From Hempire Cafe

マーストリヒトの混迷

オランダ・コーヒーショップに過去最大の試練

Source: The Independent
Pub date: 26th December 2005
Subj: Maastricht's Bad Experience With Cannabis
Author: Stephen Castle
Web: http://www.thehempire.com/index.php/cannabis/news/
maastrichts_bad_experience_with_cannabis/


オランダ最南部、ドイツとベルギーの国境に囲まれるように抱かれるマーストリヒト。フランスの国境へもさほど遠くはない。オランダでは珍らしいラテン気質と長く複雑で独特な歴史を感じさせる骨董品のような中世の面影を残している。ここを訪れる観光客は年間200万人。街を東西に分けるようにマース川が南から北へ流れる。このあたりの川幅は結構ひろい。

河岸に係留しているミシシッピー・ボートに乗船すると、中はカナビスを販売するコーヒーショップになっている。カウンターに腰かけてオーナーらしい大柄な長髪のマスターと話していると、突然、表情を硬くして 「インタビューはお断り。ジャーナリストに話すことなんかない」 と遮ぎられた。

オランダでも最も人気のあるコーヒーショップの一つであるミシシッピー・ボートには毎年、数万人ものお客が流れ込む。こうした引力は、オランダ各地のコーヒーショップの羨望の的にもなっている。

しかし、オランダで30年続いてきた有名なドラッグに対する寛容政策は、現在、最大の試練に立たされている。マースリヒト市議会は、市内にある16軒のコーヒーショップに対して外国人の入店を実質的に禁止することを計画している。これが実施されれば多くのショップが成り立たなくなる。この政策が裁判に発展すると、こうした流れが全国に波及する可能性もある。

計画は、オランダのユニークなドラッグ法が発生させた社会問題を回避することを目標にしたもので、3本の柱からできている。だが、お互いが複雑に入り組んでいて大きな論争を引き起こしている。この計画の成り行きが、将来のオランダのカナビス政策を決定づけることになるかもしれない。


スモーカーを引きつける磁石

こうした実験がこの街で行われるのは単なる偶然からではない。ここには、カナビスが禁止されているベルギーやドイツやフランスからでも車で簡単に来ることができる。マーストリヒトを見ると、カナビスに対するリベラルな法律がスモーカーたちを引きつける磁石になっていることがわかる。だが、外国人が多く訪れるようになるに従って、彼らをターゲットにしたカナビスの違法栽培やハードドラッグの密売が増加し、それに関連した犯罪も増えることになった。

警察や住民からの苦情が絶えず、ついにジェラード・リーアス市長の堪忍袋の緒が切れた。市長の方針がこのまま進めば、コーヒーショップの定款が変更され、すべてのお客は住民であることを示すIDカードの提示を求められることになる。当初は1軒のコーヒーショップを対象に実施されることになっているが、場合によっては最終的にヨーロッパ裁判所の全面的な裁定にまで持ち込まれるかもしれない。そこでコーヒーショップ側が敗訴すれば、オランダの750軒のすべてのコーヒーショップから外国人が締め出される可能性もある。


山積する問題

マーストリヒトの入り組んだ近代的な市庁舎の中では、何年にもわたり、国境の街という特別の環境にふさわしいドラッグ政策のありかたについて議論が続けられてきた。市は、少量のカナビスを合法として扱うことを基本原則とすることは支持しているが、好ましくない結果には思い切った対策が必要だと考えている。

市長の二人のドラッグ政策顧問の一人であるラモナ・ホーバッシュは 「マーストリヒトを訪れる人たちが、違法駐車や立ち小便などたくさん問題を起こしているのです。彼ら目当てに、コカインやヘロインやエクスタシーなどのハードドラッグを売りつけようと脅迫する連中もいます」 と言う。

大半のコーヒーショップが市の中心部に集中しているために、他の地域で苦情を訴える人は少ないが,問題は中心の狭い地域で極端に目立っている。

もう一人のドラッグ政策顧問であるジャスペリーナ・デ・ヨングも 「多くのツーリストは、自分の国ではカナビスを買えないので、オランダにやってくるだけなのです。でも数が多過ぎます。中には乱暴な人もいます。住宅地にあるコーヒーショップの周囲に暮らす住民の中にはもう住みたくないと訴える人もいます」 と語っている。特に、子供を持つ親たちは、交通量の増大とセキュリティの低下が重なって悲鳴をあげている。

