カナビス製剤化の罠

GW製薬とバイエルの提携は
医療カナビス運動にとって悪いニュース


Source: Cannabis Culture
Pub date: 15 Mar, 2004
Subj: Pharmaceutical pot alert
Author: David Malmo-Levine
Web: http://www.cannabisculture.com/articles/3263.html

「製薬会社はカナビスには医療効果があることを知っている。だが、天然のカナビスでは特許を取れないので、彼らは代替品として人工的に化学合成した派生物を作ろうとしている。カナビスを全面的に禁止してしまうよりも、自分たちでコントロールできることを望んでいるのだ。」 [1] 

2003年5月21日、GW製薬は、ドイツのバイエル薬品との間に販売分野での提携関係を結んだことを発表した。この関係により、GW製薬が開発したカナビスを原料にした医療用抽出液製剤を「サティベックス」という商品名で、バイエル薬品が排他的に販売することになった。

バイエル社は、サティベックスをイギリスで独占的に販売する権利を獲得したのに加え、一定期間の間、EU諸国を始めアメリカ以外の世界中の国と排他的に販売交渉を行う権利を手にした。

両社は、協力して、多発性硬化症や重度の神経因性疼痛の治療に使う 「医療的に受入れ可能なカナビス派生製品」 の提供をめざすことになる。製品は、天然のカナビス全体から医療成分を抽出したもので、THCやCBD(カナビジオール)を基本成分として含んでいる。GW製薬では、こうして得られたTHCのことを「テトラナビネックス」、CBDを「ナビデオレックス」と呼んでいる。製品はスプレー方式で口から投与する。

GW製薬の最高執行役員のジォフェリー・ガイ博士はメディアに対して、「今回、バイエル社と提携できたことを大変光栄に思っています。わが社にとっては初の業務提携で、会社の歴史が新しい段階をむかえたことになります。バイエル社は有数の世界的製薬会社でありますので、わが社の製品の市場機会を最大限に拡大してくれると考えています」 と語っている。

確かに、バイエルは最大限にうまくやっている会社だ。現在、化学薬品の売上げでは世界6位、「農業用化学薬品」では1ないし2位、「ヘルスケア」製品では毎年約110億ドル、年間の総売上げは約300億ドルにも達する。 [2] 

ロイターによると、バイエル社はイギリスでのサティベックスの独占販売権の見返りとして、GW製薬に2500万ポンド(4100万ドル)を支払うことになっている。また、ガイ氏は、アナリスト筋がヨーロッパとカナダでの当初の年間販売高が最大で2億5000万ポンドと予想していることに、満足していると語っている。このニュースでGW製薬の株価は急騰した。


カナビスは「新規」で「独特」な品種?

この提携は、GW製薬に医療カナビス市場を独占を許す兆候を表している。仮りにGW製薬がそのような方向に進まなくても、いずれ別の会社が乗り出してくる。

ブリティッシュ・コロンビア大学のイケチ・マグベオジ法学部教授は、ケシやコカやカナビスのような現在違法になっている医療効果のある植物のパテントを巨大薬品会社が取得しようとする可能性があると指摘している。

こうした植物やその抽出液は長いこと市場から姿を消していたので、1961年に制定された植物特許法のもとでは、「新規」で「独特」な品種としての特許の対象になるはずだと主張してパテント申請することも考えられると言う。

こうした試みは、既に、アヤフアスカ(幻覚や視覚効果)やインドセンダン(強力な抗生作用)、ターメリック(抗炎症作用、カレーの主原料)で行われている。こうした自然の植物のパテントを取得しようとする試みは、周囲からどの程度反対されるかによって成功する度合も変化する。 [3] 

カナダの特許法は、アメリカとは違って、医療植物をあからさまに特許の対象にすることまでは認めておらず、少なくとも、何らかの「精製」する工程を要求している。

このためにGW製薬は、カナダでは、THCを「テトラナビネックス」、CBDを「ナビデオレックス」としてパテント申請することを目論んでいることがわかる。さらに、あからさまには、アメリカでの品種パテント用に、「パナマ・レッド」という名称まで確保している。

マグベオジ教授は、バイエルが天然のカナビスを精製して、新発明として再パッケージ化することでパテントを狙う可能性もあると警告している。同じことは、アスピリンでも行われた経緯がある。


新しい独占協奏曲

植物特許法は、最初の世界ドラッグ法である麻薬単一条約と同じ1961年に制定されている。今日からみれば、この特許法は医療植物の独占がしやすいように意図されていた。

また、1961年は、サリドマイド事件が起こった年でもあった。サリドマイドは、妊婦の鎮静剤として合成された医薬品で、西側諸国では多くの奇形児が生まれた。この事件が契機となって、医薬用のピルやハーブを合法的に市場に出すためには、多額の費用のかかる「安全・効果試験」が要求されるようになった。

1961年を特徴づける最も大きなパラダイム・シフトは、医薬品を化学合成して独占する時代から、パテントで独占する時代への分水嶺になったことだ。妊婦の鎮静剤としては、おそらく間違いなくカナビスは安全で安くよく効く。そのような現実を前にすれば、どの会社であれ、わざわざ合成ピルを開発して独占的に儲けようとしたりするばずがない。

