カナビスの医療効果について

の科学的検証


全米科学アカデミー医学研究所(IOM)報告 Q&A要約


http://books.nap.edu/html/marimed/

Source: Marijuana Policy Project
Subj: Marijuana and Medicine: Assessing the Science Base
Author: Excerpts compiled by the Marijuana Policy Project
Web: http://www.mpp.org/science.html

1996年にカリフォルニアの住民投票で医療マリファナ条例が成立したのを受けて、翌年、ホワイトハウスと麻薬撲滅対策室(ONDCP)は100万ドルを拠出して、過去の研究を総合的に再検証して本当にカナビスに医療効果があるのかどうか調査するように全米科学アカデミー医学研究所(IOM)に依頼した。2年を費して1999年に発表されたこの調査報告書では、カナビスが比較的無害であり、痛みの緩和や嘔吐の抑制や食欲増進などの医療効果があることを認めている。

ここで取り上げる想定質問は、マリファナ・ポリシー・プロジェクトのエキスパートがわかりやすい要約として作成したもので、報告書にこのようなQ&Aがそのまま記述されているわけではない。しかし、答えはすべて報告書からの引用で出処ページが添えられ、さらに詳しくは 本文 を参照できるようになっている。報告書の主眼は医療カナビスの効果の検証だが、当然のことながら、医療使用の前提になるカナビスの安全性や喫煙のリスクについても多くのページが割かれている。

しかし、アメリカ政府は自ら依頼しておきながら、アメリカで最も信頼されている機関が行ったこの研究結果すら受け入れることを今だ拒み続け、繰り返しカナビスには医療効果が立証されていないと主張している。だが、もはや有力な左右マスコミも、科学を政治的にねじ曲げ、苦しむ患者たちをさらに苦しめる政府の欺瞞をこぞって 非難 するようにまでなってる。

現在では、この報告書の契機となったカリフォルニアの住民投票条例215成立から既に10年が経過しているが、その間に多くの州がそれに追随して同様の医療カナビス条例を制定している。また、医療カナビス研究には エンドカナビノイド・システムの逆経路発見 をはじめ、特定の疾患用カナビスの品種改良、喫煙のリスクを回避することのできる バポライザー の開発などおびただしい進歩がみられる。

また、報告書当時、カナビスのタールには多くの発ガン性物質が含まれていることが明らかになり肺ガンの危険性が叫ばれていたが、報告書では、喫煙による肺ガンなどのリスクをたびたび懸念しながらも、関連性を示す決定的な証拠はないと指摘している。実際、最近の大規模研究で、カナビスの喫煙には 肺ガンのリスクがないことが確認 されたが、この結果は、カナビスの悪害の根拠として喫煙と肺ガンの関係を喧伝してきたアメリカ政府に大きな打撃を与え、IOM報告書への信頼をいっそう確かなものにすることになった。

現在からみれば、この報告書の医学情報に関しては記述の仕方も慎重でいささか控えめにすら感じられるが、信頼できる機関による最も大規模な調査報告としてその社会的重要性は少しも失われていない。

    質問一覧

  1. カナビスはどのような症状に効くのですか?
  2. すでに合法的な医薬品があるのに、何故カナビスを使わなければならないのですか?
  3. カナビスの主要活性成分を合成したマリノール・カプセルで十分なのでは?
  4. カナビスを医療品として合法化するにはもっと研究が必要なのでは?
  5. 現在の法律が本当に患者を傷つけているのですか?

  6. 天然のカナビスなど使わずに、カナビスの新薬が開発されるまでどうして待てないのですか?
  7. カナビスは医薬品としては危険過ぎるのでは?
  8. すでに医療カナビスで恩恵を受けている患者さんにはどう対応すべきですか?
  9. IOM報告は、何故、善良な医療カナビス患者を保護する州法を明示的に支持していないのですか?
  10. 医療カナビスを認めれば、社会全体のカナビス使用も増えるのでは?

  11. 医療カナビスの議論は、子供たちに悪いメッセージを送ることになるのでは?
  12. カナビスを医療品として使うと中毒になるのでは?
  13. カナビスを使うともっと危険なドラッグをやりたくなるのでは?
  14. カナビスは免疫システムを害するので、医療カナビスも違法にしておくべきでは?
  15. カナビスは脳に障害を与えるのですか?

