某大学法学部の学生への回答

投稿日時 2008-11-05 | カテゴリ: 白坂の雑記帳

最近、大学生が大麻で逮捕される事件が連続的に報じられている。
ある大学の法学部の学生から、ゼミのテーマとしてこの問題を扱うので、質問に回答してほしいと依頼があり、下記の内容を返信した。

メール拝見しました。最近、大学生が大麻で逮捕される事件でマスコミが騒いでいますが、そのようななか、学生のみなさんが大麻取締法の問題に冷静に向き合い、研究しようという問題意識を持っていることに、希望を感じます。

以下、ご質問にお答えします。

>1、(もし過去に大麻を使用されたことがあったら)、そのきっかけは何ですか?

私個人のことで言えば、もう25年も前、私自身がみなさんと同年齢の頃ですが、アメリカで暮らす経験を得て、大麻を知りました。

>2、最近多発している大学生の大麻による逮捕についてどのように考えられますか?

海外のサイトや、日本語では私たちのウェブサイトを含め、インターネットには大麻がアルコールやタバコほど害がないという医学的事実が研究の出典を示して多数公開されています。
ところが、日本では、厚労官僚の天下り先となっている「(財)麻薬・覚せい剤乱用防止センター」が、アメリカから輸入した薬物標本レプリカの説明書を翻訳しただけの情報を、ダメゼッタイとして、公的な大麻情報として国民に周知しています。その薬物標本レプリカの説明書は、15年も前のものであり、医学的根拠もなく、出典も示せないことを、同財団の専務理事も、厚労省の担当者も認めています。また、同財団専務理事も、厚労省の担当者も、その公的大麻情報を見直す必要があると認めてもいます。

●スクープ!!「ダメ。ゼッタイ。」サイトの大麻に関する記述
●日本の公的大麻情報の正体

大学生が大麻事犯で検挙されるケースの増加は、このような誤った薬物情報に基づく教育と、アメリカの薬物乱用対策政策を模倣追従するだけの非寛容政策(ゼロ・トレランス)が失敗していることを端的に示しているでしょう。

大麻には覚せい剤中毒のように意識を錯乱させる性質はなく、全ての被害は大麻取締法による検挙によって生じています。多くの学生が大麻所持で逮捕され、学籍を奪われ、前科者にされていますが、いったいそれら大麻で逮捕された学生の誰が第三者に被害や危害を加えたでしょうか。誰にも迷惑すらかけていないことで逮捕され、社会的に葬られているのです。被害は、大麻取締法の執行実態こそが招いています。

日本のマスコミでは、大麻の医学的事実が議論されることはなく、最近の朝日、毎日、読売の大手新聞社の社説ですら、厳罰政策と言えるゼロ・トレランスを検証することもせず、大麻に使用罪がないことを問題にするという、警察権力の提灯記事を書いています。欧州の多くの国では、薬物が社会と個人にもたらす害をできるだけ縮減することを政策目標とする、ハームリダクション政策が採用され、効果を上げています。イギリスでも2004年から大麻は非犯罪化されていますが、それ以降、大麻の使用者が減っているという現実もあります。

また、日本では厳罰政策を採っているために、覚せい剤中毒に陥った者が、逮捕を恐れて医療機関に相談することをためらい、結果として中毒が進行し、意識が錯乱し、街なかで刃物を振り回すような凶行にまで及んでしまう事件もあります。これは政策的に招いている悲劇であり、薬物中毒者に必要なのは逮捕ではなく治療であるという観点に立った政策に重点を置けば、防げたはずの悲劇的な事件も少なくなかったでしょう。

薬物の密売で利益を得ている組織犯罪への捜査や罰則とは切り離し、末端の使用者個人については公衆衛生や健康問題としてアプローチする政策が必要なのだと思います。

誤った薬物情報に基づくダメゼッタイという思考停止教育と、アメリカの非寛容政策を追従するだけの薬物乱用対策と、政策を検証しないマスコミ(ジャーナリズム)によって、たかが微量の大麻所持で大騒ぎする、他の先進国では見られない社会現象を生んでいると思います。

因みに、大相撲の若ノ鵬が逮捕された際、フランスの通信社AFPから取材を受けましたが、AFPのフランス人記者は、なぜ日本社会は微量の大麻所持でこれほど騒いでいるのかというスタンスの記事を英語とフランス語で世界に配信しています。
●AFPが配信した若ノ鵬の大麻事件

>3、THCさんの最終目標としてはやはり大麻の合法化(制限付き問わず)ですか?それとも今の厳罰(あくまで私見ですが)の緩和ですか?

