医療カナビス運動の取り組みと展望


Source: Drug War Chronicle
Pub date: July 13, 2007
Subj: Medical Marijuana -- A Progress Report
http://stopthedrugwar.org/chronicle/493/medical_marijuana_progress_report


全国に広がる医療カナビス運動

10年余り前の1996年に、カリフォルニア州で215住民条例が通過し、医療カナビスの使用を認めた最初の州になった。それ以来、この流れはゆっくりとではあるが全国に広がり続け、現在では、適応内容の程度には差があるが、12の州で医療カナビスが合法化され、アメリカ国民全体のおよそ6分の1に相当する5000万人が医療カナビス法を持つ州に住んでいることになる。

太平用沿岸地域では、カナダとメキシコの国境にはさまれたワシントン、オレゴン、カリフォルニアの3州と、アラスカとハワイで医療カナビスが合法化されている。また、中西部では、コロラド、モンタナ、ネバダに加えて、今年、ニューメキシコが合法化された。サウスダコタでは昨年、住民投票が実施されたが、賛成48%で僅か2%足りず承認されなかった。その他の地域では大西洋北部沿岸のメイン、ロードアイランド、バーモントが合法化されている。だが、コネチカットでは、先頃、議会は通過したものの共和党のジョディ・リル知事の拒否権で成立を阻まれた。

少し大袈裟な言い方になるが、現在の状況は、ハートランドと呼ばれる中央部の伝統的な保守地域を東西から挟むように医療カナビス運動が広がっている。州議会レベルでは、イリノイ、ミノソタ、ミズリー、ニュージャージー、ニューヨークが承認手前までこぎ着けている。また、ミシガンでは医療カナビス発議による住民投票が予定されているほか、いくつかの州でも同様の住民投票の実施を目指して活動が続けられている。


連邦政府の妨害

こうした動きに対して連邦政府は医療カナビスに反対する立場を堅持し、司法省と麻薬局(DEA)が、特に、カリフォルニアを中心に患者や医療カナビスの供給者への嫌がらせを続けている。これは、カリフォルニアの医療カナビス215条例では、適応疾患の制限が最も緩く、多くに人に広範囲に使われていることが理由になっている。

DEAは、時には医療カナビスに敵対的な郡当局と地元警察と一緒になって、医療カナビスのディスペンサリーの手入れを長年続けている。今週には、DEAがロスアンジェルス地区のディスペンサリーの店舗を貸している大家に手紙を送り、ドラッグの密売組織に店舗を提供し続けて犯罪行為に加担しているとみなされる場合は、財産を没収すると脅していることも明らかになった。

また、ホワイトハウス麻薬撲滅対策室(ONDCP)は、医療カナビスを審議している州議会や住民投票を考えている州に対して、定期的に人材を送り込んで阻止活動を続けている。さらに、食品医薬品局(FDA)と保健社会福祉省(HHS)はDEAに協力して、医療カナビスに有利になる結果が出ないようにするために、考え付くありとあらゆる手段を駆使して独立系の医療カナビス研究を行わせないように画策してきた。


医療カナビス推進側の反撃

一方、このような政府の妨害に対して、医療カナビス推進側でもさまざまな方向から反撃を繰り広げている。連邦議会で医療カナビス関係として最も顕著な動きは下院のヒンチー・ロールバッハー修正法で、医療カナビスが合法化されている州で患者や供給者の取り締まりに使われている連邦の財源の支出を禁止することを目指している。

ヒンチー・ロールバッハー修正法に関する聴聞会と投票は、ここ2週間に実施されることが予定されている。今年の可決については悲観的な見通しになっているが、マリファナ・ポリシー・プロジェクト (MMP) を始めとする支持グループは、少しでも過半数に近づけようと懸命な努力を続けている。

また、連邦政府の強硬な姿勢に対しては、3件の法的異議申し立てが起こされている。

  • マサチューセッツ大学アマースト校のライル・クラカー博士は、サイケデリックス多分野研究連盟 (MAPS) と ACLUドラッグ法改革プロジェクト の支援を受けて、政府が独占している研究目的での医療カナビス栽培体制を打ち破ろうとDEAを訴えている。今年の2月には、DEA行政法判事が、クラカー博士の要求を 「公共の利益に合致している」 とする 判決 を下している。この判決に対しては、DEA側が控訴している。

