揺れるカナダのカナビス政策

カナディアン・アンビバレント・カナビス・ペンデュラム

Source: Toronto Star (Canada Ontario)
Pub date: 25 Aug 2007
Title: Is It Or Isn't It? The Pot Pendulum Swings Again
Auther: Lynda Hurst, Feature Writer
http://www.mapinc.org/norml/v07/n999/a02.htm


かつてないほど多くのカナダ人がカナビスを愛好するようになっている一方で、政府は新しいドラッグ戦争を開始しようとしている。この動きには、過去何十年にも渡ってこの国がカナビスに抱いてきたアンビバレント感情がよく表れている。

今週、カナダ保健省のトニー・クレメント大臣は、連邦の反ドラッグ・キャンペーンを近々開始するという声明を発表した。

大臣は、「控えめに言っても、子供たちに送ってきたこの数年間のメッセージは混乱し矛盾に満ちたものだった」 と述べ、特にカナビスの政策議論については、「カナビスを合法化すべきか否かという混乱した議論に全世代を巻き込んできましたが、善良な市民のみなさんに改めて注意を喚起します。カナビスは合法化すべきべではありません」 と語った。

確かに、混乱したのは若者だけではない。過去30年間、カナダの政界も、カナビスの所持を非犯罪化 (注:合法化ではない) すべきかどうかを巡って賛否が入り乱れ、行きつ戻りつを繰り返してしてきた。


カナビスを好むカナダ人

しかし、カナダ人のカナビスに対する気持ちはずっと昔から決まっている。ポルスター・タイムスの世論調査では、過半数を越える人が所持の罰則が厳し過ぎると繰り返し回答している。多くのカナダ人にとってはもう議論は終わっている。カナビスを好み、現実に吸っている。 実際、先月国連が発表した報告書によれば、15才から64才までのカナダ人のカナビス使用率は16.8%で、先進工業国では最も高くなっている。

カナビスはカナダの若者文化で大きな位置を占めている、とトロントにあるオズグッド・ホール・ロースクールのアラン・ヤング教授は言う。「しかし、さらに重要なことは、ユーザーの50%が30才以上だということです。すべての年齢層、すべての階層に及んでいます。中央政府はこの事実に対する認識が欠けており、気付いていても無視しているのです。」

また、身近なカナダ人の中でも犯罪歴を持っている人は多い。それは、60〜70年代にカナビスの所持で逮捕されたからだ。そんな人が現在60万人以上もいる。 元バンクーバー市長のラリー・キャンベル上院議員は、「そうした人たちは現在では、教師や法律家、医者、あるいは親として毎日社会に貢献している人々です。しかし、過去に貼られたレッテルのせいで、国境を行き来するにも嫌な思いをさせられているのです」 と話している。


再度のため息を誘う新しい反ドラッグ・キャンペーン

現在の保守政権は、詳細や時期については触れていないが、新しい反ドラッグ・キャンペーンに6400万ドルを拠出することを決めている。

「しかし、これはイデオロギーに根ざしたもので、害をもたらすことになります」 とドラッグ法の改革を目指している カナダ・ドラッグ政策ファウンデーション の弁護士で犯罪学の教授でもあるユージン・オスカペラ氏は言う。

教授は、国連の報告書ので、何十年も前からカナビスを非犯罪化しているオランダの使用率が6.1%でしかないと書かれていることをあげて、「刑事法を強化してもカナビスの使用をやめさせることはできないのです。合法化しても使用者が増えたりしないことは、オランダを見ればわかります」 と指摘している。

アラン・ヤング教授からもため息が漏れる。「これまでも、非犯罪化をめぐっては厳格な議論が再三おこなわれて好意的な決定も下されてきたわけですが、その度に覆されて逆の政策が取られてきたのです。」

実際、レダイン委員会が、単純所持の刑罰は序々に終結させべきだと結論を出したのは1972年の昔に遡る。報告書には、そもそもカナビスを犯罪化するのに、「科学的な判断が行われたことを示す証拠がない」 と書かれている。