  16. カナビスは無動機症候群を起こすのでは?
  17. カナビスは寿命を縮めるような健康問題を引き起こすのでは?
  18. カナビスは肺に危険過ぎるのでは?
  19. カナビスは生殖に問題を起こすのでは?
  20. カナビスは人間を反抗的・反社会的にしてしまうのでは?

  21. カナビスの多幸感は医療効果を弱めてしまうのでは?
  22. 妊婦がカナビスを使うとどのような悪影響がありますか?
  23. カナビスには他にどのような治療効果が見込まれますか?
  24. カナビスは緑内障に有効だといわれていますが、本当に効くのですか?
  25. アメリカ人は本当に医療カナビスの合法化を支持しているのでしょうか?


. カナビスはどのような症状に効くのですか?

「累積データーで見ると、カナビノイドの医療薬の可能性としては、特に、痛みの緩和、吐き気や嘔吐のコントロール、食欲増進などに有効であることが示されている。」 (p3)

「ベーシックな生化学的意味において、カナビノイドには痛みと運動のコントロールに対する役割があることが示されている。従って、こうした分野での治療薬の可能性を持っていると言うことができる。痛みの治療に関しては比較的強いエビデンスが揃っており、また、十分に明らかになっていないものの運動障害の治療にも強い関心が持たれている。」 (p70)

「エイズ患者や化学療法を受けている患者、あるいは、痛みと嘔吐と食欲不振に同時に苦しんでいる患者に対して、カナビノイドは他の単一医薬品では見られないような広範囲にわたる緩和効果がある。また、筋肉痙縮に関するデータは十分に揃っていないが,将来的には有望だと見られている。」 (p177)

「動物実験では、カナビノイドが急性の痛みの速度を抑える。・・・こうした実験からは、カナビノイドにはアヘン剤に劣らぬ効力や効能があることが示されている。」 (p54)

「3件の研究で、ガンの痛みに対するカナビノイドの効果を最もよく示す臨床データが得られている。」 (p142)

「結論として、動物および人間の研究から得られたエビデンスからは、カナビノイドには多大な鎮痛効果が認められる。」 (p145)


. すでに合法的な医薬品があるのに、何故カナビスを使わなければならないのですか?

「どのような場合でも、通常の医薬品にはよく反応しないという患者群が存在する。こうした医薬品でも、特に化学療法による嘔吐やエイズの消耗症候群のような症状のある場合には、カナビノイドの持っている不安緩和や食欲増進や吐き気の抑制などの効果と組み合わせるとよく対処できる。」 (p3,4)

「問題とされているのは、今後開発される新しい医薬品や現在ある医薬品がカナビスやカナビノイドよりも優れているかどうかということではなく、現に、一部の患者たちに対してはカナビスやカナビノイドによって良い効果が得られているという事実にある。」 (p153)

「カナビノイドの効果としては、エイズ患者の消耗症候群に治療に有望視されている。吐き気、食欲不振、痛み、不安などはどれも体力を消耗させてしまうが、カナビスにはそれを一度に緩和する効果が備わっている。確かに症状によってはカナビスよりも効果的な医薬品もあるが、必ずしもすべての患者に同じように効くとは限ぎらない。」 (p159)


. カナビスの主要活性成分を合成したマリノール・カプセルで十分なのでは?

「経口マリノールの場合、水に対する溶解性が悪く、しかも生体的活性効率も低いために肝臓での通過が早過ぎて、投与した量の10〜20%しか血液に取り込まれない。効果の発現も遅く、ピークに達するのにも摂取後2〜4時間もかかってしまう。これに対して、カナビスの吸引は迅速に吸収され、発現が早い。・・・マリノールは、生体的活性効率が圧倒的に低いにもかかわらず、患者個人の反応のバラツキが非常に大きい。」 (p203)

「経口投与によるマリノールは、吸収が遅いためにすぐに効果が感じられず、さらなる投与を繰り返して過剰摂取になりやすいことがよく知られている。」 (p205,206)


. カナビスを医療品として合法化するにはもっと研究が必要なのでは?

