カナビスによる精神病、誇張と作り話


ミッチ・アーリーワイン博士

Source: AlterNet
Pub date: March 07, 2005
Subj: Psychosis, Hype And Baloney
Author: Bruce Mirken and Mitch Earleywine
Web: http://cannabisnews.com/news/20/thread20335.shtml


今月の始めに、カナビスの使用と精神病の間に関連性があるという研究が発表され、マスコミはこぞって大々的に取り上げているが、研究には大きな疑問があり注意してかからねばならない。

中毒ジャーナル3月号で、カナビスの使用と精神病には因果関係があると主張する研究が掲載されると、世界規模のプレスが相継いで飛びつき、「カナビスで精神病リスクは2倍」(BBC)、「カナビスが精神病のリスクを増やす」(ワシントン・タイムス)といったセンセーショナルなヘッドラインを掲げた。

こうした因果リンク主張は最近ではすっかり禁止論者のお気に入りになっているが、よく調べてみると、今回の研究も確定したかのようなヘッドラインの裏には、語られていない大きな欠陥が隠されている。

研究を実際に検証する前に、いくつかの基本的な事柄を確認しておく必要がある。もし、Xが原因でYが起こるとすれば、当然、Xが増大するに伴って、率の違いはあったとしてもYも同時に増えていかなければならない。しかし、カナビスと精神病については、このようにはなっていない。

公的または私的な機関で行ったどの調査でも、1960〜70年代にかけては、特に若者の間でカナビスの使用が急増したことが示されているが、それに対応するように精神病が増えたという報告はなされていない。この事実は、仮りにカナビスが精神病のトリガーになることがあるにしても、その影響は非常に弱いか、稀にしか起こらないことを強く示唆している。

こうした事実を踏まえて、カナビスが深刻な精神障害を引き起こすと証明しようする際には研究者として最大限の注意を払わなければならないが、今回のクライストチャーチ医科健康科学大学のデイビッド・ファーグッソン教授に率いられたニュージランドの研究テームは、それを怠っているようにしか見えない。

ファーグッソンのチームは、ニュージランドの子供1265人のグループを対象に、誕生時から25才になるまで継続して追跡調査をおこない、身体・精神・社会問題などさまざまな面についての変化を調べている。18、21、25才の時点では、カナビスの使用と精神病と似た症状が出ていないかどうかについて調査が行われている。

その結果、カナビス常用者の場合には、精神病の症状が高い頻度で出現していることを示す相関関係が認められたとして、複数の数学モデルを適応して分析が行われた。使われたそれぞれのモデルでは、結果に影響する可能性のある交錯因子を補正して、カナビスが症状を引き起こしたのか、あるいは逆に、症状がカナビス使用の原因になっているのか判定できるようにプログラムされている。

分析結果は、いずれのモデルを使っても相関関係が認められている。だが、「カナビスを常用すると精神病のリスクが増加するという証拠がどんどん出てきた」 という主張は、当然のことながら、分析に使われた原始データそのものの妥当性に全面的に依存している。ところが、その根本のデータの妥当性には、明らかに疑問がある。

この研究では、精神病の症状としては、SCL90(Symptom Checklist 90)と呼ばれているチックリストの10項目で測定されている。被験者はリストに従って、自分の考え方や感情、精神病に共通してあらわれる取付かれたような思い込みなどについて聞かれている。しかし、精神病の診断は実際には行われていないのに加えて、チックリストに掲載された症状は、公式の診断基準となっているDSM-IVのリストとは同じものでもない。いずれにしても、最も問題なのは、たった10個で必要な広範囲にわたる質問を「代表」させてしまっていることにある。

これらの10の質問は、例えば、「他の人から信用されていないと感じる」とか、「誰かに見られていたり、噂されているように感じる」「他の人に受け入れてもらえないという思いや思い込みを持っている」などといったパラノイド症状に焦点が当てられている。しかし、このようなやり方には方法論的な問題がある。なぜなら、カナビスに酔ったときにはパラノイド的感覚をごく普通に誰でも経験することが知られているからだ。

