大麻や大麻の種の罰則を、法改正をしてでも強化しようという警察権力の笛に見事なまでに踊らされ、薬物乱用防止政策のあり方を検証することもなく、狂ったように「大麻汚染」報道を繰り広げるマスコミ。
そのような現在、今後の展望を持つためにも、これまでの公的大麻情報を巡る取り組みをまとめておくことにした。
モーリーさんのブログで「WHOが1997年に発表した報告書に関する速報」が公開されている。世界保健機関が公表した同レポート「Cannabis : a health perspective and research agenda」は、当方でもスタッフの野中さんによる翻訳を公開しているが、モーリーさんも指摘している通り、このWHOの文書は、『「大麻精神病」という現象は明確に定義されていないのが実情である。さらに推定される症状も、統合失調症など他のすでにある精神疾患と見分けがつかない。大麻精神病を確認するには研究による証拠の提出が必要』だと指摘している。
●5.5 大麻使用による精神障害
ところが、我が国では、厚労省の天下り外郭団体「(財)麻薬・覚せい剤乱用防止センター」(以下「ダメセン」と略)が、大麻を吸うと『「大麻精神病」と呼ばれる独特の妄想や異常行動、思考力低下などを引き起こし普通の社会生活を送れなくなるだけではなく犯罪の原因となる場合もあります。また、乱用を止めてもフラッシュバックという後遺症が長期にわたって残るため軽い気持ちで始めたつもりが一生の問題となってしまうのです』と、断定的に国民に周知教育している。
■薬物別解説/大麻
マスコミは全く検証しようとしないが、世界保健機関が1997年に公表したレポートと、ダメセンの大麻情報は、明らかに矛盾している。
◆『「ダメ。ゼッタイ。」ホームページ』大麻情報の根拠
私は、03年7月30日に逮捕された。言われる前に言っておくが、まっっっったく、どこまでアホなんだか、退くに退けない事情で、私はわざわざ逮捕されるようなことをした。「嗜好目的大麻免許申請記」というサイトを作り、嗜好目的で大麻栽培免許を申請しつつ、栽培している大麻の写真をネットに公開したりした。かなり修正してしまったが、経過はまだ残してある。既に海外では多数の研究機関が大麻の医療的価値や、害の低さを報告していたので、それらを証拠に違憲論で戦えば、最高裁は違憲とまでは認めなくても、何らかの新しい判断を示してくれると、まっっっったくアホな話だが、信じていた。だって、そのための裁判所だろう。日本では法律の違憲性そのものを訴えることができず、大麻取締法の違憲性を訴えるなら、被告になるしかないのだ。我ながら、まっっっったくアホな話だが。
04年6月15日。私は自らの上告趣意書の資料とするため、ダメセンに大麻情報の出典を示すよう公開質問書を提出した。だが、当時の糸井専務理事は、文書回答はしないとして、電話で説明した。それによると、「ダメ。ゼッタイ。」ホームページの大麻情報に記述されている内容は、ダメセンが発行している「薬物乱用防止教育指導者読本(以下「読本」と略)」からの転載であり、その「読本」は米国の「ドラッグ プリベンション リソース インコーポレーション」発行の小冊子「ドラッグ エデュケーション マニュアル」で、発行年月日は不明とのことだった。
私が一審から主張し続けた大麻取締法は生存権を侵害しているという法令違憲について、最高裁も含めて裁判所はまったく審理しないどころか、生存権侵害を否定する理由すら一言も触れずに黙殺した。上告が棄却され、懲役3年執行猶予5年が確定した頃、立て続けに裁判支援の要請があり、大麻取締法の違憲性を主張する裁判だけでも4件に関わってきた(※「大麻取締法違憲論裁判」のコーナー参照)。
司法は、大麻の有害性を認定した最高裁の昭和60年決定という古い判例に固執し、いずれも勝訴することはできなかったが、判決内容には一定の変化も見られた。
それまで、大麻の有害性を「公知の事実」とし、私たちの主張を一蹴してきた裁判所が、MHさん裁判控訴審(高松高裁)では、裁判官が大麻の有害性を「公知の事実」と断定せず、「有害性を肯定できるだけの決定的な証拠はないとする見解も存することが認められる」と判決で述べている。だが、二度目だったこともあり、判決は実刑。MHさんは服役した(現在は既に出所している)。
●MHさん控訴審判決文
その頃、ナタラジャの裁判も支援することになった。カンナビストのボランティアとして、東京、札幌、大阪と、マーチの資材運搬などに車を提供して自ら運転し、文字通り東奔西走したナタが、旅先の沖縄で逮捕された。落とした財布にカンナビストのパンフが入っていて、拾った人が警察に届けてくれた。財布はナタの手元に戻ったが、狙われて職質を受け、大麻所持が発覚した。そのような逮捕の経緯を、弁護士から私は聞いた。ナタはカンナビストに支援を求めた。が、「カンナビストには多数の会員がいるので、特定の会員だけを支援することはできない」と、代表の麻生氏に断られた。では会員でもない桂川さんの支援はどういうことだったのか。それはまた別の物語。
ナタからTHCにも支援要請があったので、ナタの自宅を訪ねたりして、ご両親と相談しながら、沖縄の弁護士に資料を送り、電話で説明・説得したりして、裁判を進めた。ちょうどその頃に知り合った沖縄在住の人に、ナタの裁判を傍聴してもらい、レポートしてもらったりもした。
ナタのお父さんは、支援を断ったカンナビストについて、「息子は使うだけ使われて、逮捕されて使えなくなったら、ボロ雑巾のように捨てられたんですよ」と、憤りを隠さなかった。その横で、お母さんはただ泣いていた。
ナタは、上告趣意書に次のように書いている。
これまでに大麻取締法の違憲性を主張する上告は多数されており、その多くは昭和60年以降の科学的知見に基づき、論理的に論証した趣意書を提出している。
しかし、それに対して最高裁は全く審理する事もなく上告を棄却している。
しかも、その内容はたった数行で、上告した者に対し、納得できる説明すらされていない。
人生の大切な時間を奪う重大な判決を行うのに、最高裁がこんなことでいいのだろうか。
裁判所という所は、正義を行なう所だと信じて来たが、大麻の裁判においては正義が行われているとはとても思えない。
これ以上、大麻取締法による被害者を出さないためにも、大麻の個人使用を目的とした所持・栽培が刑罰に値するか、昭和60年以降の科学的知見に基づいた正しい判断をお願いしたい。 ●上告趣意書(本人作成)/ナタラジャ裁判
だが、その裁判も、05年12月に最高裁から異義申立の棄却を受け、執行猶予中だったナタの実刑が確定して終結した。今もまだ、ナタは愛媛で服役している。
ナタの裁判で、THCとしての裁判支援活動に一区切り付いた06年から、司法が拘泥する大麻の有害性を質すため、私たちは大麻取締法を所管する厚労省とダメセンを相手に、公的大麻情報の根拠を巡って働きかけを始めた。それは、働きかける対象を、司法から行政に変えるということであり、大麻取締法の立法事実を現在の科学的知見に改めてもらう取り組みだった。
これまでの大麻取締法違憲論の裁判で、実質的なディベートとしては、司法に勝っていると私は思う。
(つづく)
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