NORMLの提言
解決策はカナビスの違法状態の解消
国連NGO北米フォラーム Beyond 2008
Source: California NORML.
Pub date: February 3, 2008
Subj: NORML Statement to UN NGO Consultation on Narcotic Drugs
Author: Dale Gieringer, Ph.D.
http://www.canorml.org/news/UN-Vancouver%20Relse.htm
2008年2月4日〜5日カナダ・バンクーバーでは、ウイーンNGO麻薬委員会 が主催する国連NGO北米フォラーム 『Beyond 2008』 が開催された。出席の機会を得たNORMLからはカリフォルニアのデール・ギーリンガー理事が参加したが、フォーラムに先立ってNORMLの主張をまためた次のようなプレス・リリースを発表している。
|
現在、アメリカには数百万人のカナビス・ユーザーがいますが、直接または間接的に国連の単一条約から悪影響を受けています。私たちNORMLはカナビス・ユーザーの代表の一つとしてカナビス法の改革に取り組んでいます。
これまでは私たちのような団体が、国連などの機関が開催する会議には参加することは認められたことはありませんでしたが、今回その扉を開けて私たちを招いてくださったことにはとても感謝しています。国連の経済社会理事会(UN Economic and Social Council)の方々が 「市民社会との対話を促進し協力していく」 という認識を示してくれたことに対しては、効果的な政策を策定するための基本として心から賛同するとともに称讃します。
国連の目標達成は不可能
1998年に開催された国連総会特別部会(UNGASS)では、2008年までに、カナビス・コカ・オピウムの違法栽培ならびに向精神薬の違法製造およびそれらの流通・売買を 「根絶または大幅に削減」 するという目標を掲げましたが、最近の状況を見れば、刑事禁止法で違法カナビスの需要と供給を根絶することも大幅に削減することももはや達成不可能であることは明白です。
アメリカでは目標に対して何の進捗もないのはデータからも明らかです。SAMHSA [1] の報告によれば、違法ドラッグを最近1ヶ月以内に使ったアメリカ人の数は、1998年には1360万人でしたが、2006年には50%増加して2040万人に増えています。また、同時期のカナビス・ユーザー数も1100万人から1480万人に増えています。
過去10年間のカナビス栽培も記録的に上昇を続けています。1998年には、アメリカの行政当局によって除去されたカナビス植物は250万本でしたが、2005年には420万本に達しています [2]。また、特にカリフォルニア州では、2007年に除去された本数は290万5021本で、1998年の13万5960本から20倍以上も急増しています [3]。さらに、近年では、アメリカのカナビス生産量は着実に増加し、2006年には1000万kgで358億ドル相当にもなっています [4]。
しかも、こうした増加は、カナビス事犯での逮捕者数や服役者数が記録的なレベルで上昇している中で起こっています。アメリカの逮捕者数は、1998年の68万2885人から2006年には82万9627人になっています [5]。また、服役者数も1997年の3万9000人から2004年には4万4000人に増えています [6]。
過去10年間のこのような数字は、およそ1世紀にもわたる厳格なカナビス禁止政策にもかかわらずカナビスの使用が大幅に増加していることを示しており、反カナビス政策が慢性的な失敗を繰り返してきたことを如実に物語っています。
カナビス合法化による恩恵
私たちNORMLは、以上のような歴史を顧みれば、国連の目標であるカナビスの違法供給と需要問題の根絶の失敗に対する唯一の実際的な対応としては、カナビスの違法状態そのものを解消する以外にないと確信しています。
少なくともカナビスに関しては他のドラッグよりも安全性が高いというユニーク特徴がありますから、違法状態の解消によってもたらされる利益は、悪影響によるマイナスの可能性よりも大きくなることが期待できます。