「カナビスの研究に対する資金は限られている上に、連邦政府の食品医薬品局(FDA)や麻薬取締局(DEA)、さらには州レベルでも承認を得るのに途方もない労力を要して簡単にはできない。」 (p137)

「カナビスは規制薬物法のI類に分類されており、このことが臨床試験に当たって大変な足かせになっている。」 (p194)

「人間を対象にした臨床実験をおこなっている薬品のうち、商用新薬としてFDAに認証されるまで至るのは5分の1しかない。」 (p195)

「法や資金の問題は別にして科学的な観点に限っても、要求に見合った合法的な供給源を探すことや品質の一定なカナビスを用意することが非常に難しく、研究すること自体に困難が伴う。」 (p217)

「要するに、研究者が自分たちでカナビスを栽培しようとしても、科学的一定性、安定的供給、営利目的とみられる恐れがあること、など多大な障害があって難しい。」 (p218)

「カナビスの喫煙には、法的、社会的、健康的な問題があるにもかかわらず、すでに一部の患者グループには広く使われている。」 (p7)


. 現在の法律が本当に患者を傷つけているのですか?

「ルイジアナで行ったIOMの調査で、エイズの消耗症候群に対処するためにカナビスを使い始めたG.S.さんは、やがてエイズ薬の副作用を緩和するためにも継続して使うようになったが、「毎日、逮捕や財産没収や罰金や投獄に怯えている」 と語っている。」 (p27,28)


. 天然のカナビスなど使わずに、カナビスの新薬が開発されるまでどうして待てないのですか?

「カナビノイドを研究している大半の科学者がカナビノイド医薬品開発の有望性については認めながらも、必ずしも研究の成果が広くの医療利用されるとは確信していない。」 (p4)

「例えば吸入器のような安全で効果的なカナビノイド摂取システムが使えるようになるまでまだ何年もかかりそうなので、それまでの間は、衰弱している患者にとっては、症状の緩和のためにカナビスを喫煙するしかない。」 (p7)

「明らかなことは、いずれ新薬が開発されるにしてもそれまでの間は利用できない。さらに、小さな会社がカナビノイド新薬を開発しようとしても、認証までには最低5年以上の期間と数億ドルのコストが必要で、あまりにリスキー過ぎると思われる。」 (p211,212)

「現時点ではカナビノイドの知識は初歩的なものであり、将来のカナビノイド医薬品の姿を見通すことは困難で、開発には大きなリスクを伴う。このために、カナビノイド医薬品が開発されるのはまだ相当の年月が必要で、小規模な製薬会社が参画することもできないと考えられる。」 (p219)

「植物中に存在するカナビノイドは自動的に規制薬物法の最も厳しい制限を受けるので、このことが研究の大きな足かせになっている。」 (p219)


. カナビスは医薬品としては危険過ぎるのでは?

「煙による害を別にすれば、カナビス使用による副作用は他の医薬品で許容されている副作用の範囲内にある。」 (p5)

「制吐作用が迅速に得られる医薬品と器具が開発されない限り、標準的な制吐剤の効かずに嘔吐で衰弱してしまう患者もいる。少なくともこのような患者に対しては、ケースバイケースで医師との緊密な監督下で使用されるべきことは当然だが、短期間であればカナビス喫煙による制吐効果のほうが害に上回ると判断されることもある。」 (p154)

「ガンの末期患者の場合は全く別で、喫煙による害はほとんと問題にならない。さまざまな医薬品を試しても痛みや吐き気が治まらずに衰弱していくような状態では、カナビスの喫煙によって得られる医療利益のほうが害よりも大きい場合もある。」 (p159)


. すでに医療カナビスで恩恵を受けている患者さんにはどう対応すべきですか?

「現に衰弱しかかっている患者で、合法医薬品のどれもが効かず、カナビスの喫煙で症状の緩和が見られる場合には、10年後に良い薬が出てくると説得しても何の慰めにもならない。良い薬という観点からすれば、すべてのオプションが効かない場合以外は、医者がカナビスの喫煙をすすめることはほとんどあり得ない。」 (p178)

「とは言っても、カナビスの規制をどうすべきかという問題に関しては、医学者や科学者のなかでも対立する意見があり、少なくとも現時点においては、患者個人の必要性と広い社会問題とのバランスを考慮しなければならない政治的な問題になっている。この報告書は、カナビスやカナビノイドの医療価値について科学的データにもとづいて評価することが役割であり、バランスを考える上での一要素を提供しているに過ぎない。」 (p178)

「確かに、通常は医薬品としての認証には安全性と効果の証明が不可欠であるが、生命を脅かされている状態にある患者に対しては、時には利益とリスクが定まっていない未承認薬であっても慈悲的な観点から使うことが許されている。」 (p14)

