[要約]
大麻が法律で禁止されている大きな理由として、大麻使用が暴力や犯罪行為を引き起こすことがよく挙げられる。しかし、複数の論文や報告書で、大麻と暴力や犯罪行為の間に明らかな因果関係はないと報告されている。主要な論文・報告書では、大麻は暴力や犯罪行為を引き起こさない、もしくは、引き起こすとしてもアルコールやコカインと比べ、低い頻度である、と結論付けられている。
暴力・犯罪傾向が理由で大麻を禁止することには正当性がない。
[本文]
2007年、ビクトリア大学中毒研究センターの研究チームは、薬物中毒治療を受けている被験者を対象に、暴力行為を犯す直前の数時間にコカイン、アルコール、大麻を使っていた頻度を調べ報告した(1)。
また、攻撃性、衝動性、法の軽視度合のような暴力行為に結び付く個人的な特質も計算に入れて評価を行った。
その結果、「多変量解析したところ、アルコールとコカインの使用は暴力と有意な関連が認められ、その薬理的効果が暴力行為を引き起こしていることが考えられた。しかし、大麻の使用頻度については、暴力行為と有意な関連は認められなかった。」としている。
2005年、Blondellらは、外傷を持つ900人の患者のドラッグ陽性率を検討し、「大麻単独使用では入院を要するような暴力あるいは非暴力のどちらの傷害とも関連性はなく、これに対して、アルコールとコカインは暴力関連の外傷を引き起こす」、と報告している(2)。
2002年に発表されたカナダ上院の報告書で、大麻と犯罪について検討を行っている。カナダでのアルコールや薬物と犯罪の関連は、アルコールが24%と最も高く、次いでコカイン8~11%であった。大麻は3~6%と少なかった(3)。大麻が非合法であり、反社会的環境に存在することや大麻の使用自体が犯罪であることも考えると、「大麻使用者が、大麻使用以外の犯罪を犯すことは、稀な例を除いてない。」と結論している。
2002年に発表されたイギリスのドラッグ乱用諮問委員会の報告書で、「大麻の作用はリラックスや社会的引きこもりを起こす傾向があり、暴力傾向やアルコールで見られる脱抑制とは異なる。このことは、大麻が他者や自分に対する暴力を引き起こすことが稀であることを示している。これに対して、アルコールは、故意の自損行為や家庭内の事故や暴力の主要な原因になっている」としている(4)。
[結論]
・犯罪傾向を引き起こす主要な薬物は、大麻よりむしろアルコールである。
・大麻自体の作用で、暴力・犯罪傾向を引き起こすことは稀なケースを除いて無い。
・大麻が非合法であるため、大麻取締法違反という犯罪が存在する。また、反社会的環境で取引されることが多いため、犯罪に巻き込まれがちである。このことは、大麻の所持・使用を合法化(制度的管理)することで解決される。
・暴力・犯罪傾向が理由で大麻を禁止することに科学的な正当性はない。
[参考文献]
1) Macdonald S et al. Predicting violence among cocaine, cannabis, and alcohol treatment clients. Addictive Behavior, 33: 201-5, 2008.
2)
Blondell R et al. Toxicology Screening Results: Injury Associations Among Hospitalized Trauma Patients. Journal of Trauma Injury, Infection, and Critical Care, 58: 561-70, 2005.
3) Canadian Special Senate Committee on Illegal Drugs. Cannabis: Our Position For A Canadian Public Policy. Volume 1, Chapter 7, 2002.
4) United Kingdom's Advisory Council on the Misuse of Drugs. The Classification of Cannabis Under the Misuse of Drugs Act of 1971. 2002. See specifically: Chapter 4, Section 4.3.6.
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- 医薬品としての大麻の有用性 (2008-02-05)
- 大麻と暴力・犯罪傾向の関連 (2008-01-16)
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