オランダに学ぶ
寛容政策が効果。 禁止は逆効果。自由と安全の本当の脅威は誰か?
Pub date: December 14, 2004
Subj: Prohibition Is Counterproductive. Who Is The Real Threat To Our Freedom and Security?
Author: Richard Cowan
Web: http://www.marijuananews.com/news.php3?sid=781
●たまたまの偶然だがアムステルダムでカナビス・カップが開催された同じ週に、通信社が、オランダ司法大臣ピエット・ハイン・ドナーがコーヒーショップへの出入りを 「外国人に限って制限することになるだろう」 と声明を発表した、と伝えてきた。
新しいヨーロパ連合のドラッグ・コントロール政策の一環で、外国人にはオランダ以外のEU諸国の人も含まれる。 「これがわれわれの目指している考え方で・・・ドラッグ・ツーリズム側とは論争しなければならなくなるでだろう」 とドナーは語っている。もちろんこれはビールやワイン工場のツアーを制限する目的ではない。
ドナーを知る私の友人たちは、マーク・トェインのワーグナーの大げさな表現と同じようなものだと言っている。問題は彼が現在のオランダ連立政権のキリスト民主党のメンバーだということだ。そのために身内の議員たちに媚びなければならないということだ。
現在オランダは持ち回りでEUの議長職を担っているが、そのためにこれはおそらくEUの司法及び内務大臣の会合で「ドラッグ行動8年計画」の発足のためのガイドラインに沿って合意したものだろう。しかし、わたしの考えでは、何年も前にオランダがDEAlandを「ドラッグ自由」のパラダイスにすると決議した議会宣言と同じ末路をたどることになるだろう。
(注)DEAland=Drug Enforcement Administration麻薬取締局が支配するアメリカなどの国のこと
●APによれば、EU諸国は 「目標達成のための防止計画と警察の執行で、ソフトおよびハードドラッグの供給源を断つように協力していく」 という。EU諸国間の法律を「協調させる」という圧力が強まり、このようなケースではたいていの場合、政府の力が強く個人の自由が少ない国の基準にに合わせることになる。ドナーは、オランダがより厳格なEUのドラッグ政策に沿うように 「合意を取り付けなければならない」 と述べている。
これは禁止論者たちが使う常套手段で、本国での禁止政策を遂行するために外国の禁止論者たちをたきつけて外圧を利用する。例えば、カナダの禁止論者たちはアメリカがカナビスの合法化を認めておらず、有力州の非犯罪化にさえ適合できないことを禁止の理由として主張している。オランダの禁止論者たちもEUを同じ目的で利用しようとしている。
だが、ここで提案された政策にはいくつか問題がある。この政策を実行すれば、カナビスを闇のマーケットに押し返してしまうことになる。その結果、オランダのドラッグ政策の要であるソフトドラッグとハードドラッグの分離するという根拠を失うことになる。
昨年の政府の報告書には 「ドラッグをカテゴリー分けしてマーケットを切り離す利点の一つは、規制を遵守しているコーヒーショップからはハードドラッグがほとんど見つからない」 ことだと書かれている。
●ドナーもきちんと理解しているようにさらに2つの問題がある。一つは、オランダとEUの法律が外国の市民を別立てに扱う「非犯罪化」の類を禁じていることだ。
さらに、第2の最大の問題はオランダの都市自治体が政府の方針に従うつもりがないということだ。実際、オランダの大都市の連合機関は、カナビスの供給を規制した上で、規制されたコーヒーショップのみが扱う 「合法化」 を求めている。
上の政府の報告には 「政府は、コーヒーショップに対する政策が地方自治組織に委ねられことを支持しており、彼らの努力が大変成功を収めていることを認識している」 とも書かれている。
オランダでは都市の自治がうまく機能していることは歴史が示している。
19世紀以前は現在のオランダ王国はオランダ地域連合と呼ばれていた。これはアメリカがDEAland王国になるいぜんの合衆国と似ていて中央政府は力を余り持っていなかった。地域を都市が支配し、特にアムステルダムは国家予算のおよそ半分を負担していたために際だって影響力が強かった。
アムステルダムは長い間ずっと主要な世界貿易と金融センターで寛容な方針がビジネスに有利に働くことから何世紀にもわたって 「寛容」 政策を支持してきた。