「喫煙に頼らずにカナビノイドの効果を迅速に発現することのできる装置が利用できるようにならない限り、喫煙の代替になるものは他になく、長く痛みやエイズの消耗に苦しむ患者にとっては症状緩和のためにカナビスを喫煙するしか残されていない。」 (p8)

「患者の治療に当たっては、N-of-1 trial も一つのアプローチと言うことができる。この方法は、特定の一患者に対していろいろな治療法を適用してどの治療法が一番有効かを判定するもので、医師の厳格な監督と文書管理のもとで、患者にすべての情報を与えて実験新薬や害のある薬を投与して実施する・・・」 (p8)


. IOM報告は、何故、善良な医療カナビス患者を保護する州法を明示的に支持していないのですか?

「この報告書は政治ではなく科学を対象としたもので、科学に純化した結論がそのまま政策問題を解決策になるわけではない。科学的分析結果の価値は、議論の土台を用意できることにある。」 (p14)


10. 医療カナビスを認めれば、社会全体のカナビス使用も増えるのでは?

「医療カナビスを認めれば、一般でのカナビス使用も増えるとする社会の懸念も大きいが、この見方を支持する確固たるデータは存在しない。現在あるデータからは、他の乱用の恐れのある医薬品と同様に、医療現場でカナビスを厳格に管理すれば問題はないということができる。」 (p6,7)

「また、この問題に関しては、通常の医療利用検証の範囲を越えており、カナビスやカナビノイドの治療の可能性の評価の対象にはなじまない。」 (p6,7)

「医療目的でのアヘン製剤やコカインの使用が、違法な使用での安全性や許容にまでつながっているという見方もあるが、それを示す証拠はない。」 (p102)

「リクレーショナルな使用も含めて、カナビスの非犯罪化が必然的に社会全体の使用の増加につなるという主張を裏付ける証拠は全くと言ってよいほどない。」 (p104)


11. 医療カナビスの議論は、子供たちに悪いメッセージを送ることになるのでは?

「1996年と97年に行われたカリフォルニアの若者たちの調査では、カナビスに対する危機意識に変化はなく、医療カナビスに関する議論が青少年のカナビス使用のリスク意識を低下させたとする証拠はない。」 (p104)

「たとえ、カナビスの医療使用がカナビスに対する危機意識を低下させたとしても、そのことは、医療医薬品の認証を管理する法律の守備範囲を越えている。医薬品の法律はその薬の安全性と効果を科学的に評価するのが目的であって、一般の人々の認識や考え方に言及するものではない。」 (p126)


12. カナビスを医療品として使うと中毒になるのでは?

「医薬品として認証されている規制薬物でも長期に使用すれば依存性が生じるが、このことはごく通常の患者管理の一部であって、一般には過度のリスクとはみなされていない。」 (p98)

「確かに、動物実験ではカナビノイドの依存性が発生することや、禁断症状も観察されているが、他の薬物の依存性や禁断症状に比較すれはいずれも穏やかなものであることが明らかになっている。」 (p35)

「カナビスやTHCに禁断症状が現れることには疑問の余地はないが、アルコールやヘロインの身体的禁断症状に比べれば穏やかで僅かなものに過ぎない。」 (p89,90)

表3.44   使用人口に対する依存症になった人の割合  (p95)
タバコ 32%
アルコール 15%
カナビス(ハシシを含む) 9%
抗不安剤(鎮痛剤や睡眠剤を含む) 9%
コカイン 17%
ヘロイン 23%

「他の大半の薬物に比らべれば・・・カナビス・ユーザーの依存性は比較的稀にしか起こらない。」 (p94)

「依存性を起こすカナビス・ユーザーはごく少数で・・・依存性が現れたとしても、カナビスを単独で使っている場合は、コカインの乱用やカナビスとアルコールなどの併用した場合ほど深刻なものにはならない。」 (p96,97)

「要約すれば、カナビス・ユーザーが依存性に陥ることは余りないが、一部の人たちはそうなることもある。しかし、それでもアルコールやニコチンなどのユーザーほど多くはなく、カナビスの依存性は他の薬物の依存性ほど深刻なものになることはない。」 (p98)


13. カナビスを使うともっと危険なドラッグをやりたくなるのでは?

