語られ始めたカナビス精神病神話


Source: Noordhollands Dagblad.
Pub date: 2 november 2003,
Subj: Schizophrenia by cannabis new myth.
Auther: Koen van Eijk..
Web: http://www.nhd.nl/Pagina/0,7106,15-1-2039--1664162-1331--,00.html
Translation to English: Nol van Schaik.


オランダ・カストリカム発。   1930年代は、コカインを使っているとホモになるといわれ、1970年代は、精神障害が母親の育児の失敗が原因で起こるといわれた。今日ではいずれも悪い冗談であることが判明しているが、またしても新たな神話が登場してきた。ハシシやウィードを使うと精神分裂症になるというのだ。

精神科医のダニエル・ファン・デジク博士は、先週、オランダでは毎年ハシシやウィードなどのカナビスで200人以上が精神分裂症になっている、という記事を目にして驚かされた。

この記事は、ユトレヒトのトリンボス研究所の報告をもとにしたもので、例え遺伝的な要因がない人でもカナビスを多量に使っていると精神症になる として、ソフトドラッグは言われてほど無害ではなく、コーヒーショップが若者の健康の脅威になっていると主張している。

カストリカムにあるボッシュ精神病院に長年勤務するデジク博士は、トリンボス研究所がそのような断定的な結論をなんの前触れもなくいきなり出してきたことに困惑させられた。

オランダやその近隣で精神分裂症とドラッグについて精通している人がいるとすれば、それはデジク博士だ。彼はボッシュ精神病院で精神障害とカナビスの関係について何年にもわたって研究を続けている。自分のことを権威と呼ばれることは嫌がっているが、まちがいなくオランダではこの分野のエキスパートに属している。

「報告書を調べてみましたが、そのような新しい研究は見当たらず、いくつかの古い研究を寄せ集めただけでした。それらから結論を出すのは余りにも近視眼的です」とデジク博士は述べ、「このことについてはトリンボスのハラルド・ウィヒゲル博士とラジオ討論番組で話しましたが、彼は、メディアが報道してようなカナビスが精神分裂症を引き起こすなどとういう発言はしていないと答えていました。その真偽はわかりませんが、残念ながら今ではすでにそのような悪い噂が流布しまいました。」

また、デジク博士はコカインとホモや精神症を母親の例をあげ 「1930年代にはアーティストや作家やジャーナリストなど、いわゆるボヘミアンたちの間で盛んにコカインが使われていましたが、他のオランダ人に比べて性行動に問題があったわけではありません。コカインをやっている人たちのなかにホモがいたというだけのことで、いかなる因果関係もあったわけではありません。」

「子供が精神分裂症になるのは母親の責任だという考えも同じです。精神分裂症の母親が子供の世話ができなかっただけなのです。ところが因果関係が逆にされて、子供の精神症がおこるのは母親のせいだとされてしまったのです。そうした周囲のなかで、子供たちは既に精神症の症状があるので余計に注目を集めてしまうのです。これが実態で、母親に傷つけられたからではありません。」

「人はいったんこのようなイメージが植え付けられると容易に変わりません。自分の息子や娘が精神分裂症と診断されると、多くの母親が罪の意識に苛まれます。こうした影響はかなり長期間にわたって続きます。たとえ医学が科学的に間違いだと指摘しても、精神分裂症に苦しむ家族たちの周囲は改まりません。母親は精神障害の原因だといううわさや中傷が話題としていつまでも残ります。」

デジク博士は、カナビスと精神分裂症との現在の議論が事実を間違って解釈しないように警告している。「こうした類の発言は多くのダメージと不安を引き起こします。今週に入ってから精神障害の子供を持つ3人の母親から電話をもらいましたが、一人からは息子をコーヒーショップに行かせないようにすれば病気が直るかと聞かれました。」

一方では、カナビスと精神分裂症の間に関連があることも知られている。精神症の医療関係で働く人なら誰でも知っていることだが、精神分裂症患者にはカナビスの多量ユーザーが多い。デジク博士の研究でもそのことは科学的に証明されている。

20から40才までのオランダ人男性のなかで精神に疾病を持つ人の5〜10%がカナビスを吸っているが、同世代の精神分裂症のグループでは60%にもなっている。しかし、思春期にカナビスを吸っていたことが大人になってから精神分裂症のトリガーになるかどうかはデジク博士の研究では証明されていない。

多くの患者たちは瞑想するためにカナビスを使っているようで、精神症になるという理論は疑わしい。デジク博士は176人の精神分裂症患者を調査して、患者のほとんどが精神症治療薬の副作用を軽減させるためにカナビスを吸っていることを見出している。カナビスを吸うことで緊張がとけて感情が豊かになり、再びセックスを楽しめるようになった人たちもいる。

