From Hempire Cafe

オランダは素面

正面からカナビス法のあり方を議論

Source: Philly.com
Pub date: 1st January 2006
Subj: Dutch Take Sober Look At Pot Laws
Author: Ken Dilanian
Web: http://www.thehempire.com/index.php/cannabis/news/
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ポール・ウイルヘルムがカナビスのことを話し出すと、まるでワイン職人がワインのことを語っているようだ。芳香、味わい、姿や形ち、開花の時期、水耕栽培の良し悪し。

こうしたウイルヘルムの鑑識眼はアメリカでは長い刑務所暮らしをもたらしたが、ここオランダでは彼を実業家に変えた。今では,彼は伝統のあるコーヒーショップのオーナーにおさまり、税金も払っている。コーヒーショップでは、お客さんがバーカウンターに腰かけてメニューを隅々までチェックしている。そこに載っているのは、22種類の香り高いバッズと18種類の強力なハシシだ。

彼の店であるダンプクリングは、2004年に公開された映画 「オーシャンズ12」 に登場したことでますます人気を集めている。ウイルヘルムにとってそれまでの人生は平坦ではなかったが、アメリカとは正反対のオランダの有名なリベラルなドラッグ政策のおかげて店のオーナーになることができた。

商売は合法で正式にライセンス管理されてはいるが、実際に店をやっていくには、毎日、法を犯すことを余儀なくされる。オランダでは、コーヒーショップが少量のカナビスを売ることは許されているが、店をやっていくのに必要な量のカナビスを栽培したり保管したり運んだりすることは今だ違法のままになっているからだ。


議会で高まる栽培合法化議論

先月、オランダ議会では、カナビスの栽培を規制して合法化するパイロット・プログラムを立ち上げる提案についての論戦が始まった。カナビス栽培合法化の動きは、オランダ南部のドイツとベルギーとの国境の都市マーストリヒトの独創的な市長によって発案された。これまでマーストリヒトはギャングや密売業者に悩まされてきたが、市長を支持する議員たちは、栽培を合法化して規制管理すれば、犯罪組織を一掃して責任ある供給者に委ねることができると主張している。

「現在の法律は分裂症状態です」 とウイルヘルムは言う。「法律では、一度に店に保管できるのは500グラムまでに制限されているので、数時間ごとに補給しなければならないのです。配達する者が警察に止められでもすれば、すべて没収・逮捕されて、店の補給は途絶えてしまう。」

それでも長年、こうした半端な状態でもそれなりにうまく機能していた。合法化をめぐる周囲の非難をかわしながらカナビスを容認することができたからだ。しかし、それに乗じて犯罪組織による生産の拡大を招くことにもなった。

オランダでは、カナビスに対するリベラルな政策を評価する議員たちが増えていることもあって、犯罪組織の拡大に気づいた多数の議員がカナビスの栽培を非犯罪化する法案に賛意を示すようになっている。しかし、コーヒーショップに対する規制を強めようとしている政権党のキリスト民主党はこれに反対している。専門家筋は、もし法案が議会で通過しても政府は実施を阻もうとするだろうと予想している。

「栽培を合法化しても何も解決しません」 と司法大臣の広報官アイボ・ホーメスは反論している。「合法化したところで、違法売買や密輸のためにカナビスを栽培している輩はそのまま続けるだけです。」

ウイルヘルムをはじめとするコーヒーショップのオーナーたちは法案の滑り出しによい感触を感じているものの、本音はカナビスをきちんと合法化することを望んでいる。世論調査でもオランダ人の多数が合法化を支持している。しかし政府は、合法化を認めればオランダをはじめ大半の国が署名しているドラッグの国際条約でやっかいなことになると主張している。


ヨーロッパとアメリカのドラッグ問題の対処の仕方の違い

このオランダでの議論の行方がどうであれ、ヨーロッパとアメリカではドラッグ問題に関する対応はまったく異なっている。

アメリカではドラッグ戦争に毎年何百億ドルもの費用を投入じてカナビスの逮捕者が増えて続けているが、ヨーロッパ諸国やカナダなどではドラッグ使用を刑事問題としてではなく公衆衛生の問題として対応している。

さすがにオランダのようにカナビスの販売まで認めている国はないものの、ヨーロッパの大半の国では、カナビスに限らずコカインやヘロインですら少量の所持だけなら罰金程度にしかならない。ドラッグの密売に関してもアメリカよりもはるかに刑罰は軽くなっている。

ヨーロッパやカナダは、暴力を伴わないドラッグ事犯に対しては、アメリカのように刑務所を満杯にするような方針はとらず、害の削減という観点で取り組んでいる。害削減(ハーム・リダクション)政策では、どのようにやっても違法ドラッグの使用を根絶することは不可能なのだから、社会全体が受けるダメージを最小にすることを最善の目標としている。