「カナビスの使用が他の薬物の乱用を引き起こすという因果を示す確定的な証拠はない。また、仮りに薬物の連鎖を示すデータがあったとしても、医療使用の場合にそれをそのままあてはめることはできないという点に注意しなければならない。カナビスの処方が可能になって医療利用ができるようになっても、違法使用の場合と同じパターンが繰り返されるわけではない。」 (p6)

「カナビスの生理学的な特性が踏石として働くという証拠はない。」 (p99)

「むしろ、カナビスの置かれている法律的状況がゲートウエイ・ドラッグにしてしまっている側面がある。」 (p99)

「注意さえ怠らなければ、特にカナビスがゲートウエイ・ドラッグとしてさらに危険な薬物の先駆けになったりすることはない。」 (p101)


14. カナビスは免疫システムを害するので、医療カナビスも違法にしておくべきでは?

「現在までのところ、カナビスに短期的に免疫機能を損なうかどうかはよくわかっていないが、たとえあったにしても、合法的な医療使用を否定しなければならないほどの深刻なものではないと思われる。カナビス使用による急性副作用のリスクは他の多くの医薬品の許容範囲内におさまっている。」 (p126)

「カナビスの使用が免疫系のT細胞やB細胞の機能を断続的に混乱させるとする研究もあるが、その程度は僅かのもので、他の多くの研究では正常値を示している。」 (p112)

「カナビスが人間の免疫機能を損なうという主張は多いが、実際にはカナビスの免疫系に対する影響はまだよくわかっていない。」 (p109)


15. カナビスは脳に障害を与えるのですか?

「初期の研究にはヘビーなカナビス・ユーザーの脳に構造的変化が見つかったと主張するものもあるが、それ以降、もっと進んだ技術を使った研究で再現されたことはない。」 (p106)


16. カナビスは無動機症候群を起こすのでは?

「ヘビーなカナビス使用が原因でそうした症状が見られたとするケースでも、カナビスの使用と無動機症候群の間の因果関係を示す説得力のあるデータはない。」 (p107,108)


17. カナビスは寿命を縮めるような健康問題を引き起こすのでは?

「カナビスを使っている人たちの寿命が短くなることを示した疫学調査のデータはない。」 (p109)


18. カナビスは肺に危険過ぎるのでは?

「カナビスをタバコと同じ重さのジョイントにすると、カナビス・スモーカーの肺にはタバコの場合よりの4倍のタールが残ることが知られている。」 (p111)

「しかしながら、普通のレクレーショナルのカナビス・ジョイントではタバコより巻きかたがゆるく、1本あたりではおよそ半分の重量しかない。さらに、一般に、タバコ・スモーカーのほうが1日あたりに吸う本数がかなり多い。」 (p111,112)

「現在までのところ、タバコのように、カナビスがガンを引き起こすという確固たる証拠は見つかっていない。・・・カナビスを常習的に喫煙した場合に呼吸器系のガンを引き起こすかどうかについては、綿密に計画された今後の疫学研究の結果を待たなければならない。」 (p119)


19. カナビスは生殖に問題を起こすのでは?

「卵子に対する精子の受精能力のカナビノイドの影響に関する研究には相反する結果が示されている。また、長期のカナビス・ユーザーでは精子の濃度が低くなる傾向も観察されている。」 (p122)

「エビデンスのきちっと整った文献のなかで、短期間のカナビスやカナビノイドの医療使用が生殖機能を妨げるといった深刻な懸念を指摘しているものは見られない。」 (p123)


20. カナビスは人間を反抗的・反社会的にしてしまうのでは?

「親の中には自分の子供がカナビスを使ってから反抗的になったという人もいるが、クラウリーらの研究者が行った調査では、不良青少年はカナビス乱用以前にすでに問題を起こしていた。」 (p97)


21. カナビスの多幸感は医療効果を弱めてしまうのでは?

「カナビスのハイが治療効果を下げるとする研究は見られない。逆に、気分の改善、不安の緩和、軽い沈静作用などが医薬品として好ましい特性ともなりうる。カナビスの精神作用は一部の症状の治療にわずかな副作用となることもあるが、その他の症状に対しては病状の緩和に直接役に立っている。」 (p84)


22. 妊婦がカナビスを使うとどのような悪影響がありますか?

