医療カナビス法案を支持する

ニュージャジー州上院公聴会への書面による証言


Source: NORML & NORML Foundation
Pub date: June 8, 2006
Subj: Written Testimony In Support Of Senate Bill 88
Author: Paul Armentano, Senior Policy Analyst
Web: http://norml.org/index.cfm?Group_ID=6920


はじめに、上院法案88号の公聴会で証言する時間を割いてくださった上院委員会の方々に称賛と感謝を申し上げます。

上院法案88号、つまり 「ニュージャージー・コンパショネート医療カナビス法案」 は、深刻な病気に苦しむ患者さんが医師のすすめでカナビスを医療目的で利用する場合に、刑事訴追の対象にしないことを求めたものです。カナビスやカナビノイドを医師の監督下で医療的に使うことは科学と公衆衛生に属する問題です。いわゆるドラッグ戦争の人質にしたり、リクレーション目的のカナビスなどの規制薬物の合法化についての幅広い政策論議の中で語られるべき問題ではありません。

私は、1995年以来、専門家としてカナビスやカナビノイドの医療使用に関する科学研究を検証し、NORMLのシニア政策アナリストとして100以上の記事やホワイトペイパーを書いてきました。また、ロンドンのバイオテクノロジー会社である GW製薬 のコンサルタントとしても働いてきました。GW製薬は、合法ライセンスを与えられて、医療カナビスを栽培し、カナビス抽出液用の各種の経口型スプレーについて臨床研究している世界で唯一の会社です。これらの経口スプレーは、すでにサティベックスという商品名でカナダで合法的に処方できるようになっているほか、制限はあるもののスペインやイギリスでも利用されています。

最近の研究では、カナビスが幅広い症状の臨床治療に有用であることを示しています。民族薬理学ジャーナルの2006年4月号に掲載されたメタ分析研究では、科学雑誌に発表された70以上の比較臨床試験を検証し、治療成分としてのカナビノイドの医学的安全性や効能を調査しています [1] 。それらの患者検証実験の結果は、カナビスやその成分に治療的有用性があることを示しています。有用性があるとされた作用としては、制嘔作用、ガンやエイズなどの衰弱性の病気の食欲増進作用,鎮痛作用などのほか、多発性硬化症や脊髄損傷、トウレット症候群、てんかん、緑内障、などの深刻な病気の症状緩和作用があるとされています [2] 。

また、他の科学文献に掲載されている事例研究や数百もの臨床前研究でも、カナビスやカナビノイドには、ジストニア [3]、双極性障害 [4]、線維筋痛症 [5]、クローン病 [6]、消化器系疾患 [7] などの病気に治療効果があり、その他にも、神経防護作用 [8] や制ガン作用 [9] を備えていることも示されています。さらに、動物実験のデータでも、カナビノイドが、多発性硬化症 [11] やルーゲーリック病 [12]、アルツハイマー病 [13]、糖尿病 [14]、などの自己免疫機能の過剰や神経障害の進行を抑える [10] ほか、ニューロンの新生を刺激することも示されています [15] 。

多くの科学コミュニティや保健コミュニティでも、カナビスの合法的な医療利用について支持を表明しています。その中には80以上もの連邦および州のヘルスケア機関、例えば、アメリカ公衆衛生協会 [16]、アメリカ看護師協会 [17]、エイズ活動協議会 [18]、なども含まれています。これらの機関では、医師の監督下で患者さんが医療カナビスを利用することを支持する決議を採択しています。中毒症ジャーナルに掲載された最近の全国アンケート調査でも、アメリカの医師たちのおよそ半数が医療用カナビスの合法化に好意的な見方をしています [19] 。また、ニュージャージー州について見れば、州内の11万人以上の登録看護師を代表するニュージャージー看護士協会が 「ライセンスを受けたヘルスケア専門家の看護のもとで、医師のすすめで患者さんが合法的に医療カナビスを使えるようにすることを支持する」 と表明しています [20] 。他にも10数州の看護師協会が同様の決議を行っています。

医師の監督下での医療カナビス使用については世論の支持も高く、アメリカの有権者のおよそ80%が処方医薬品としてカナビスを利用できるようにすることを支持しています。その中には両政党の固定支持層も含まれています。また、ニュージャージー州では82%の有権者が合法使用を支持しています [22] 。

いくつかの西側諸国の政府が実施した科学レビューでも、医療カナビスの合法使用を強く支持しています。例えば、1998年のイギリス上院科学技術委員会の報告書では 「政府は、医師に対して医療目的でのカナビスの処方を認めるべきであり・・・カナビスは一部の多発性硬化症患者の症状緩和やある種の痛みに有効であり・・・法の変更を正当化するのに十分な理由と言っても過言ではない」 [23] としています。

