サティベックスは

なぜ舌下スプレーなのか?


レスター・グリンスプーン
ハーバード大学医学部名誉教授

Source: Cannabis Health vol.3-4, May/June 2005
Pub date: 15 April, 2005
Subj: Sublingual Delivery of Sativex
http://www.cannabishealth.com/site/issue-3-4/
issue-3-4-subligual-delivery-of-sativex.html


確かに、サティベックスというカナビスをベースにした医薬品がカナダで認可されたことにより、カナビスの持っている目覚ましい医療価値に対する理解が広まるという期待もある。しかしながら、その前にまず、サティベックスそのものと製造元のGW製薬についてきちんと知っておくことも非常に重要だ。


サティベックスは医療的効果だけを引き出す?

5年前、サティベックスの製造元であるGW製薬は、カナビスの害の危険なしに医療メリットだけを取り出すことができるとイギリス内務省を説得してこの薬の開発取り組んだ。患者にとっての害には、煙による害とハイになって酔うことの2つがあるとしている。

だが実際には、カナビスの喫煙が、肺などの呼吸器系の著しいリスクになるということを示した証拠はほどんどない。西側諸国では、この40年間にカナビスが広く吸われるようになったが、カナビスが原因とされるガンや気腫の症例が報告されたことはない。毎日のようにカナビスを吸っているよりも、都会の汚れた空気を吸っているほうがよほど脅威なのではないかとすら思える。

さらに、今日のように、呼吸器系の毒になるようないかなるものも許されないという嫌煙環境であっても、カナビスを燃焼させて煙を吸わなくても治療効果のあるカナビノイドだけを吸引できるバポライザーという装置を利用することもできる。このように、カナビスによる呼吸気系へのリスクは、一般に信じられているようなものではない。

カナビスの精神への影響についても、カナビスの治療効果と切り離したりする必要はなく、それが好ましい目標だとも思われない。例えば、カナビスを使っている多発性硬化症の多の患者さんが、筋肉のけいれんなどの身体的症状が改善したばかりではなく、「気分も楽になった」 と話している。このような気分の改善を患者さんから奪うのが正しい医療とでもいうのだろうか?

また、GW製薬の声明には、「サティベックスを適切に使えば、通常のカナビスの喫煙で経験する酔いのような状態は起こらない」 と書いている。ここで言っている「適切」という意味は、精神的な影響を引き起こさないレベルの量を摂取するということだが、つまり、会社は、舌下スプレーを使えば常に治療効果のある適切量をユーザーが簡単に調整できると言っている。

しかし、裏返せば、ユーザーがサティベックスを「不適切」に使ってハイになろうとすれば、それが可能であることも示している。


カナビスは驚異の薬

カナビスの薬としての最も重要な特徴の一つには、肺を通じて摂取した場合、ユーザーが摂取量を簡単に自己調整できることが上げられる。

肺からの摂取法では効果が迅速に発現し、患者自身が症状の緩和する必要量を正確に決めることができる。このために、摂取量の不足や過剰摂取のリスクを最小限に抑えることができる。

一方、舌下で投与した場合は、食べる方法(通常1時間半から2時間)よりも早く緩和効果が得られるものの、吸引による肺からの摂取法に比較すればずっと遅い。従って、不可能でないとしても、自己調整することは難しい。

さらに、サティベックスは味が不快なために、多くの患者は薬が十分に吸収されるまで舌下にとどめておくことができない。その結果、薬が食道に漏れてしまって舌から吸収される量が変化してしまう。食道に漏れた分は、食べた場合と同様に、治療効果の発現が遅いので、いっそう自己調整が難しくなってしまう。

カナビスのその他の特徴とすれば、並はずれて毒性が低く、しかも、幅広い症状に治療効果を持っていることが上げられる。また、禁止されていることからくる割増し分を含めたとしても、価格が極めて安いという特徴もある。違法なものにしろ自家栽培のものにしろ、上質のカナビスであれば効果はサティベックスに劣るようなことは全くなく、それでいてサティベックスよりもずっと安い。

1940年代には、ペニシリンが驚異の薬と言われたが、いずれ、カナビスが驚異の薬と言われる時代がやってくるに違いない。


サテベックスが勝っている点は合法であることだけしかない

製薬会社は将来間違いなく、新しいカナビスの品種を開発し、また、天然のカナビスでは得られないような効果を持つユニークな合成カナビノイドを開発するだろう。しかし、現在のサティベックスは、品質的には天然のカナビスよりも優れている点はなく、ただ合法であることにしか利点はない。

カナビスの活性成分であるTHCを化学合成して作った合法医薬品としてはドロナビノール(マリノール)が知られているが、天然のカナビスと双方を比較したことのある患者で、後者のほうが効果的に劣っているとか、使いずらいと言っている人はまずいない。確かに、ドロナビノールを選択する患者もいるが、それは法律的なことが主要な理由になっている。カナビス禁止法がなければ、ドロナビノールを選択する患者はまずいないだろう。

同様に、サティベックスが商業的に成功するかどうかは、禁止法がどれだけ厳格に実行されるかに大きく依存している。会社がカナビノイドの摂取器具をいくら改良しても、天然のカナビスよりも優れたものを生み出せるとはとても思えない。製薬会社の利益は、ひとえに禁止法を維持することでしか確保できない。

GW製薬のジオフェリー・ガイ代表は、会社を設立した理由として、カナビスが薬として効くことが分かっている人に、法的な心配をせずに使ってもらえるようにするためだと語っている。しかし、本当にそうするためには、人々を苦しめる禁止法を撤廃して、経済的にも安い天然のカナビスを使えるようにすることしかない。