第一審の判決文は下記の通りです。
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平成16年4月14日宣告 裁判所書記官 宮代 悟
平成15年(わ)第4650号、第6421号、第7567号
大麻取締法違反(変更後の訴因大麻取締法違反、覚せい剤取締法違反、麻薬及び向精神薬取締法違反)被告事件
判 決
被告人 桂川 直文
年齢×× 本籍×× 住居×× 職業
検察官 高橋 亮、 藤井 彰人
弁護人 金井塚 康弘
主 文
被告人を懲役5年及び罰金150万円に処する。
未決勾留日数中140日を懲役刑に算入する。
罰金を完納することができないときは、金5000円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
大阪地方検察庁で保管中の大麻(大阪地検平成15年領第6450号符号1-1、2-1、(中略)313-1ないし3)、大麻樹脂(同号符号48、124-1、277-1ないし4、278-1ないし6、279、280、299)、大麻草(同号符号201、1、202-1、203-1、204-1、209-1ないし6、210-1ないし25、213-1、214-1、215-1、216-1、217-1、218-1、258、259)、覚せい剤(同号符号265及び281)、MDMA(同号符号283)、麻薬原料植物(同号符号310)を没収する。
被告人から金18万円を追徴する。
理 由
【犯罪事実】
被告人は、みだりに、
第1 営利の目的で、平成15年1月5日牛後8時ころ、大阪市北区角田町8番47号阪急グランドビル28階所在の飲食店「吉祥」において、××××こと××××に対し、大麻約30グラムを代金10万円で譲り渡した。
第2 営利の目的で、平成15年3月末ころ、長野県北安曇郡×××××××の被告人方において、発芽用の培地に大麻の種子を蒔いて発芽させ、発芽した大麻草94本(大阪地検平成15年領第6450号符号201-1、202-1、203-1、204-1、209-1ないし6、210-1ないし25、213-1、214-1、215-1、216-1、217-1、218-1、258、259)を同年7月14日までの間、上記被告人方敷地内において育成させ、もって、大麻を栽培した。
第3 営利の目的で、平成15年6月19日午後11時30分ころ、上記被告人方において、××××に対し、大麻樹脂約3.29グラム(大阪地検平成15年領第5721号符号1に混在する大麻樹脂はその鑑定残量)及び大麻約200グラム(その一部について、同号符号1に混在する大麻及び同号符号2、 4、13は鑑定残量、同号符号14は鑑定全量消費)を代金8万円で譲り渡した。
第4 平成15年7月14日、上記被告人方において、
1 営利の目的で、大麻樹脂約33.744グラム(大阪地検平成15年領第6450号符号48、124-1、277二-1ないし4、278-1ないし6、279、280、299。いずれも鑑定残量)及び大麻約3560.196グラム(同号符号1-1、2-1、3-1、4-1、5-1、6、7-1、8-1、9-1、10ないし…(中略)276、292、300、312、313-1ないし3。いずれも鑑定残量)を所持した。
2 フェニルメチルアミノプロパン塩酸塩を含有する覚せい剤結晶約0.192グラム(大阪地検平成15年領第6450号符号265、281。いずれも鑑定残量)、麻薬であるN・α-ジメチルー3・4-(メチレンジオキシ)フ丘ネチルアミンの塩酸塩(別名塩酸MDMA)を含有する粉末約0.217グラム(同号符号283。鑑定残量)及び麻薬である3-【2-(ジメチルアミノ)エチル、-インド一ルー4-オール(別名サイロシン)を含有するきのこ類に該当する麻薬原料植物約1.138グラム(同号符号310。鑑定残量)を所持したものである。
【証拠の標目】
〔弧内 甲・乙の数字は、証拠等関係カード記載の検察官請求証拠番号〕
全部の事実について
被告人の公判供述
第1の事実について
被告人の検察官調書(乙50)、麻薬取締官調書(乙46ないし49)
中島裕之の検察官調書謄本(甲51)
差押調書謄本(甲52)
鑑定書謄本(甲54)
写真撮影報告書謄本(甲55、56)
