アルコール、ニコチン、コカイン中毒

には共通した遺伝子群が介在している


Source: ScienceDaily
Pub date: 16, Mar 2009
Common Genes Tied To Alcohol, Nicotine, Cocaine Addictions
http://www.sciencedaily.com/releases/2009/03/090310142912.htm


何十年もの間、どのようにしてドラッグ中毒が引き起こされるのか探索が続けられてきたが、それは砂漠で針を見つけようとするものだった。だが遂に、ある特定の遺伝子群が、アルコールやニコチン、コカイン、オピオイド、ヘロインなどさまざまなドラッグの中毒に強く結び付いていることが突き止められた。

ネイチャー・レビュー・ジェネティクス誌(Nature Reviews Genetics)の2009年4月号に掲載された画期的な論文の中で、バージニア大学ヘルス・システムとミシガン大学の中毒専門家たちは、ここ数年で中毒関連の遺伝子の理解に際立った進展があったことを報告している。

論文の共同執筆者でバージニア大学医学部の精神医学と神経行動科学教授のミング・リー博士は、「いままで中毒研究者たちは、いくつかの遺伝子が多重ドラッグ中毒に関連していることを見出していますが、われわれは、特定の遺伝子の的を絞って調べました。正確な遺伝子の種類やその分子メカニズムがピンポイントで分かるようになれば、さまざまなドラッグに中毒した人の治療をいままでよりもはるかに効果的で、場合によっては個人に特化してできるようになります」 と語っている。

論文は、中毒遺伝子研究に関する総合的なガイドにもなっている。リー教授ともう一人の共同執筆者でミシガン大学の精神医学とヒトゲノムの教授であるマーギット・ブルメイスター博士は、アルコール、カナビス、コカイン、ヘロイン、ニコチン、オピオイドの中毒に関係した11種類の染色体上のゲノム配列のサマリーを図解で提供している。


染色体上のゲノム配置。アルコール、カナビス、コカイン、ヘロイン、ニコチン、オピオイド中毒のピーク時またはその間隔での関連遺伝子の配置。その関連性は、丸が「顕著しい」、四角が「示唆的」を表している。これらの関連は、少なくとも2種類以上のドラッグに中毒している人に対する独立した研究から決定している。
A summary of chromosomal locations  (University of Virginia Health System)


リー教授は、「複数ドラッグ中毒のピーク時に特定の染色体のゲノム配置を比較することで、それぞれのドラッグに対する遺伝的な脆弱性を確定することができます。配置は、オーバーラップしていたりある部分が重なったりしています」 と言う。彼はさらに、アルデヒド・デヒドロゲナーゼ、GABRA2、ANKK1、ニューレキシン1および3などの数種の遺伝子が多重ドラッグ中毒と関連していることがすでに示されていると指摘している。

将来的には、CHRNA5, CHRNA3 および CHRNB4群などに焦点を当てた研究も有望だとしている。「遺伝子種類の正確が特徴やその働きに関しては依然としてよく分かっていません。そうした機能面での研究だけではなく、民族的なサンプルでの解析も非常に有益だと思われます。」

今回の論文:
New insights into the genetics of addiction,  Ming D. Li & Margit Burmeister, Nature Reviews Genetics, 2009; DOI: 10.1038/nrg2536

Adapted from materials provided by University of Virginia Health System

「遺伝子」は遺伝を決定づける物質で4種類のDNA塩基で構成されている。ヒトのDNAは約30億の塩基対から成り、3〜5万種の遺伝子があると言われている。遺伝子の最も重要な働きは受精細胞から臓器などを作り出すことだが、病気などの多くも遺伝因子が関与していることが明らかになっている。

その中で、多因子遺伝病と呼ばれる疾患は、複数の遺伝子と環境要因の相互作用により発症するもので、例えば、複数の関連遺伝子の中でそのいくつかを持つことで病気に罹りやすくなる。つまり発症には遺伝子個数の閾値を越えるような脆弱性の存在が問題になる。

ドラッグの中毒もこれと同じで、中毒関連遺伝子の数が多いほど脆弱になるリスクが高くなりやすい。つまり、同じ量のドラッグを摂取しても中毒になる人とならない人がいるのは、その人がどれだけ中毒遺伝子を持っているかに関係していることになる。

染色体は、いわば遺伝子のコンテナで、ヒトは1から22番までの番号がついた染色体22対(常染色体)とXまたはYの性染色体を持っている。染色体は縄のような形状をしているが、中毒遺伝子はその特定の場所に配置されている。上のサマリー図の番号は染色体番号とその位置を示している。


アルコールやニコチンが中毒を引き起こしやすいことはよく知られているが、上のサマリー図でもアルコールやニコチン中毒関連の遺伝子が非常に多いことが示されている。

これに対して、カナビスの中毒遺伝子は非常に少なく、その配置も端に偏っている。このことからも、カナビスは、少なくとも単独で使った場合にはは中毒になり難いことが分かる。