カナビスに医療価値はない



神話

カナビスには、合法医薬品の効能に匹敵するような医療価値はない。アメリカ麻薬取締局(DEA)の医療カナビス神話 5-2

食品医薬品局(FDA)、薬物乱用精神衛生局(SAMHSA)、国立ドラッグ乱用研究所(NIDA)などを始めとする保健社会福祉省(HHS)のいくつかの局が行った過去の評価によれば、アメリカにはカナビスの医療使用を支持するような信頼に足る科学的証拠はなく、一般的な医療用途においてカナビスが安全で効果的であることを示す動物および人間のデータもない。アメリカ食品医薬品局(FDA)2006年4月20日


事実

これらの神話は、一見して科学をベースにしているかのように装いながら、科学者でもない官僚が政治的な意図をもって書いた作文に過ぎない。

実際、カナビスに医療価値がないと言いながらその証拠を何ら示しておらず、ホワイトハウスの依頼を受けて全米アカデミー医学研究所(IOM)が出し報告書の結論とも真向から矛盾している。アメリカで最も尊敬され権威ある科学者たちが提出した IOM報告書 には次のように書かれている。

カナビノイドの医療薬の可能性としては、特に、痛みの緩和、吐き気や嘔吐のコントロール、食欲増進などに有効であることが示されている…

ベーシックな生化学的意味において、カナビノイドには痛みと運動のコントロールに対する役割があることが示されている。従って、こうした分野での治療薬の可能性を持っていると言うことができる。痛みの治療に関しては比較的強いエビデンスが揃っており、また、十分に明らかになっていないものの運動障害の治療にも強い関心が持たれている…

エイズ患者や化学療法を受けている患者、あるいは、痛みと嘔吐と食欲不振に同時に苦しんでいる患者に対して、カナビノイドは他の単一医薬品では見られないような広範囲にわたる緩和効果がある。また、筋肉痙縮に関するデータは十分に揃っていないが,将来的には有望だと考えられている…

IOM委員会で共同議長を務めたジョン・ベンソン博士(ネブラスカ大学医学センター内科教授)も、インタビューで、FDAの声明や他の機関との合同で行ったという評価は間違っていると 語っている

「連邦政府は、われわれの報告書を無視したくてしょうがないのです。いっそのこと、そんな報告者は最初からなかったことにしたいと思っているのでしょう。」

また、ハーバード大学医学部教授のジェリー・アバロン博士も、「残念なことですが、この声明文は、FDAが科学よりもイデオロギーで動かされていることを示す一例に過ぎません」 と語っている。


●もしこれらの神話が正しければ、当局は、カナビスに医療価値のないことを裏付ける論文やデータを率先してウエブに掲載してもおかしくないはずだが、そのようなものはどこにも見当たらない。例えば、麻薬局(DEA)のウエブサイトに掲載されている 「医療カナビスの神話を暴く」 や 2005年にDEAのタンディ局長(当時)が書いた 「マリファナ、神話が人を殺している」 という文章の引用文献には肝心の科学論文はほとんど載っておらず、政府の刊行物の孫引きか新聞記事の引用ばかりだったりする。

また、タンディ局長は、喫煙カナビスには医療価値がないという根拠については、カリフォルニア大学医療カナビス研究センター (CMCR) に喫煙カナビスを使った研究を許可しているが、医療効果があることを見出した研究はひとつもない、とも主張している。

しかしこれも全くの嘘で、CMCRの プレスリリース や完了した研究のリスト を見れば簡単にわかる。特に、動物実験や基礎研究が一段落した2007年になってからは、喫煙カナビスの医療効果を認めた人間での臨床研究が相次いで発表されており、もはやDEAの主張には何ら根拠がなくなっている。


●FDAの声明に対しては、ただちに大手マスコミも一斉に、IOM報告書と真っ向から矛盾していると非難する記事を掲げている。その最も端的な例が ニューヨークタイムズ で、次のように書いている。

今週突然、FDAは、カナビスの医療価値に疑問を投げ掛ける声明を発表したが、政府の配下にある科学機関を政治的に利用するというブッシュ政権の悪癖がまたしても姿を現した格好になった。声明は、まともな資料の引用もないごく短いもので、説得力のある理由は何一つ書かれていない。

FDAの報道官によれば、この声明を出したのは連邦議会からおびただしい数の問い合わせが殺到しているからだとその理由を述べているが、医療目的でカナビスを使っている人たちに対する取締りの正当性を強調し、医療カナビスを合法化しようとしている州の試みを牽制する意図も隠されていると見てまず間違いない。

