疑陽性が多過ぎる現物ドラッグテスト
現行キットの暫定使用禁止が必要
Source: Drug War Chronicle, Issue #575
Pub date: 6 March 2009
Citing Startling Research on False Positive Drug Tests, Researchers Call for Moratorium on Field Drug Test Kit Testing
http://stopthedrugwar.org/chronicle/575/field_drug_testing_kit_false_positives
3月3日の午後、ワシントンDCのナショナル・プレス・クラブはしばらく化学ラボのような有様になった。マリファナ・ポリシー・プロジェクト(MPP) が主催する コンファレンス で、科学者や研究者たちが、現物ドラッグテスト・キットを使ってどのような物質が疑陽性反応を示すかを次々 に実演してみせた。
現物ドラッグテストは、尿検査とは違って、問題となっている商品など物質にカナビスなどのドラッグが混入していないかを検知するために行われるもので、実験には、警察などで広く採用されているキットが使われた。
実験室用の白衣とゴム手袋を身につけたサウスカロライナ・バイオテクノロジー・センターのクリシュナ・アッダンキ博士が、オレガノのサンプルをテストキットに入れるとコカインに陽性の反応を示した。また、別のキットでは、開封して空気に晒しただけでオレンジ色に変色してコカイン陽性になってしまった。隣で解説していたミントウッド・メディア・コレクティブのアダム・エイディガー氏は、「ただの空気だけですよ」 と念を押していた。
今回のプレス・カンファレンスで行われたテストの実演は、以前の調査で、余りに多くの品々がドラッグを含んでいるという陽性結果を返してくるのに驚いた研究者たちの実験を再現したものだった。
この実験を行ったバイオテクノロジー・センターのオマール・バガスーラ博士は、「カナビスを含んでいない42種類の商品についてKN試薬テスト・キットの特性を調べようとしていたのですが、何と70%が偽陽性だったのです」 と言う。それを聞いたエイディガー氏は、「全くひど過ぎる!」 と大声を上げた。
この研究の成果は、法医学の専門家であるジョン・ケリー氏によって、『偽陽性は偽正義』(False Positives Equal False Justice) と題する報告書にまとめられた。この新しい報告書の作成にあたっては、元FBI麻薬課の主任科学者であったフレデリック・ホワイトハースト博士も協力している。
報告書では、「警察、検察、裁判官など使われている詐欺的な法医学のドラッグテスト体制がアメリカ憲法の諸権利を踏みにじっている」 ことを明らかにしたとケリー氏はエグゼプティブ・サマリーに書いている。
「警察官、法医学分析官、検察官たちは、欠陥があると分かっていながらデュケノス・レバインやKN試薬テストを採用し、確定的ではない警察の報告書だけで、数多くの人たちをカナビス法違反で不当に起訴し有罪にしている。」
「こうした不当な起訴や有罪は最高裁の判決に背くものであり、不正確が手順や、特定されていないテスト器具の使用、あるいは推論にもとずく報告書では押収物質にカナビスが入っていたことを証明することはできない。つまり、何百万人もの人々が、カナビスを所持していたという確定的な証明もなしに、カナビス事犯で起訴され有罪にされ続けていることになる。」
こうした現実を踏まえてカンファレンスでは、現在の現物ドラッグテストの使用を暫定的に中止するように呼びかけている。「警察当局は、現実を知り、欠陥のあるこれらのテスト・キットを自発的に使かわないようにする義務がある。当然のことながら、無実の人々を守るという基本的な要求は、時には正確な結果も返してくるというだけのドラッグテストの利便性よりも重視されなければならない」 とケリー氏は書いている。
こうした結果を総括して、カンファレンスの主催者のMPPのロブ・カンピア代表は、「政策勧告という意味では、非常に単純です。欠陥のあるドラッグテストは誰も使うべきではなく、廃棄すべきだということです。おそらく製造会社の仕事はなくなるでしょうが…」 と言う。
「例えば、天然の石鹸、チョコレート、新聞紙などの家庭日用品でさえ、カナビスやGHBなどのドラッグの陽性反応を返してくるのです。しかし、たとえそうした欠陥のあるキットであっても、逮捕や起訴のために国中で使い続けられています。当然のことながら、われわれの社会では、有罪が証明されるまでは無実だと扱われるのが原則です。ところが、これらのドラッグテストは逆になっているのです。」
フォレンシック・ソース社 の子会社で、今回の調査対象にもなったNIKナルコポーチ 908/909キットを製造している ODV社 には、カンファレンスの終了までにコメントしてくれるように要請したが返事はなかった。キットのパッケージには疑陽性になることもあるといちおう警告が書かれてはいるが、たとえ陽性になってもその多くが間違っているとは書いていない。
現物ドラッグテストの疑陽性で人生を狂わされた人も少なくない。伝説のパンクバンドのドラマーとして知られるドン・ボレス氏は、ドクター・ブロナー・マジックソープ社の人気商品であるオルガニック石鹸を使ったことでGHB陽性になり、2007念4月に逮捕されて3日間投獄された。使われたキットは、今回テストに使われたのとは別のナルコポーチ928で、様々な種類の天然の石鹸ばかりではなく、豆乳にすら疑陽性を返してくる。
名門女子大として有名なブリンナー大学の優等生であるジャネット・リーさんも、不正確な現物ドラッグテストの犠牲者で、2003年のクリスマス休暇で実家に帰ろうとしてフィラデルフィア空港で逮捕された。3本のコンドームにストレス緩和用の粉末製剤を詰めて持っていたのを、コバルト・チオシアン塩ドラッグテストでコカインとされたためだった。
弁護士がドラッグの再テストを要求して3週間の投獄ですんだが、20年の懲役の可能性もあった。2年後、彼女はんは和解のために市から18万ドルを受け取ったが、いまだに投獄されるのではないかというカフカ的な悪夢に悩まされ続けている。
それでもリーさんは幸運だった。看守がボランテアをしていたことを覚えてくれていて、あちこちと良い弁護士を探してくれたのだった。彼女のような幸運に恵まれる人は少ない。彼女のような伝手がない人は、有罪になるか、あるいはドラッグテストの欠陥を突くことで無実を獲得しようと試みるしか道は残されていないからだ。
昨年の8月に起こったロン・オバディア氏とナディン・アルテミス氏に対する欠陥ドラッグテスト事件は、広く報道されてよく知られている。
彼らは、リビング・リバーション社の共同オーナーで、自社の製品であるチョコレートがデュケノス・レバイン・カラー・ケミカル・テストでハシシ陽性となってトロント空港で逮捕された。別々の部屋で椅子に手錠でつながれて何時間も尋問を受けた。それぞれは、相手方はもう白状していると言われ、認めないと一生涯刑務所送りだと脅された。
その後のラボ・テストで、実際にチョコレートにはハシシが入っていないことが証明されて自由の身になったが、2万ドルの弁護費用がかかった。しかしそれだけでは終わらなかった。3週間後に再びアメリカにチョコレートを持って行こうとして、またもやドラッグテストで陽性になり、今度はオバディア氏がハシシの所持で逮捕されてしまった。
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カンファレンスのビデオ: False Positive Drug Tests Exposed (YouTube.)