カリフォルニア
医療カナビス住民条例成立10周年
カリフォルニアの進展と連邦の停滞
デール・ゲーリンガー博士
Source: California NORML
Pub date: Nov 2, 2006
Subj: 10th Anniversary of Prop. 215
Author: Dale Gieringer, co-sponsor, Prop 215
http://www.canorml.org/news/10thAnniversaryProp215.htm
今年の11月6日は、1996年にカリフォルニアの画期的な医療カナビス住民条例案(215条例)が56%の賛成を得て承認されてから10周年をむかえる。この10年間は、カリフォルニアだけではなく世界各地で、医療カナビスに目覚しい進展が見られた。
215条例では、最終的に完全に合法な「安全で手頃な値段」で医療カナビスを配布するシステムの構築をゴールとしている。これに対して、連邦政府はそれを阻止しようと妨害を繰り返してきたが、それにもかかわらずディスペンサリー(専門薬局)とクリニックと患者のグループのネットワークは成長を続け、医療カナビスはますますカリフォルニア州民に身近なものになってきている。
215条例が通過して以来、年ごとに医療カナビスを受け入れる人たちが多くなってきた。それに従って、さまざまな病状にカナビスが有用であることに気づく医師や患者の数も増えてきた。そうした病状とすれば、慢性的な痛み、怪我や病気による痙縮、HIVやガン治療に伴う吐き気や食欲不振、偏頭痛、関節炎、トラウマによるストレスなどのほか、危険な処方医薬品の害削減のための代替品としても利用されている。
こうした経験に対して科学研究も盛んに行われるようになり、カナビスやその成分が予想以上の疾患に効果を持っていることが確認されるようになってきた。脊髄損傷、多発性硬化症、ツーレット症候群、C型肝炎、腸疾患、HIVや糖尿病にともなう末梢神経障害などで有効なほか、アルツハイマー病にさえ有望だといわれている。
現在では、非常に多くの医師が医薬品としてカナビスを患者にすすめるようになり、患者数は20万人から35万人とも見積もられている。医療カナビスは、カリフォルニアを含め11州で合法化され、カナダやオランダでも合法になっている。また、タイム誌やCNNの世論調査では、アメリカ人の80%を上回る人が医療カナビスを支持している。
215条例反対派の人たちは、条例が成立すれば、医療カナビスが子供に悪いメッセージを送ることになると盛んに喧伝していたが、この10年の経過はそれが誤りであることを示している。実際、カリフォルニアにおける未成年者のカナビス使用は、215条例が通過して以降著しく減少している。
カリフォルニアの生徒のドラッグ・アルコール・タバコに関する調査によれば、過去1か月のカナビス使用は、11年生(高2)では1997年度の42%から2005年度には30%に減少し、9年生(中3)でも33%から19%、7年生(中1)で11%から7%に減っている。
また、215条例が実質的にカナビス合法化につながるという反対派の主張もあったが、これも間違っていたことが示されている。実際、カリフォルニアでのカナビス逮捕者数は、215条例通過以降もほとんど変化していない。確かに、カナビス事犯による囚人数は1997年のピークの1900人から、今日では1400人に減少してはいるが、それでも1980年代初頭に比較すれば10倍以上のまま推移している。
こうした実態があるにもかかわらず、連邦政府は、215条例が連邦法に背くものだとして反対し続けている。連邦の規制を医療カナビスに合わせようとはせず、215条例を弱体化させようとして連邦法を振りかざしている。まず、医者を脅し、法定で処方の禁止命令を出させることに失敗すると、次に、連邦法を使って逮捕・起訴し、医療カナビスの栽培者や供給者の家宅捜査を行って関係者の多くを逮捕してきた。
政府は、医療カナビスが本当に安全で効果があるのか調べるために、もっとFDA(食品医薬品局)の研究が必要だといいながら、一方では、FDAが研究を認めないように仕向け、研究者には研究用のカナビスを入手できないように画策してきた。
また、連邦の研究に対する制限は、患者や供給者が、医薬品として利用するカナビスの品質、純度、安全性、効力などをテストすることを不可能にてしまっている。さらに重要なことは、連邦に逮捕される恐れがあるために、生産者を地下に潜らせ、アンダーグラウンドマネー経済へを押しやって、合法的な生産・供給システムを確立できなくなってしまっていることだ。
