第2回公判

投稿日時 2006-12-14 | カテゴリ: 祐美さん(大麻密輸の冤罪)

大麻密輸の濡れ衣で逮捕されたさゆりさんの妹の第2回公判レポートです。証拠品を忘れたという検事といい、やる気のない裁判官といい、被告人にされている者の人生をどう考えているのでしょうか。
弁護士が被告人である妹を横に着席させて公判に臨んでいるのは、妹にとってとても心強いことでしょう。検事や裁判官の態度には怒りを覚えますが、弁護士の姿勢が救いです。

* * *

11月下旬に2回目の裁判がありました。予定された2時間裁判が行なわれました。

その日の傍聴席は10人以上座っていました。私が法廷に入ると、妹はすでに着席していました。前回のように家族の姿を見て泣いてしまうことはなく、とても落ち着いていていました。
この日は弁護士の隣にいたので、彼女の表情が傍聴席から見えました。
 
今回の裁判は、検察官が証拠によってどんな事実を証明しようとしているのかを陳述することから始まりました。
税関職員2人(以下A氏・B氏)が法廷で証言しました。2人は法廷で真実を述べることを宣誓し、B氏は部屋を出ました。
A氏は氏名・職業・勤続年数、以前違法薬物を摘発したことがあることなどを答えました。
若い女性が頻繁に渡航していることは経済的に考えておかしいということ、妹が持ってきてしまった缶詰は普通の缶詰と比較してラベルが雑だったなどの理由でX線検査を担当しているB氏に検査を依頼したことを述べました。

途中で彼女の使用していたスーツケースについて言及したのですが、肝心のスーツケースを検察官は前回同様、今回も忘れたと言って、法廷に持って来なかったのです。

開廷前に書記官と検察官が「またスーツケースを忘れた」というやりとりが耳に入ってきて、とても不安になったのですが、案の定、証拠品であるスーツケースは法廷に出できませんでした。
A氏は検察官の尋問と弁護士の尋問の証言が矛盾しているところもあり、傍聴していて苛立ちを感じました。

A氏の証言が終わると、A氏は退廷し、次はB氏が入ってきました。
A氏同様、B氏は氏名・職業・勤続年数をなどを答えました。
A氏の依頼でB氏がX線に缶詰を映したら、中身は細い楕円形だったので(果物の缶は液体が入っているため、丸くなることはない)B氏は「どこで購入したのですか」と妹に尋ねたところ妹は「スーパーです」
と答えたとB氏は証言しました。
B氏「値段はいくらでしたか」
妹「0.75ユーロです」
というやりとりがあった時、妹は首を横にふり、声には出さなかったけれど「そのようなことは言ってない」と言ったのが印象的でした。

私は、両氏の証言はいい加減であてにはならないものだと感じました。妹の表情もだんだん険しくなり、証言台にいる彼らを怒りがにじんでいる鋭い目で見ていました。彼らの証言に妹が首を横にふり、「そんなこと言ってないじゃん」「嘘ばっかり!!」と言っている場面が何度もありました。

B氏は持ち込み禁止を記載したものを妹に見せ、妹はそういうものはないということ、缶の中身は知らないということを伝えました。
今度はX線に映ったものを妹にも見せて、X線検査の後、妹は検査室に行ったようです。そこで缶を開封したところ茶色い粘着テープに巻かれたものが入っていて、ものすごい臭気がしたようです。
仮鑑定をしたところ、大麻の反応が出たので、妹は【大麻取締法違反、関税法違反】の現行犯として逮捕されました。そのように告げられても妹は反論しなかったことなどを聞くと、彼女は長時間検査に拘束され、あまりに突然のことで状況を把握することもできなかったのではないかとその当時の妹の様子を想像し、私は今回の裁判で逮捕されるまでの出来事を税関職員の口から初めて聞かされたので、逮捕されてから今まで彼女がどんな思いで毎日を過ごしているかと思うと、涙があふれました。

そしてB氏は、缶詰が入っていた袋は日本のものだったこと、妹が「以前、缶詰を購入した店で袋をもらうことができなかったため自分で持って行った」と言ったこと、その缶詰を妹が自分で購入したと言ったと証言したのです。

X線検査後、検査室で缶を開封した時、妹は税関職員に何度も「これは何ですか」「これは何だか分かりますか」との質問をされています。そのたびに「分かりません」と答えています。中味が分からないものなど現地で購入するはずもなく、わざわざ日本から缶詰を入れるために袋を持参することなどありえません。
ただ、果物のラベルが貼ってある缶詰を渡されて、中味を知らずに持ってきてしまったのです。常識的に考えて、果物のラベルが缶に貼ってあれば、それは果物の缶詰だと思うでしょう。大麻が入っているなんて疑うでしょうか。
さらに、「これは何だと思いますか」と質問したときに妹が「オランダではソフトドラッグは合法だ」と言ったと証言したのです!!!!!! 大麻を所持したことなどありませんし、吸ったこともありません。妹は、煙草すら大嫌いな人間です。そんな人間が、オランダは合法だからと言って、リスクを背負ってまで日本に持って来るでしょうか。日本で法を犯してまで、大麻を持ちこむ必要性はありません。

彼らは当時、妹の件について報告書を作成していますが、自ら作成しているにもかかわらず、法廷で証言したことと報告書に記載されていることには矛盾があるため、弁護士が矛盾点を指摘していました。