1999年に発効されたアメリカ医学研究所のレビュー (ホワイトハウス全国麻薬撲滅対策室の要請で行われた) では、「累積データは,カナビノイドには特に痛みの緩和や嘔吐および吐き気のコントロール、食欲増進などに治療効果のあることを示している」 [24] として、直ちに、医療的にカナビスを合法吸引できるようにした臨床対照実験の一つを認可するように政府に要請しています [25] 。

また、医学研究所は食品医薬品局(FDA)が認可した経口型合成THCであるドロノビノール(マリノール)の医療効果についても検証しています。その結論として、「生物学的医療効果が貧弱」 な上に発現も遅く、使用した患者の3分の1に 「不安、離人感覚、めまい、陶酔感、不快感、眠気など」 の副作用が見られたと指摘しています [26] 。著者たちは、多くの患者が合法な合成THCよりも、天然のカナビノイドまたはカナビスの吸引のほうが発現が早く、摂取量を自己調整することができて、不快感も少なく、概して治療効果も高いので好ましいと評価している、と書いています。多くの専門家は、天然のカナビス内に見付かっている多様なカナビノイドには相乗効果が働き、単一成分の合成THCよりも大きな効果を持っていると考えています [27] 。

もっと最近のものとしては、2002年にカナダ上院違法薬物特別委員会が作成したカナビスの医療効果に関する概要があります。その中で、連邦の規制を改正して、次のような病状の患者に対して医療目的のためにカナビスやその派生品を購入することもできるすべきだと勧告しています。その病状には、衰弱症候群、化学療法による治療、線維筋痛、てんかん、多発性硬化症、事故による慢性痛などをはじめ、片頭痛や慢性頭痛を含むような症状が上げられています。また、こうした状態の認定は、医師または当該地区の認定医療機関が公認した人が行うこととしています [28] 。現在、カナダでは、カナダ保健省が認定した天然のカナビス、または天然のカナビス抽出液スプレー・サティベックスのいずれかを合法的に選択できるようになっています [29] 。

現在、アメリカでは、アラスカ、カリフォルニア、コロラド,ハワイ、メイン、モンタナ、ネバダ、オレゴン、ロードアイランド、バーモント、ワシントンの11州で、認定を受けた医療カナビス患者が州の刑事訴求の対象とはならないことを規定した法律が施行されています。これらの法律は住民投票または議会での採決によって決まったもので、法が乱用されているようなことはほとんどありません。連邦会計検査院(GAO)が、アラスカやハワイ、オレゴンおよびカリフォルニアのいくつかの郡で調べた医療カナビス法の実施状況報告によれば、「連邦、州、地元の法執行機関から選んだ37機関で働く半数以上の担当者にインタビュー調査をしたところ、医療カナビス法の導入によって法執行活動に大きな支障は出ているようなことはないと答えている。さらに、連邦職員で、医療カナビス法が日常的に問題を起こしていると主張した者は一人もいなかった」 [30] と書いています。また、先のアメリカ化学アカデミー医学研究所などのレビューでも、医療カナビス法が青少年のカナビス使用リスクを増加させているようなことはないと結論づけています [31] 。

最後に、上院88号法案の目的が、一般のカナビス使用を容認するのとは次元が違うことを申し添えておきます。この法律は、カナビスが医療的に有用であると認識した患者や医師を保護し、医師と患者双方の尊厳とプライバシーを守る役割を担っています。すでに、ニュージャジーの州法では、コカインやモルヒネなど非医療的状況で乱用の恐れがある多くの規制薬物でも医療利用に関しては使用を認めています。これと同様の観点から、州議会は医療カナビスと他の規制薬物の間にある格差を是正すべきです。ニューイングランド医薬品ジャーナルに掲載された見解では、「立法府は、深刻な病気に苦しむ患者のために、カナビスの医療利用を禁止した法律を撤廃し、医師が患者の治療に使うかどうかを決定できるようにすべきである」 [32] と述べています。


参考文献

1   Mohomed Ben Amar. 2006. Cannabinoids in medicine: a review of their therapeutic potential. Journal of Ethnopharmacology 105: 1-25.

2   Ibid.

3   Roca et al. 2005. Cannabis sativa and dystonia secondary to Wilson’s disease. Movement Disorders 20: 113-115.

4   Ashton et al. 2005. Cannabinoids in bipolar affective disorder: a review and discussion of their therapeutic potential. Journal of Psychopharmacology 19: 293-300.

5   J. Ludovic Croxford. 2003. Therapeutic potential of cannabinoids in CNS disease. CNS Drugs 17: 179-202

6   Jeff Hergenrather. 2005. Cannabis alleviates symptoms of Chrohn’s Disease. O’Shaughnessy’s 2: 3.

7   Di Carlo et al. 2003. Cannabinoids for gastrointestinal diseases: potential therapeutic applications. Expert Opinion on Investigational Drugs 12: 39-49.

