ドラッグの合法化が暴力を終わらせる

メキシコ国境の際限のない暴力と腐敗

Source: AlterNet
Pub date: 28 July 2006
Subj: How Legalizing Drugs Will End the Violence
Author: Norm Stamper
http://www.mapinc.org/norml/v06/n982/a09.htm


1960年代のはじめ、しばしば、サンディエゴからメキシコ国境に入り込んでティファナに行ったものだった。歳が若すぎて合法的に国境をこえられなかったので、仲間の運転する54年型マーキュリーのトランクに身を小さくして潜め、有名なブルーフォックスの店を目指した。そこでは、カルタ・ビアンカというビールやクエルボ・ゴールドというテキーラをあおって「大人の楽しみ」を満喫した。メキシコの国境地帯は安全で、無邪気に大人の自由や大人だけに許された楽しみをこっそり味わえるところだった。

しかし、すべては変わってしまった。

今では太平洋岸のティファナからメキシコ湾のマタモロスに至る国境地帯全域にはドラッグ・ギャングがあふれ、国境の両側で、警察官や兵士やドラッグ・ディーラーだけではなく、その家族や罪のない一般市民まで何千人もの人たちが暴力の犠牲になっている。その中にはメキシコ・カソリック教会の枢機卿すら含まれている。その他にも多くの人が行方不明になっており、殺されたと考えられている。

1990年代中頃は、アレラーノ兄弟のドラッグ・カルテルがティファナを牛耳ってメキシコのドラッグ密売組織の頂点に君臨していた。自動車や飛行機やトラックを使い、北米自由貿易協定(NAFTA)の貿易拡大策に乗じて、何百トンものコカインやヘロイン、マリファナ、覚醒剤をアメリカの都市に持込み、数十億ドルも稼ぎ出していた。

彼らはアメリカのドラッグ・ギャングも取り込んでいた。私がサンディエゴ副所長を務めていた最後の年の1993年には、地元のカール・トレンテがアレラーノの意向に加担し、ジョアン・ジーザス・パソダス・オカンポ枢機卿殺害に関与している。また、アラレーノは、違法な密輸をスムーズに行うために、国境の両側の取締り当局者を賄賂で取り込んでいた。その額はメキシコ側だけでも年間7500万ドルを越えている。

彼らのやり方は単に殺すだけではなく、それに拷問を加えるという残忍なものだ。スティーヴン・ソダーバーグが2000年に公開した 「トラフィック」 というアメリカとメキシコを結ぶ巨大な麻薬コネクションを描いた映画をみればその凄惨さに気持悪くなるが、実際のメキシコ・ドラッグ・シーンはさらに恐ろしい。

アレラーノ兄弟は敵対するギャングの子供と妻を誘拐し、橋の上から子供を放り投げる様子をビデオで撮影し、切り取った妻の頭と一緒に送り返したり、裏切り者の頭蓋骨を万力でつぶしたりしている。中でも、一家全員を古タイヤで囲んで焼いてしまうカルネ・アサーダ(メキシカンのバーベキュー)は残忍の極として知られている。

今週には、3人の警官を含む4人の遺体が毛布に包まれてティファナ郊外のロサリト・ビーチで発見され、4人の頭はティファナ市内に晒されるという事件があったが、メキシコのドラッグ取引の底流には、買収された警察や当局者の腐敗も絶えず、ギャングの維持と拡大を支える役割を果たしている。

それでも、現在では、アメリカ向けの違法ドラッグの最大供給地はコロンビアに取って代わられている。その利益は年間650億ドルに達しており、アメリカの連邦・州・地域の全警察官の給料をあわせても全然かなわない程にまでなっている。

ドラッグ・ギャングの親玉は、縄張りを拡大するために絶えず高性能の武器を求めて、アメリカ中の銃器ショー(gun show)に運び屋を送り込み1〜2丁づつ銃を仕入れさせている。

1994年には銃規制を掲げたブレイディ法案が成立したが、議会や大統領は自動ライフルを禁止対象にすることまではできなかった。このために、運び屋たちはその穴をかいくぐって、偽のアメリカ運転免許証といくばくかの金を手に、セミオートUZISやAR15、AK47などを持ち帰る。運び屋はたいていが困窮して行き場を失った者たちで、消耗品として扱われている。

先月6月には、テキサスの国境地帯にあるラレドと隣接したヌエボラレド市で、警察所長に就任したばかりのアレハンドロ・ドミンゲスがそうした銃器で殺害されている。彼は、怯える市民に懇願されてやむなく所長を引き受けただけだったが、就任式が行われた当日、窓を半透明にした3台のシボレー・バンに事務所を襲撃され、AR15自動ライフルの銃弾35〜40発を浴びて殺された。

メキシコのドラッグ・ギャングは、ドラッグと戦うために編成されたエリート特殊部隊が寝返ってギャングになったゼータスを筆頭に、史上最もよく組織され卓越した能力を持つ凶暴な殺人集団となっている。

アレラーノ兄弟のラモンは2002年2月に連邦警察に銃殺され、その1ヶ月後にはベンジャミンも逮捕されている。またもう一人のフランシスコも何年も刑務所に入れられているが、暴力は、組織の中心人物を捕まえたり殺したりしても終わることはない。違法ドラッグの世界では、何千という下層のドラッグ・ディーラーたちが、現在君臨している親玉が凋落して自分がその座につける機会を虎視眈々と狙っている。

