米連邦食品医薬品局(FDA)
カナビスの医療利用を認めず
IOMレポートとの矛盾に批判の声
Source: Seattle Post Intelligencer
Pub date: Friday 21 Apr 2006
Subj: FDA rejects medicinal use of marijuana
Author: Gardiner Harris
Web: http://www.ukcia.org/news/shownewsarticle.php?articleid=11197
昨日、連邦食品医薬品局(FDA)はカナビスの医療利用について、それを支持する 「信頼に足る科学的研究はない」 とする声明を発表した。
しかし、この声明は、アメリカで最も権威ある科学者たちで構成された委員会が出した1999年のIOM報告書と矛盾しており、医療関係者を新たな政治論争に巻き込むことになった。
FDAのスーザン・ブロ報道官は、この声明について、「アメリカでは、現在までのところ、カナビスの喫煙による医療利用に関しては、受け入れられるような証拠はなく、医療治療も認可されていない」 と結論した過去の連邦麻薬取締局(DEA)と規制当局および研究機関の合同検証結果を反映させたものだと説明している。
報道官によれば、食品医薬品局がこの声明を発表したのは、連邦議会からおびただしい数の問い合わせを受けているが、出来ることは他に何もないことを理由にあげている。
「法執行に当たってこうした見解が必要となるのは麻薬取締局ですが、当方の食品医薬品局の規制権限の範囲には属していません」 と述べている。
連邦と州、反対派と賛成派の対立
現在では、ワシントン州を始め11州でカナビスの医療利用が合法化されているが、連邦麻薬取締局とホワイトハウス麻薬撲滅対策室のジョン・ウォルターズ長官はそれに強く反対している。また、昨年の連邦最高裁でも、たとえ州が合法と認めた患者であっても、連邦政府はカナビスを使っているいずれの人も逮捕できるという判決を下している。
ワシントン州では、1998年の住民投票で医療カナビス条例が認められ、ガンやエイズなどの末期的あるいは瀕死の州民が、症状の緩和のためにカナビスを栽培したり所持または使用することを許されようになった。
しかし、2003年のシアトル市住民条例で警察が少量のカナビスで逮捕することを最も低い優先順位にすることが決められた程度で、依然として、カナビスを合法的に買うことはできず、合法的に配付する方法も認められていない。
連邦議会では、医療カナビス反対派と賛成派双方が、食品医薬品局に対して自分たちの見解を支持するように働きかけている。
医療カナビス法に反対する急先鋒であるロードアイランド州共和党のマーク・スーダー下院議員は、2年前に、食品医薬品局がカナビスに医療効果がないという見解を発表することを要求した法案を提出している。
今回の発表についても、カナビスの医療利用を合法化しようとする目論みが、カナビスのすべての使用を合法化をたくらむ「最前線」になっていると確信しているとマーチン・グリーン広報官を通じて語っている。
またウォルターズ長官のトム・リリー広報官は、食品医薬品局の発表を歓迎して、11州のカナビスの医療利用合法化が「醜い愚衆議論」でもたらされたものだと述べている。
IOMレポートとの矛盾
食品医薬品局の声明の内容は、アメリカで最も権威ある評価機関である全米科学アカデミー医学研究所(IOM)が1999年に出した報告書とは真向から矛盾している。報告書では、カナビスが「化学療法に伴う吐き気や嘔吐、エイズの消耗症候群などの特定に病状に対して少なからず効果が認められる」 と書かれている。
「カナビスに医療効果のあることは自分の体験から分かっています」 とカナビスの医療利用のネットワークであるグリーン・クロス患者協会の共同設立者ジョアンナ・マッキーさんは言う。シアトルに暮らす彼女は、脊椎損傷からくる痛みをコントロールするためにカナビスを吸っている。「痛みが弱くなり、筋肉の痙攣がなくなります。吐き気もおさまります。」
カナビスの効果の研究について検証したIOM委員会で共同議長を務めたジョン・ベンソン博士(ネブラスカ大学医学センター内科教授)も、インタビューで、食品医薬品局の声明や他の機関との合同で行ったレビューは間違っていると語っている。
連邦政府は、「われわれの報告書を無視したくてしょうがないのです。いっそのこと、そんな報告者は最初からなかったことにしたいと思っているのでしょう。」