合法的な配付システムがないために、患者たちは、半合法的な協同組合、コレクティブ、ディスペンサリー、配送サービスのネットワークを作り上げざるを得なかった。連邦による禁止にもかかわらず、カリフォルニアの医療カナビス市場はますます洗練され、ベンダーは、特別の抽出液やチンキ剤、食用の調合薬、植物のクローンや家庭用栽培器具をはじめ、カナビスの煙の呼吸害を無くすために、煙を出さずに蒸気だけを吸うバポライザーなどを提供するようになった。
さらに、医療カナビスに特化するクリニックや医師たちも多くなり、他の医師から推薦証を出してもらえなかった患者たちも相談できるようになり、現在では、250軒以上のディスペンサリーや協同組合や配送システムが、215条例の患者へ医療カナビスを提供している。その多くが、他の合法的なビジネスと同様に、従業員には健康保険や失業保健などの恩恵を保証し、州には売上税や事業税や給与所得税などを支払っている。
現在までのところ、州法ではディスペンサリーに対する法的地位が定まっていないので、地元の市町村がディスペンサリーを規制管理している。
サンフランシスコ、オークランド、ロスアンジェルス郡などの管轄地域では、ディスペンサリーのライセンスを発行して管理する条例を制定しているが、一方では、サンディエゴなどのように、ディスペンサリーが州および連邦法に反しているとして禁止することを目論んでいるところもある。
反対派は、ディスペンサリーが問題を引き寄せるからだと主張しているが、最も一般的なのが、駐車、たむろ、公共場所での喫煙、臭いなどの小さな迷惑行為で、区域分けや迷惑条例などで対処できるものだ。また、警察はディスペンサリーが強盗などを引き寄せると批判しているが、これは、連邦法の違法状態の下で現金で商売しなければならないことが問題を悪化させている原因になっている。この問題に関しては、適切なセキュリティの強化で対処できる。
ディスペンサリーや215条例全般へのもっと根幹的な反対論としては、余り深刻な病気ではない顧客が目立って増えてきたことに対するものだ。批判者は、ディスペンサリーの常連が、車椅子に乗った典型的なお婆ちゃんではなく、五体満足に見える男性の若者に偏りがちになっていると指摘する。しかし、実際のところは、多くの患者は、不安症や不眠症、腰痛、うつ、月経前症候群、軽度の怪我といった比較的軽い日常的な苦痛で、医師から推薦証を取得している。
これに対しても、医師が215条例を乱用して、些細で根拠のない訴えに無差別に推薦証を書いているという批判があるが、いずれにしても、明確なことは、医療カナビスへの合法的な入手のみちを閉ざしたところで何も得ることがないことだ。厳格に取り締まっても、ユーザーを犯罪者たちの流通経路に向かわせるだけで、犯罪を減らすことにはつながらない。
これに対して、合法的な市場運営は社会に多くの利益をもたらす。例えば、オークランド市では、2003年度にはカナビス関連のビジネスから2500万ドル以上の歳入があり、売上税だけで200万ドルになっていることが報告されている。興味深いことにその後、市議会が、カナビス関連ビジネスの集中するオークステルダム地区を閉鎖したために歳入が急落した。そのために市民たちは、大人のカナビス使用に対して「課税して管理する」ことを求めたZ号住民条例案を発議し、通過させることに成功している。
カリフォルニアの至るところにカナビス・ビジネスが拡がり、歳入は合計で確実に5億ドルを突破している。それでも、ユーザーが200万人といわれる州のカナビス市場全体からすればほんの一部に過ぎない。
215条例が通過して10年経った現在でもその衝撃は拡がり続けている。この波は、医療カナビスに対する政府の禁止法が撤廃されるまで拡がり続けるに違いない。
カナビスが、他の処方医薬品と同じように普通の薬局で利用できるようになっていけば、やがてディスペンサリーやカナビス・クラブは廃れてくるだろう。しかし、一方では、すべての成人が医療カナビスを合法的な入手できるようになったとき、ディスペンサリーというシステムが見直されることにもなるだろう。カナビスの医薬品としての類い稀な安全性を考えれば、一般用医薬品としてすべての成人が利用できるようになる日が来ることも夢ではない。
11月7日にはカリフォルニアで、オークランドのZ条例のように、成人のカナビス利用に対する罰則規定を無効にすることを目指した住民投票が、サンタバーバラ、サンタクルズ、サンタモニカの3市で実施される。さらに、ネバダとコロラドの2州では、成人のカナビス使用を完全に合法化することを目指した州条例の住民投票も行われる。215条例誕生から10年。カナビス法改革の第2の衝撃波が起ころうとしている。
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1996年の選挙は11月5日に実施され、215条例は深夜0時に発効した。また、今年の11月5日は、サンフランシスコの選挙民がアメリカで初の医療カナビス条例P号を成立させてから15周年にもなっている。