このような方針が端的に現れている政策のひとつとして、ヘロイン常用者のエイズ感染を防止するための清潔な注射針の提供がある。アメリカでは今だ議論が続いているが、ヨーロッバやカナダでは当たり前のことになっている。

さらに先を行っている国もある。いくつかの国では、政府が福祉サービスの一環としてヘロイン・ユーザーのために専用のルーム(consumption rooms)まで用意して、路上ではドラッグを使わないように指導している。少なくとも、スイス、ドイツ、オランダ、スペインの4ヶ国では、深刻な中毒者に対しては政府が設備を整えた上でヘロインを供与し、中毒者が自分で注射できるようになっている。

確かに、こうしたやり方には多くの非難があるものの、10年前にこの方針を考え出したスイス政府は、ヘロイン中毒者の不慮の死や街頭での犯罪が激減し、もはやヘロインを買うための盗みや強盗することもなくなっていると強調している。


アメリカと手を組むオランダ政府

イタリア人でウイーンにある国連薬物犯罪事務所所長を努めるアントニオ・コスタは、こうしたヨーロッパの寛容的なスタンスが我慢ならないようで、その背景にはこの地域での最近のコカイン使用の上昇がある。ヨーロッパ全体としては決してアメリカよりもコカインの使用は高くなっているわけではないが、アメリカでは減少傾向にあるのにヨーロッパでは逆に増えているという。

ヨーロッパ人の多くが,アメリカのドラッグ当局のやり方は教条的で絶対主義過ぎると考えて首を縦に振ろうとはしていないのも事実だが、だからといって一枚岩というわけでもない。

当のオランダでさえ、カナビスを含めたドラッグの密売人の逮捕に躍起となっており、昨年の6月にはアメリカ政府と取締りに協力し合う協定にサインしている。

しかし必ずしも歩調があっているわけでもない。アメリカの執行当局は、カナビスがアルコールよりも害がないとするオランダのコーヒーショップ政策の撤回を求められているが、オランダ側の専門家は、1960年代のフラワー・チルドレンが吸っていたマリファナよりも現在栽培されているカナビスのほうが圧倒的に強力になってきていることは認めつつも、アルコールよりも害が少ないという主張を譲らない。

アメリカ当局はこれまでもずっとヨーロッパのリベラルなドラッグ政策に罵声を浴びせ、時にはオランダの統計数字の一部を恣意的に抜き出して非難し続けてきた。

例えば、アメリカ政府のドラッグ執行当局のウエブサイトでは、反合法化政策を訴えるために 「ヨーロッパのリベラルなドラッグ政策はアメリカの正しいモデルではない」 と題する文書を掲げ、その中でオランダでは1984年から1996年の間に、18〜25才の若者のカナビス使用が倍増していると指摘している。

しかしながら、それ以降は増えておらず、アメリカより低い水準を保っている。これに対して、アメリカのカナビスの使用は、1992年を底にして現在も増え続けている。


30年のオランダの経験

実際、オランダとアメリカの両政府が行っている最も信頼されている調査によれば、オランダでカナビスの販売が認められてから30年たった年で比較すると、オランダのカナビス・ユーザーはたった3%の40万8000人にとどまっているが、アメリカでは8.6%の2550万人になっている。

また、オランダの保健省では、カナビスの寛容政策がハードドラッグの使用の増大につながっているという証拠はないと指摘している。オランダのハードドラッグの使用については、他のヨーロッパ諸国の平均よりも低く、アメリカをはるかに下回っている。この結果については、支持者たちは、オランダの政策がハードドラッグとソフトドラッグを分離するように作られているからと主張している。オランダのコーヒーショップでは、ハードドラッグの販売が見つかれば直ちに閉鎖されてしまう。

一方、アメリカのドラッグ戦争はますますカナビス戦争の様相を帯びてきている。

ワシントンのシンクタンク、判決監視プロジェクトが昨年発行した研究レポートでは、FBIのデータの分析から、全ドラッグ事犯のうちのカナビス事犯の割合が、1992年の28%から2002年には45%に跳ね上がっていることを見出している。これに呼応して、ヘロインとコカイン事犯では55%から30%以下に落ちている。

なぜアメリカはこのようにカナビスを厳しく取締りなければならないのか、ウイルヘルムのようなカナビス愛好家には全くミステリーに映る。彼はカナビスが無害だなどと主張していない。だか、毎日、アルコールのバーと同じように、お客さんが自分の責任でカナビスを楽しんでいるのを見ている。

「私には娘が3人いますが、もしカナビスをやってみたいと言い出したら、コカインやエクスタシーなども扱っている連中のところには絶対行かせたくありません。カナビスが健康的だなどとは言うつもりはありませんが、目の前にあるのです。その現実を見ないわけにはいきません。全員を逮捕すれば消えてなくなるなどと思うのは幻想に過ぎません。」