カナビス法改革の発議には

よく考え抜かれた草稿が不可欠


レスター・グリンスプーン
ハーバード大学医学部名誉教授

Source: Boston Globe
Pub date: 22 Nov 2007
Subj: Creating a Sensible Marijuana Law
Author: Lester Grinspoon M.D.
http://www.mapinc.org/norml/v07/n1348/a07.htm


およそ半数のアメリカ成人がカナビスを試したことがあり、使い続けている人の数も約150万人にまで増えている。こうしたカナビス使用の拡大はもは留まることはなく、子供たちの一時的な好奇心をドラッグ戦争で押し留めるようとするような単純な手法では通用しなくなっている。

アメリカでは、依然としてカナビスで逮捕される人は多く、その数は全ドラッグ事犯の44%を占めている。FBIの犯罪統計によると、2006年にカナビス事犯で逮捕された人はおよそ83万人で2005年よりも15%も増えている。また、カナビス事犯のうち10人に9人が単純所持で逮捕されている。

だが、逮捕される恐れが増大し、雇用側からの尿テストの要求も強くなり、また、アメリカ政府やそのパートナーであるドラッグフリー・アメリカによる嘘の情報が社会の隅々までいきわたっているにもかかわらず、カナビスを試したり、日常的に使うアメリカ人の数も増え続けている。

そのために多くの人々が実体験を通じて、カナビスの際立った毒性の低さや薬としての多芸多才ぶりに目覚める結果にもなっている。現在では、カリフォルニアを始めとする12の州でカナビスの医療使用を認める法律や発議が成立し、非犯罪化で少量所持を罰金だけで逮捕や服役なしで済ませる州も同じく12州になっている。

ここマサチューセツ州でも、カナビスの軽微な違反を非犯罪化することが議会での提案と住民投票による発議の両方で検討されている。発議については、州外のグループが中心となって必要な署名集めが進められている。確かに、軽微なカナビスの刑事罰をなくそうという彼らの目的には私も賛同できるが、しかし残念なことに、彼らが起草している発議の内容に関しては反対せざるを得ない。

発議の条文では、1オンス(28グラム)までのカナビス所持の罰則を100ドルの罰金に軽減することが提案されている。しかし、それと引き換えに、実質的に新たな罰則になりうる条項が設けられてしまっている。提案者はこの草稿を撤回して、もっと思慮深い言葉で書かれたものに置き換える必要がある。

新しく設けられた罰則は体内のカナビスの代謝物に関するもので、体液や髪の毛の中に代謝物が少しでも発見されれば告訴されうるものになっている。

しかしながら、カナビスの代謝物は他の多くの油溶性の化学物質と同様に、体外へ排出される速度が遅く、精神活性作用が消失した後でも長く残存する。例えば、土曜の夜にカナビスを吸った人が、素面で月曜の朝に尿テストを受けても陽性になってしまう。仕事の後で毎日アルコールを飲む人がいるように、毎晩のようにカナビスを常用している人ならば、カナビスを中断しても少なくとも1ヵ月は尿テストで陽性になる可能性がある。

現在のマサチューセッツの法律には代謝物まで取り締まる法律はなく、不活性のTHC代謝物が体内に発見されたという理由ではいかなる罰則も適応できない。体内に代謝物が存在していることは、必ずしもその時点でカナビスの影響下にあることを示しているわけではなく、単に過去にカナビスを使ったことを示しているに過ぎない。

修正を要する発議条項の第2の欠陥は、罰則を受けないカナビスの定義として、主要な活性成分のTHCが2.5%を越えないカナビス・サティバと規定していることだ。現在のカナビスの大半はTHCが8〜15%になっており、いかなる発議にしようとも、カナビスの定義としてはカナビス・サティバ植物の花と葉とだけ書いてTHCの%を制限すべきではない。

