フィンランド、医療カナビス患者を初認定


Helsingin Sanomat

Source: Helsingin Sanomat International Edition
Pub date: 19 Dec 2006
Subj: A MEDICAL CANNABIS USER, BUT NO POTHEAD
Author: Tommi Nieminen
http://www.mapinc.org/norml/v06/n1729/a02.htm?134


ヘルシンキの西、バルト海沿岸の都市トゥルクに住む男性が、フィンランドで初めての合法医療カナビス患者として認められた。

アパートは、ドラッグの雰囲気が漂うような薄暗い部屋とは違い、壁にはカナビスの葉っぱではなく、グレイトフル・デッドやハイレ・セラシエ皇帝のやや黄ばんだポスターが貼ってある。壁掛の時計も時を刻んでいる。

トゥルクの中心にあるアパートに暮らすアウリスさん(仮名)は、ごく普通の身なりをした53才のシャイな中年男性だ。冷蔵庫の中の保存ビンには、フィンランドで唯一合法なカナビスが入っている。

アウリスさんは、医療カナビスの一部をお茶にしている。保存ビンのお湯にバターを少し入れてカナビスの油分を取り出す。カナビスはベドローカンという名前で、普通の医療用のプラスチックの容器に入れられている。容器のラベルには、「カナビス・フロス、花の精」 と書かれている。

中身そのものはストリートで売っているカナビスと違いはないが、ベドローカンのラベルはオランダ保健省のシールで、ハーグにある政府認定のラボの中で作られたことを示している。

アウリスさんは、フィンランドでは、カナビスを医薬品として使う資格を持った唯一の人だ。2002年に交通事故で負傷した。動けなくなるようなことはなかったが、脊髄や首に重度の慢性痛が残った。「脊髄の痛みは、子供の劇に出てくる恐ろしい歯痛みたいなものです。子供の時には、その役だけはどうしても御免でしたけど」 と顔をしかめる。

最初の3年間は、強いオピオイド・ベースの薬で強い痛みに対処していた。しかし、「感覚がないような感じになってしまうのです。実際の痛みに効いているのかもわかりません。精神や体にはとても不快でした。」

その後、新薬の炎症鎮痛剤に替えたものの、心臓発作を起こすことがわかって市場からすぐに姿を消してしまった。彼は、2005年の春に、インターネットでベドローカンに出会った。活性成分は、化学合成医薬品のドロノビノールと同じTHCで、天然にはカナビスにしか含まれていない。

カナビスは古くから使われてきた医療植物だったが、世界中で禁止され、フィンランドでも1960年代に禁じられた。しかし、現在では、医療カナビスとして再登場し、イギリスやオランダ、カナダでは、緑内障、多発性硬化症、ぜんそく、激しい痛みなどの治療薬として幅広く処方されている。

だが、フィンランドでは、カナビスはまだまだネガティブな見方が根強い。アウリスさんという彼の名前も本名ではなく、写真を掲載することも嫌がる。「弟ですら、新聞には名前を出さないでと言っているくらいですから。」

当然、アウリスさんのようなパイオニアになることは困難を極める。彼は、最初にフィンランドの医者にベドローカンを処方してくれるように頼んだが、「烙印を押されて処罰されることを恐れて」誰一人として応じてくれなかった。その後、正式にカナビス治療を行っている医師をたずねて、オランダを3度も訪れた。

「最初の3年間は、オピオイドで痛みをコントロールすることができたのですが、やがて危険な副作用が出て来ました。」

彼に援助の手を差し伸べてくれたのがトゥルクの薬剤師マーク・ニューティラさんで、アウリスさん専用に医療カナビスを供給する許可を国の医薬品局に申請してくれたが拒否された。当局は、この一件がトゥルクの行政裁判所に持ち込まれるまで、何ひとつ動こうとはしなかった。

だが、裁判所は、9月に、医薬品局が許可を拒んでいるのには十分な理由がないとする判決を下した。「政策決定者たちは患者のことを忘れていたのです。この問題をあちこちにたらい回しにしているうちに、内部の食い違いが表面化してきました。」

司法当局は、アウリスさんを犯罪者と見ていた。彼は、2005年に、オランダからフィンランドへ医療カナビスを持ち込もうとして空港の税関に止められ、ドラッグ事犯で有罪とされた。処罰はされなかったが、彼は控訴審に裁判を持込んで結果を覆した。「自分がドラッグの犯罪者だなどとは思ったことはありません」 と語る。

医療カナビスが恐怖の目でみられるのは、違法なブラック・マーケットに転用されるのではないかということが一つの原因になっている。だか、アウリスさんの弁護士のカイ・クーシ氏は、「ベドローカンの価格は高く、そのような恐れはばかげています。ストリートのカナビスのほうがずっと安いのです」 と指摘する。

アウリスさんは、医療カナビス1グラムを12ユーロで購入している。1日の使用量は2グラムで、1.5グラムはお茶にして、残りはパイプやジョイントに巻いて吸っている。

1ヶ月の医療カナビス代は660ユーロにもなり、障害者年金で暮らしている人にとっては収入の大部分を占める。彼は、現在、医療保険会社や社会保険機関のKELAに対して医薬品として補償してくれるように交渉している。

「ここまで来るのに、これまでに1万2000ユーロ(190万円)も費いやしましたが、もし、医療カナビスは自分に効かないのなら、蓄えの全財産を注ぎ込んだりしていません。」

リクレーショナル用のストリート・カナビスはフィンランドでは多くはないが、決して珍しくもない。国の社会福祉研究開発センター(STAKES)のフィンランドの最新のドラッグ状況報告によれば、フィンランド人の12%がカノビスを経験している。

しかしながら、医療カナビスのベドローカンは、薬理効果がより得られるように政府の監督下のラボで製造された医薬品で、同じように酔う効果があるにしてもストリート・カナビスとは違う。

「気持ちがゆったりとして、簡単に寝つくことができます。吸ったときには精神的な効果がすぐにわかります。お茶で飲む場合は、体のほうによく効きます。」

アウリスさんは1年分の医療カナビスの支払いを済ませている。薬局からは1回に10日分づつ受け取っているが、「そのほうがありがたいです」 と語る。

話しが終わると、彼は浴室に行って、タバコに0.5グラムのベドローカンを混ぜて一服した。浴室には換気扇があって煙を表に出すようになっている。いずれにしても、医療カナビスの強いかおりが近所に流れて行くとしたら、それはそれで気まずいことかもしれないが。