FDAは通常、論争の多い事柄に言及するときには、最新のエビデンスに精通した専門家による会合を召集し、その薬品の使用が安全で効果があるかの意見を聞いているが、今回の場合は 「カナビスの医療使用を支持するような信頼に足る科学的証拠はない」 と主張するたった1ページの粗末なものを出してきただけだった。


●アメリカ政府はカナビスには医療価値がないと言い張っているが、政府自身がカナビスの医療可能性を認識していたことを示す例はたくさんある。

1854-1941 カナビスは、医薬品としてアメリカ薬局方に掲載されていた。
1800s-1937 カナビスは、チンキ剤などの調合医薬品として広く使われていた。
アンティーク・カナビス・メディシン・ミュージアム を参照。
1974 バージニア医科大学の研究者たちは国立衛生研究所(NHI)から資金提供を受けて、カナビスが免疫システムにダメージを与える証拠を探していたが、その代わりに、THCがマウスの肺癌、乳癌、ウイルス性の白血病の成長を遅くすることを発見した。しかし、この研究は政府によって隠蔽され公表されることはなかった
1978 食品医薬品局(FDA)のコンパショネートINDプログラム(温情にもとずく治験新薬プログラム)で、ロバート・ランダールが緑内障治療にカナビスが役立つと認定され、世界で最初の合法カナビスの受給者になった。
1979 国立ガン研究所が資金を提供し、吐き気に苦しむ15人のガン患者を対象としたTHC二重盲検実験がFDAから認可を受けた。この研究では、THCまたはプラセボで軽減のみられない患者に対しては、救済措置としてカナビスを喫煙させてもよいということになっていたが、一部の患者ではTHCよりもカナビスのほうが効果のあることが示された。
1982 アメリカ学術研究会議の薬物乱用と行動習慣に関する委員会が 『マリファナ政策の分析』 と題する報告書を発表し、「カナビスの成分が各種の疾病の治療に役立つという予備試験データは揃っている」 と報告している。
1985 FDAが、ガンの化学療法にともなう吐き気や嘔吐の治療薬としてマリノールを医薬品として認可した。マリノールは、アメリカ政府の多大な財政支援を受けてユニメッド製薬が開発した合成THC製剤で、このことは、政府が実際にはカナビスに医療効果があると考えていたことを示している。
1988 麻薬取締局(DEA)の行政法の判事である フランシス・ヤング裁判官 が、カナビスの医療可能性に関する聴聞会を行って、膨大なあらゆる研究資料を検証した結果、カナビスは 「人間に対して最も安全な治療的成分をもった物質」 であると結論づけている
1990年代半ば カナビスの毒性を見付けるため政府の研究プログラムで、マウスとラットに長期間にわたり高濃度のTHCを投与して対照群と比較した研究が行われたが、実際には カナビスには悪性腫瘍に対して大きな防御作用のある ことが見出された。この実験結果も1974年の発見と同様に秘密扱いにされたが、1997年に研究の草稿コピーがリークされ、全国メディアに取り上げられて発覚した。
1997 国立衛生研究所が、カナビスの医療価値を評価する作業部会を編成。部会のなかに設けられた 特別専門グループ が、カナビスには少なくとも一部の疾患に関して十分な治療可能性が見込まれ、新しい対照研究を行う価値があるとする結論を出した。
1999 カナビスの医療可能性について総合的に評価するようにホワイトハウスから諮問を受けた全米医学研究所(IOM)が、『医薬品としてのマリファナ、科学ベースによる評価』 を発表し、「カナビノイドの治療価値は、化学療法の制吐剤やエイズの食欲増進剤にとどまらず極めて広い可能性を持っている」 と結論づけている。
2001 アメリカ保健福祉省が 『老化防止剤および神経保護剤としてのカナビノイド』 と題する特許を申請。その理由として、「広範囲の酸化に関連した虚血・加齢・炎症・免疫などの疾患の治療と予防に有用で……脳梗塞・トラウマのような発作の結果起こる神経障害の抑制や、アルツハイマー病・パーキンソン病・HIV認知症のような神経変性疾患の治療に対する神経保護剤として他に類例のない応用例が発見され…」 と書かれている。この特許は2003年に認められている。
2006 国立保健研究所が 「エンドカナビノイド・システムをターゲットにした薬物療法の研究が脚光を浴びつつある。その潜在性に対する関心の高さは、開発されたカナビノイド関連の薬品が、1995年には2種類しかなかったものが2004年には27種類に増えていることにもよく表れている」 とする 報告書を発表 した。


