に訴えて、異議の申し立てられている措置の再考を促し、反対者達の確固たる意見では社会的協同の諸条件が尊重されていないことを警告するという政治的行為として理解することができる。」

「市民的不服従(略)この理論は正義に近い社会、すなわち大方秩序立ってはいるが、なお依然として正義に反するある重大な事態が起こるような社会という特定の事例にのみあてはまるものである。正義に近い状態は民主主義体制を必要とする、と私は仮定しているので、この理論は合法的に確立された民主主義的権威に対する市民的不服従の役割とその妥当性を問題にする。」(p281)

「私は初めに市民的不服従を、通常、法や政府の政策を変えさせることをねらってなされる行為であって、法に反する、公共的、非暴力的、良心的、かつ政治的な行為と定義したい。」(p282)

「危害を加え、苦痛を与える可能性のある暴力行為に参加することは、請願の一形式としての市民的不服従とは両立しがたい。」(p284)

「良心的拒絶は多数派の正義感に訴える請願の一形態である。」(p286)

「正義論はこれらの実践的考察について特別なことは何も述べない。」(p291)

「だが、ひとたび、社会が平等な人々の間の協働組織として解釈されるならば、重大な不正義によって侵害された人々は服従する必要はないのである。実際、市民的不服従は(また、良心的拒絶も同様に)立憲体制を安定化させる方策の一つ(だが、定義によって非合法な方策)である。(略)法に対する忠誠の範囲内で不正義に抵抗することによって、市民的不服従は正義からの乖離を抑制するのに役立ち、そして、そうした乖離が生じるとき、それを是正するのに役立つのである。」(p296)

「そのとき、民主主義社会では、各市民は正義の諸原理に関する自己の解釈とそれらの原理に照らした自己の行動に責任をもっている、ということが認められる。」(p301)

「だが、もし正当化される市民的不服従が市民の和合を脅かすように思われるならば、その責任は抗議をする人々にかかるのではなく、権威や権力を濫用することによって、そのような反対を正当化している人々にかかるのである。」(p302)

ロールズの市民的不服従の定義をふまえて、その行使が正当化される不正義の条件としてあげられるのは、「平等な市民権の自由あるいは機会均等に対する明らかな侵害であり、正常な政治的反対にもかかわらず、長期間にわたって、多かれ少なかれ故意になされてきた侵害である。」このような条件が存在し市民的不服従の行使がなされる場合でも、選挙民全体としての市民の政治的な正義の要求についての十分な合意がある限り、無政府状態の危険はない。明らかに正義にもとる法や政策を保守するために、権威や権力の濫用を行うことこそが責任を問われるのである。

ロールズは市民的不服従の正当化のために三つの条件を提示する。第一に、市民的不服従は平等な自由の原理と機会の公正な平等という原理(18)に対する深刻な侵害に向けられるべきである。たとえば、参政権の否定や就職差別などがこれにあたる。第二に、政治的多数者への通常の訴えかけがすでに行われており、それが失敗に帰したために、最終的な手段として市民的不服従が行われるべきである。第三に、市民的不服従はすべての少数者集団に平等に参加の正当性が認められるべきである。

ハーバーマスも「まさに市民的不服従こそ民主主義の道徳的基盤が適切に理解されているかどうかを知る試金石に他ならない」(19)という点で、ロールズと考えが一致している。ハーバーマスによれば、法治国家は歴史的に見て完成したものではなく、まだまだ多くの誤謬の可能性を含んでいる。それゆえ、正当な法秩序のたえざる創出、再解釈、修正、革新の歴史的プロセスの途上にあるものとして法治国家をとらえなければならない。そこでハーバーマスは、ロナルド・ドゥオーキンの『権利論』に言及しながら、次のように市民的不服従を正当化しようとする。

「法と政治は絶え間ない適応と修正のなかで把握されるものである以上、一目見たところでは不服従であることも、行われないまま時の過ぎた是正と革新のためのペースメーカーであることが、いくらもたたないうちに判明することがありうる。こうした場合、市民的な違法行為は道徳的に基礎づけられた実験である。そのような実験がなければ、活力ある共和国でもそれ自体の革新能力や市民による正当性への信頼を保持できなくなってしまう。もし代表制をとる憲法が全員の利害に関わる異議申し立てを前にして身動きできなくなるようなら、国民は国民に属する市民として、いや一人一人の市民として、主権者の本源的権利の行使に踏みきることが許されなければならない。民主的な法治国家は最終的にはこうした正当性の番人を頼りにしているのである。」

市民的不服従は「主権者の本源的権利」の行使にほかならない。にもかかわらず、「法は法だ」とか「非暴力的な市民的不服従であっても違法行為にかわりはない」という態度で安直に片づけてしまうならば「権威主義的リーガリズム」(21)に陥ることになってしまう。そのような因習的な国家理解、法理解から市民的不服従を攻撃する人々は、成熟した民主主義国家の道徳的基盤とその政治文化を理解できていないのである。ハーバーマスの批判は痛烈である。


参考文献
第11回 違憲審査権の意義--81条(水島朝穂-憲法から時代をよむ)
違憲審査制 フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
トランスナショナルな市民的不服従 時安邦治
ジョン・ロールズ『正義論』1971年
社会教育における「市民教育」の可能性― 「正義感覚」の役割と育成の問題を中心に ―  小林建一






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