アムステルダム市長は、今回もただちに、ツーリストたちをコーヒーショップから締出したりするつもりはないと明言している。
カナビスそのものではなく外国からコーヒーショップへ来る車の渋滞が問題になっている国境の町を別にすれば、アムステルダムだけがショップを訪れる大量の外国人訪問者を抱えている。オランダには780軒あまりのコーヒーショップがあるが、その半数がアムステルダムとロッテルダム、ハーグの三大都市に集中している。8割の自治体はコーヒーショップの営業自体を認めていない。大半は小さな街や村だが、どのみち十分なビジネス基盤もないのだが。
●コーヒーショップの弾圧に反対するもう一つの圧力団体が警察や検察、裁判所だ。世界の大半の「法執行」側はカナビス・ユーザーや栽培者に対して力が削がれることには強固に反対するが、オランダの当局は極めて現実的だ。これはオランダではよく見られることだが、かといってオランダ人がユニークなわけでもなく、残念だがオランダ警察の中にもドアをぶち破ることに喜びを見いだす者もいることはいる。(オランダ人も同じ人間なのだから彼らのこうした複眼的なやり方を研究することには価値があるだろう。)
いずれにしてもオランダの禁止論者たちでさえ統計の結果は分かっている。オランダ政府自身の統計でもオランダの若年層のカナビス使用がここ数年減少していること示している。
政府の報告書によると 「オランダでのカナビスの使用がヨーロッパの平均であることを考慮すれば、政府としてはコーヒーショップがとりたてて消費を促してはいないと判断している。」
カナビス経験者の比率
|
年齢 |
経験あり |
最近1ヶ月 |
アメリカ |
14才以上 |
38% |
10% |
オーストラリア |
14才以上 |
33% |
13% |
イギリス |
16〜59才 |
29% |
11% |
スペイン |
15〜65才 |
25% |
10% |
フランス |
15〜65才 |
23% |
8% |
ベルギー |
18〜49才 |
22% |
? |
イタリア |
15〜44才 |
22% |
6% |
オランダ |
15〜65才 |
21% |
6% |
アイルランド |
18〜64才 |
20% |
9% |
ドイツ |
18〜59才 |
19% |
6% |
ギリシャ |
15〜65才 |
13% |
4% |
ルクセンブルグ |
15〜64才 |
13% |
? |
スエーデン |
15〜65才 |
13% |
1% |
フィンランド |
15〜65才 |
10% |
2% |
ポルトガル |
15〜65才 |
8% |
3% |
●結局のところ、超禁止論者のスエーデンを別にすれば、オランダ以外の国でEUドラッグ政策を担っている人たちの大半は、自国よりもオランダの政策のほうがうまくいっていると考えており、上の表からも分かるようにカナビスの寛容方針に否定的な側面は見い出せない。
さらに、多くのEU諸国では15才以下の「ヘビーなカナビス・ユーザー」は強硬な禁止論者たちの国のほうが割合が高い。オランダの15才少年のヘビー・ユーザー(EMCDDAの定義では年間40回以上)は4%ちょっとに過ぎず、フランスの6%、イギリスの10%を下回っている。
イギリスのドラッグ政策は完全に失敗している。どのヨーロッパ主要国よりも違法ドラッグの使用率が高く、人口当たりの服役者数もEUで最も高い。加えて、アルコールやトランキライザー中毒、売薬の乱用、警察の人種差別などの深刻な問題も抱えている。
これに対処するためにトーリー党はカナビスをアンフェタミンと同じ分類に戻そうとしたが、その結果5月の選挙では第3党に終わった。
●スエーデンではカナビスの使用を低く押さえつけてきたが、深刻なハードドラッグ問題を抱えている。
カナビス政策の成功の目安は、正しくは、どれだけの人がカナビスを使っているかではなく、むしろどれだけのひとがハードドラッグに中毒しているかにかかっている。スエーデンではカナビスの使用率は低いが、ドラッグ関連の死亡率は際だって高い。
スエーデンでは過去2年とも年間400人以上がドラッグ中毒で亡くなっているが、スエーデンの二倍の人口を持つオランダでのドラッグ関連死亡者数は2002年では103人に過ぎない。
また、オランダの中央統計局は2002年にアルコール中毒で1800人余りが死亡したとも報告しているが、それは置いておく。
●こうしたすべての事実にもかかわらず、オランダの禁止論者たちは「四角を丸に」しようとしている。オランダ政府のポジション・ペイパーには次のように書かれている。