このようにして暴力はどんどんエスカレートする。

メキシコの「ドラッグ問題」についてはさまざまな分析が行われているが、そこで指摘されている問題点はどれもが次の点に集約されている。多額の金と有名になる誘惑、ドラッグ・ディーラーになることでの貧困からの脱却、自分の縄張りを守り拡大するという企業家としての熱狂、とどまることを知らないアメリカのドラッグ需要、そして、警察官や当局者の共犯関係。

だが、欠けているものがある。禁止法自体が果たしている役割についての分析だ。

違法ドラッグは、違法であるが故に高額で取引されていることは明らかだ。ドラッグそのものはとるに足らない草(マリファナはカナビス、ヘロインは芥子、コカインはコカの木)に過ぎないし、覚醒剤にしても安価な医薬品から合成したものに過ぎない。それにもかかわらず、今日では、マリファナは金と同等の価値があり、ヘロインはウラニュウム並になっている。コカインにしてもその中間に位置している。

このようなドラッグに対するアメリカの禁止法は、かつてなかった広がりをもつ、拷問と殺人と汚職の国際産業を生み出してしまった。言い替えれば、メキシコの 「ドラッグ問題」 の源はアメリカにある。

問題解決の糸口は、今すぐに 「合法化」 することしかないのは明らかだ。

もちろん、自動車の運転時の使用や子供への供与を厳罰化する必要はあるが、すべてのドラッグを合法化して規制管理すれば暴力はすぐに収まる。その理由は、(1)ドラッグの価格が劇的に安くなる、(2)多大な行政資源を暴力の防止と治療に割り当てられる、(3)ドラッグ・ディーラーの商売を成り立たなくできる、からだ。商売しようにも、売るものがなく、利益も出ないとなれば、誰もやろうとしなくなる。

理想とすれば、カナダも交えてメキシコとアメリカが同時に禁止法を徹廃することだが、アメリカが単独でも、公共の安全や公衆衛生の改善を徹底的に継続的に推し進めていけば、やがて国境を越えて浸透していくはずだ。

メキシコ側では、2年前からビンセント・フォックス大統領もそうした理にかなった展望をかかげ、メキシコ議会も先頃4月にアメリカをモデルにしたドラッグ法の改める法案を通過させた。しかし、悲劇的なことに、ブッシュ政権は予想通りフォックス大統領に圧力をかけて撤回させてしまった。フォックス大統領の任期が切れる11月までは新たな進展は望めないが、議会側では再提案する構えもみせている。

メキシコ政府が厳格な規制とコントロールでドラッグを扱えば、再び、アメリカのツーリストを安全に招くことのできる国になるだろう。メキシコ国民にとっても、これまでのように、道理もなく勝てる見込みもないドラッグ戦争に対して際限なく費用の負担を強いられることもなくなるはずだ。

ノーム・スタンパー (Norm Stamper)

警察官として34年のキャリアを持ち、1994年から2000年まではシアトルの警察所長を務めた。その後は経験を生かして各種のコンサルタントやNOLRMやLEAP(Law Enforcement against Prohibition、禁止法に反対する警察官)の評議委員としても活躍している。

昨年は、警察の腐敗の構造を取り上げた著作も発表している。"Breaking Rank: A Top Cop's Expose of the Dark Side of American Policing" (Nation Books, 2005)

サンディエゴ州立大学では刑事裁判の管理について修士号、アメリカ国際大学でPh.D.を取得したほか、FBIの幹部養成機関も卒業している。学究実践派で、経験と学識に裏打ちされた講演や評論には他の人にはみられない説得力がある。

「間違いなく、ドラッグ戦争は、奴隷制以来、単独のものとしては最も破滅的で機能不全の政策になっている。」

「この数十年間に警察が関与した主な腐敗は、どれもがドラッグ取締りが原因となっている。」


ノーム・スタンパーは、LEAPのスピーカーとしてもよく知られている。

LEAPは、2002年に設立された団体で、現在のドラッグ政策が誤っていると考える現役および退役警察官を中心に、保護観察官、矯正官、裁判関係者、検察関係者、などで組織され、メンバーは3000人を擁している。全米各地に支部があり、講演や指導やアドバイスを行うスピーカーは常時100人を揃えている。講演会は毎日のように行われている。

LEAPは、(1)過去の歴史を示しながら、一般の人々をはじめ、マスコミ関係者、政治家に現在のドラッグ政策が間違っていることを伝え、(2)ドラッグ禁止法が引き起こしている警察官に対する社会の尊敬の失墜を回復することを通じて、暴力や腐敗や地下組織の一掃、ドラッグによる死亡事故や健康被害の害削減を目標としている。

「私は、秘密捜査官として12年間に何千人もの若者を刑務所に送り込んできた・・・しかし、現在ではそのことに一片の誇りも持てません。」 退役ニュージャージ州麻薬秘密捜査官ジャック・コール。

「狂気とは、結果が明らかになっていることを、別の結果が出ることを期待して何度も繰り返すことだ。」 というアルバート・アインシュタインの言葉をモットーに掲げている。

LEAPのサイト
LEAPのプロモーション・ビデオ (12分)。ノーム・スタンパーも出演している。