  • 医療カナビス擁護団体の アメリカン・フォー・セーフアクセス (ASA)は、攻撃は最大の防御という鉄則そのままに、「カナビスには医療的な価値は見出されていない」 と主張しているHHSとFDAを訴えている。ASAはそれまでの2年間、当局に再三申し入れを行ってきたが無視されてきた。

    この訴訟は、政府機関が適正な科学的データに基づいて政策決定をするように強制しているデータ品質法という余り馴染のない法律を使って、嘘の主張を正すために多額に出費を強いられているとして、今年の2月に起こされた。連邦裁判所では、先日、政府側の訴訟自体を破棄することを求めた意見陳述が行われた。ASAの意見陳述に対する略式裁判は来月に予定されている。

  • カナビスの研究者で活動家のジョン・ガットマン博士は、2002年に、規制薬物法の第1区分に分類されているカナビスをもっと規制の緩い第3区分以下に格下げすることを求めた 申し立て を行っている。規制薬物法では、第1区分のドラッグは医療的な価値がないと規定されている。政府側は、この申し立てを受理しておきながら何年にもわたって返事を保留してきたが、今月には何らかの反応が出される見込みになっている。


グループによる取り組みの違い

当然のことながら、医療カナビスへの取り組みにはさまざまな側面があり、同じ問題を扱っていても、それぞれのグループが必ずしも同じ見方をしているわけでもない。

MPPと同様にカナビス禁止法の撤廃を求めているグループとしては NORML があるが、どちらも医療カナビスに限らず嗜好用途など全般を対象にしている。これに対して、ドラッグ・ポリシー・アライアンス (DPA)は、カナビスだけでなくドラッグ全体の法改革に取り組んでいる。一方、医療カナビスのみに焦点を絞って活動しているのがASAや ペイシェント・オウトオブタイム (POT)で、患者の保護や治療を目的に掲げている。

驚くにはあたらないが、各グループ間には戦略的合意があるわけではなく、戦術的にも大きな違いがある。例えば、州レベルと連邦レベルのどちらに重点を置くか、住民投票による条例化と議会での立法のどちらを好ましいと位置付けているか、活動の顔としてどのような人物を前面に出すかなど、さまざまな面で差がある。また、いくら州レベルで成果を上げてもそれはあまり重要ではなく、連邦レベルの改革がなければ実質的な意味がないという議論すらある。


州と連邦で最もアグレッシブに政治にアポローチするMPP

州レベルと同様に連邦議会でも勢力的な活動を続けるマリファナ・ポリシー・プロジェクト(MPP)のダン・バーナス副広報官は、連邦レベルでの働きかけをしてこそ意味ある結果が得られるとして、「ここ2週間ほどの間にヒンチー・ロールバッハー法案の採決が行われると見込まれていますが、われわれはそれまでに20票を上乗せすることを目標に活動しています」 と話している。

しかし、20票の上乗せが実現したとしても、昨年の投票で得た票は163しかなく、確実に下院を通過させるために必要な218票にまだ20以上の隔たりがある。「正直に言って、今年は無理だろうと考えていますが、将来への足掛かりを作り続けることが重要です。政治家にとっては、政治的に安全であると見えるようになるほど賛成しやすくなるからです。」

バーナス副広報官は、ヒンチー・ロールバッハー法案が連邦のカナビス法そのものを変えるわけではないとしながらも、「司法省が、医療カナビス法を持つ州の患者さんや供給者を追訴するための財源を失えば、患者さんを100%守ることができます」 とその意義を強調している。


医療カナビスの特化して連邦政府をターゲットに活動するASA

アメリカン・フォー・セーフアクセス(ASA)もヒンチー・ロールバッハー法案を支持してはいるものの、即座に、この法律で守られるのは医療カナビスが合法化されている州だけに限られているとも指摘している。

ASAのクリス・ヘルメス広報官は、「確かに、ヒンチー法案には、ドラッグ法の改革に取り組んでいるグループや支持者たちを医療カナビス問題に結集させるものがありますが、それですべてが解決するわけでもありません。残念ながら、法案で保護できるのは12州だけで、その他の州の医者や患者や介護者にとってはほとんど何もかわりません」 と語っている。