発議の想起者たちはこの不適切なカナビスの定義を補う代わりに、最も効力の強い純粋のTHCを最高1オンスまで非犯罪化するという言葉を使ってかわそうとしているが、おそらくこれでは、発議は現在の法律と同等になってしまって意図しない結果を招くことになるだろう。

このように、この発議の書き方では欠陥があり脆弱過ぎる。反対派は非犯罪化に反対するために、逆にこの脆弱性を悪用して住民投票に持ち込もうとする恐れすらある。

マサチュウセッツ州における成人のカナビス所持と使用を実効性のともなった条文で非犯罪化するためには、致命的な欠陥のあるこのような発議は拒否して、議会と協力して良い草稿を作り直すべきだ。2009年の始めまでにそれができなければ、成人がカナビスを責任を持って使用できることを確実に保証する別の発議を十分に考え抜いて用意するほうが望ましい。

この記事でグリンスプーン博士が問題にしている 発議 の条項は次のように書かれている。

"As used herein, “possession of one ounce or less of marihuana” includes possession of one ounce or less of marihuana or tetrahydrocannabinol and having cannabinoids or cannibinoid metabolites in the urine, blood, saliva, sweat, hair, fingernails, toe nails or other tissue or fluid of the human body."

「ここで使っている 「1オンス以下のマリファナの所持」 とは、マリファナまたはテトラヒドロカナビノールで1オンス以下を所持し、そして、カナビノイドまたはカナビノイド代謝物が人体の尿、血液、唾液、汗、毛髪、手の爪、足の爪、またはそれ以外の組織または体液に存在している状態を含んでいる。」

法律の条文は解釈が一義的でなければならないが、実際に、この文章にはさまざまな解釈が可能になっている。

まず、THCが1オンス以下という表現は何を意味しているのかわからない。THCが10%のカナビスならば10オンスまでOKということなのか、あるいは、クッキーなどにした場合にTHC1オンス換算までOKという意味なのか。

また、または(or)と、そして(and)を使って論理式を構成しようとしているが、言葉での論理式には常に不確実さをともなう。この英文では、(possession of one ounce or less of marihuana or tetrahydrocannabinol) and (having cannabinoids or cannibinoid metabolites in the urine,…) とも解釈できるし、無理すれば、(possession of one ounce or less of marihuana) or (tetrahydrocannabinol and having cannabinoids or cannibinoid metabolites in the urine,…) とも解釈できる。

また、前者で解釈しても、1オンス以下には 「0」 も含まれると考えれば、尿テスト陽性だけでアウトになる可能性がある。

グリンスプーン博士の警告は、カナビスのことをよく知らないで法律の条文だけをいじくりまわしたり、厳密な論理式を理解していない人が文章による一般的で曖昧な論理表現をしているととんでもないことになることを教えてくれる。

例えば、「AまたはBではない」 という文章では、「(A or notB)」 とでも 「not(A or B)」 とでも解釈可能だが意味は全くちがう。

また、代謝物の存在だけで告訴されうるというグリンスプーン博士の解釈が間違っていると指摘する人もいるが、仮りに博士が間違っていたにしても、少なくともそう解釈する人もいることを示しており、法律の一義性が確保されていないと言える。

アメリカでは、住民投票制度の 「イニシアティブ(発議)」 は州や市など地方レベルで導入されているが、連邦にはこのような制度はない。

イニシアティブは、有権者による条例の制定や修正・廃止などの提案を認める直接立法制度で、提案者が条例案を作成して、有権者の規定の署名数 (例えば、カリフォリニア州では前回の知事選の投票総数の5%) を集めれば住民投票が行われる。賛成が過半数を得れば、議会や知事や市長の意向に関わらず条例案は成立する。いったん成立した住民条例は、廃止を求めた住民条例によって覆されない限りは、議会でも5年間は廃止を決議することはできないようになっている。

このように、住民発議には強い拘束力があるので (請願書のような非拘束性の発議もあるが)、発議の条文の草稿は決定的に重要な意味を持っている。