ポルトガル

全ドラッグ非犯罪化で害削減に成功

Source: Vancouver Sun
Pub date: 18 April 2009
Portugal's Experience Shows Decriminalization Can Work
Author: Peter Mcknight
http://www.mapinc.org/norml/v09/n435/a10.htm


メキシコでのドラッグをめぐる暴力が急速に顕在化するのにともなって、メキシコやアメリカの政治家の一部にはドラッグの非犯罪化こそが解決策だと主張する人も出てきた。


非犯罪化が何をもららすのか

そうした政治家たちによれば、非犯罪化することによって政府は、供給源の削減ではなく需要の削減に力を注いで、資金を法執行から治療に振り向けることができるようになる。その結果として、ドラッグ使用による害の削減が達成できると主張する。

一方、厳罰支持者たちはその反対のことが起こると言う。非犯罪化はドラッグの使用がOKだというメッセージを送ることになって、ドラッグの使用と関連する害を増やすことになると主張する。

こうした議論はこれまでに何万回も繰り替えされてきたが、問題はいずれの場合も過去に十分な実証経験が知られておらず決め手に欠けるという点にある。実証的な証拠が示されなければ、非犯罪化の効果についても疑いが残ることは当然のこととも言える。

そして多くの人たちは、自分だけが浮いてしまわないように、大きな害が起こるという無難そうな意見に傾くことになる。


実在する実証的証拠

だが実際には、実証的な証拠は実在している。世界でも最も秘密扱いにされているようにも思われるが、ポルトガル(人口1000万人)では2001年にすべての違法ドラッグの所持に対する非犯罪化が公式に行われている。 この実験からは、非犯罪化によるポジティブな影響を示す実証的な証拠が数多く得られている。

ワシントンのケイトー研究所の憲法学者であるグレン・グリーンワルド氏は最近、ポルトガルのドラッグ政策についての 調査レポート を発表しているが、ポルトガルでは非犯罪化以降、ドラッグ関連の病気が減ったばかりではなく、ドラッグの使用そのものも減少したと報告している。

こうしたポルトガルの結果は、ドラッグ法の緩和や非犯罪化に反対している人たちの主張とは全く逆になっている。


過去に深刻なドラッグ問題を経験

過去に深刻なドラッグ問題に悩まされていた点ではポルトガルも例外ではなかった。とくに1990年代には毎年のようにドラッグ関連の死亡者数が増加している。国は専門委員会を設立してドラッグ政策をどうすべきか議論を重ね、その結果が1998年にまとめられた。

提出された報告書では、ドラッグの使用を犯罪として扱っているために資金が治療に向かわずに中毒からの回復を求める人たちを阻外する結果を招いていると強調している。

中毒者たちは、刑務所に送られる恐怖感からいっそう地下に潜行するようになるだけではなく、治療よりも刑務所のほうが社会的な費用が高くなるとして、違法ドラッグの使用と乱用を減らすためにすべてのドラッグを非犯罪化することを勧告している。

2000年には連邦政府の閣僚会議が報告書に添った政策を発表し、2001年7月1日から新しい法律が発効した。この法律では、売買目的は刑事犯罪として残す一方で、個人使用目的に限っては、ヘロインやコカイン、向精神薬も含めたすべてのドラッグの所持を非犯罪化している。

現在では、個人使用目的での所持は行政事犯として扱われ、警察はチケットを発行するだけで逮捕はできないようになっている。チケットを切られた違反者は、心理学者、ソーシャル・ワーカー、法律アドバイサーの3人で構成される審査会に出向いて罰金や治療の強制などの制裁措置が決められる。だが、実際は大多数(83%)が、その後の経過を見るという措置にとどまっている。


非犯罪化で全体の使用率・生涯経験率が減少

グリーンワルド氏は、ポルトガルの政策の効果を見るために、まず最初に変更前と変更後の統計を比較している。その結果、「ほぼすべてのドラッグにおいて、非犯罪化以前の1990年代のほうが非犯罪化以降よりも全体の使用率・生涯経験率が高くなっている」 と結論を書いている。

