ホワイトハウス新ドラッグ政策対策室長官

ドラッグ戦争という観念は捨て去るべき


ギル・ケルカウスキ新長官
(photo Brendan Smialowski)

Source: The Wall Street Journal
Pub date: May 14th, 2009
White House Czar Calls for End to 'War on Drugs'
Author: Gray Fields
http://online.wsj.com/article/SB124225891527617397.html


先週の5月7日、上院司法委員会は91対1の記録的大差でシアトル警察のギル・ケルカウスキ署長を正式にホワイトハウス・ドラッグ政策対策室(ONDCP)長官に任命した。

オバマ政権のこの新しいドラッグ対策長官は昨日初めてのインタビューに応えて、戦争をアナロジーした好戦的な思考がドラッグ問題を扱う際の障害になっているという認識を示し、ドラッグ戦争を戦っているという観念を払いのけて、投獄ではなく治療に重点を移すことで違法ドラッグの使用を減らすようにしたいと語った。

「一般の人たちにどのように説明しようとも、ドラッグに対する戦争は戦争そのものとして見てしまうのです。ですが、われわれはこの国の人たちと戦争をしているわけではないのです。」

ケルカウスキ長官のこうしたコメントは、オバマ政権がアメリカのドラッグ問題に対してもっと穏健なスタンスを取ろうとしていることの表れでもある。確かにこれまで以上に多くの論争を巻き起こす可能性も大きいが、前政権が治療や需要の削減を語る際にも、基本的に犯罪として厳しく立ち向かうことに固執し続けたのとは対象的だ。

また長官は、オバマ政権のドラッグ問題への扱いついて、刑事裁判システムの投獄一本槍の政策ではなく、治療の役割に重点を置くことで公衆衛生の問題として対処しようとしていると述べた。

実際、オバマ政権はコカインに対する政策を改める方針を打ち出している。法律では、白人使用者が多いパウダー・コカインに比べて黒人の使用が多いクラック・コカインの量刑が重くなっているが、これにはアフリカ系アメリカ人を不当に差別するものだと批判されていた。

また、連邦のカナビス禁止法ではいかなる用途であっても例外はないとしていたこれまでの扱いを止めて、医療カナビスを合法化している州でのディスペンサリーに対する連邦当局の強制捜査は行わないことを約束している。

さらに、予算の逼迫で当面は実施しないことにはなったが、大統領選挙のキャンペーンでオバマ候補は、静脈注射を使うドラッグ・ユーザーの間でHIVが広がることを防ぐための注射針の交換プログラムへの資金投入を禁じている連邦法を終結させる政策も掲げていた。

ケルカウスキ長官自身にはそうした変革を直接実行する権限はないが、議会や関係当局と一緒になって現在の政策を改めることを計画している。また、ドラッグ政策はアメリカに焦点を絞って、他国のドラッグ関連犯罪には深入りしないとも語っている。

ケルカウスキ氏はごく最近まで、ドラッグ政策の実験場として知られているシアトルで警察署長を務めていた。シアトルでは2003年に住民投票で、少量のカナビス単純所持での取締まりの優先順位を最も低くする市条例が成立しているほか、注射針の交換プログラムも古くから行われている。さらに、現在では、ドラッグ裁判の被告を自動的に治療プログラムに迂回させるプロジェクトの開始も検討されている。

確かにケルカウスキ署長は2003年の住民投票では優先順位を下げることに反対していたが、その後、特にカナビス事犯を後回しにするようになったと批判する人もいる。

シアトル警察組合のリチャード・オニール代表は、そのためにダウンタウンのビジネス街がドラッグのオープン・マーケットのようになってしまったと指摘する。「平均的な警察官たちでさえも、シアトルのわずか2ブロックすらコントロールできなかった人間がどうやって国全体をコントロールできるのか、と言っています。」

上院の委員会でケルカウスキ氏に唯一人反対票を投じたトム・コバーン議員(オクラホマ、共和)も、秘書を通じて、カナビスの取り締まりに寛容なことが問題だと述べている。

一方では、シアトル警察のやり方があらゆるオプションをバランスよく使っていると賞賛する声もある。

ワシントン州のアメリカ自由人権協会(ACLU)のアリソン・ホルコム・ドラッグ政策担当主任は、「彼は、ドラッグ中毒問題については刑事制裁で対処する余地も残されていると考えているようですが、解決策を供給面からだけではなく需要面からもオープンに厳しく検討しようとしています」 と評価している。

こうした点に答えて、ケルカウスキ長官はドラッグを合法化することには反対だがと断ったうえで、警察の使えるリソースが限られていることも考えなければならないと言う。また、注射針の交換プログラムを支持して、「ドラッグ中毒に対応するための公衆衛生モデル全体の一部」 だとしている。

ケルカウスキ長官のキャリアは1970年代にフロリダ州のセントピーターズバーグで始まったが、秘密捜査官として遭遇した一つの事件がきっかけになって、ただ逮捕するだけでは問題の解決にはならないと強く思うようになった。

「囮の捜査官として売人に買い付けに行ったのですが、彼がカナビスを吸っているところにまだよちよち歩きの彼の子供がやってくると、彼は顔に煙を吹きかけたのです。後で、これが自分の子供たちで自分の家族のことだったとしたらと考えてみると、問題の根深さを思い知らされたのです。」

その後ケルカウスキ氏は、クリントン政権時代の司法省の地域防犯課などをはじめ、警察関係の4つの部門でキャリアを積んでいる。

医療カナビスの合法化を支持しているグループとして知られているドラッグ・ポリシー・アライアンス(DPA)のエサン・ネルドマン代表は、ケルカウスキ長官について「用心深いながらも楽観的」な見方をしている。「アナロジーで言えば、外洋の大型船がゆっくりと方向を変えようとしているようなものです。ここで最も重要なことは、最悪の航路から抜け出し始めたということです。」

だが、アメリカで最も大きな警察官の労働組合である警察友愛会(FPO)のジェームス・パスコ代表はケルカウスキ氏を非常に尊敬しているとしながらも、組合の警察官たちは懸念を抱いていると言う。

「私は、ケルカウスキ氏の治療と需要面に焦点を当てたやり方に対して必ずしも同意できないというわけではありませんが、一方では、警察の努力が無駄になることも望んでいません。社会に暮らす人たちには、法律を犯した時にはそれなりの制裁が科されることを理解してもらう必要もあるのです。」