写真撮影報告書(甲57)
第2、第4の1の事実について
被告人の麻薬取締官調書(乙29)
捜査報告書(甲18)
第2の事実について
被告人の検察官調書(乙18、40)、麻薬取締官調書(乙5、6、27、28)
写真撮影報告書(甲16、17、38)
捜査報告書(甲18)
捜索差押調書(甲39、42)
捜索差押調書(甲59)
鑑定書(甲41、44)
鑑定書謄本(甲13)
第3の事実について
被告人の検察官調書(乙44)、麻薬取締官調書(乙42、43)
佐藤明の検察官調書謄本(甲50)
写真撮影報告書謄本(甲48、49)
捜索差押調書謄本(甲45)
鑑定書謄本(甲47)
第4の1、2の事実について
捜索差押調書(甲26)
写真撮影報告書(甲24、25)
第4の1の事実について
被告人の検察官調書(乙17)、麻薬取締官調書(乙26)
写真撮影報告書(甲4、5、9、10)
差押調書(甲58、60)
鑑定書(甲28)
鑑定書謄本(甲3、8、15)
第4の2の事実について
被告人の検察官調書(乙41)、麻薬取締官調書(乙33ないし37)
写真撮影報告書(甲33)
領置調書(甲35)
鑑定書(甲30、32、37)
【弁護人の主張に対する判断】
1 弁護人は、大麻の使用の有害性は証明されておらず、あるとしてもタバコやアルコール以下であり、鎮痛作用等に着目した医療用の有用性があることも認められるから、大麻を罰則をもって禁止している大麻取締法は憲法13条で保障する幸福追求権を侵害しており、少なくとも自己使用目的ないし医療利用日的の栽培や所持を懲役刑をもって禁止する限りで、憲法13条、25条及び31条に違反して無効であると主張する。
しかし、大麻取締法の立法事実である大麻の有害性ないしその使用による影響については、大麻には幻視・幻覚・幻聴・錯乱等の急性中毒症状や判断力・認識能力の低下等をもたらす精神薬理作用があり、個人差が大きいとしても、長期常用の場合だけでなく、比較的少量の使用でもそのような症状の発現があることが報告されており、有害性が否定できないことは公知の事実といえる。
また、大麻を用いた治療が国際的な医学界で標準的な治療方法として承認されているとも認められない。弁護人は、被告人の本件大麻栽培は主に医療利用目的で一部自己使用日的であり、他者加害のおそれがないと主張するが、被告人が大麻愛好者を増やしたり、大麻合法化運動の資金を得る等の目的で大麻を栽培していたことは明らかであり、弁護人の主張はその前提を欠いている。
上記のような大麻の有害性に鑑みると、大麻の所持等を禁止している大麻取締法は憲法13条、25条に違反するとはいえず、また、その処罰規定は、懲役刑 の下限の低さ等に照らし、過度に重い刑罰を定め罪刑の均衡を失するものとはいえないから、憲法31条に違反するものではない。
2 また、弁護人は、被告人は平成10年から同12年まで長野県知事から大麻栽培者の免許を与えられて大麻を栽培し、平成13年には長野県知事から大麻栽培者免許申請の不許可決定を受けたが、これに対して異議申立てをし、従前と同じ場所で周囲から認識可能な状況で公然と大麻栽培を継続しており、長野県当局から黙認されたものと誤信するようになったもので、無免許での大麻栽培について故意がなく、少なくとも違法性の意識が乏しかったと主張する。
しかし、従来は繊維を採取し名刺用の紙を作製することを目的として栽培免許を与えられていたが、経口及び喫煙摂取する目的で免許申請したところ、これを却下されたという経緯が明らかである以上、異議申立てや栽培の継続によって大麻栽培が黙認されるに至ったなどと被告人が考えたとは到底認められない。
3 さらに、弁護人は、被告人は大麻を譲渡して相手方からカンパとして金員を受け取ったことはあるが、商売としての営利性はなかったと主張し、相手方の治療ないし症状の緩和のため患者から所望されて譲渡していたことを事情として挙げている。しかし、症状の緩和等を理由とする譲渡があったことは認められるとしても、それは一部に過ぎず、カンパという名目で1回5ないし10万円程度の代金を得て多数の相手方に譲渡を繰り返していた事実が優に認められるのであってその代金を自己の生活費のほか栽培のための経費や自己が推進する大麻合法化運動の資金として使用していたとしても、本件大麻の栽培、所持及び譲渡に際して財産上の利益を得る目的があったことは明らかである。