「オランダのドラッグに対する政策の方針の要は、闇の取引、ドラッグ・ツーリズム、カナビス栽培に対する締め付けとコーヒーショップ数の削減に重点を置いている。同時にコーヒーショップの閉鎖によって残ったショップのカナビス販売が上昇を招かないようにしなければならない。政府の目標は学校近くのコーヒーショップ数を抑え、ドラッグ・ツーリズムや大規模のカナビス栽培を減らすことだ。」
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以下引用を続ける。
5.コーヒーショップ・ツーリズム
コーヒーショップ政策は、その結果として多くのコーヒーショップ・ツーリズムを招くことになった。このことが国際的な批判と外交関係に悪影響をもたらすという問題になっている。オランダはそうした批判に対処するために、コーヒーショップ・ツーリズムが特に国境地帯で社会秩序を乱し、社会の安全を脅かしているという事実を取り上げることにした。
違法薬物取引に関する審議会の決議に従って、その作業部会はヨーロッパ連合の参加各国のすべてにドラッグ・ツーリズムに対抗する手段を講じることを呼びかけた。その結果、政府は、国境地帯の地方自治体と協力してドラッグ・ツーリズムをコントロール化に置くように強い措置を取ることにした・・・
警察もまた国境を越えた協力が必要となるだろう。現在、隣接する二つの国とは合意に向けて準備を進めている。政府は、国境地帯での取引がコントロールの効かない店で行われるのを防ぐために強い措置を取る用意がある。
6.カナビス栽培に対するさらなる対応
ネダーウイードの栽培は拡大を続けており、一段と商業的になってきている。何よりも犯罪組織が関与を始めている。カナビス栽培に対しては以前より、2002年10月の安全計画(下院2002-2003, 28684, no. 1)や司法大臣か送付したボーベンカーク報告(5222861/03/DISAD/BCD)への政府見解などでいっそう強い対応を表明してきた。
マーストリヒトやヘルモンド、アイントホーヘンなどのいくつかの自治体では大規模栽培に対してすでに精力的な戦いを行っている。彼らの経験を土台に、許認可と制裁措置の組合わせ栽培を出来る限り魅力のない商売にすることを目標に、政府は行政と犯罪の法執行からなるツイン・トラック政策を提言している。
いずれにしても、違法薬物取引に関する作業部会の成果として大規模栽培に対する罰則がこの5年間で引き上げられてきた。
(マリファナ・ニュース注。DEAlandでもまったく同じ!)
7.主要政策の意図
カナビス使用を止めさせる行動計画。予防活動の強化
カナビスも含めたすべてのドラッグに対する薬物防止特別キャンペーンを、ユース・センター利用者やたまり場の若者、家事手伝いの若者、精神障害の人たちなどハイリスク・グループに的を絞って展開する。
これまでの一般のキャンペーンは比較的広範囲な全体のグループに向けて、カナビスに対する態度を改めさせ、カナビスを使うことで起こるリスクについて注意を喚起することを目標にしてきたが、今後はハードドラッグに関する各種の情報を特定のグループ向けにまとめ、例えば、夜間営業の店ではエクスタシーの使用を止めさせることに重点をおいてキャンペーンを開始する。
これからの3年間のマスメディアを使った反ドラッグ・キャンペーンでは、カナビスを止めさせることに重点を置く。このキャンペーンの基本的な目標グループは12から18才の若者を対象にする。カナビスの使用か他のハードドラッグよりもはるかに広範囲に及んでいるので、内容の中心はカナビスに焦点を当てる。
コーヒーショップの情報も改めて、政府は、カナビス提供に例外的な条件を与えることは今後行わないことにする。
カナビス依存に対する治療の範囲を拡大し改良
カナビスで問題を抱えるユーザーの特性調査が外来中毒治療サービス機関によってすでに行われている。国家薬物監視機関ではカナビス依存症の治療の効果について報告を行い、ベルギー、ドイツ、フランス、スイスの各国と治療法について共同研究を行うことになっている。効果の確認された方法については保健福祉省とスポーツ成果プログラムを通じて導入する。
研究範囲の拡大
政策の進展を支えるために、カナビスの性質、問題のある使用の広がり具合とその進捗状況、さらに健康への重大な影響について研究を行う。政府は、カナビス使用と精神障害の関連の可能性を調べる研究に対しては優先的に扱う。
カナビスのTHC含有量上昇に対する対処