8   Hampson et al. 1998. Cannabidiol and delta-9-tetrahydrocannabinol are neuroprotective antioxidants. Journal of the Proceedings of the National Academy of Sciences of the USA 95: 8268-8273.

9   Manuel Guzman. 2003. Cannabinoids: potential anticancer agents. Nature Reviews Cancer 10: 745-755.

10   Carter et al. 2004. Medical marijuana: emerging applications for the management of neurologic disorders. Physical Medicine & Rehabilitation Clinics of North America 15: 943-954.

11   Pryce et al. 2003. Cannabinoids inhibit neurodegeneration in models of multiple sclerosis. Brain 126: 2191-2202.

12   Raman et al. 2004. Amyotrophic lateral sclerosis: delayed disease progression in mice by treatment with a cannabinoid. Amyotrophic Lateral Sclerosis and Other Motor Neuron Disorders 5: 33-39

13   Ramirez et al. 2005. Prevention of Alzheimer’s Disease pathology by cannabinoids. Journal of Neuroscience 25: 1904-1913.

14   Weiss et al. 2006. Cannabidiol lowers incidence of diabetes in non-obese diabetic mice. Autoimmunity 39: 143-51.

15   Jiang et al. 2005. Cannabinoids promote embryonic and adult hippocampus neurogenesis and produce anxiolytic and antidepressant-like effects. Journal of Clinical Investigation 115: 3104-3116.

16   American Public Health Association, Resolution #9513: “Access to Therapeutic Marijuana/Cannabis.” The resolution states, in part, that the APHA “encourages research of the therapeutic properties of various cannabinoids and combinations of cannabinoids, and … urges the Administration and Congress to move expeditiously to make cannabis available as a legal medicine.”
<American Journal of Public Health. March 1996, Vol. 86: 441-442>

17   American Nurses Association, June 2003 Resolution: “The ANA will… Support legislation to remove criminal penalties including arrest and imprisonment for bona fide patients and prescribers of therapeutic marijuana/cannabis."

18   AIDS Action Council, "Resolution in Support of Access to Medical-Use Marijuana," adopted by the Public Policy Committee of AIDS Action Council: November 15, 1996. The resolution states, in part, that the Council “supports the elimination of federal restrictions that bar doctors from prescribing marijuana for medical use by individuals with HIV/AIDS.”

19   Charuvastra et al. 2005. Physician Attitudes Regarding the Prescription of Medical Marijuana. Journal of Addictive Diseases 24: 87-93.

20   New Jersey State Nurses Association Press Release, March 25, 2002: "The NJSNA recognizes the therapeutic value and safety of medically recommended marijuana and ... supports legal access to medically recommended marijuana for patients in New Jersey who are under the care of a licensed health care provider."

21   CNN/Time telephone poll conducted October 23-24, 2002 by Harris Interactive.

22   Asbury Park Press. “Use of medical marijuana recommended to ease the pain.” March 27, 2006.

23   House of Lords Press Office. “Lords Say, Legalise Cannabis for Medical Use.” November 11, 1998. London.

24   National Academy of Sciences, Institute of Medicine. 1999. Marijuana and Medicine: Assessing the Science Base. Washington DC: National Academy Press. page 3.

25   Ibid. page 8.

26   Ibid. page 203

27   A. Holdcroft. 2001. Cannabinoids: from plant to patient. Investigative Drugs Journal. 4: 773-775. (See specifically: Abstract: "The active constituents of cannabis, predominantly cannabinoids and possibly flavonoids, are more effective than a single cannabinoid. ... Government ... clinical trials of cannabis ... should enable evidence to be presented to regulatory bodies documenting the medicinal uses of standardized cannabis plant material.")

28   Canadian Special Senate Committee on Illegal Drugs. 2002. Cannabis: Our Position for a Canadian Public Policy. Ottawa. Proposals for Implementing the Regulation of Cannabis for Therapeutic and Recreational Purposes, page 51.

29   Canada News Wire. “Sativex: Novel cannabis derived treatment for MS pain now available in Canada by prescription.” June 20, 2005.

30   General Accounting Office. 2002. Marijuana: Early Experiences With Four States’ Laws That Allow Use For Medical Purposes. Washington, DC, page 4.

31   National Academy of Sciences, Institute of Medicine. 1999. Marijuana and Medicine: Assessing the Science Base. Washington DC: National Academy Press. page 104.

32   Editorial: “Federal Foolishness and Marijuana.” January 30, 1997. New England Journal of Medicine 336: 366-367.