小説:医療大麻物語(14) 捨てる神あれば・・・

投稿日時 2008-08-31 | カテゴリ: 小説:医療大麻物語

 「医療大麻を推進する会」の上田は事務所で仕事をしていた。そこに電話がかかってきた。
「もしもし。上田ですが。」
「上田さんですか?佐藤ですけど、ソーマ君が捕まったんですよ。上田さんに連絡してくれって頼まれて電話しました。」
「何?いつ?」
 上田はしかめ面で答える。
「×日に自宅に踏み込まれたらしいです。ソーマ君栽培してたでしょ。通販で種買ったらしいんだけど、そこから足がついたみたいですよ。」
「最近、種を売ってる業者から捕まることが多いねえ。で、他に誰か捕まったりしてないの?」
「それが、たまたま一緒にいた人が捕まっちゃったらしいんですよ。そうそう。上田さん会ったことある人ですよ、多分。奥さんが癌とか言ってた。」
「ああ、久保田さんか。困ったことになったな。でソーマ君は何か言ってた?」
「そうですね。何か、弁護士を紹介してほしいとか言ってましたけど。」

 電話を切って、上田は名刺を探し始めた。
「あった、あった。」
 上田は名刺に書いてある番号に電話をした。
「もしもし、渡辺先生?あの節はいろいろお世話になりました。ええ。ちょっと相談したいことがあるんですけど。そうです、ちょっとトラブルがあって。お会いできますか?ありがとうございます。じゃあ、そちらに伺います。」

 上田は、弁護士事務所を訪ねた。事務所には30代後半の壮健な感じのする男がいた。
「先生、お久しぶりです。前回の裁判の時はお世話になりました。」
 上田が挨拶した。
「いえいえ。結果が良くて良かったですね。で、今回は何でしょう?」
「それがですね、うちに出入りしてる若いのが、大麻所持で捕まってしまったんですよ。そいつは普通に、普通っていうのもなんだけどね、自分で吸うために栽培していて捕まったんですよ。ただ、その時一緒に捕まった人がいて。」
「はあ。その人に何か問題が?」
「それが、僕んとこに一回来たことがあって。奥さんが癌で、大麻を医療目的で使いたいっていうんでね。それが、あまりに真剣だったもんだから、うちの若いのを紹介というかね、連絡先を教えたんですよ。そしたら、今回捕まったってことで。まあ、僕も責任の一端があるかなと。」
「医療目的ですか。大麻って医療目的で使えるんですか?」
「ええ、漢方では昔から使われてきてますよ。今注目されてるのはエイズや末期がんの治療ですね。慢性の痛みや食欲増加にいいということで、欧米の大手製薬会社も研究してますよ。日本では大麻取締法で医療目的の使用は禁止されとるけども。ひどい人権侵害ですよ!」
「そうですか。それでその彼は純粋に医療目的なんですかね?」
「多分ね。あれは嘘をついている感じじゃなかったな。それで、先生、ちょっとその彼の相談に乗ってもらえないですか?」
「うーん、何だかややこしそうだな。まあ、上田さんに頼まれるとね。やだって言っても聞かないでしょう?」
「先生、ありがとう。よろしくお願いしますよ。」






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