「ASAは、連邦に対する訴訟のほうがもっと確実な成果があると考えています。クラカー博士の裁判でDEAの判事が出した判決が、医療カナビスのさらなる研究を支持する声になって拡大してきていますし、われわれがHHSとFDAを訴えている裁判で勝つことができれば、カナビスには医療的な価値はないと主張している政府の立場に初めて圧力を加えることができます。」


医療コミュニティの教育に力を注ぐPOT

ペイシェント・オウトオブタイム(POT)は患者指向のグループで、目先の政治的成果よりも中期的な展望に基づいた活動を中心に据え、一般市民だけでなく、特に医療関係者に対する医療カナビスの教育に力を注いでいる。

アル・バーン広報官は、「法律を変えて患者さんが医療カナビスを使えるようにしようとしている多くの運動の戦略には同調していますが、戦術的な面ではいつも賛成できるわけでもありません」 と話す。

「将来を導く運動については、政治のロビイストや司法関係者や政治家などではなく、教育者が担う必要があります。州を一つづつ押さえていくのも価値はありますが、やがて無駄が多くなって成果のペースは鈍ってきます。われわれは、医療コミュニティがカナビスを薬として受け入れるまでは、本当の意味での変化は訪れないと考えています。」

POTでは、2000年から、医療コミュニティの内外の科学者や研究者や専門家が集まってカナビス治療の最新の話題を討論するカンファレンスを開催している。第5回カナビス治療臨床カンファレンス は、来年の4月にカリフォルニアで開かれる予定になっている。


ドラッグ全般の害削減を目指すDPA

ドラッグ・ポリシー・アライアンス(DPA)は、国のドラッグ戦争が社会や個人に益よりも多くの害をもたらしているとして、カナビスに限らずすべてのドラッグを合法化して規制管理することを求めている。

基本には、他人に迷惑にならない限り自分の体に何を入れるか決める主権は個人個人にあるとして、その上でドラッグの乱用とドラッグ禁止法の双方からもたらされる害を最大限減らすために、科学、思いやり、健康、人権などに基づいた政策への転換を目指している。そのために、活動は、除草剤散布による環境破壊の問題から若者のドラッグ教育、政治的なロビー活動など幅広い。

医療カナビスへの取り組みは必ずしも全体の中心にはなっていないが、関係する人数が多いこと、ドラッグ全般への教育活動の入口になること、広報に役立つことなどから常に一定の活動が続けられている。

また、ドラッグ全般の合法化を求めているグループとしては、DPAのほかにも LEAP がよく知られているが、現在のドラッグ政策が誤っていると考える現役および退役警察官を中心に組織されているLEAPの場合は、暴力や警察の腐敗や地下組織の一掃などに焦点を絞っており、医療カナビスへの目立った取り組みがない点でDPAとはかなり異なっている。


連邦のカナビス法改革と教育活動に軸に活動するNORML

NORML(National Organization for the Reform of Marijuana Laws)は、カナビス禁止法を撤廃するために人々の意識を高める全国的な活動を展開している。組織されたのは1970年で、カナビス擁護グループとしては最も古い。

嗜好利用のカナビス・スモーカーの声を通じてカナビスの法改革を目指しているが、当初から医療カナビスにも熱心に取り組んでいる。1972年に、カナビスの医学研究の足かせになっている規制薬物法のカナビスの分類の変更を求め始めてから、その流れは、かつてNORMLで事務局長を務めたジョン・ガットマン博士によって、現在も引き継がれている。

教育活動にも熱心で、特に、カナビスの医学研究の情報提供は群を抜いている。また、ペイシェント・オウトオブタイム(POT)も、NORMLのカンファレンスから生まれたことが知られているように、活動に加わる医療関係者も多い。

しかし、活動全般はカナビス・スモーカーの視点からさまざまなカナビス問題に取り組みことが基本になっている。そのために、政治的なロビー活動や医療カナビス運動を中心にしたものではなく、各種の広報・情報提供活動、法律のセミナー、さらに各支部での独自の活動の支援などを通して若い活動家や研究者の養成など幅が広いことが特徴になっている。


