第14章 道化師登場。カナビス禁止論者たち

●オランダのドラッグ使用は健康問題

オランダのドラッグ政策の展開に対して、外国政府の多くは、現実の応用という真摯な興味からではなく、オランダを批判し中傷する目的のためにの注目してきた。オランダ政府も国民も、自分たちのドラッグ政策に対する彼らの攻撃にはしばしば困惑させられてきた。

大半の国とは違い、オランダのドラッグ使用は司法省の管轄にあるのではなく保健省に委ねられている。 オランダ社会は 「酔う権利」 を認めている。これはオランダではドラッグを使っても起訴されないと言うことを意味している。もし使用者が精神的または身体的に問題を起こしても、それはオランダの健康管理システムの中で救済され治療されることになる。

法の責任を科せられるのはドラッグ使用が販売など他の犯罪行為と結び付いていた場合だけだ。確かに今日でもカナビス以外のドラッグの販売は少量であっても法によって禁止され起訴されるが、他の国との大きな違いとしてはオランダではドラッグの流通や取引に対しては深刻な犯罪とは考えられておらず比較的刑罰も軽い。オランタ当局はこれに対する批判には、オランダの刑罰システムは人道的な観点から執行されており、処罰ではなく人々の現在の状態がさらに悪くならないように更正させる目的で運用されているからだと反論している。

●嘘で圧力

他の国はオランダを批判して、何が何でもオランダのシステムが間違っていることを証明するために自分の国のドラッグ専門家を派遣したりして干渉してきた。オランダ国民はこうした毒々しい批判には決して同調することはない。外国の反ドラッグの科学者や専門家たちは、自分の国とは違うオランダの状況を自分の主張に合うように言い直すことでオランダ国民の立場を無視しているだけなのだ。

しかしながらオランダ政府は、外国の指導者や政府から完全禁止に戻せと圧力をかけられると影響を受けやすい。そのような国にはフランスやスエーデン、そしてアメリカがある。

われわれは禁止論者がオランダを無視するように彼らを無視することもできる。しかし、オランダのドラッグ政策の展開に対して根拠ない批判が余りにも多く、むしろそれを指摘することは役に立つ。彼らの嘘と虚報はあまりにもあからさまなためにオランダ以外の人でさえ偽りの情報の垂れ流しには反発してきた。


●マッド・サイエンティスト、ガブリエル・ナハス

邪悪な「専門家」の一人はフランス大統領ジャック・シラクの元ドラッグ顧問ガブリエル・ナハス、別名マッド・サイエンティストだ。 彼は、カナビスがコカインと同様に精神的にも身体的にも人の健康を損ない受け入れがたい危険なものであると繰り返し証明しようとしてきた。

当初アメリカで活動していたがやがて研究者としての信用を失墜しフランスに戻ってきたが、今度はフランス大統領にすべての悪の根元はオランダのコーヒーショップだと吹き込んだ。シラクは、ナハスの語ったカナビスやコカインの作り話を根拠に、オランダはすべてのコーヒーショップを閉鎖しろという 「要求」 を突きつけてきた。

私はオランダのテレビでナハスとシラクのインタビューを見ことがあるが、番組では二人ともフランスのドラッグ問題がオランダの寛大なカナビス政策のせいだと糾弾し、ナハスがラットに液体THCを注射しているところを放送していた。またパリでは、注射針を回し打ちしているのでヘロインなどのハードドラッグ使用者の90%はAIDSやHIVに感染している、と紹介されてもいた。

翌日、私はプレスに手紙を書き、マッド教授とフランスのドラッグユーザーに対する扱いに不快感を伝えた。前夜の番組を私が総合的にどのように解釈したかを述べて、ジャンキーにエイズやHIVに感染させたのはナハスだと非難した。 「何故パリのジャンキーたちが新しい注射針を見つけられないのか分かった。ナハスはラットの実験ですべてを使い切ってしまったからだ。」  番組でもうひとつ驚愕させられたのは、ナハスがオランダでさえ持っていない液体THCを持っているということだった。

●虚報の技術

フランス・パリのカナビス活動家ミッカもまた、ナハスのフランスでの不気味で卑劣な行為と活動を批判している。彼女がそれを記事にするとナハスは名誉毀損だとして彼女を告訴してきた・・・
ナハス教授の聖戦、虚報の技術       ミッカ 「メインテナント」1993年10月