デジク博士は、些細なことにも暴力をふるう深刻な精神症患者の少年の例も語っていた。それまで治療に使っていた薬の量を減らしてカナビスと心理療法をほどこしたところ快方に向かい、少年はよりリラックスできるようになって普通の仕事をしてみたいと望むようになってきた。それからずっと孤独感に苛まれることもなくなった。仕事が見つかれば快方への最後の一押しになるだろう。

また、博士は、カナビスの寛容政策が議論になっている現在の政治状況に複雑な心境をまじえながら 「もしドラッグのない社会が本当に実現できるのであれば、そのほうが好ましいとは思います。しかし残念ながらわれわれの社会はそうではありません。すべてを禁止すれば犯罪を誘発してしまいます。医者の私からすれば、健全な国家をつくるためには悪いとされているドラッグもすべて合法にすべきだと思います」 と指摘した。

「オランダのいくつかの都市では研究のためにジャンキーたちに無料でヘロインを配布しましたが、ジャンキーたちは体を気を付けて健康になり、盗みから足を洗って仕事に就き始めるようになりました。ボッシュ病院の状態も同じです。」

「ヘロインのディーラーは市内のバッカムからここに来てもらっていました。うまく行っていたのですが、その人がしばらく刑務所に送られることになってしまうと、他のプッシャー連中がやってくるようになったのです。これは実際にあったことですが、最初は無料で患者に与え、翌日戻ってきて若い患者の一人をつかまえて、すぐに払え、さもないと頭を切り落とすぞと脅したのです。おびえ切った少年はKGBに狙われていると錯覚するようになってしまいました。彼のすべての恐怖はこのようにして植え付けられたのです。禁止法はこのようにして害を引き起こすのです。」


http://www.hempcity.net/cannabisshops/news/news08112003/index.html


オランダで伝えられたTVのニュース番組の模様については、『ソフトドラッグは無害か』  (2003.11.21) というコラムで詳しく紹介されている。


10月末、冬時間に切り替わる頃のこと、TVのニュース番組で、こんな特集をやっていた。「ソフトドラッグの常用は、深刻な精神障害をもたらす」

番組内容を簡単にご紹介しよう。
オランダのマリファナ使用人口は約40万人。全人口1500万人強の2〜3%を占めている。これが多いかどうかはともかくとして、その40万人の中から、マリファナのヘビーユーザー400人を対象に、医学的調査を実施したところ、なんと半数にあたる約200人が、何らかの精神障害に悩まされていることが明らかになった。特に問題となっているのが、精神分裂病や鬱病の発症である。

番組の中で、実際にマリファナを大量使用して精神分裂病に蝕まれ、当人、家族ともに大変な思いをした一例が紹介されていた。ご本人である20代の青年とその母親はインタビューにも応じていた。オランダではごく当たり前なのだが、きわどい話題であっても、インタビューに登場する人たちは、顔も声も全くの無修正で登場するので、結構生々しい。

当時の彼のマリファナ喫煙量は1日3〜4本。母親曰く、「ほとんど丸1日、恍惚状態にあった」。常用していた期間は、残念ながら不明である。
精神系疾患の原因として、一般的には、遺伝の可能性が真っ先に疑われるのだが、彼の家族・親族には精神系疾患にかかった人が誰もいない。また、本人もマリファナを使用する以前は、それに類する疾患をわずらった履歴がなかったため、彼の家族も発症原因については疑問に思っていた。…

マリファナに体を乗っ取られて、精神分裂病に苦しみ、周囲の人間をも巻き添えにしてしまった彼だが、家族の辛抱強い支援のおかげで、今では、ヤクから足を洗うことができ、分裂症の方も落ちつきつつあるようだ。これまでを振りかえり、「あんな目にあうのはもう懲りごりだ。マリファナの恐ろしさをつくづく実感したよ…」と語る彼の目には、明らかに安堵の色が浮かんでいたが、その顔には、独特の疲弊感がいまだ色濃くはりついており、薬物に翻弄された過去が、まだ彼の傍らで息を潜めているかのようだった。

実際には、この番組で紹介されている数字自体にはほとんど意味がない。40万人中の何%がヘビー・ユーザーに相当するのかについては何も触れられていないが、「ほとんど丸1日、恍惚状態にあった」 とすれば400人程度なのかもしれない。

そしてその半数の200人が精神分裂病になったとすれば、その率は全ユーザーの0.05%になる。しかし、社会一般の発症率と言われている1%の20分の1にしかならず非常に少ない。

また、400人中の半数の200人という数字の説明は、上の記事のデジク博士の 「20から40才までのオランダ人男性のなかで精神に疾病を持つ人の5〜10%がカナビスを吸っているが、同世代の精神分裂症のグループでは60%にもなっている」 という指摘と妙に呼応した数字になっている。番組ではこのあたりの数字を取り違えて使っている可能性もある。