住民投票と州議会での立法の違い

MMPのバーナス副広報官は、州レベルで勝利を重ねることは無駄ではなく、連邦レベルでの変更を勝ち取るためには、より多くの州を医療カナビス陣営に引き込む必要があると言う。「より多くの州が医療カナビス法を持つようになれは、連邦政府も無視できなくなって変化が起きます。」

そのために、MPPは、州の医療カナビス法の通過に向けて、住民投票と州議会の両面から努力を続けていくことにしている。今年は、イリノイ、ミネソタ、ニューハンプシャー、ニューヨークの各州議会で医療カナビス法案を牽引してきた。「来年には通過させて、別のところに移れるでしょう。」

DPAもコネチカットとニュージャージーの州議会での医療カナビス法案の成立に力を注いできたが、エサン・ネルドマン代表は、住民投票よりも議会での活動のほうが努力に対する見返りが大きいと指摘する。

「議会に対するキャンペーンも費用がかかりますが、住民投票ほどではありません。さらに、費用のかからない膨大なメディアを使って宣伝できるというメリットもあります。医療カナビスを認知してもらうには、一般に人たちへの教育が重要な部分になりますから、より多くのメディアを通じて、より頻繁に見聞きできたほうが望ましいわけです。」

これに対して、MMPのバーナス副広報官は、現在ミシガン州の住民投票条例が決まっており、さらに、その他の州でも計画中だとして、「世論調査では、アリゾナやアイダホ、オハイオなどが有望です」 と語っている。

「この辺が、MPPとDPAの哲学が若干違うところです」 とDPAのネルドマン代表は言う。「もちろん、ミシガンの住民投票が勝利をおさめてくれれば大いに助かりますが、問題は財源や人材の配分なのです。個人的な意見ですが、一つの州での住民投票にすべてのリソースを集中させて勝利しても、それだけの価値があるか疑わしいと思うのです。」

また、NORMLのアレン・ピエール事務局長は、医療カナビス法を住民投票で承認した場合と州議会で成立させた場合の違いについて次のように語っている。

「議会通じてできた法律は適応範囲が非常に狭く利害関係者が少ないので、州の連邦議員の力関係にまで影響することはないのですが、住民投票の場合は非常に多くの利害関係者が絡んでいますので、影響が広くおよび、州の連邦議員にまで影響を与えます。」

「このことは、誰がヒンチー・ローラバッシャー法案を支持しているか見ればわかります。最も支持が強いのが、カリフォルニアやワシントンやオレゴンといった西部およびロッキー山脈沿いの州で、医療カナビス法が住民投票で成立したところの代表たちなのです。」

「一方、議会で医療カナビス法が成立した州では、医療カナビスに断固反対していた警察関係者との間でも余りトラブルが起きていません。議会で成立した州では、警察もそのプロセスに加わっていますから、彼らは自分たちの意見を言うことができるわけです。結果が思い通りにならなくても、少なくともテーブルにはついているという自覚があるわけです。ところが、住民投票で成立した州では、不満を持った警察は単に医療カナビス法を無視するようになります。」


今後の進展

11年前、医療カナビス法で守られた患者は一人もいなかったが、現在では5000万人のアメリカ人が医療カナビス法を持つ州に住んでいる。まさに状況は変わった。

しかし、一方では、2億5000万人のアメリカ人が、依然として医療カナビス法の保護のない州に暮らしていることにもなる。南部や中西部の州でもそれなりの動きはあるものの、現在、その地域で医療カナビス法を持っている州は一つもない。ここ数年間で進展はみられたが、そのペースは痛ましいほど遅い。だが、来年には、いくつかの州議会で医療カナビス法が検討課題として取り上げられそうで、変化が期待できる。

また、連邦レベルでも、次の選挙で民主党が勢力を拡大し議会をよりコントロールするようになれば、事態は変わってくるかもしれない。しかし、この節目の時期を向かえて連邦政府に変化が起こるとすれば、3件の訴訟のいずれかで勝利が確定し、それをテコにどこか一つ州で住民投票または議会で医療カナビスに禁止に終止符を打った場合だろう。このシナリオが最もありそうで、またそれが唯一のものかもしれない。