これまでに一回でも使用経験があるかを示す生涯経験率の減少は、ドラッグに初めて手を出しやすい15〜19才のグループばかりではなく、多くの年齢層で共通して見られる。

従って、少なくともポルトガルに関しては、非犯罪化によってドラッグ使用が増加するという恐怖は幻に過ぎなかった。


他国との比較でも顕著な差

だがメリーランド大学の犯罪学者であるピーター・ロイター氏は、ポルトガルで非犯罪化が行われた時期が世界的にカナビス使用が減った時期に重なっているので、それが影響している可能性もあると指摘している。

当然、このことについてはグリーンワルド氏も承知しているので、ポルトガル国内での使用率の変化を比らべるだけではなく、他の国と比較することも忘れていない。その結果、非犯罪化後のポルトガルの状況は他のEU諸国のモデルになるほどの差が出ている。

例えば、カナビスはEUでも最も多く使われている違法ドラッグになっているが、2001年から2005年の統計では、ポルトガルのカナビス生涯経験率はEUで最も低くなっている。これに対して多くの国の率は2倍、3倍になっている。また、2番目の多く使われているコカインについても同様で、ポルトガルの生涯経験率はもっとも低い部類に属し、下から6番目になっている。




また、最もドラッグに手を出し始めやすい高校生年代のグループに限ってコカイン生涯経験率をみると、ヨーロッパ全体が4%なのに対してポルトガルは1.6%にしかなっていない。これは、将来にわたってコカインのよる問題が大きくならないことを示している。同じ結果は、ヘロインやアンフェタミンのような害の大きなドラッグについても出ている。

さらに、ポルトガルのドラッグ使用率は、カナダやアメリカなどのEU諸国以外に比べてもずっと低くなっている。特にアメリカの場合はドラッグ戦争に多大な力を注いでいるにもかかわらず、コカインの使用率は世界一で、カナビスについても極めて高くなっている。その値は統計的な桁が違うとまで言われている。


非犯罪化で治療プログラムが充実

非犯罪化がドラッグの使用を促すという反対議論は限りないほどなされているが、非犯罪化によってドラッグに関連した病気が減るという主張に対してはポルトガルの結果は次のようになっている。

グリーンワルド氏の報告によると、非犯罪化で治療プログラムの資金が増加して、解毒用のベッド数、治療コミュニティ、社会復帰施設などの数が増えている。また、ドラッグ・ユーザーが意欲を新たにしてドラッグ代替プログラムに参加するようになり、その数は1999年の6040人から2003年には1万4877人と147%も増加している。

ドラッグによる病気の被患率や死亡率についても期待通りの結果が得られている。ポルトガルは、1999年にはドラッグの注射によるHIVの感染率はEUでも最も高い国に属していたが、2001年の非犯罪化以降は新規の感染数が毎年のように減り続けている。B型やC型肝炎についてもそれなりに減少している。

ドラッグ関連の急性死亡者数については、1989年から上昇が続き1999年には400人にまで増えた。しかし、非犯罪化以降は下がり始めて2004年には200人を下回るまでに下がっている。政治家たちの間では、こうした形勢の逆転は、非犯罪化によって迅速な初期対応が可能となり、より良い治療を提供できるようになったためだという見方で一致している。

(確かに、2005年から再び増加する傾向も見えて、2006年には290人になっているが、データの出所が違うことが影響している可能性もある。いずれにしても1999年のレベルよりもずっと低いことには変わりはない。)



ブギーマンは存在しない

今では、ポルトガルの政治家で非犯罪化を子供をさらうの鬼(ブギーマン)だというような人はもはやおらず、どのような政治信条の持ち主であってもほぼ全員が非犯罪化政策を支持している。

だが、他の国の政治家には同じことは言えず、特にポルトガルの言うことに最も耳を傾けなければならない国ほどその傾向が強い。グリーンワルド氏も、アメリカのドラッグ政策の総元締である麻薬取締政策局(ONDCP)は、他のこととは違って、ポルトガルの経験については全く沈黙して何も語たろうとはしないと指摘している。

確かに、ドラッグ戦争の戦士にとっては自分の存在理由を正当化する必要があるために、ポルトガルの経験をまともに受け付けようとはしないだろうが、だが、アメリカの勇気ある政治家の一部にはドラッグに対する政策を根本的に見直すべきだと考える人も出てきているので希望はある。

非犯罪化がポジティブが結果をもたらす証拠が示された現在では、政治家が存在もしないブギーマンで社会の恐怖を煽ってドラッグ戦争の支持を取り付けるようとすることはもはや許されなくなった。