言うまでもないことだが、問題の根本は、単にソフトドラッグを販売するコーヒーショップをギャングの影響から切り離せば解決するというほど単純ではない。


矛盾する法律

すでにいくつかの国ではソフトドラッグの対応を緩めているが、オランダではコーヒーショップでの販売まで認めているところが異なっている。コーヒーショップは許可制で、アルコールの販売や店内での飲酒は認められていない。政府が発行している文書によれば、「カナビスの使用はアメリカでは非常に増えているが、オランダの場合は他のヨーロッパ諸国と同程度で増加していない」 として、自らの政策が成功していると主張している。

しかし、この成功は相矛盾する法律の上に成り立っている。コーヒーショップでは1人に対して最高5グラムまでのカナビスの販売が認められているが、それはその範囲であれば起訴の対象にならないという意味で、法律の建前とすればすべてのドラッグは違法になっている。カナビスを使うことは違法ではないが、栽培や多量保持や密輸は犯罪の対象になる。

つまり、お客さんはコーヒーショップで5グラムのカナビスを買うことは合法だが、店が販売のためにカナビスを仕入れたり、ストックしたりすることは違法ということになる。

要するに、法律では少量のカナビスを使うことは許されているものの、店が栽培したり仕入れたりすることは許されていないという辻褄の合わないものになっている。


ギャングの温床化

マーストリヒトは、ドイツやベルギーやフランスからカナビスを求めてやってくる多数のデイ・トリッパーの最前線に立たされている。マーストリヒト警察の広報部長ペーター・タンスによれば、オランダの南リングルグ州には年間120万人のドラッグ・ツーリストが訪れる。この1年間で2万1000件の犯罪を摘発したが、そのうち外国人が4500人も含まれていたと語っている。

また、コーヒーショップでの膨大な外国人の要求を満たすことが、巨大なカナビス栽培地下組織をはびこらせる結果につながっている。市ではこの1年間にカナビス78Kgを押収し、栽培中の成熟した植物4万3000本を摘発している。

栽培現場の多くが街の周辺の低所得者の住宅で、ギャングに監視されていた。摘発は、電力会社からの電気漏洩の情報などにもとづいて実施されている。カナビスの室内栽培には照明のための電気が必要だが、もっぱら違法に引き込んた窃盗電気を使って行われている。警察によると、18平方メートル当たりの栽培で年間9万7640ユーロ(1400万円)の利益を得ている計算になるという。

さらに深刻で警察が恐れているのは、こうしたマーストリヒトの土壌がハードドラッグを扱うギャングの温床になりつつあることだ。2005年1月から10月までの間に、警察は市内で21回の家宅捜査を行って、193人を逮捕し、ヘロイン10Kg、コカイン1.5Kg、エクスタシー1万2000錠、現金17万1000ユーロ、拳銃11丁を押収している.

「こんな調子でここ数年、事態は悪化するばかりです。もう同じやり方では対処し切れません。市の実験が成功することを願っています。そうでなければ、警察の負担が巨大化するばかりです。ドラッグ問題に対処するだけのために100人の警察官が必要だとすれば、労力は年間10万人時に達してしまうことになります」 とタンスは指摘している。


市の努力

オランダの法律では、市長は選挙で選ぶのではなく、さまざまな適正や経験を審査する任命制になっている。普通、市長は警察所長も兼任することになっており、強力な権限が与えられている。市当局は、苦情の増大に押されて、いろいろな対策を実施してきた。

まず手がけたのがコーヒーショップの数を減らすことで、オーナーがやめたり死亡したりすれば、ライセンスの継承や新たなライセンスを発行しないで店を閉鎖させるようになった。マーストリヒトには1990年代の始めから半ばにかけては30軒のコーヒーショップが次々と開店したが、現在ではちょうど半分まで減っている。

しかし、それだけでは問題の解決にはならなことがわかり、現在では、コーヒーショップに外国人を入れないようにする一方、さらに2つのラジカルな政策を掲げている。


論議を呼ぶラジカルな政策

その一つが、コーヒーショップのいくつかを市の中心から郊外へ移転させる計画で、リーアス市長は、ドラッグ・ツーリストの要求にこたえるために、街に中心や住居地から離れた街道沿いに3つのドライブイン・センターを設けることを提案している。このセンターのことは 「ウイード・アベニュー」 とか 「マックドープ(McDope)」 などとも呼ばれている。

