ある掲示板での議論。
Q:大麻の安全性が高いという「マリファナの科学」の記述は、医薬品としてという意味であって、嗜好目的とは関係ないのでは?
A:アイヴァーセン博士の検証は、英国で個人使用目的の大麻の規制区分を検討するために行われたもので、医薬品としてのみ安全で、嗜好目的の個人使用は危険だなどという話ではありません。そもそも、本質的に、医療的な大麻利用は、個人的な使用の一部です。
因みに、我が国では、大麻の医薬品としての使用を大麻取締法第4条で懲役刑をもって禁じています。医薬品としての研究すら厚労省は認めていません。昨年、沖縄の製薬メーカーが大麻の薬学的研究を申請しましたが、厚労省がこれを認めませんでした。大塚製薬は英国の製薬メーカーGW製薬とライセンス契約し、アメリカで大麻抽出薬の研究を行い、販売を計画しています。
NHKクローズアップ現代の「大麻汚染を食い止めろ」ですが、ゲストの水谷修氏が、大麻を使うごとに脳を壊すと発言していたのは、何ら薬学的・医学的根拠のある話ではなく、水谷氏の経験からくる感想でしかありません。同番組の制作を担当した広川ディレクターに電話取材して確認しました。
大麻が脳にダメージを与えるかどうか、医学的研究の変遷を追って検証した記事がカナビス・スタディハウスにありますのでご参照下さい。
●カナビスは脳に障害を与えない(PDF)
「大麻汚染」を懸念される方は、「大麻がタバコやアルコールより安全」という話の喧伝が、大麻の経験がない学生や若者に大麻に対する抵抗感を失わせ、結果として大麻の使用に向わせ、学生や若者たちが大麻の使用によって何らかのダメージを受けることを心配されているようです。
なるほど、「大麻の事実」や我が国の薬物乱用対策の政策実態についてご存知ないと、そのような危惧を覚えられるのだろうと思います。
薬物乱用防止政策に必要なのは、規制対象の各薬物についての正しい薬学的・医学的知識の普及でしょう。我が国は閣議決定を得て設立された財団法人、「麻薬・覚せい剤乱用防止センター(麻薬防止センター)」が、国民に「正しい知識」の普及啓発を行うことになっています。が、その麻薬防止センターが国民に周知している薬物情報は、大麻に限らず、全く医学的な根拠もない、過剰な脅しでしかないのです。麻薬防止センターは、他の公益法人と同様に、官僚の天下り先としての意味と価値が優先されている現状です。
学生や若者たちに伝えるべきは、まず何よりも本当に「正しい知識」でしょう。科学的な事実に基づかない、単なる恫喝のような誤った情報が、薬物の「乱用」による健康被害を深刻化しているのです。
また、我が国の薬物乱用対策は、アメリカ追従のゼロ・トレランス(非寛容)政策と呼ばれるもので、違法薬物の売買で利益を得る犯罪と、末端の個人使用者との区別もせず、ただひたすらに取り締まって逮捕するという政策が採られています。だから、覚せい剤中毒に陥った個人が、逮捕を恐れて医療機関に相談できず、結果として意識が錯乱し、凶行に及んでしまうような事件が起きています。これは政策的に招いている必然的な悲劇なのです。
「依存症」に陥って苦しんでいる者たちに必要なのは、逮捕ではなく、治療です。取り締まりにばかり力点を置く非寛容政策・厳罰政策は、刑務所産業利権を含む、警察権力の権益と予算を増大させるばかりで、「依存症」に陥った者への医療的ケアを重視していません。脱薬物中毒の施策は、ダルクのような民間の施設に頼っているのが現実なのです。
違法薬物の売買で利益を得ている組織犯罪と、末端の個人使用者への対策は、分けて考えるべきであり、薬物中毒者には逮捕よりも治療の機会を提供すべきでしょう。
禁酒法を例にすると分かりやすいでしょう。現在の大麻厳罰を肯定する方は、少量の大麻所持で学生を逮捕して前科者にしても、それで他の多くの大麻未経験者への警鐘になれば大いに意義があると考える人もいるようですが、私はそのような人権感覚には全く賛成できません。
少量のアルコール飲料を所持していただけで逮捕して、何の意味があるでしょう。NHKを含め、テレビや新聞が書き立ているのは、朝から晩までアルコールを飲み続け、中毒になり、心身を壊した者ばかりで、そのような一部の事例に焦点を当て、アルコールはことほど左様に恐ろしいものだと言い募っているに過ぎないのです。そのことで、少量のアルコール所持への厳罰を正当化しているのです。禁酒法のあり方、アルコール規制のあり方は、現在の徹底的な取り締まりでいいのか、という視点が欠けています。必要なのは、過度の飲酒は明らかに体を壊すという危険性の周知教育と、未成年者の手に渡らないよう製造や販売を制度的に管理することではないでしょうか。そして、アルコール中毒になってしまった者に必要なのは、逮捕ではなく、治療ではないででしょうか。
因みに、シンガポールで大麻の所持が死刑になるのは、営利目的が疑われる大量所持の場合です。さらに言えば、シンガポールは数年前までオーラル・セックスも刑罰で禁止していたようですし、同性愛は今でも禁じられているようです。私はそのような、プライベートに関わることにまで国家権力に口出しされたくありませんし、そのような社会など真っ平ゴメンです。
オランダなどで大麻がハード・ドラッグと区別されているのは、大麻の薬理的性質がハード・ドラッグへと進ませるからではなく、たいして害のない大麻の市場を、ハード・ドラッグの市場から切り離すためです。「大麻汚染」報道でも、大麻が他の薬物の入り口になるといった、海外の研究機関がとっくに否定している言説を強調していますが、これは「ためにする議論」でしかなく、取材する記者たちの不勉強を露呈しているに過ぎません。
●ゲートウェイはこじつけ理論(PDF)/カナビス・スタディハウス
大麻は栽培から流通までを制度化(合法化)し、各段階で課税して社会的に管理すれば良いと思います。同時に、大麻についての正しい薬学的知識を国民に伝え、アルコールやタバコを含む、他のあらゆる薬物と同様に、大麻もまた無害ではありえないことを教育する必要があるでしょう。
|