強いカナビスを使ったときのリスクに対する情報が不足しているので、政府はそれらに関する研究を優先して行う。仮に、高THCのカナビスが重大な健康被害をもたらすことが明らかになれば、政府は行政および犯罪法が対応できるように政策を改める。また、ハードドラッグに匹敵するようなリスクが見つかれば、そうした種類のカナビスは阿片法の規制対象になる第一分類に置く。
国境間の行動計画
政府は、現在、隣接する2国との協力に向けての合意を形成中であり、ドラッグの密輸問題に積極的に対処するために国境間の取締りを支援することを計画している。
(マリファナ・ニュース注。オランダの国境は隣国に完全に開かれており、国境間の交通をコントロールする実際的な方法はない。)
その他の政策
公共告発サービスの広告宣伝の禁止ガイドラインを改正し、インターネットもその対象に加える。コーヒーショップが外国の潜在客を目的にする宣伝することに対処し易くする。また国境地帯の自治体に対してコーヒーショップをどの程度国境から離すべきかを明記するように指導する。
地方自治体
地方自治体は行政法のもとで、個々の政党や当局との間でそれぞれの役割分担について合意を形成し契約を交わし、カナビス栽培に立ち向かう対策を促進し改善していくことが期待されている。中央政府はそれを手助けする。
犯罪法の政策
ツイン・トラック政策では行政法の方策が重要な位置を占めるが、カナビスの栽培には、個人あるいは犯罪組織によるものあれ、犯罪法の方策によっても対処することになる。公共告発サービス当局の作業に平行して警察は手始めに地域の犯罪の分析を基に自らの関連事項を洗い出すことが求められる。国の犯罪特捜班の支援も求めることもできる。
政府は、また、公共告発サービスの政策や法執行についての分析を取り入れることも考えている。公共告発サービスは、ネダーウイードの大規模栽培を手助けする犯罪含みの「グローショップ」に対処するために犯罪法政策にも関与する。
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●上に引用したオランダ政府のポジション・ペイパーを読めば、何故オランダの友が意気消沈し、一部の人たちがスペインに目を向け始めたかが理解できる。しかしながら、大半は現状を見つめ戦う準備を進めている。この争いをみんなで支えれば、同じ戦いをしているアメリカや他の国の人々も多くの経験を得ることができるだろう。われわれはオランダの友に対してできることはすべてしなければならない。
現在、オランダはふたりの人が政治的に暗殺されたことでトラウマになっている。イスラムの名のもとで気にいらぬ人間に暴力をふるうイスラム過激派の挑発によって、オランダの寛容の伝統に暗雲を投げかけるような強い反発が民衆に起こっている。このような恐怖に理はないが、アメリカがそうだったように、キリスト教徒によってもキリスト教の名のもとに気にいらぬ人間に暴力を使う口実とになり、さらに恐怖が拡大しかねない。
オランダの歴史の中にはこの問題が長年くすぶり続けている。1688年に、ウイリアム・オレンジがプロテスタンティズムを護るためにイギリスに渡りウイリアム三世になった時(それに伴って妻がクイーン・メリー二世になった)、アムステルダムの教会の教区司法機関は 「母国と教会が非常に暗い雲で脅かされている」 として、日曜日には酒場を閉鎖し、売春を無くし、すべてのダンスホールを閉鎖するように強く主張した。
イスラムの移民たちにいかに寛容を説くか算段している同じ政府がオランダのカナビス・コミュニティに対しては不寛容な方針を取っている。多分このような人たちを 「ご都合主義者」 と呼ぶのだろう。彼らは「自分の正義」のためなら暴力も厭わない。
アメリカやカナダ、その他の国の人たちはオランダの友から学ぶことはたくさんあるが、カナビスの弾圧を目指す政策の非生産的な本質についてはこちらから少しは教えることもできる。カナビス運動にかかわる者はオランダの仲間を支援しなければならない。これは彼らの闘争だけに終わらない。われわれも彼らから多大な恩恵を受けているのだから。
人は 「ドラッグ・ツーリズム」 のためにカナビスを吸いにオランダに行くわけではない。特にDEAlandに関しては、世界中で最も多量のカナビスを消費、生産、輸入し、ほとんどどこでも豊富にあることを考えれてみれば明らかだ。
否。ドナーやヨーロッパの当局者たちがコーヒーショップから締め出そうとしているアメリカやその他の国の人たちは誰一人としてカナビスのためにそこに行くのではないのだ。自由のために行くのだ。本当は吸うことの自由が欲しいと言うべきか?
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