このような状況があるにもかかわらず、論文では、被験者にカナビスを使っている時かそうでない場合かを区別するように注意を促したかどうか明示されていない。従って、症状が長期的な影響からでてきたものなのか、あるいは単にありふれたカナビスのハイの影響で出てきたものなのかを識別することは全くできない。確かに、研究者たちがそのようにしてデータを得た可能性もあるが、それならばなぜ論文に明示していないのか。もし、その必要がない考えていたとしたら、はなはだ奇妙な印象を受ける。

また、仮りに症状が長期的影響によるものだとしても、カナビスを使う人にとっては全く普通の反応でしかなく、研究者たちは、精神病の兆候がカナビス以外の状況によっても起りうることを考慮していないように見える。例えば、違法で社会的に嫌われているドラッグを使っている人が、「他の人に受け入れてもらえないという思いや思い込みを持って」 いたとしても、それは精神病の兆候とはとても言えない。むしろ、自分の置かれた状況を現実的に見ている理性的な反応だということができる。

「他の人から信用されていない」という感覚も同様で、このことは、モンタナの医療カナビス患者で、昨年の夏にカナビス所持で逮捕されたロビン・プロッサーの例を考えてみればわかる。彼女は、栽培していたカナビスが取り上げられた後、耐えられない痛みのために自殺を試みるまでに追い込まれている。彼女が精神病でないことは明らかだが、「他の人から信用されていない」という思いが絶望となってあらわれた。

ファーグッソン論文には、原データが全くといってよいほど掲載されていないので、どの症状の頻度が最も多かったのか、あるいは、ユーザーのノンユーザーの症状の平均レベルの違いが多くの症状を持った僅かな人がいたために出てきたのか、多くの人が少しずつ症状を持っていたために出てきたか、などを知ることができない。

論文では、精神病の可能性が最も高いとされているヘビーユーザー・グループに場合の症状出現数は、カナビス経験のない場合で0.60、月間1回以下の経験者で0.93、最低週1回で1.15、毎日常用している場合は1.95で統計的有意性が示されたと書かれているが、2つ以下では、いかなる場合でもカナビスが精神病を引き起こすという結果が出てきても何ら不思議ではない。

カナビスのユーザーであれば、社会の本流とは違うという思いや、他の人から少々懐疑的な目を向けられていると感じていてもごく当たり前なことなのに、ここの基準ではそれだけで精神病にされてしまう。

この論文で、カナビスが精神病を引き起こすことが証明されたなどとはとても言えない。証明に近づいたとさえ言えない。確かに言えることは、そのことを大手主流メディアが取り上げることなど期待しても無駄なことしかない。

著者のブルース・ミルケンは、マリファナ・ポリシー・プロジェクト(MMP)のディレクターを務めている。また、共著者のミッチ・アーリーワイン博士は、南カリフォルニア大学心理学科助教授で、「マリファナを理解する」("Understanding Marijuana", Oxford University Press, 2002)の著者としても知られている。

Tests of causal linkages between cannabis use and psychotic symptoms  Fergusson, Horwood & Ridder, Addiction Volume 100 Issue 3 Page 354 March 2005

The Cannabis and Psychosis Connection Questioned: A Comment on Fergussonn et al. 2005 Bruce Mirken, Mitch Earleywine, Letter to editor in response taken from Addiction. 2005 May;100(5):605-11.

ドラッグ戦争の犠牲者、ロビン・プロッサー
ロビン・プロッサーは痛みの軽減のためにカナビスを使っていたが、州法では医療カナビスが認められていないとして繰り返し脅され、カナビスがなくなった後で痛みに耐えられなくなって自殺を試みるまでに追い込まれてしまった。幸い、直前に担当医に電話していたために、駆けつけた警察官に救助されたが、それでもわずかにカナビスが残っていたために逮捕された。その後、逮捕は無効とされ、モンタナで医療カナビス法が成立するきっかけになった(2004年の住民投票で63%の賛成)。それで、彼女はやっと逮捕の恐怖から開放された。