抑圧される医療カナビス研究

真実の発覚を恐れるアメリカ政府

Source: Fast Company(NY)
Pub date: February 11, 2004
Subj: Pipe Dream?
Author: Bill Breen
Web: http://cannabisnews.com/news/18/thread18329.shtml

(註: この記事は、「カナビス医薬品を巡るイギリスの進展とアメリカの停滞」 の理解を助ける背景説明のために書かれた。)


イギリスのバイオテクノロジー企業・GW製薬はイギリス南東部の秘密の場所に、世界で最もハイテク化されたカナビス栽培場を持っている。

電気を通した有刺鉄線の鉄条網に囲まれ、ビデオカメラと行動探知機を備えた1エイカー以上もある温室には、カナビス・ベースの医薬品の研究と生産に使う1万5000本あまりのカナビスが栽培されている。会社が1998年にイギリス当局からカナビス栽培のライセンスを獲得して以来、収穫した植物は30万本を越える。


アメリカ政府のカナビス栽培施設

アメリカにも、政府のカナビス栽培施設が1ヵ所だけある。国立ドラッグ乱用研究所(NIAD)が管理し、契約によってミシシッピー大学が運用している施設で、合法な医療研究用のカナビスはすべてここから供給されている。ハイテク監視装置で囲まれている点はGW製薬の栽培場と同じだが、目的は全く異なっている。

ドラッグ乱用研究所という名前からも分かるように、ここではカナビスの医療的な可能性ではなく、カナビスの危険性を調べることが対象になっており、そのためにGW製薬のように多量利用のために生産はしているわけではない。

ドラッグ乱用研究所が配布しているのは、僅かばかりの研究プログラムと、1970年代末に始まり80年代に中止された政府の「温情」による実験新薬プログラム(IND)で、カナビス使用が合法的に認められた数十人のうち現在生き残っている7人の患者だけに過ぎない。


低品質なドラッグ乱用研究所のカナビス

ドラッグ乱用研究所のカナビスの品質は、写真でもわかるように、葉に種や茎も混じったもので、カナビスというよりも、イバラを乾燥させたものといったほうが近い。


アメリカ政府(NIDA)のカナビス

小児神経学のスペシャリストでGW製薬のシニア・アドバイサーも務めるエサン・ルッソ博士は、1997年に研究用として100グラムのカナビスをドラッグ乱用研究所から提供してもらっているが、麻薬取締局のドラッグ評価ユニットのフランク・サピエンザ氏(最近退任した)に宛てた書簡で、「はなはだ効力が弱く、医療的に患者が吸うには適していません」 と苦情を述べている。

「残念ながら、このような貧弱な品質のものでは、本当の医療用カナビスとはとても言えず、生化学実験に利用するには全く適していません。」

このような状況に対して、ハーバード大学を卒業し、現在、非営利の薬学研究団体のサイケデリックス多分野研究連盟(MAPS)の代表を務めるリック・ドブリン博士は、政府がドラッグ乱用研究所を操って科学研究用としては標準以下の植物を作らせ、研究者に入手しにくくすることで、カナビスの医療研究を妨害していると主張している。


代替機関の設立を主張

ドラッグ乱用研究所の病んだ医療カナビス・プログラムに対する処方箋として、ドブリン博士は代替機関の設立を提案している。彼は、合法カナビス経済界の多くのパイオニアたちと同じように、やる気に満ち、頑強で、理想に燃えながらも、しっかりと世渡りする術も備えている。

ドブリン博士の最終目標は、アメリカに旺盛な医療カナビスの研究コミュニティを作って支援し、いつの日にか、天然のカナビスをベースにした処方医薬品を食品医薬品局に認めさせることで、そのためにまず、アマーストのマサチューセッツ大学に独立したカナビス栽培施設を作ることを目指している。

民間の資金でこのような代替施設ができれば、高品質で遺伝特性が一定したカナビスの栽培が可能になり、研究者たちの特別な要求にも応えることができるようになる。実現すれば、施設の運営は、医療植物研究の専門家で20年間教鞭を取っているライル・クラカー教授が監督することも決まっている。


真実が明かされることを恐れる政府

ドブリン博士は、ドラッグ乱用研究所がカナビスの唯一の供給源になっている限り、製薬会社は決してカナビス・ベースの医薬品の開発に資金を注ぎ込まないだろう、と言う。

確かに、品質のコントロールできないようなカナビス研究や、期待だけで市場に出る明確な見通しもない製品を支援する会社が出てくることは考えられない。このために、ドブリンとクラカーの両博士は、麻薬取締局からカナビスの合法的な供給源を設立するライセンスを取付けて、民間の資金で医療カナビスの研究ができるように4年近くも努力を続けている。

「政府は、ドラッグ乱用研究所の独占体制を維持して、低品質のカナビスを意に沿ったFDA研究だけに提供していれば、この国では民間の資金を使ったカナビス・ベースの医薬品開発を実質的に阻止できることを知っているのです。もっと研究が必要だと言いながら、本当のところは、研究で真実がわかってしまうことを恐れているのです。」


デンキホーテ?

だが、ブッシュ政権の医療カナビスに対する姿勢をみれば、ドブリン博士の試みはデンキホーテ的にも見えなくはない。

ブッシュ大統領の指名で医療カナビス問題を任されているホワイトハウス麻薬撲滅対策室(ONDCP)のアンドレア・バーサウエル副長官は、カナビスを材料にした薬は近代科学とは相容れないもので、「厳格な研究要件」 を満たしていないと語っている。クラカー博士の麻薬取締局に対する件についてはコメントは避けながらも、「カナビスは精製もされていない生の植物で、医薬品などとは全く言えません」 と断じている。

これに対してドブリン博士は、ホワイトハウス麻薬撲滅対策室長官自らの依頼で、カナビスの医療利用に関する科学的検証を実施した全米科学アカデミー医学研究所(IOM)の1999年の報告書には、「合成カナビノイドに加えて、植物を原料にしたカナビノイドの生理学的効果を調べる研究を継続すべきである」 とする明確な勧告が盛りこまれていると反論している。

医療カナビスに対するさらなる研究を求めたこの勧告こそ、自分がまさに行おうとしていることだと博士は言う。「連邦政府自身が明言した政策なのです。」


勝算はある

ドブリン博士の後ろには、マサチュセッツ州のエドワード・ケネディ上院議員やジョン・ケリー上院議員を始めとする心強い援軍が控えている。

ケネディ、ケリーの両氏は麻薬取締局のカレン・タンディ長官に宛てた書簡で、ミシシッピー大学のドラッグ乱用研究所の施設が 「合法的な医療および研究目的のカナビスを不当に独占しており、現在のような競争のない状態では・・・化学療法の吐き気やエイズ、緑内障などの病気で苦しんでいる患者に対するカナビスの治療効果を調べるという大切な研究を妨げ、危うくしている」 と主張している。

ドブリンとクラカー両博士は現在も麻薬取締局からの回答を待続けているが、この間も医療カナビスを受け入れる世論がますます高まっていることから、勝算はあると言う。

「麻薬取締局にとっては黙って先伸しすることが最善なのでしょうが、そのことはわれわれに研究を進めろと言っているようなものです。ならば、ボールはこちらのコートにあることになりますから、こちらからカナビスが良い医薬品であることを証明してみせるまでです」 とドブリン博士は語っている。