カナビス喫煙で免疫力が低下し

感染症や病気にかかりやすくなる



神話

カナビスの喫煙によって免疫システムが弱体化され、肺の感染症リスクが増大する。コロンビア大学で行われた研究では、1日おきのジョイント1本を吸ったグループでは、白血球細胞の数が通常より39%も少ないことが見出されている。このことは、免疫システムがカナビスの喫煙でダメージを受けて、感染症や病気に非常にかかりやすくなることを示している。
アメリカ連邦麻薬局(DEA)の医療カナビス神話 1-7

カナビスは、免疫シムテムのT細胞の能力を弱めて感染症と闘う力を失わせる。また、すでに免疫システムに問題を抱えている人にはより大きな害をもたらすことも示されている。
アメリカ連邦麻薬局(DEA)の医療カナビス神話 2-3


事実

この神話の引用元になっているのは、科学論文そのものではなく、「フォーカス・オン・ファミリー」 という福音主義の保守的なキリスト教団体のジェームス・ドブソン代表の書いた新聞記事だが、その記事には、カナビスで白血球の数が39%減ったという主張のソースは示されていない。

確かに免疫力と白血球数には関連はあるが、白血球数の正常値とすれば3300〜9000(平均約7000)/μlで大きな幅がある上に、個人差も大きく、1日のうちの時間帯によっても変化すると言われている。

白血球数は血液検査で簡単に分かるので、本当にカナビスによる白血球の減少が原因で感染症や風邪などの病気に非常にかかりやすくなるのであれば、もっと膨大な指摘があってもおかしくないが、実際にはそのような研究は全くといってもよいほどみられない。

また、平均値から39%減といっても正常値の範囲内にあることや、タバコのヘビーユーザーでは白血球数が30%程度増えることなどをが考えれば、この神話の恐ろしげな表現は、いかにも誘導的で狡猾としか言いようがない。


●白血球には、顆粒球・リンパ球・単球などの種類があるが、カナビスの免疫システムへの影響で最初に問題になったのはウイルスなどを攻撃するリンパ球(T細胞)で、1974年に、「カナビスの敵」 を自認するコロンビア大学の ガブリエル・ナハス教授 が行った実験だ。

この実験では、カナビス喫煙者グループと対照群の非喫煙者グループからT細胞を取り出して前処理を行った後で免疫活性剤に晒して形質転換の率の違いを調べた。当初は、カナビスという異物に対する攻撃のためにT細胞が増えると予想していたが、結果は逆で、カナビス喫煙者の試料のほうが形質転換の率が低かった。そこでナハス教授は、カナビスが免疫機能を低下させるので、その危険性が証明されたと主張し始めた。

しかしながら、多数の科学者グループが同じ方法を用いて追試実験を行ったが、最初の研究を再現することはできなかった。逆に、1988年に行われた研究では、カナビス喫煙者の白血球を免疫活性剤に晒すと感応性が増加することが実験で示されてたりしている。

さらに興味深いことに、ナハス教授自身も自分の実験を再現できず、コロンビア大学は、彼のカナビス攻撃のための理論に基づいた研究の多くが方法論的に深刻な誤りがあり捏造の疑いもあるとして、1975年に 彼のカナビス研究と大学とは無関係だと公式に表明して追放 している。


●実験動物を使った研究の中には、THCの投与で免疫機能が損傷されることを見出したものもあるが、極めて多量投与した場合に限られている。例えば、リス猿を使ってヘルペス(疱疹)が増えたという実験では、1日体重1Kgに対して100mgが投与されていた。この量は人間に精神効果を起こす必要量のおよそ1000倍に相当している。

人間のカナビス・ユーザーにおいて細菌やウイルスや寄生虫など感染症が増えることを示すような臨床あるいは疫学研究は存在しない。1970年代にジャマイカとコスタリカ、ギリシャで行われた3つの大規模なフィールド研究でも、カナビス・ユーザーと対照群の間には感染性疾患の被患率に何らの違いも見つかっていない。

カナビスの使用でHIVに感染するリスクが増えるようなことはなく、また、エイズ患者に対して発症を早めたり、症状を悪化させることもないことも示されている。実際、連邦食品医薬品局(FDA)でさえHIVの消耗症候群に対して合成THCであるマリノールの使用を認めており、THCによっていかなる免疫損傷も起こらないことをその理由にしている 。
カナビス神話を暴く 1995 神話 5 カナビスは免疫機能を損なう


●1999年に発表された IOM報告 でも次のように書いている。
  • 現在までのところ、カナビスに短期的に免疫機能を損なうかどうかはよくわかっていないが、たとえあったにしても、合法的な医療使用を否定しなければならないほどの深刻なものではないと思われる。カナビス使用による急性副作用のリスクは他の多くの医薬品の許容範囲内におさまっている。」 (p126)

  • カナビスの使用が免疫系のT細胞やB細胞の機能を断続的に混乱させるとする研究もあるが、その程度は僅かのもので、他の多くの研究では正常値を示している。(p112)

  • カナビスが人間の免疫機能を損なうという主張は多いが、実際にはカナビスの免疫系に対する影響はまだよくわかっていない。 (p109)

●いずれにしても、現在では、カナビスと免疫システムの関係が、体内のエンドカナビノイド・システムと密接の結びついているということが明らかになってきている。エンドカナビノイド・システムにおいてカナビノイドが体の恒常性機能をコントロールしているということが解明され始めたのは21世紀に入ってからで、免疫システムについても全く新しい視点から見直す必要が出てきている。詳しくは、カナビスの害削減パラドックス を参照。


●カナビスが直接免疫システムに悪影響を与えないにしても、カナビスに付着したカビ、虫食い、異物混入などが感染症などの深刻な原因になることがある。例えば、効力を増強するために、アニマル・トランキライザーやPCP(Angel Dust)、ハード・ドラッグなどが混ぜられることもある。ホルムアルデヒドに漬けたりもされる、

また、密輸のためにカナビスを圧縮してプレートやブロック状にされるが、粘着しやすくするためにフルーツ・ジュースなどが加えられビニールなどで密封される。こうした嫌気環境は危険なボツリヌス菌などが繁殖しやすい。

普通、食品が虫食だっやりカビていたら食べないが、カナビスは高価で貴重なために無理して使おうとする。カビには皮膚障害や肺炎など肺の感染症を引き起こすものもある。アスペルギルスがよく知られているが、燃やしても胞子は生き残こるので、特に体の弱い医療患者では命にかかわることもある。

虫食やカビなどは外見や匂いで判断できるので、普段から注意することが重要だ。吸う前にはかならず香りを嗅ぐ習慣を身につけておく必要がある。
カナビス製品のリスク、入手にあたって注意すべきこと