カリフォルニア州のリサーチ諮問委員会も、「社会や個人に与える害は、カナビスのほうがアルコールやタバコよりも少ないことが客観的な検証によって示されている」 と報告しているように [7]、カナビスの毒性が極めて低いことや、合法なものも含めて他のどのドラッグよりも中毒性が少なく、ハードドラッグ乱用の 「ゲートウエイ」 にならないこと、さらに 「麻薬」 とは言えないことは、多くの科学的な研究で一貫して確かめられています。
こうした点を考慮すれば、他人に害を与えないカナビス・ユーザーを犯罪者として逮捕したり起訴したりすることは、それによって得られるいかなる利益よりも社会・経済的コストのほうが上回ることになります。
そうしたコストには、処罰によって生じる個人や家族への害、被害者のいない事犯で逮捕・起訴する社会経済コスト、また単に人間として自由に生きる権利だけではなく、国連の人権宣言で謳われている基本的人権・法の下での平等・思想信条の自由などの侵害なども含まれています。
大人の個人使用目的でのカナビスを完全に合法化してアルコールと同様に課税のよる規制管理を実現すれば、コスト以上の恩恵が得られます。合法化政策による恩恵とすれば次のようなものが上げられます。
- 違法栽培や流通に関係する犯罪やギャング行為の除去
- 行政、裁判、投獄にかかるコストの削減
- 違法栽培による環境へのダメージの回避
- 多額の税収によるドラッグ乱用の治療や防止教育などのサービスの充実
- 他人を害しないユーザーを犯歴負担から開放
- カナビスを代替として奨励することによるヘロインやアルコール中毒などの害削減
- 医療カナビスや産業用ヘンプの持っている市場経済可能性の最大実現化
NORMLの使命と国連条約
カナビス法改革を掲げるNORMLの使命の中では、特に、刑事罰則なしに成人が合法的にカナビスを入手する権利の実現を中心に据えていますが、私たちの見解とすれば、この使命は、国連が掲げるカナビスの違法供給と需要から発生する問題の除去という使命と矛盾するものではないと考えています。
しかしながら、その実現方法については、禁止法ではなく法的な規制管理という違いがあります。私たちの方法では、特に次のことに重点を置いています。
- カナビスの個人使用に対する刑事罰廃止 (1961年の単一条約とは矛盾しないが、1988年の麻薬および向精神薬の違法取引に関する条約とは矛盾)
- 医療カナビスと産業用ヘンプの合法化 (現在の国連条約下でも可能)
- アルコールと同じような課税と市場の規制管理による一般成人のカナビス使用の合法化 (現在の国連条約下では不可能)
NORMLではまた、カナビスの使用にともなうリスク削減の研究も支持しています。特に、カナビスの吸引にともなう呼吸毒性による害を回避できる無煙バポライザーの研究開発を支援しています [8]。
ただ遺憾なことに、私たちが現在進めているバポライザー研究がアメリカの規制当局によって妨害を受けています。私たちの研究は食品医薬品局(FDA)の正式な認可を受けたものですが、ドラッグ乱用研究所(NIDA)から実験に使う少量のカナビスの供給を拒否され、やむなく研究用カナビスをオランダから少量輸入しようとして麻薬局(DEA)に許可申請しましたが、これも拒否されています [9]。
活発化するカナビスの非犯罪化・合法化を求める動き
アメリカでは、連邦政府がいまだに破綻しているカナビス政策にしがみ付いていますが、州や地方レベルにおいては、カナビス使用に対する罰則を軽減する動きが活発化してきています。
国連の決議が行われた1998年以降だけでも、ネバダ州(2001)、カリフルニア州メンドチーノ郡(2000)、ワシントン州シアトル市、ミズリー州コロンビア市、コロラド州デンバー市(2005、2007)、カリフォルニア州サンタバーバラ市とサンタモニカ市(2006)、アーカンソー州ユーレカスプリング市(2006)、モンタナ州ミズーラ市(2006)、アイダホ州ヘイリー市(2007)、マサチューセッツ州の30以上の選挙区(2000〜2006)などで、成人のカナビス使用の非犯罪化を求める法案や住民投票が通過しています。
また、カリフォルニア州のオークランド市(2004)、サンフランシスコ市(2006)、サンタクルズ市(2006)、メンドチーノおよびフンボルト郡(2007)、マサチューセッツ州の第1ハンプシャー選挙区(2004)では、成人のカナビス使用を完全に合法化して課税による規制管理するように連邦政府に求める決議が通過しています。
こうした政策はどれもが民主的なプロセスで賛成多数の支持を獲得して成立したものですが、連邦政府側は、現在の国連条約の遵守を理由にその要求を拒んでいます。
