5.自由の身
10月29日午後 遂に夫は保釈された。
本当は昨日の時点で保釈は許可されていたのだが、私が弁護士と連絡を取らず、29日の朝に結果を知ったので、夫には悪い事をした。
保釈金2百万円(父から借りた)を裁判所で支払い、夫の居る留置場へ「これから迎えに行きます。」と電話をして、東へ車を走らせた。
この日は夫にとっては、「いつもと変わらない日」だったようだ。午後になって、留置場の事務所に居る警察官が、自分の名前を言っているのが聞こえ、見覚えのあるバッグが棚から取り出されるのが見え、徐々に状況が分かってきた。そして、警察官が荷物をまとめるようにと言ってきたので、その時、はっきりと自由になれると悟ったそうだ。
留置場の事務所の前で待っていると、夫が荷物を抱えて出てきた。感動の対面である。
2人とも興奮気味に、これまでの事を語り合った。
翌週には仕事にも復帰し、以前の生活を取り戻そうと努めていたが、夫はまだ実刑になるのでは?と心配で、夜も良く眠れないでいた。実刑になるのなら、保釈はされないはずだから。と慰めた。
11月5日 判決公判。弁護士さんは、いつもの鞄ではなく雑誌のみを持っていた。それを見たとき、絶対に実刑にはならないと確信した。
懲役:1年6ヶ月 執行猶予:3年
この時やっと夫は、恐怖から解放され自由を感じる事が出来た。
この日も税関の人達が傍聴に来ていた。
税関の事務所から、裁判所までは約100kmもあるのに、「他にする事無いのだろうか?」と思った。
裁判が終わり、税関の人達と挨拶を交わした。
「わざわざ、来られたのですね?」
と聞くと、「やっぱり、気になって、最後まで見届けたかった。」との事。
保釈金の2百万円を返してもらい、それを持って2人で街をぶらぶらした。
このお金を使う事も出来るという誘惑に負けそうだったので、急いで父へ送金して、「全て終わった!」と実感した。
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