大麻でラット凶暴化?についての検証

投稿日時 2008-12-30 | カテゴリ: フロッガー医師の検証

麻薬・覚せい剤乱用防止センター(ダメセン)制作のビデオ映像で、大麻の有効成分であるTHCをラットに注射する攻撃性が増し他のネズミを攻撃するようになる、というものがある。
ダメセンは、この実験結果を大麻が暴力傾向を引き起こす根拠としており、厳しい取り締まりの正当化に用いている。
下のニュース映像にも引用されている。

サンデーNEXT


この実験について、検証を行いたい。

・この実験について書かれた論文
「目でみる精神医学シリーズ5 薬物依存」にこのラットの実験に関するレビューがある。 この論文は大麻取締法変革センター(THC)のサイト閲覧できる(PDFのP80-88)。
●日本の公的大麻情報の根拠文書/pdfファイル対応リスト
●原著 :Effects of psychotropic drugs on delta 9-tetrahydrocannabinol-induced long-lasting muricide.

「目でみる精神医学シリーズ5 薬物依存」より抜粋。
「Wistar系ラットを1ゲージ当たり数匹ずつ群飼育しながら、毎日1回 THC 6mg/kgの腹腔内投与を続けても、2週間まではラットの行動に何らの変化も見られなかったが、15日目以降より情動過多運動反応とともにマウスを噛み殺す行動(muricide)を示すラットが現れた。しかし隔離したラットにTHCを投与すると、たった一回だけの投与で、差し出した棒にかみつき、 muricideをも示すようになった。」

・THCの量
この実験で用いているTHCの量は6mg/kgである。これは、体重50kgのヒトでは300mgとなる。
大麻たばこに含まれるTHCは10-20mgであり、喫煙で体内に摂取されるTHC量4mgであることを考えれば、かなりの大量である。

・攻撃反応の起こる条件
ラットを単独飼育していると、単回投与でもmuricideが生じるが、数匹飼育しているときには2週間以上THCを投与しなければこの反応は起こらない。このことから、この反応は環境因子によって影響を受けるものであると言える。

・muricide?(これは共食いではない!)
THCが投与されたのはラットであるが、攻撃されているのはマウスである。
ラットとマウスは別種のネズミである。ラットはマウスに比べ何倍も体が大きい。
普通のラットでも攻撃性の高いものはマウスを襲う。野生のラットの70%、実験用ラットの12%がマウスを殺すというデータがある。そして殺した後食べるようだ。これは暴力行動なのだろうか?ただの捕食行動ではないのか?
また、muricideは、神経系以外にも、環境因子、社会因子、学習、空腹により影響されるらしい。
空腹と関係:THCには食欲増進作用があるがその影響はないのか?
学習と関係:この論文では、THC投与終了後もmuricideは続く、とし、凶暴性が永続するかのように考察しているが、これはTHCの影響ではなく、ラットが「マウスが食料となること」を学習した結果ではないのか?

●ラットは大型のネズミで、ドブネズミを品種改良したもの(Wikipedia)
●マウスは小型のネズミで、いわゆるハツカネズミの系統である(Wikipedia)
●mouseとratの違い。muricideについての解説あり(Anne's rat page:Rat Behavior and Biology)

・まとめ
総合して考えてみよう。
ラットを孤独な状態で飼育し、そこに大量のTHCを注射する。そののちに棒で刺激したり、別種の動物を同じ籠に入れている。このような異常な状態に置かれれば、通常の生物であれば恐怖や防衛から攻撃を仕掛けるのではないだろうか?

ヒトに例えてみよう。独房に入れられて、大麻タバコ70-80本分ものTHCを無理やり注射され、そこに得体の知れない動物を投入されて、普通でいられるだろうか?

結論:この実験結果は、大量のTHCと特定の飼育条件でなければ起こらないもので、さらにその現象はmuricideという特殊な反応である。人間の大麻使用者に一般化できる事柄とは言い難い。

・おまけ:研究者のコメント
福岡大学の藤原道弘教授はこの実験を行ったグループの一員である。その藤原氏のコメントは下で見ることができる。

山ちゃんのジャーナルしちゃうぞ!(CS放送 朝日ニュースター) 知れば知るほど『?』 大麻規制の不思議(1/6)


藤原氏のコメント
「人でも動物でも脳の奥の方に心をあらわす部分である大脳辺縁系と言うものがある。これは動物であろうと人であろうと一緒。例えばネズミなんかは集団で行動して非常におとなしいが、ネズミを一匹ずつ檻にいれてTHCと言う物質を打てば凶暴になる。これは人間でもストレスな状態でやれば出てくる。」

ストレスにも程度と言うものがあろうよ・・。

[参考]
・カナビス・スタディハウスでも、この実験に対する検証を行っている。人間にTHCを注射した場合についても書かれており、大変参考になる。
●嘘の1000倍偽装 カナビスでラットが凶暴化
●大麻と暴力傾向について:フロッガーまとめ-疫学的検証も大麻と暴力の関連を否定





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