ちなみに、翌年の1962年には、バイエル、ヘキスト、BASFなどが中心になって国際商品規格委員会(コーデックス委員会)が発足している。この試みには、すべてのハーブやビタミンを独占しようとする意図も隠されていた。 [4] 


世界最悪企業バイエル

バイエル社は、世界最悪企業10社の一つにあげられている。

ラルフ・ネーダーによって設立されたワシントンDCを本拠にした月刊誌『多国籍企業モニター』には、抗炭疽菌薬シプロフロキサシンを法外な値段でアメリカ政府と国民に売り付けたとして、2001年最悪企業10社の中にバイエル社の名前が掲載されている。

また、抗生物質の効かなくなった人間用として家畜の危険な抗生薬剤を売り歩き、バイエル社の製品を告発するウエブサイトを運営しているバイエル危険告発同盟(現、反バイエル脅威CBG同盟)に嫌がらせを加えている。

筆者も加えて多くの人たちは、過去最悪の歴史をもつ企業の一つにバイエル社を上げている。この会社が開発し広めたものとしては、アスピリン、ヘロイン、マスタードガス、強制労働、ナチス国民党、ツィクロンB、死の労働、タブン、サリン、神経ガス、パラチオン、コーデックス・アリメンタリウス、シプロフロキサシン、バイコール、バイゴン、フェンチオン、バイシストン、TDIオラキンドックス、PPA、PCBなど悪名高いものが名を連ねている。

また、筆者の知る限りにおいて、バイエル社は最悪の反倫理的過去を持つ会社で、例えば、死の収容所アウシュビッツで収容者たちを使って開発薬品の試験をするためにナチの医師ヨーゼフ・メンゲレを雇用したりしている。

アスピリン以来、バイエル社の反倫理的な振舞には一定のパターンが見られる。したがって、この会社が主要なカナビス医薬品の最大の配付業者になったことに対して、カナビス運動家は心してかからなければならない。

窶「 反バイエル脅威CBG同盟: http://www.cbgnetwork.org
窶「 バイエル社のサイト: http://www.bayer.com


製剤化の罠

レスター・グリンスプーン博士は、『カナビスの製剤化の問題点』 [5] という論評の中で、合成カナビノイドや専用の摂取器具を開発している会社は、安い天然のカナビスを締め出すためにカナビス禁止法を盾に使っていると指摘している。

「新しいカナビノイド製品で商業的な成功をおさめるには、カナビスに対する禁止法がどの程度厳格に運用されているかに極めて大きく依存している。もし、天然のカナビスが医療品として合法的に利用できるとすれば、製薬会社はその土俵で戦わなければならなくなり、カナビノイド製品を開発しようとは思わないだろう。」

実際、製薬会社は、世界のさまざまな地域で栽培されている最も優秀なカナビスを使ったり、あるいはさまざまな効果を持つサティバとインディーカ種を組み合わせて違った味やかおりのカナビスを用意したりするのではなく、シンヘキセル(最初の合成カナビス医薬品)、マリノール、ドロナビノール、ナバロン、セサメット、テトラナビネックス、ナビデオレックスといったブランド名のカナビノイドしか医薬品として使えないと思い込ませようとしている。

製薬会社の置かれた財政的な現実から考えても、カナビスの合法化は彼らの利益に反することになり、カナビス禁止法の終結を支持することなどあり得ない。安く便利で効果的な天然の医療カナビスが容易に利用できるのなら、高価な合成ピルやコンピュータ制御の摂取器具など使いたいとは望む人などいないからだ。

すべてのアクティビストやカナビス愛好家は、バイエルやGW製薬のような会社に対峙するときには細心の注意を払う必要がある。確かに、カナビスの成分を分離してスプレー器具を使うことにもメリットはある。しかしながら、そうしたメリットは、医療カナビスの利用を特定のブランドの抽出液や合成ピルに限定されるデメリットに比較すれば取るに足りない。

われわれは、そうした会社をはじめ誰に対しても、パテントでカナビスの品種を囲い込ませるようなことを許してはならない。必要なすべての天然のカナビスをオープンで自由に栽培できるようになるまで活動の力を緩めてはならない。


参考
[1] Why Marijuana Should be Legal, Ed Rosenthal and Steve Kubby, Thunder's Mouth Press, 2003
[2] Chemical Week Magazine Oct. 30th, 2002, p. 14; Chemical Market Reporter Jan. 28 2002; and the International Directory of Company Histories, Vol. 41, 2000
[3] Patents and Traditional Knowledge of the Use of Plants: Is a Communal Patent Regime Part of the Solution to the Scourge of Bio Piracy? Ikechi Mgbeoji, Indiana Journal of Global Legal Studies, Fall 2001, Volume 9, Issue 1, p.171
[4] www.dr-rath-foundation.org/deutsch/vitaminbattle/documentation_content/chapter21.html
[5] On the pharmaceuticalization of marijuana, Lester Grinspoon, International Journal of Drug Policy Volume 12, Issues 5-6, 1 November 2001, Pages 377-383, http://www.ukcia.org/research/pharmaceuticalizationOfMarijuana.html

窶「 Pot-TV interview with Professor Mgbeoji: www.pot-tv.net/shows/1994.html
窶「 For a longer version of this article with complete references: cannabisculture.com/news/gwbayer