1970年前後から逮捕者が急増

確かに、カナダでカナビスが違法化された1923年には、実際にはカナビスがどんなものか知られておらず、議会でも何も議論が行われないままに適当に阿片&ドラッグ法に組み入れられてしまった。

この契機になったのが、1922年に、カナダの女性で初めて判事で初期のフェミニストでモラル保守として知られたエミリー・マーフィーが書いた 『ブラック・キャンドル』 という本で、「カナビスには、人を暴力や殺人の偏執狂にしてしまうような危険で邪悪な魔力がある」 というアメリカの情報をそのまま反映したホラーになっていえる。

しかしながら、カナビス所持で初めて有罪判決が出たのはその14年後のことで、アメリカで「リーファー・マッドネス」キャンペーンが最も盛んに行われて、カナダにもその影響が入り込んできた時期だった。だが、その後もあまり逮捕者はなく、1960年代初頭までで100人にも満たなかった。

やがて、中流階級のカウンター・カルチャーの若者がカナビスを使うようになり、1970年代の始めには逮捕者は年間で1万人を越え、2000年までには3万人に達するまでになった。


非犯罪化法案とアメリカの脅し

2002年には、議会の上下両院のそれぞれの委員会が、さまざまな専門家やロビイストから幅広く意見を聴取し、下院の委員会は、カナビスの単純所持の刑罰が不釣り合いに厳しいと結論を出している。

また、上院の委員会は、カナビスがハードドラッグのゲートウエイになることはなく、「科学的証拠は、カナビスの害がアルコールよりもはるかに少ないこと圧倒的に示している。・・・カナビスは刑事犯罪として取り扱うべきものではなく、公衆衛生の問題として扱うべきである」 とする 報告書 を出している。

2003年には、リベラル政権が、15グラム以下の所持を前科にならない罰金刑にする非犯罪化法案を提出している。しかし、この動きは直ちにアメリカ政府の批判を呼び起こし、もし法案が通過したならば、カナダ人のアメリカ入国は厳重なセキュリティ・チェックを受けることになり、待ち時間も非常に長くなると脅してきた。

これに対してオスカペラ教授は「全くの偽善」だとして、アメリカの12州ではすでに1オンス(約28グラム)以下は罰金扱いになっており、そのうち11州は1970年代中頃までに制定されたものだと指摘している。

2004年当時、保守党のリーダーだったステファン・ハーパー代表は、非犯罪化には反対だが、「5グラム以下の所持については、懲役のない罰金刑にすることも考えている」 と述べていた。しかし、2年後の2006年に政権についた途端にリベラルな法案を葬り去った。

「アメリカへのへつらいであることは、おそらく間違いありません」 とオスカペラ教授は言う。


医療カナビスが禁止法を破滅に追い込む

一方では、カナダの所持法はもはや正当な根拠がないという裁判所の判断が続いている。先月には、トロントにあるオンタリオ裁判所が、医療目的で3.5グラムのカナビス所持して訴えられた男性に対して、医療カナビスの法的曖昧さを内包した現在の法律は憲法違反であるとして無罪を言い渡している。

この混乱は、2001年にカナダが世界に先駆けてカナビスの医療利用を認めたことに始まっている。現在では、4000人あまりのカナダ人が、痛みなどの症状の緩和のためにカナビスを所持または栽培することが許可されているが、現政権は、カナビスの医療使用など眼中にないようで、カナビス法を自分の政策に適合するように変えようとはしていない。

こうした状況について、ハーバード大学医学部の名誉教授で医療カナビスの研究者として知られるレスター・グリンスプーン博士は、最終的には「カナビスの医療使用が禁止法を破滅に追い込んでいくのです」 と語っている。

近年では、イギリスを始め、ベルギー、イタリア、ポルトガル、スペインなどのヨーロッパ諸国がすでにカナビスの個人使用を非犯罪化している。だが、カナダは再び押し戻された、とアラン・ヤング教授は言う。

「ですが、この状況は、再び石を転がり落とすだけのために、丘の頂上に石を押し上げているようなものです。」