科学者や国会議員の一部の人たちは、カナビスについての食品医薬品局の声明について、政治が科学をねじ曲げていることを示していると指摘している。
「残念なことですが、この宣言は、食品医薬品局が科学よりもイデオロギーで動かされていることを示す一例に過ぎません」 とハーバード大学医学部教授のジェリー・アバロン博士は語っている。
カナビスの医療利用の法制化をめざしているニューヨーク州民主党のモーリス・ヒンチィー下院議員も、声明が麻薬取締局の意向を反映したもので、カナビス撲滅の闘いを支援させるために長年にわたって食品医薬品局に圧力をかけてきた結果出てきたものだと述べている。
連邦麻薬取締局(DEA)の妨害
これに対して食品医薬品局のダン・トロイ元相談役は、食品医薬品局と麻薬取締局の間ではしばしばドラッグ政策で意見を異にしてきたが、カナビスについては「両者が協力できる分野」になっていると言う。
麻薬取締局の広報官も、ホワイトハウス麻薬撲滅対策室のウォルターズ長官に向けられた質問に関連して、声明は、カナビスの医療利用を合法化しようとする州の発議が 「医薬品認証プロセスにおいて、食品医薬品局の求めている厳格な科学的検証と相容れない」 ことを示したものだと述べている。
しかし、カナビスの研究をしている科学者たちは、実際には連邦政府がカナビスの恩恵を調べようとする研究を故意にやらせないように画策しているとインタビューに答えている。
マサチューセッツ大学植物土壌科学科教授ライル・クラカー博士は、以前は、政府がミシシッピー州で栽培している公認のカナビスで実験していたが品質が悪く、2001年に、研究用に自分で小規模なカナビス栽培を行うための許可を麻薬取締局に申請した。
ところが、2004年になって拒絶され、現在、裁判を起こして争っている。「当局は、説得力のある理由も持っていないので、裁判も誠実に対応しようとしない」 と語っている。
また、カリフォルニア大学サンフランシスコ校の臨床医学部教授であるドナルド・アブラム博士も、長年にわたってカナビスの医療効果について研究してきたが、国立衛生研究所にそのような研究には財政支援できないと拒否され、忸怩たる思いをさせられてきた。
その後、カリフォルニア州の基金で、激しい神経性の痛みに苦しむHIV患者を対象に、プラセボを使った厳格な二重盲検査法でカナビスの喫煙による効果を調査し、カナビス喫煙には患者の痛みを改善する効果のあることを見出している。しかし、研究結果を出版しようとしてトラブルに巻き込まれていると言う。
彼は、カナビスの効果を証明するためには十分に管理された臨床研究が必要だとする麻薬取締局の要求を 「誰がどのようにして満たせるのか全く不可解だ」 と語っている。
カナビスが危険で無益だなどと言っている科学者はいない
現在、カナビスの成分を人工的に化学合成したマリノールは、エイズの拒食症やガンの化学治療に伴う吐き気や嘔吐の治療薬として認可されている。マリノールはカプセルで供給されている。
また、イギリスのGW製薬が開発したサティベックスと呼ばれるカナビス抽出液のスプレーも、食品医薬品局から人間での臨床試験の許可を得ている。サティベックスは天然のカナビスから直接製造されたもので、すでにカナダで発売されている。
しかし、これらは嗜好目的で喫煙するような使い方はできず、いずれも医師の処方箋が必要な医薬品として開発されている。これに対して、医療カナビスは基本的に嗜好用途と同じものを喫煙法も含めて医療用途に応用したもので、医師の承認が必要とはいえ、製品としては普通のカナビスと明確な区別はない。
こうしたことから、カナビスの医療利用合法化に反対する人たちは、嗜好用途と同様に、医療利用でもカナビスが 「ゲートウエイ」 になってしばしばもっと危険なドラッグを使うようになったり、中毒になったりすると主張している。
しかし、IOM報告書では、カナビスがより強いドラッグのゲートウエイになるという証拠はないと結論づけている。また、カナビスの医療利用が一般の人たちのカナビス利用を増加させるという証拠もないと書いている。
カリフォルニア大学アービン校の薬理学教授ダニエル・ピオメリイ博士は、「今までに、カナビスが危険であるとか役に立たないという科学者にはお目にかかったことはありません」 と語り、カナビスには一部の患者に恩恵があることは研究で明らかに示されていると指摘している。
「われわれ全員がそろってそれを認めています。」
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