国連の条約は変更が必要
NORMLではこうした流れを受けて、カナビスを違法な麻薬として分類している国連の条約の変更し、アルコールなどの合法ドラッグと同様に、それぞれの地域の政策に従ってカナビスを合法的に生産・販売することができるようにすることを主張しています。
特に、1988年の麻薬および向精神薬の違法取引に関する条約で、個人使用目的でドラッグの所持・売買・栽培に対して署名国に刑事罰の適応義務を定めた条項について撤廃することを強く主張しています。
この条項に関しては、ドラッグ・ユーザーとその家族の生活を直接脅かすもので、条約自身が強制している 「基本的人権の尊重」 に矛盾するばかりではなく、ドラッグ依存症を健康問題として対処しようとする考え方を根底から否定する不当なものになっています。
医療カナビスの使用と供給の進展
アメリカでこの10年間で特筆すべきことは、カナビスの医療使用が飛躍的に受け入れられるようになったことです。1996年にカリフォルニア州で医師の推薦を受けた患者さんが医療目的でカナビスを所持・栽培することを認める条例が成立しましたが、それに続いて1998年以降では、オレゴン、アラスカ、ワシントン、ハワイ、ネバダ、モンタナ、コロラド、メイン、バーモント、ロードアイランド、ニューメキシコの11州でも同様の医療カナビス法が制定されています。
現在では、30万人以上のアメリカ人がこれらの州法の保護のもとでカナビスを医療利用しているほか、各種の調査では、アメリカ全体の潜在患者数は数百万人になると見積られています。医療カナビス法の制定に当たっては、若者のカナビス使用を誘発するという反対派の主張もありましたが、カリフォルニア州の若者のカナビス使用率は制定後の10年間で少しずつ減少を続けています [10]。
またこの10年間でカナビスの医療効果に関する研究が進んで、HIV、多発性硬化症、癌、慢性痛などを始めとする疾患に有効であることを示すエビデンスが劇的に増えています。しかしながら、連邦政府はカナビスには医療価値がないとして規制薬物法の第1分類の位置付けを変えず、たとえカナビス以外に痛みや苦痛を取り除くこともできない重度の患者であっても法的に受け入れることを認めずに拒み続けています。
ですが、連邦法では認められていないにもかかわらず、カリフォルニア州ではこの10年間に医療カナビスを配布する準合法的なシステムが目覚ましい勢いで確立されつつあります。現在カリフォルニア州だけでも、300軒以上の医療カナビス・ディスペンサリー、協同組合、患者グループ、宅配サービスが、医師の推薦を受けた患者にカナビスを供給するようになっています。
連邦法に違反しているとはいえ、医療カナビス・ディスペンサリーに正式なライセンスを与えて規制管理する自治体も増えてきています。これらのディスペンサリーは合法的なビジネスとして認知され、地代や家賃を払い、従業員を雇用し、失業や医療保険を提供し、州や自治体の規則に従って税金とライセンス料を支払っています。
カリフォルニア州の医療カナビス市場の経済的価値全体は、年間で8億7000万ドルから20億ドル、税収の可能性も1億ドルを越えると見積られています [11]。
連邦政府の医療カナビス研究妨害
このようにカリフォルニア州ではカナビスの供給者を法的に受け入れるようになってきていますが、連邦政府はそれらを犯罪組織として扱うことをやめず、この10年間に医療カナビスの供給者を何度となく強制捜査して逮捕と起訴を繰り返してきました。しかし、1998年当時は10軒にも満たなかったディスペンサリーの数は、現在ではその数十倍の規模にまで急増しています。
連邦政府は、医療カナビスの禁止を正当化するために、正当な科学的評価を行っていない根拠を主張し続けています。その一方で、医療的な効果を研究するにはまず食品医薬品局(FDA)の承認が必要だと言いながら、最終的には、研究を妨害して行わせないようにしています。
実際、マサチュセッツ大学アマースト校では、民間の医療カナビスの研究開発に必要なカナビスを栽培する目的でFDAに認可申請したのですが、研究を支援するための生産者のライセンスを得るためには見本になるカナビスの提出が必要だと言われ、今度は、見本を栽培しようとして規制薬物の管理権限を持つ麻薬局(DEA)に申請しましたが拒絶されています。