大麻をどのように社会的に管理するかという課題は、薬物政策そのものを考えることでもあります。私は、ハームリダクション政策を基盤にすべきだと考えています。現在の非寛容政策は、警察権力の権益と予算を拡大するばかりで、失敗していると思います。捜査や司法に莫大なリソースを投入し、刑務所を満杯にして、税金を無駄にしているだけです。

厳罰の緩和、いわゆる非犯罪化と呼ばれる状態は、大麻について言えば、個人が少量所持しているだけでは逮捕しないようにする、といったものですが。これは本質的な解決になりません。大麻を売って儲けようという犯罪組織が潤うだけになってしまいます。
大麻が事実上非犯罪化されている欧州や、カナダ、アメリカの12州では、大麻の医療的な利用が認められていますが、個人のレクリエーショナルな使用も含めて、栽培から流通まで、課税して管理する制度を創設するのが良いと思います。
欧州の一部では、協同組合的な事業として現実に行われている、大麻の社会的な管理方法です。私は「大麻生活協同組合」のような組織で管理するのが良いと思っています。

>4、現在大麻取締法が改正されない一番大きな理由は何だと考えられますか?

私は、海外における近年の医学的な大麻研究の結果など、医学的・社会学的な事実を論証すれば、現在の大麻取締法のあり方が違憲であることを司法に認めさせることができると考え、敢えて逮捕されるようなことをして、最高裁まで争いました。しかし、司法は、一審から最高裁に至るまで、大麻取締法は生存権をも侵害しているという私の主張について全く一言も触れず、大麻の医学的・社会学的事実を検証することもなく、訴えを退けました。
その後も、何度も大麻取締法違憲論裁判を支援し、最高裁まで争う法廷闘争を行いましたが、司法は全く機能しませんでした。

大麻取締法を所管する厚労省も、現在の公的大麻情報が古くて見直しの必要があることを認めましたが、大麻規制のあり方を検証しようとしません。

また、マスコミも、「薬物は悪である」という所与の前提と、その前提に基づいた大麻事犯の報道を繰り返しており、薬物政策の現状を検証しようという姿勢が欠如しています。

司法、行政、マスコミ(ジャーナリズム)の機能不全が、馬鹿げた大麻弾圧社会を存続させているのだと思います。そして、これは大麻取締法の問題に限らず、現代日本において、多方面に噴出している社会問題と根底で通じているでしょう。

>5、医療目的で大麻が有用なのは、科学的に証明されているそうですが、大麻を嗜好目的で使用するメリットはあると思われますか?

大麻には心身をリラックスさせる作用や、意識や感性を繊細にする作用があります。大麻で逮捕されたミュージシャンなどが、「音がきれいに聴こえる」などと表現してる通りです。日常では気が付かなかった様々なものごとの意味を深く理解する契機になることもあります。そのような意味で、私は医療に限らず、個人が大麻を利用するメリットは大きいと思っています。但し、全ての薬物がそうであるように、「使用上の注意」は必要だと思います。全ての薬物と同じように、大麻も無害ではありえません。
さらに言えば、私は合法化されたとしても大麻を他人に勧めるつもりはありません。好き嫌いもあるでしょうし、向き不向きもあるでしょう。

>6、世論では「大麻は薬物」としてアルコール・煙草より危険なものとして見られてる風潮があると思います。そのことについてどう思われますか?またなぜそういった風潮になったと思われますか?

上述したように、医学的な根拠もないダメゼッタイという、恐怖を誇張するだけの公的大麻情報を国民に周知教育し、過ちに気が付きながら修正しない行政権力と、それを検証しない司法権力やマスコミ(第4権力)。それが問題を悪化させています。つまり、これは日本の人権意識・民主政治の根幹に関わる問題を内包しているのだと思っています。

以上、私の回答ですが、日本では最も大麻情報が充実しているカナビス・スタディハウスを開設されているダウさんにも見解をお聞きになることを強くお勧めします。
●カナビス・スタディハウス

ぜひ、問題の本質を見極めて下さい。

9月17日に大麻で逮捕された同志社大学の学生は、取り締まりと罰則の強化を狙う警察権力の上層部によって生贄にされたのだと私は思う。現場の刑事は大麻など逮捕するほどのことではないと思っているらしい者も多く、学校や勤務先には逮捕について連絡しないと言って逮捕された者を安心させる例が多い。来春の卒業を控えていたのだろう同志社大学4年の女子学生についても、大学側は事実関係を把握していないとマスコミの取材に回答していたようだ。
こんなことでマスコミが実名を出してバカ騒ぎしなければ、この女子学生の人生は破壊されずに済んだのではないか。いったい、この女子学生が誰にどのような危害を加え、何をしたというのだろう。

大麻に問題があるのではない。大麻取締法に問題があるのである。





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