【法令の適用】
〔罰条〕
第1及び第3の行為 大麻取締法24条の2第2項、1項
第2の行為 同法24条2項、1項
第4の1の点 同法24条の2第2項、1項
第4の2のうち覚せい剤所持の点 覚せい剤取締法41条の2第1項
塩酸MDMA粉末及び麻薬原料植物の所持の点 いずれも麻薬及び向精神薬取締法66条1項
(塩酸MDMAについて、同法2条1号、別表第1第75号、改正前の麻薬、麻薬原料植物、向精神薬及び麻薬向精神薬原料を指定する政令1条21号。麻薬原料植物について、同法2条4号、別表第2第4号、同政令1条19号)
〔科刑上一罪の処理〕
第4の行為について、刑法54条1項前段、10条(最も重い覚せい剤所持の罪の刑で処断)
〔刑種の選択〕
第1ないし第3の各罪の刑について、懲役刑及び罰金刑を選択
〔併合罪の加重〕
刑法45条前段、47条本文、10条(最も重い第2の罪の懲役刑について加重)
〔罰金の合算〕
刑法48条2項
〔未決勾留日数の算入〕
刑法21条
〔労役場留置〕
刑法18条
〔没収〕
大麻、大麻草、大麻樹脂について、大麻取締法24条の5第1項本文、覚せい剤について、党せい剤取締法41条の8 第1項本文、塩酸MDMA及び麻薬原料植物について、麻薬及び向精神薬取締法69条の3第1項本文
〔追徴〕
第1及び第3の罪について、国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び
向精神薬取締法等の特例等に関する法律13条1項前段(同法11条1項1号、2条2項3号)
【量刑理由】
1 本件は、営利目的による大麻の栽培(第2)と営利目的による大麻の譲渡2件(第1、第3)、営利目的による大麻の所持(第4の1)と自己使用その他非営利目的による覚せい剤、MDMA及び麻薬原料植物(マジックマッシュルーム)の所持(第4の2)の事案である。
2 被告人は、大麻の使用歴が長く、自宅で栽培もするようになり、平成5年9月2日には多量の大麻を栽培し所持した事犯で懲役2年4年間刑執行猶予の判決を受けたにもかかわらず、その後も大麻の栽培を続け、一時期は免許を得たものの許可された栽培目的に反して大麻を使用者に販売し、その後免許申請が却下された後も大麻栽培を継続し、自己使用するだけでなく多数の者に大麻を販売していたものである。
本件はそのような行為の一端であり、自宅や敷地内で合計94本もの大麻藁を栽培したり3.5キログラム以上の多量の大麻を所持し、常連客らに大麻を有償譲渡して害悪を拡散したほか、ドラッグ研究家と称して、大麻だけでなく覚せい剤やMDMA等各種の違法薬物を所持していたものであり、薬物に対する結びつきの強さが顕著である。
被告人は、大麻の使用者を増加させようと図り、大麻合法化運動を標榜しながら常習的に薬物犯罪を行っていたのであって、上記の前科やその後の行動に照らすと、薬物犯罪に対する規範意識が鈍麻していることが明らかで、厳しい非難を免れない。被告人の刑責は相当に重い。
3 ただし、覚せい剤、MDMA及び麻薬原料植物については所持量が少ない上、被告人自身は覚せい剤を使用しないこと、判示第1の譲渡については相手方が大麻の症状緩和効果を期待して申し込んできたという事情があること、被告人は、犯罪事実を認め、現行法の下ではこれらの行為が違法であり処罰されることを再認識し、今後は大麻の栽培や譲渡などをしない旨供述している。被告人は高齢の父親と同居して家業に従事してきたもので、父親が被告人の早期復帰を望み、従兄弟も被告人に対する監督を約束していること等の事情も認められる。
4 そこで、これらの事情を総合考慮し、主文の刑を量定した。
よって、主文のとおり判決する。
(求刑 懲役7年及び罰金150万円 追徴18万円 大麻、大麻樹脂、大麻草、覚せい剤、MDMA及び麻薬原料植物の没収)
平成16年4月14日
大阪地方裁判所第9刑事部
裁判官 米山 正明
これは謄本である
平成16年4月20日
大阪地方裁判所第9刑事部
裁判所書記官 宮代 悟
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