しかし、この計画は、街の中心ではカナビスを買えない外国人を対象にしており、コーヒーショップから外国人を排除するという政策とは全く逆になっている。

だが、住民制限政策が実施されるまでには、法的なテスト期間が必要で、最低でも2年は待たなければならないという事情がある。さらに、その期間に、裁判で、住民制限政策法がEU市民を差別してはならないとするヨーロッパ法に反するという判決が出ることも見越して、それに備えることも意図している。

市が打ち出しているもう一つの政策が、いわゆるコーヒーショップのカナビス仕入れの 「バックドア 」を管理するという先進的な方針で、これが最も大きな論争の種になっている。

マーストリヒト市では、ギャングとコーヒーショップを切り離すために、ショップ供給用のカナビスを厳しい監督のもとで栽培委託する試みを開始している。この政策を実施するためには、オランダ政府がカナビスの栽培を合法として認める必要があるが、国際的な非難を引き起こすことは明らかで、政府の大臣は事ある度にそのような政策は認めないと繰り返している。

これに対してドラッグ政策顧問のヨングは、「バックドア問題を解決しなければ根本的な解決にはなりません。市ではその事実を十分認識していますが、政府はそんなことをやらなくても解決できると思ってるのです」 と批判している。


先例のない挑戦状

コーヒーショップのオーナーの立場からすれば、市の政策は先例のない挑戦状に見える。マーストリヒトのコーヒーショップ組合を代表するイージー・ゴーイング店のオーナー、マーク・ジョセマンは、街が困難な問題を抱えていることは認めながらも、「問題を起こしているのは、カナビスを求めるお客さんに引きつけられたごく一部の犯罪者に過ぎません」 と語り、外国人を締め出そうとする市のやり方には猛然と反発し、裁判で争うことも厭わないとまで言っている。

彼は、コーヒーショップの一部を郊外に移す計画については市議会と話し合うことを希望しているが、将来、外国人にカナビスを提供することが禁じられる恐れがあれば、オーナーを説得することは不可能だと指摘している。「外国人の入店を禁止するという計画が少しでも残っていれば、街の外へ移転するように説得することは非常に難しことになります。とりあえず、市は2〜3年、計画を先の延ばしすることが必要です。」

ショップ側が市の同調しているのは、カナビスを合法的に栽培する政策だ。現在では警察が取り締りが厳しくなって、「きちんとした栽培者は栽培しなくなっています。余りに危険だからです。組織犯罪者たちは大規模な栽培工場で品質が悪く値段ばかり高いものを育てています。ショップ側が理想とする栽培者はどんどん減っています。われわれが25年もつき合ってきた仲間も次々にやめてしまっています。」

市とコーヒーショップ側は、栽培の合法化こそが問題解決の根本だという点で一致しているが、こうした実験を認めるかどうかの最終的な決定権限は政府にある。マーストリヒトのバックドア合法化計画は政府に拒絶される公算が大きく、そうなれば、市は、外国人に買えなくする法律を整えながら、外国人用のコーヒショップ郊外に作るという二つの相反する政策を従来の欠陥だらけのドラッグ法の枠内で進めなければならなくなる。


「イカレてる」

ミシシッピー・ボートの1メートル隣にあるスモーキー・フローティング・コーヒーショップに入ってみると、5〜6人の外国人のお客さんが椅子にもたれて、ジョイントを吸い、ソフトドリンクを飲みながら大音響のロックを楽しんでいた。カナビスの値段は1グラム4.5〜15ユーロ。売り買いをとがめる雰囲気は何もない。

コーヒーショップに反対する大半の主張が間違っているとお客さんの一人は言う。「アルコールの飲み屋で喧嘩があることはちょくちゅく聞くけれど、コーヒショップで喧嘩があったなんて聞いたことがない。」

スモーキーの売上げでマーストリヒトの住民によるものは8%しかない。当然、このようなコーヒーショップは新しい法律が始まれば仕事が成り立たなくなる。カウンターの奥の男は、市の計画を 「イカレてる」 と切り捨てた。