お昼頃になると、外が騒がしくなり、傍聴している人間の集中力もなくなり始め、だらけた空気を感じました。裁判官もイライラしていました。次回の最終弁論の予定を決め、閉廷すると皆足早に立ち去りました。

傍聴席にいる関係ない人間にとっては、所詮他人ごとにしかすぎず、無情で冷酷にさえ感じました。  
妹はまた手錠と腰縄をつけられ、退廷するまで、私は彼女を見守りました。彼女が私をずっと見ていたので、私は何度もうなずいて、「大丈夫だよ」と心の中で彼女に言いました。

今回の裁判で妹は尋問されることもなく、一言も法廷で証言することはありませんでした。税関の職員が証言したことが、事実と異なっているときのみ、弁護士に話しかけていました。事実と異なっていても、彼らの証言に口をはさむことなく、怒りが込み上げてくるのをじっと我慢しているようでした。

弁護士は退廷するときに、裁判官に検察官が前回の裁判で携帯電話のメールの記録などを提出していないことなど、文句のようなことを言って、激怒しながら退廷しました。私も一緒に退廷し、しばらく弁護士と話しこんだのですが、「あの検察官はやる気がまったくありません」と弁護士の口から出たときは、やはり・・・という落胆と勝てるかもしれないという複雑な気持ちになりました。

前回、提出を求めている証拠品も、「証拠品を出すつもりはない」ときっぱり宣言したことは怠慢という言葉しかありません。次回の裁判は最終弁論だというのに!!! どのように焦点を絞るかという方向性や策を練るうえで、ひとつでも多く、妹に有利になるものが必要なのに、提出しないとは、あきれて非難の言葉もでません。

毎日、空港では多くの人間が入国し、税関職員である彼らは、多くの荷物を検査しています。妹が日本に帰国し、裁判まで数ヶ月経過しています。記憶は曖昧になり、忘却のかなたに押しやられていると思います。しかし、妹の人生がこの裁判で決まろうとしているのです。曖昧なことやいい加減なことは法廷で証言しないで欲しいと思いました。

今回の裁判でも考えさせられることがたくさんありました。所詮、裁判というものは、威厳に満ち、存在感が一際ある裁判官の虫の居所で判決が下るということをや、やっつけ仕事という観念しかないということを感じました。

検察官や裁判官はあまりにも無責任すぎます。
人の人生を左右する立場にあることを自覚し、物事の本質を見極めて、誠意を持って裁判に臨んで欲しいと思います。

私たち家族は本当に無力で、法廷では傍聴席に座り、裁判の行方を見守ることくらいしかできません。しかし、彼女が冤罪であることは明白なのです。妹に接見しに行くと、そこで働いていらっしゃる職員の方達は、皆さん口々に「彼女はこの場所にはいないタイプの人間だし、いるべきではない」、「彼女のような人がどうしてこのようになってしまったのか分からない。言葉が悪いけど、騙されたんだよ」「早く出られるといいね」と声をかけて、励まして下さるのです。

妹がお世話になっている職員の方達からも、彼女は冤罪ということが明白であり、彼女と接している周囲の人間は真実を理解しています。
  
最終弁論は1月初旬です。

妹の姿を見るたびに、言葉では言い表わすことができない感情があふれて、涙を流さずにはいられません。彼女に余計な心配をかけないように姉として、気丈に振る舞わなければいけないのに、彼女を目の前にすると、感情をコントロールすることができません。

初公判から今回の裁判まで2ヶ月近くあったので、その間、妹が今まで住んでいたマンションを解約し、引っ越しをすませ、住民票を実家に移したりと、身辺を整理しました。
妹のマンションに行くと中から彼女が出迎えてくれる気がしたり、最寄の駅にいると彼女が道を歩いていて私に声をかけてくれるのではないかと思ってしまいます。

彼女は拘留され、裁判も始まっていることが現実ですが、私には、この現実は悪い夢を見ているような感覚であり、彼女の面影がその街にはたくさんあって、電車に乗ることすらためらうことがあります。
おいしいご飯を食べること、テレビをみたり、音楽を聴くこと、日常生活において当たり前にしていることを拘留されている妹たちは何一つすることが許されないのです。

決められた時間に決められたことしかできず、自由を奪われ、未来に不安を感じて毎日を過ごしていくことは、精神的にとても追い詰められます。名前ではなく番号で呼ばれ、人間以下、家畜同然の扱いを受ける彼女たちの生活や精神状態は私たちの想像をはるかに越えていると思います。私が彼女と代わることができて、今すぐにでも自由を手にすることができるなら、代わりたい。妹を救い出せるなら何でもしてあげたい。

マンションを引き払ったり、住民票を移すことは、大げさかもしれませんが、彼女がこの世に生を受け、今まで生きていたことを全否定され、存在事体がなくなりつつあるように感じました。今まで積み上げてきたものが一瞬にして破壊され、そこから立ち上がることは困難です。何をしていても妹のことを考えてしまい、何をしていても、心から楽しむことができません。妹に対して申し訳ない気持ちになります。

一人で海外に行かせるべきではなかった、同行していたら今回のようなことにはならなかったかもしれないと悔やんでも悔やみきれません。しかし、妹は起訴され、裁判が始まってしまったのです。彼女の精神的支えになれるのも家族だけだし、救い出すために私たちは何でもするつもりです。
冤罪である妹が早く私たちのところへ帰ってくることができるように・・・






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