巨万の富を生む新作物

ポピュラー・メカニックス・マガジン 1938年2月号


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この雑誌は1938年2月号だが、通常、雑誌の月は発行時点では1ヶ月以上先付けになっていることと編集期間を考えると、この記事は前年の1937年秋頃に書かれたと思われる。

1937年当時、マリファナ税法案が4月14日に提出されて異例の早さで審議が行われた。数回の審議のみで議会を通過し、8月2日にはルーズベルト大統領が署名し、法律は10月1日に発効した。

この記事で紹介されているヘンプの機械は、このような事態を全く予想せず、ヘンプ産業の大発展を期待して開発が進められたと思われる。マリファナ税法が一方的に短期間で制定されてしまったことに対して、この記事にはその戸惑いと無念さがよく表れている。

すべては、6000年間も解決できなかった問題を解消する機械が発明されたことで、アメリカの農民は、今後、年間に数億ドルにもなる新しい換金作物を約束されることになった。その作物とは機械生産によるヘンプで、アメリカでは他のどの製品とも競合しないばかりか、輸入に頼っている原料を自国で生産可能にし、日雇いやピーナツ労働者に低賃金の労働を強いることなく製品を生み出し、アメリカ全土で数千の仕事をもたらしてくれる。

これを可能にしてくれる機械はヘンプの茎から繊維になる外皮を剥がして取出すために開発されたもので、多額の人件費で競争力が失われていた行程を肩代わりしてヘンプ繊維を利用できるようにしてくれる。

ヘンプは、世界中で、強靱で耐久性のある繊維として使われている。ヘンプ繊維製品としては、ロープから極細の糸まで5000種類以上が生産されている。また、繊維を取り出したあとに残る木質のクズには77%以上のセルロースが含まれ、ダイナマイトからセロファンまで2万5000種以上の製品を作ることができる。

機械は、現在、テキサスやイリノイ、ミネソタなどの州で活躍しており、1ポンド当たり0.5セントという低コストで繊維を作り出している。茎などの残りも利益のあがる市場が開拓されつつある。機械を使うことで、インドなどの低賃金繊維労働者との競争に打ち勝ち、ヘンプ農家に1トンあたり15ドル払っても利益が出ている。

農家からすると、ヘンプは栽培するのが容易な作物で、トウモロコシや麦などが育つ土地であれば1エイカーあたり3〜6トンの収量が見込める。生育期間は短く、他の作物の収穫した後に播種することも可能で、どのような作物の組み合わせでも育つ。根は地中長く伸び、土壌を崩して次のシーズンの作物に完璧な状態を残してくれる。植物を短い間隔で育てて葉が横に付かないようにすれば、高さは8〜12フィートものなり、他の雑草を窒息させてしまう。カナダ・アザミ草などの雑草が多い土地では2回ほど連続して栽培すれば土壌を十分に改良することができる。

従来の収穫方法では、植物を根本で刈り取ってそのまま畑に横に数週間放置して湿気に晒し、露や雨やバクテリアの働きで腐らせることで柔らかくして、手で繊維が引き裂けるようにしていた。これまでも、手の代わって機械的に腐った植物から繊維を分離する装置も開発されたが、コストが高く、繊維のロスも多く、品質も悪いものだった。

剥離機と呼ばれる新しい機械は、ヘンプ用刈り取りバインダーを少し改良したもので、腐らす行程は必要ない。刈り取った植物を自動チェーンコンベアで剥離する装置のある処理部まで運ぶようになっていて、処理部ではアームが植物を細かく砕いてから、繊維を運び出し結束される。繊維以外のクズは下側のホッパーに排出され、そのまま空気ブロワーで圧搾機や運搬用のトラックや貨車まで運び込まれる。この機械によって1時間あたり2〜3トンを処理できるようになった。

ここまで来れば、後はほとんど何でも可能になる。原料の繊維を使って、強靱な糸やロープや運搬用の麻袋を作ったり、さらにカーペットの縦糸やリノリウムの補強に利用したり、漂白・精製して商品価値の高い樹脂製製品に加工したりもできる。これによって、現在圧倒的に市場に流通している外国産の繊維に取って代わることができるようになった。

毎年何千トンものヘンプのクズが、大規模火薬製造会社一社だけでダイナマイトやTNTを製造用に利用されている。外国産のシガレット・ペイパーを輸入するために、毎年百万ドル以上の関税を払っている製紙会社は、現在ではミネソタ産の自国ヘンプから製造するようになった。イリノイ州に新しく建設された工場では、上質のボンド紙がヘンプから作られている。天然のヘンプは、経済的資源としてあらゆるグレードの紙パルプ原料としても使われ、さらに、高純度のアルファ・セルロースは、化学者たちが開発した数千ものセルロース製品の究極的な原料にもなる。

一般に、すべてのリンネル製品は亜麻から作られていると信じられているが、実際は大半がヘンプで、政府も、輸入リネン繊維の半分以上がヘンプ繊維であると見積っている。逆の誤解は梱包用の黄麻布で、原料がヘンプだと思われているが、実際にはジュウトで、1日たった4セントのインド労働者によって織られたものだ。また、結束用のヒモは、通常はメキシコのユカタン半島や東アフリカのサイザル麻で作られている。

今では、こうした輸入製品はすべて国内産のヘンプから作ることができる。漁網、楽器の弦、キャンバス、強いロープ、作業着、ダマスク織のテーブルクロス、上質なリネン衣料、タオル、ベッドカバーなど何千もの日用品を自国のヘンプ畑から生み出すことができる。現在、わが国の繊維および織物の輸入総額は年平均2億ドルにもなり、1937年半年の繊維原料だけでも500万ドルに達している。

製紙工業はさらに大きな可能性を秘めている。現在の生産高は10億ドルを超えているが、その80%が輸入に頼っている。ヘンプからはあらゆる種類の紙製品を作ることができるが、政府は、現在4万エイカーを必要とする木材パルプの代替えとしてヘンプを使えば1万エイカーの栽培面積で足りると見積もっている。

こうした可能性を妨げている原因のひとつは、機械を身近で使えるかどうかという複雑な問題から、農家が新しい作物に取り組む意欲が低いことにある。機械は、運転に余裕のある十分な広さがない限り有効に利用できないが、機械を利用して作物を処理しない限り、利益の上がるマーケットを開拓できないというジレンマがある。

別の問題は、ヘンプの雌の花がマリファナになることがある。花を作らないで植物を育てることが不可能だが、現在では連邦政府の栽培農家に対する規制が厳しくなろうとしており、麻薬製品を阻止するための議案が緊急課題になってきている。

しかしながら、作物としてのヘンプとマリファナの結びつきは誇大に扱われているように思われる。マリファナは、全国の鉄道線路端などの十分に空間のある場所で野生に育ったヘンプやロコウィード(注 参照)から作られるので、畑とは違う。連邦政府の規制が合法的なヘンプ栽培を損なうことなく社会を護ることができれば、この新しい作物はアメリカの農業と工業に計り知れない恩恵をもたらしてくれるに違いない。

ポピュラー・メカニックス・マガジンは、雑誌に掲載したすべてのメーカーやディーラーの名前と住所を備えていますので、興味ある方は、ご自分宛の住所を書いた返信用封筒に切手を貼って情報部までお送りください。

ロコウイード(locoweed):本来はレンゲなどのマメ科の植物で、牛などが食べると酔ったようになる草のことだったが、ヘンプが鉄道で運搬される時に種が落ちて日当たりのよい線路にそって野生化し、酩酊性のある草として使われたことから、マリファナもロコウイード(機関車の草)と呼ばれた。