大麻と病:因果関係と相関関係

投稿日時 2008-12-14 | カテゴリ: 白坂の雑記帳

NHKの「クローズアップ現代」で、大麻使用によって「幻覚」「幻聴」「強迫観念」が出たというJanJanのコメント欄への書きこみについて、知人から頂いたメールを転載します。

●科学の世界においては常識とも言えるが、AとBの間に何らかの相関関係があるとしても、必ずしも因果関係があるとは限らない。だが、実際にはかなりレベルの高い仕事をしている専門家であっても相関関係と因果関係の違いについてきちんと理解していない人も案外少なくない。中には、相関関係が強ければ因果関係になると誤解している人さえもいる。

相関関係と因果関係の違いをよく表している例としてはエイズがある。アメリカでエイズが出現したころは、まだ原因がウイルスによるものだとは知られていなかった。だが、同性愛者やヘロイン・ユーザーに多く発症しているという相関関係があったことから、同性愛やヘロインの禁止や隔離を徹底すればエイズの流行を抑えられるという主張が叫ばれた。

しかし、相関関係がいくら強くでも同性愛やヘロインがエイズそのもの原因を示しているわけではない。その後、異性間のセックスや母子感染、血液製剤でもエイズが発症することが明らかになり、エイズ・ウイルスが原因で感染することが分かった。

●因果関係の証明するための条件
特に人間のさまざまな行動については、それらの間に相関関係を超えて何らかの因果関係があることを厳格に証明することは決して容易なことではない。AとBの間に因果関係のあることを科学的に証明するためには、次の条件を満たす必要がある。

1.AとBの間に相関関係があることを示す
2.AとBの間に発生する先後関係があることを示す
3.AとBの関係が疑似関係ではないことを示す

疑似関係 (spuriousness) というのは一見すると因果がありそうに見えながらも、実際にはAとBとは別のCが介在することで、AとBが直接関連しているように見える関係を指している。

例えば、上のエイズの例ではCがエイズ・ウイルスになっている。同性愛者やヘロイン中毒者(A)は、その行動様式からウイルス(C)に感染しやすいためにエイズの発生率も高くなっている(B)が、AがBの直接の原因になっているわけではない。

●「クローズアップ現代」の例
JanJanへのコメントの趣旨は、次のようにまとめることができる。

『大麻しか使っていないのに。その大麻がなかなか止められないと、当人が話していた。大麻の場合は「幻覚」「幻聴」「強迫観念」という症状もあるということなので、大麻が原因になってそうなったと考えることができる。』

もともと本人へのインタビューだけで構成されている記事や番組は主観が大半なので、客観的な事柄が乏しく反証しにくいという事情がある。したがって、一般論と仮の条件設定でと断ざるを得ないが・・・

この人の正式な病名は分からないが、仮に「脅迫神経障害」だとして因果関係3条件が成り立っているか検証してみる。

1.カナビスを使っていること脅迫神経障害の間には相関関係が成立している

2.脅迫神経障害は体質的な側面があるので、多くの場合、カナビスの使用開始以前に子供の時期からその兆候が現われる可能性が高い。

3.脅迫神経障害の人はその症状を和らげるためにアルコールに頼ることも多く、依存症になる人もいるが、単にアルコールがカナビスに置き換わっただけの可能性も考えられる。つまり、カナビスが原因ではなく結果として使われるようになった。

このように、一般論からすれば2と3の条件が成り立っておらず、カナビスが原因で脅迫神経障害になったわけではなく、もともとこの人に脅迫神経障害の傾向があったところ、たまたまカナビスを使って症状が緩和したために止められなくなったと考えることができる。こうした例は、統合失調症やうつ病でもよく見られる。

どんな人でも調子が悪くなることが分かっている薬物は最初から摂取しないので、現在の症状が緩和することを期待してその薬物を使う。それがアルコールだったりカナビスだったりする。

だが、アルコールであれば長期的には深刻なアルコール依存症になって跳ね返ってくる。しかし、カナビスの場合には、カナビジオールの多いインディーカ系の高効力の品種を使って1~2服程度に抑えて使えば依存症にはならずに長期間使うことができる。

普通、脅迫神経障害は選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)が使われることが多いが、SSIR関連の医薬品はゆっくりでも確実に自殺衝動に結びつくという研究もある。だが、カナビスを併用すればSSRIの量を減らせるばかりではなく、神経過敏や胃腸の不快感などの副作用を抑える相乗効果があるとも言われている。




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