小説:医療大麻物語(7) 医療大麻

投稿日時 2008-07-20 | カテゴリ: 小説:医療大麻物語

シーン7 医療大麻

 長島医師は医局で一人悩んでいた。
「早苗の痛みが何とかならないものか。」
 その時、携帯電話が鳴った。
「長島、元気か?」
「田中か?久しぶりだな。」
「ちょうど先週アメリカ留学から帰ってきてな。来月から病院に復帰だよ。」
 田中は長島の大学の同級生で麻酔科医だ。アメリカ留学に行っていた。
「いろいろと積もる話もあるし、飲みにでも行かないか?」
「ちょっと仕事で困っていて、乗り気じゃないんだけどな。」
「そういう時こそ飲まないと。だろ?」
「そうかな?」

 長島と田中が飲み屋で話している。
「どうだった?留学は?」
「まあ、いろいろと大変だったよ。勉強にはなったけどな。アメリカもいいところと悪いところがあるね。やっぱり、飲み屋は日本のほうがいいな。ところで暗い顔してるな。仕事大変なの?」
「そうなんだ。お前麻酔科だったよな。相談していいかな。困っている患者がいて。マンマ(乳がん)のステージ4でケモ(抗がん剤治療)をやってるんだけど、腰椎メタで脊損があって、痛みがコントロールできないんだよ。」
「ニューロパシックペイン(神経障害性疼痛)か?モルヒネは効かないからな。抗痙攣剤は使ったのか?」
「使ったさ。少しは効くんだけどな。突発痛が出るとお手上げだよ。何かないかな。」
「うーん。無いこともない。というか、留学先でやっていた研究テーマがまさにそれだったよ。でも日本じゃ無理かもな。」
「何だよそれ。もったいつけるなよ。」
「いいけど勧めるわけじゃないからな。そこん所注意してくれよ。カンナビノイドだよ。」
「カンナビノイドって?まさか。」
「そう。大麻だよ。医療大麻。向こうじゃTHC(大麻の有効成分)の内服薬も出ているよ。臨床研究もやってる。MS(多発性硬化症)とか、脊損とか、ニューロパシックペインにいいようだ。でも日本じゃ法的に無理だろう?医師免許剥奪覚悟でやるか?」
「そうか。うーん。」
「まさか、やるつもりか?」
「うーん。」
 長島は考え込んでしまう。

 良介と長島医師が面談している。
「先生、早苗の痛みは何とかならないんですか。僕は見ているだけで辛くなってしまう。」
「正直に言うと、私も悩んでいます。医者がこういう風に言うとご家族はさらに不安になるでしょうね。すみません。」
「先生に謝られても。」
「無いこともない。無いこともないんですが、大きな問題がある。」
 長島医師は独り言のようにつぶやく。
「先生、何ですかそれは?」
 長島医師は姿勢を急に正し、良介を見つめた。
「いいですか?久保田さん。これから、一つの可能性を話します。ですが、日本では難しい。アメリカや欧米では可能だけど、日本ではできない治療がある。医薬品の法律や承認は国ごとに違っているからです。わかりますか?」
「わかるような、わからないような。日本では使えないけれど、海外では使える薬ということですか?」
「そうです。さらに、久保田さんが聞いたらちょっとびっくりするかもしれない薬です。いいですか?それは大麻です。」
「大麻ですか?あの、麻薬の?」
「そう。医療大麻です。大麻の成分が、奥様のタイプの痛みに効果があるという研究結果があります。」
「副作用とか、中毒になるとか、大丈夫なんですか?」
「モルヒネに比べれば、依存は問題にならないでしょう。副作用は、ひどいものは少ないようです。でも、日本で使うには法的にまずいんですよ。」
「そうですか。他にないんですか?」
「あとは、鎮静剤でボーっとしてもらうか。でも、ずっと寝てしまう感じで、お話なんかは難しくなりますね。」
「そうですか。」
「まあ、もうちょっと、考えましょう。」
 良介は思い詰めたような顔で部屋を後にした。長島医師は複雑な顔で良介を見送った。

(つづく)






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