現在、アメリカで合法的にカナビスを栽培しているのはミシシッピー大学のみで、ドラッグ乱用研究所(NIDA)との契約下で政府の農場で栽培していますが、NIDAはFDAが許可した研究にしかカナビスを提供しないと明言しています。従って、FDAの研究許可の間口を広げるには、民間で合法的にカナビスを供給する栽培者がライセンスされる必要があります。
このように、アメリカ政府はマサチュセッツ大学の施設にライセンスを与えることを拒むことによって、実質的にカナビスの医療研究を妨害しているのです。しかしこのやり方は、単一条約にも明記されている 「麻薬は痛みや苦痛の軽減のために不可欠なことには変わりなく、当該条項は、そのような目的での麻薬を利用すろことに関しては別に扱わなけければならない」 という宣言にも違反しています。
DEAは、医療カナビスのライセンスを制限する理由として、民間による栽培が単一条約の28条に抵触ことを上げています。この条項は医療用のカナビスの生産を政府機関の監視下で行うことを要求していますが、その政府機関がNIDAだと主張しています。しかし、2007年2月の行政法判事メリー・エレン・ビッツナイー裁判官は、こうしたDEAの主張を退ける判決を下しています。ですが、DEA側はその判決を受け入れるかどうかについて未だに何の決定もしないまま放置し続けています。
修正が必要な単一条約28条
単一条約28条に関しては、カリフォリニア州の医療カナビス生産・配布システムとも対立する関係になっていることにも注目しなければなりません。現在のカリフォルニア州のシステムでは、市場による民間の業者の競争がベースになっていますが、単一条約では、医療目的のすべてのカナビスは政府機関がコントロールすることを強制しています。
このことは、政府機関がすべての生産物を物理的に所管して流通させることを要求していることになりますが、少なくともカナビスに関しては経済的にも品質的にも適切な方法だとは言えません。この方法では、価格競争が起こらず、不必要な官僚主義を招き、製薬会社による多様なイノベーションを阻むことはもちろんですが、カナビス特有の性質についても考慮することも重要です。
カナビスには、各種のカナビノイドを始めとしてテレピノイドやフラボノイドなど医療効果を持つ多様な成分が含まれていますが、その含有割合は品種によってさまざまに変化します。つまり、患者の病状によって最適な品種が異なる可能性があるわけですが、政府機関による独占ではこうした多数の品種に対応することは望めません。
従ってNORMLでは、単一条約に関しては特にこの28条の政府によるコントロール条項の修正して、医療カナビスをどう扱うかについては、産業用ヘンプと同じように、それぞれの国の決定に委ねるようにすべきだと考えています。
NORMLの提言
私たちNORMLは、今後の10年間を見据た国連のカナビスをコントロール戦略として、現在の禁止による方法から合法化して規制管理する方向へと転換することを提言します。そのためには、特に次の3点が重要だと考えています。
- 個人のドラッグ使用を犯罪として扱うように強制している1988年の条約の撤廃
- 医療カナビスの供給を政府機関だけに制限している単一条約28条の撤廃
- カナビスを違法な麻薬と位置付けている国際条約を撤廃して、アルコールやタバコと同様に合法的な売買を認め、課税による規制管理を可能にすること
違法なカナビス使用から発生する諸問題の根絶または顕著な削減という国連の目標は、私たちが提言しているこうした変更を実施することによってのみ初めて達成が可能です。
2008年2月3日
デール・ギーリンガー, Ph.D.
NORML理事会副委員長
カリフォルニアNORML代表
2215-R Market St. #278, San Francisco CA 94114
引用文献
|
Single Convention on Narcotic Drugs, 1961 1961年、麻薬に関する単一条約
Convention on Psychotropic Substances 1971 1971年、向精神薬関する条約
Convention against the Illicit Traffic in Narcotic Drugs and Psychotropic Substances, 1988 1988、麻薬および向精神薬の違法取引に関する条約
それぞれの内容や関係、問題点、改正の可能性については、次のプレゼン資料に分かりやすくまとめられている。 国連ドラッグ規制3条約の概要