「カナビス中毒」キャンペーン の始まりは何だったのだろうか? その源を調査してみようという思い付きは無駄にはならなかった・・・

ナハス教授は、研究を始める前から結果がどうなるのか分かっているという、とんでもない科学者だ。1950年代にアメリカのコロンビア大学で始められた彼の調査研究は、彼の言葉を借りれば 「生物学のあらゆる分野でマリファナが大変危険なものであることを証明」 するために行われた。ここでのキーワードは 「証明」 で、 「研究」 するのではなく証明するというのだ。

さらにナハス博士は明言している。「私はカナビスの敵だ。カナビスと闘うためにはあらゆる方法を使う。」 そして実際この闘いにおいて考えられるあらゆる方法をくり出している。カナビスに対する戦争は公衆衛生を守る戦争ということになっているが、実際は全く違う。価値感に対する戦争なのだ。それもまともに顔を上げて発言できるようなものではなく、仮に討論しても議論は歪められ事の本質には迫ろうとは決してしない。

こうしたやり方で闘う人たちは、価値観の内容についてはあえて明らかにせず、自らのモラルの優越性を確信して最終的にはその手段を正当化してしまう。少なくとも目的は初めからはっきり決まっていて、それはカナビスを脅威として認知させ、西側社会さらにこの地球上からカナビスそのものを抹殺することなのだ。

真実を知るにはこうしたことを見据えて、ナハス教授の刊行物がまき散らしている些細ななフレーズも見逃さないように心してかからなければならない。例えば、彼によればジョイントを吸う人は 「価値のある目標へのあらゆる興味を失う」 と書いてある。しかし、価値ある、というのは何らかの特定の価値と結び付いているようだが正確にはどんな価値感なのかには明示的な説明はなく、誰でもが受け入れられるような価値感ではない可能性が極めて高い。

虐待される科学    もっと無難に戦える分野がある。一見して中立であると思わせる利点のある分野、科学だ。誰でも自らの価値観を持っているが、科学は事実に基づいているので基本的にはすべての人に受け入れられると思われてる。科学にはさらに利点がある。閉鎖性だ。そのために一般大衆にはその経過は知らされず、目前の科学的研究の結果だけを福音書として受け取るように強要される。

1975年当時、コロンビア大学が記者会見でナハスのマリファナ研究と大学とは無関係だと公式に表明したが、普通の人はこの事実をどのようにして知ることができたというのだろうか?  ナハス教授の理論に基づいた研究の多くが、方法論的に深刻な誤りがあり誤魔化しの疑いがある、としてアメリカ内外で信用を無くしたという過去の事実を再調査しないで知ることは難しい。

こうした例は随所に見られるが、分かり易い例を上げて、一見して科学的にみえる研究も、合理性の全くない概念を一般化する手段として使われることを例示しよう。ここで問題にしている実験は、それ以外の実験も含めて、今だにナハスやその追随者たちにカナビスが脳に回復不能な損傷を与える証拠として使いまわされている。

この実験では、研究用の猿にガスマスク を装着してカナビスの煙りの中で無理矢理呼吸させる。そのあとで安楽死させ脳の損傷で苦しんでいたことが発見されたというものだ。

話はこれで終わるはずだったが、その後の展開はとても暗示的だ。 彼らとは別の研究者たちは、この分野でこれまで行われてきた他の多くの研究結果とは違っていることに触発されて、どのように実験したらこの結果が得られるのか知ろうと何年も努力した。

こうして明らかになったのは、猿たちが63倍相当のジョイントのカナビスの煙りのなかに5分間入れられ、その場所だけで呼吸することが強要されていたのだ。このような条件下ではほとんどの動物は窒息して死んでしまう。木材を燃やした煙りであっても同じような脳損傷が起こるだろう。

カナビスが脳の損傷を引き起こすという別の研究の例では、実験用ラット がカナビス喫煙者の摂取量の1200倍相当の純粋のTHCを注射された。 これらの実験で分かることがあるとすれば、それはカナビスの中毒性が際だっで少ないということだ。もし合法化されているドラッグ、ニコチンやアルコールあるいはカフェインでさえそのような量の注射をされればどんな動物もすぐに死んでしまう。


ナハスは不気味な実験で何百匹のもラットに注射した

「専門家に権威があるのは権力にとって役に立つときだけ」 とステンガーとラレットは的確に指摘している。ナハス教授は先進工業国の禁止論者の政策遂行に都合がよかったので、長期間に渡りWHOのドラッグ委員会の特別顧問という栄誉あるの地位が与えられていたに過ぎない。