●現在では、アメリカの12州とカナダ、オランダで医療カナビスが合法化されているが、その 対象疾患 としては、
癌、緑内障、HIV陽性、エイズ、多発性硬化症、クローン病、C型肝炎、アルツハイマー病、癲癇、脊髄疾患、関節炎、慢性痛、偏頭痛、吐き気、嘔吐、消耗症候群、食欲減退、拒食症、ツーレット症候群に伴うチック
などが上げられている。また、対象にはなっていないが、注意欠陥多動性障害(ADHD)、外傷後ストレス障害(PTSD)、アルコール中毒などでもよく使われている。


●医療カナビス治療の第一人者として知られるカリフォルニア州の トッド・ミクリア医師 は、オークランド・カナビス・バイヤーズ・クラブの3万8000件とミクリヤ医師自身が診断した8500件余りの医療カナビス患者のデータを基に症例を分析し、カナビスで何らかの治療効果の得られた約250種類の疾患名を国際疾病分類に従って リストアップ している。

効果については患者の自己証言と医師の確認にもとづいたものなので無作為二重盲検法のような信頼性はないが、適応が疾患数が多いというばかりではなく、癌から神経障害、胃腸病、眼科など幅が広いのが特徴で、全般に慢性的な疾患に効果のあることがわかる。

カナビスはこのように広い範囲の疾患に効果があるのは、人間の 恒常性機能 を制御しているエンドカナビノイド・システムにカナビスが直接作用するからだと考えられている。


●だが、アメリカ政府は、「医薬品の安全性と有効性の決定に関しては、わが国は世界でも最も高い基準と最も洗練された研究施設を持っており、われわれの医療システムは、一般の意見ではなく科学的な証明にもとづいている」 として、ケース研究の事例証言は、二重盲検対照研究を基準とする厳格な研究要件を満たしていないと盛んに強調している。

確かに、経験的な証言データは信頼性が劣っているが、二重盲検対照実験によって作られる現代の医薬品でもその効果の判定は最終的に被験者の証言データによって行われていることや、ケース事例であったにしてもカナビスには 患者ばかりか専門家も含めた証言 が何千年にも遡れるほど多数あることも考慮しなければならない。

思い起こしてみれば、今日最も使われている医薬品の一つであるアスピリンであっても二重盲検法でその効果が確かめられて認可されたわけでもない。また、20世紀における最も偉大な発見の一つと言われるペニシリンは たった6人の患者に試されただけで認可 を受けている。だが、この英断がどれほど多くの人の命を救ったことか……


●さらにアメリカ政府は、実際には、カナビスの 医療恩恵を調べようとする 研究を故意に妨害 して実施できないように画策していることも忘れてはならない。アメリカでは、天然のカナビスを使った研究を行おうとすれば、政府が独占的に栽培しているカナビスを使うことが義務づけられているが、品質が悪いばかりではなく、カナビスの医療恩恵を調べるような当局の意にそぐわない研究は 支給を拒まれる のが当たり前になっている。

例えば、カリフォルニア大学のドナルド・アブラム博士は、カナビスのよるHIV/エイズ患者の食欲増進作用について調べる研究を繰り返しDEAに申請していたがその度に拒否され、やむなく研究目的をマリノールに比較して カナビスにどれだけ害があるかを調べると変更した途端に研究の許可が下りた ことが知られている。


●しかし、最近では、研究資金を自前で用意することを条件にやっといくつかの研究を 認めざるを得ない情勢 におかれて渋々許可を出すようになってきているが、その成果はさっそく現れ始めている。

2007年2月に発表されたカリフォルニア大学のアブラム博士の研究で、HIVに伴う感覚性神経障害に苦しむ50人の志願患者を対象に、カナビスの喫煙による効果を5日間の二重盲検プラセボ試験で調べた結果、低品質のカナビス(THC3.56%)であったにもかかわらず、1日3回の喫煙によって患者の 痛みが34%軽減したと報告 している。

さらに、次のような研究発表も続いている。
エイズ治療研究、カナビス喫煙は 「明らかに医療効果がある」  (2007.6.28)
喫煙カナビス、神経疼痛に治療効果  (2007.10.24)
喫煙カナビスで中枢および末梢神経障害の痛みが軽減  (2008.5.8)


●カリフォルニア大学アービン校の薬理学教授ダニエル・ピオメリイ博士は、「今までに、カナビスが危険であるとか役に立たないという科学者にはお目にかかったことはありません」 と語り、カナビスには一部の患者に恩恵があることは研究で明らかに示されていると 指摘 している。

「われわれ科学者全員がそろってそれを認めています。」