カナビスが社会不安障害を和らげる

Source: newkerala.com
Pub date: 19 April 2008
Researchers probing genes, drugs, brain scans to find better anxiety treatments
Arranged by Dau, Cannabis Study House
http://www.ukcia.org/news/shownewsarticle.php?articleid=13361


現在のところ、社会不安障害や不安障害で薬を投与している人のうちのおよそ半数は十分な効果が得られていないと言われているが、医師にとっても、患者に処方した抗不安薬が効くのか効かないのか確実に予想する方法が用意されているわけでもない。

こうした現実の中で、ミシガン大学医学部の研究チームは、脳の活動と遺伝子と薬の間にある結びつきを調べることによって、医師と患者がもっと確実に不安の治療ができるようにする方法について研究を進めている。

ルーアン・ファン医学博士は、かつて所属していたシカゴ大学の同僚のハリエット・デウィット博士たちとともに、たまにカナビスを使う程度の16人オケージョナル・ユーザーを対象に、ファンクショナル磁気共鳴画像法(fMRI)で脳スキャン画像を撮影して、とても興味深い特徴が現れることを発見した。

神経科学ジャーナルの3月号に掲載された論文によると、実験では、被験者にカナビスの主要な活性成分であるTHCと活性のないプラセボを与えて、社会的コミュニケーションのシグナルになる各種の感情顔写真を見せながら脳のスキャン画像がどのように変化するのかTHC群とプラセボ群の違いを比較した。

結果は、脳の恐怖感や感情記憶に関係する扁桃体と呼ばれる部分の活性がTHC群ではほぼゼロになることが示された。このことは、新しい抗不安薬の開発に当たっては、脳内のカナビノイド・システムが重要なターゲットになることを意味している。


この脳スキャン画像とグラフは、恐怖感がプラセボ群に比較してTHC群で大きく減ることを示している。
Researchers look at cannabinoids, genes, medicines and brain scans to find better anxiety treatments


従来の磁気共鳴画像法ではなく最新のファンクショナル磁気共鳴画像法を用いたのは、被験者が怒りや恐怖の表れた顔写真を見たり意思決定をするときに、脳のどの部分が最も活性が高くなるかをリアルタイムで調べることができるからだ。

その結果、THCを投与されたカナビス・ユーザーでは、プラセボのカナビス・ユーザーに比べて 「恐怖に直面した顔」 に対する脳の反応が、特に危険や警告を処理して応答する扁桃体部分で低いことが見出された。一方では、非感情的な視覚シグナルや身体の動きを制御している脳の部分には違いがみられなかった。

このことは、THCには、恐怖を処理する脳の特別な部分に特別な影響を及ぼす働きがあることを示している。別の研究者たちも、脳内でCB1と呼ばれるカナビノイド・レセプターが豊富な場合に恐怖の記憶が薄らぐことを見出している。

もともとは、脳のカナビノイド・レセプターに作用するのは体内で生成されたエンドカナビノイドと呼ばれる化合物で、恐怖の学習や不安の制御に関係していると考えられているが、THCなどの外部生成されたカナビノイドも同じレセプターに作用するために、上手く使えば恐怖や不安を制御できることになる。

今回の実験では倫理上の理由からカナビス・ユーザー以外にはTHCを投与できないために規模が小さいが、THCが扁桃体のCB1・レセプターに作用する様子が明らかになったことで、新しい抗不安薬の開発目標として大いに期待できることを示している。

実際には、THCなどのカナビノイドが脳にどのような作用を及ぼすのかについてはまだほとんど分かっていないが、THCの作用を研究することは、人間の行動にとってキーとなる3分野、つまり、関係する脳の部位、機能の仕方、神経科学物質についてのカナビノイド・システムを総合的に調べることを意味している。

「カナビスの研究は、新しい医薬品を開発する上での新しい道を示しています。われわれは、この道をさらに探索していく必要があります。」

今回の論文:
Cannabinoid Modulation of Amygdala Reactivity to Social Signals of Threat in Humans K. Luan Phan, et al., Journal of Neuroscience, March 5, 2008, Vol. 28, No. 10, 2313-2319

カナビスが不安障害を緩和すること自体は古くから知られていることで、今回の研究で初めて言われたことではない。特に、戦争体験のストレス、家庭内暴力、レイプなどのトラウマで起こるPTSD (心的外傷後ストレス障害) の緩和には経験的にカナビスが広く使われてきた。

このメカニズムを最初に解明したのがドイツの ジオバンニ・マルシカーノ で、2003年のことだった。彼のチームは、音に続けて足に電気ショックを与えて恐怖感を植え付ける装置を使い、音が聞こえると恐怖で硬直するようにマウスを条件付けしてから、今度は音だけで電気ショックを与えないようにした。

すると、普通のマウスはやがて条件付けから開放されて音を聞いても恐怖を示さなくなったが、カナビス・レセプターCB1のないノックアウトマウスは開放されることはなく、いつまでも恐怖に怯えた。

このことから、CB1レセプターに作用するエンドカナビノイドには恐怖感を消し去る働きがあること明らかになり、PTSDや恐怖症は、CB1レセプターが少ない場合やエンドカナビノイドの量が適切でないことが原因していると考えられるようになった。

今回の研究は、マルシカーノの実験をさらに進めたもので、最新の脳スキャン装置を使って関係する人間の脳の部位とメカニズムをピンポイントで示すことに成功したことになる。

カナビスとPTSD、脳内シグナリング・システムと作用メカニズム

カナビス反対派は、古くから、その理由の一つとしてカナビスで記憶が失われることを上げているが、今回の実験でも示されたように、少なくともカナビスには不安や嫌な記憶を忘れさせてくれる有難い作用があるわけで、彼らはそのことにまで反対しているのだろうか? 

そうだとすれば恐ろしいことだ。