もちろんこの地位に指名されたのは彼の科学的な業績が認められたわけでは決してなく、伝統的にカナビスに寛容的でアルコールを嫌うアラブ諸国に比べて西側諸国では「科学的」であることが重視されるので、彼は政治の要求に沿っていただけなのだ。

国連におけるこの地位は、年次報告を書く役割をナハス教授に与えただけではなく、否定しようもない威信を授け、何も言わなくても大国は彼の思う方向に研究費を割り当てるようになった。80年代にアメリカで信用を失うとナハスは身を引いてフランスに戻ったが、ジャック・シラクのドラッグ顧問という地位で彼はいくつかの顕著な成功を収め、さらなる成果を狙った。

ハイジャックされた学会セミナー     1992年4月、専門家ナハスに口説かれてパリ市議会は違法ドラッグに関してフランス医薬品学会のセミナーを開催した。一般演説が終わり、ナハスのカナビス中毒のプレゼンテーションを皮切りに作業部会が始まった。プレゼンテーションはいつもの話題をいつもの証拠で焼き直したものだった。

興味のある者ならば誰でもパリ市議会が発行した文書でこれらのプレゼンテーションのテキストを入手することができるようになっていた。引用が自分の文献ばかりという驚くべき無味乾燥なナハスの論文に混じって、この本には様々な人たちの貢献も含まれていた。特にF・R・インゴールドやM・トーシートの論文は興味深い。

しかしナハスにとっては他の論文の重要性など無関係だ。要はセミナーを開催して、無垢な観衆を前に専門家としての役割をもう一度果たす機会を得ることなのだ。 セミナーから反カナビス十字軍をつくりだし、科学的と称する後ろ盾を授けてもらうことなのだ。

最後のページには、医薬品学会の会長ヘンリー・バイロン教授が書いたセミナーの全体結論が載っているがこれは必見だ。結論はこれまでに公式化されたステレオタイプな理論の焼き直しに過ぎないが、セミナーがカナビスだけではなくすべての違法ドラッグを対象にしていたことすら忘れている。 例えば、

「カナビスの毒性はとりわけ中枢神経系に害があることが明らかに立証された。」
誤り 8ページのこの問題に対するジャン・ポール・タッシンのインタビューを読めばわかる。

「カナビス使用者の大部分がコカインかヘロインのユーザーになる。」
誤り カーテット博士は言うに及ばず専門家はおおむね4%前後だと見なしている。

「カナビスが自由に使える地域ではカナビスの使用と関連事故が際だって増加している。」
誤り オランダでのこの25年間を振り返ってみると、カナビスの使用そのものも、関連する事故も増加していない。カナビスを非犯罪化しているアメリカの州では消費が減ったという事実もある。

繰り返すが、このようなセミナーの目的は科学を進歩させることではなく、反カナビス十字軍に効果的な武器を授けることなのだ。 4月になってセミナーの議事録が発行され記者会見が行われたが、反薬物中毒国民会議という団体の後ろ盾で作られていた。プレス・リリースが回されたが、まず気付いたのがセミナーの名前そのものが「違法ドラッグに関する国際セミナー」から「カナビスの精神薬理学に関するセミナー」に変えられていたことだった。

この奇妙な手口はこれも結局は欺瞞なのだ。しかし驚くには当たらない。反薬物中毒国民会議の議長は・・・ガブリエル・ナハス。 ゲストの一覧の中には内務省の薬物中毒顧問ジャン・ポール・セグエラが載っているがこれも特に驚くことでもない。彼はカナビス・スモーカーを攻撃するために「左傾化前線症候群」という言葉を発明したことでひときわ有名だ。

保健省も同じ穴のむじな  この時に配布されたプレス・リリースには フライト・シュミレータ を使った飛行機のパイロットの実験も掲載されている。 「たった1本のジョイントで24時間にもわたる精神運動機能障害が見られた」 と指摘している。この驚くべき結果は、ジョイントの効果は1-2時間で弱まり、どんな場合も4時間以内には消失する、という今日まで行われてきたあらゆる研究の結果とは正反対になっている。

この奇妙な結果は、カナビスでわれわれの安全を脅かしている証拠として繰り返し引用されてきた。保健省のフィリッペ・ドウステ・ブラジーはこの研究を解説を分かりやすく表現している。 「4時間後パイロットは滑走路の中央の線よりも5メーター離れたところに着地し、12時間後は20メーター、16時間後には40メーターだった。」 (Le Quotidien du Medecin 1993年9月3日)  いくら何でもこれでは風刺マンガだ。論議をかもしているこの実験について、批判精神を持った科学者の目で再び論駁しておかなければならない。本当に興味深い事実が・・・