「いくつかの研究によれば、妊娠時にカナビスを常用していた女性から生まれた乳児の体重が少ない傾向が示されている。以前からタバコを常用している妊婦についても同じ傾向が認められているが、それらの研究では、タバコとカナビスの程度の違いについては報告されていない。」

「また、妊娠中にカナビスを吸っていた母親から生まれた乳児の平均体重は、カナビスを吸っていない対照群の母親から生まれた乳児よりも95グラムほど少ないとされているが、妊娠期間や先天的な異常児が生まれる率には統計的に明確な差は見出されていない。・・・」

「しかしながら、ジャマイカで行われた調査によると、妊婦のカナビス摂取は喫煙ではなく、もっぱらお茶にして飲んでいるという違いはあるものの、妊娠期にカナビスを摂取していた母親とそうでない母親から生まれた乳児では、生後3日目でも1ヶ月目でも何ら違いは見つかっていない。」 (p123,124)


23. カナビスには他にどのような治療効果が見込まれますか?

「カナビスの主要成分であるTHCとCBD(カナビジオール)は双方とも抗酸化活性をもっているために神経を保護する働きがある。つまり、細胞がストレス下に置かれた時に放出される酸素の毒性形態であるフリーラジカルを減らす作用がある。」 (p47)

「カナビノイドの新しい応用として最も注目されているものの一つが神経保護機能で、外傷性障害(トラウマ)や虚血、神経性疾患などに伴う神経細胞の死の危険を回避することが知られている。」 (p211)

「カナビスには多発性硬化症や脊髄損傷に関連した痙縮を緩和する働きのあることは多くの事例報告で知られている。動物実験でも、カナビノイドが、痙縮に影響のある脳の運動野に作用することが示されている。」 (p160)

「多くの脊髄損傷患者が、カナビスでけいれんが軽減したと証言している。1982年に実施された脊髄損傷患者に対する調査では、回答者43人中22人がカナビスでけいれんが軽減したと報告している。」 (p163,164)

「多発性硬化症の実験用に自己免疫性脳脊髄炎を起こさせたラットの研究で、カナビノイドには中枢神経系のダメージの兆候や症状を弱める働きのあることが示されている。」 (p67)

「明らかに、現在の偏頭痛の薬には改良が必要とされている。偏頭痛の薬としてはスマトリプタン(イミトレックス)が最良のものであるが、患者の30%には効果をもたらさない。・・・一方、偏頭痛の発生に関与しているとみられる脳の中脳水道周囲灰白質(PAG)付近には痛みを抑える神経システムの他にもカナビノイド・レセプターが豊富に存在するので、カナビノイドを使えば偏頭痛を抑えることが可能だと考えられている。」 (p143,144)


24. カナビスは緑内障に有効だといわれていますが、本当に効くのですか?

「緑内障が発生するメカニズムはまだよくわかっていない。・・・緑内障は、加齢、人種、眼圧がリスクファクターといわれている。高齢者に最も多く見られる原発開放隅角緑内障(POAG)はゆっくりと進行する疾患で、60才以上で1%、80才以上で9%以上の人に見られる。80才以上のアフリカ系アメリカ人に限れば10%を越えている。さらにアフリカ系カリビアン(アフリカ系アメリカ人との混血)の高齢者では20〜25%に達している。」 (p173)

「リスクファクターとしてコントロール可能なのは眼圧だけなので、治療の中心課題は眼圧を下げることに向けられる。しかし、眼圧を低下させることができたとしても、必ずしも緑内障の進行を止めたり遅くできるとは限らない。」 (p174)

「医療カナビスの効果例として緑内障がよく引き合いに出されるが、データは必ずしもそれを支持しているわけではない。確かにカナビスには眼圧を下げる働きがある。しかし、効果の持続は短く多量の摂取が必要となるために、緑内障の治療に一生使い続けていると多くの副作用に見舞われると指摘さている。・・・カナビス喫煙の効果を調べた臨床研究からは、カナビスの喫煙による緑内障の改善効果は期待できそうにない。」 (p177)

「しかしながら将来的には、カナビノイドを分離して、眼圧低下効果の持続性が長く、THCよりも精神作用の少ない治療薬が開発される可能性がある。」 (p177)


25. アメリカ人は本当に医療カナビスの合法化を支持しているのでしょうか?

「患者が医療目的でカナビスを使うことに対する社会の支持には強いものがある。1997年と98年に実施された世論調査では、回答者の60〜70%がカナビスの医療利用に好意的な見方をしている。」 (p18)