問題の実験は、セミナーの議事録によれば3つの段階で行われている。第1段階のフライト・シュミレータ実験では、カナビスを吸ったパイロットとそうでないパイロットの24時間後の結果にはわずかな違いが見られたが、パイロットにとってはとても非現実的な状況をシュミレートしたものになっている。実際、現実に則したフライト・シュミレーターで実験をやり直すとその違いも見られなくなった。

実験者たちは再び違いがでてくるように意図して、パイロットに極めて複雑な作業を課して同時に行うべき操作を増やした。 着陸にあたって、接近している他の飛行機との衝突をさけるための管制タワーとの無線交信、エンジン・トラブル、さらに悪天候という条件を追加した。また念のために確認時間も短縮した。さらに実験者たちから目標結果が確実に得られように、普段は操作途中に組み込まれている逆立ち体操をパイロットに要請しなかった。このようにしてジョイントを吸った者とそうでない者の間に悪名高い24時間後の違いが再現された。

しかしこれには本質的な事実が抜け落ちている。あらゆることを試みたにもかかわらず、科学的にはその差違は極めて小さく、平均年齢が24才のパイロットのグループと37才のグループとの違い程度でしかなかったのだ。マリー・アンゲ・ダッドラーが1993年9月23日号の雑誌 l'Evenement du Jeudi でいみじくも指摘している。

「同じような差違は、2時間多く寝た人とそうでない人、タバコを吸った人と吸わなかった人、前の晩にウイスキーを一杯やった人とそうでない人などの間でも多分見つかるだろう。」

科学を操作    このようにしてガブリエル・ナハスや彼の反薬物中毒国民会議は科学を操作しているのだ。そしてこのことはいかに一般大衆が騙されやすいか、政治家がどのようにして自分に都合の良い言葉をまき散らしているかを示している。この調子では、バーラウダーが約束した情報キャンペーンは、いつものように嘆かわしいほどいい加減なものになるだろう。

こうした大嘘が続いているが、今や、政治家たちがもっと利口になって顧問たちを軽率に選ばないように仕向けなければならない。ガブリエル・ナハスとその軍団は40年にわたり本来あるべき議論を毒してきた。このことを認識し、フランス国民を大人として扱うべき時が来ている。

●訴えられ負けた。ナハスは1フラン金持ちになった

プロポット・ライターでジャーナリストのミッカはこの記事がもとで、悪名高き禁止論者で気違い科学者ガブリエル・ナハスから名誉毀損で訴えられた。ナハスには彼を非難する人を告訴するという性癖があり、メインテナント1993年10月号に掲載された 「ナハス教授の十字軍、虚報の技術」 と 「何故フランスの指導者はガブリエル・ナハスの言うことだけ聞くのか」 という2つの記事を訴えてきた。

裁判の被告仲間には、「国境なき医師団」 の創設者の一人でパリのメタドン配布計画の指導者バートランド・レバウ博士や雑誌メインテナントの編集者ミカエル・シトボンがいる。 ミッカとミカエル・シトボンの二人には、ナハスを科学的欺瞞であり結果を操作したと非難したという理由で名誉毀損で有罪が言い渡された。しかし、バートランド・レバウ博士は、ナハスの主張が国際科学界では信頼されていないと書いたところは「誠実」に書かれている、と裁判所は認めて無罪になった。

裁判では二人のフランス保健大臣経験者を含めミッカを支持する大物の証言もいくつかあった。裁判の決定は象徴的なものに過ぎず、ミッカはフラン硬貨一枚の罰金を言い渡されただけだった。これはナハスの世評が深く傷付けられたとは裁判所が思っていなかったことを示している。

ナハスは微生物培養のペトリ皿のなかでジョイントをもみ消して実験し、レーガンにマリファナが染色体の損傷を引き起こすと言わせたりしたが、1983年に研究から身を引いている。しかし政治家や禁止論者たちはいまだ際限なく彼を引用し続けている。

ナハスはここ数年間はフランスで活躍し、フランス政府の耳に、カナビスの高い毒性に人を近づけるリスクに比べれば、バスティーュ監獄につないでおくほうがより健康である、といった禁止論者の妄想をささやき続けてきた。彼はまた国際的な場面でも国連の麻薬委員会の顧問として抑圧を働きかけてきた。これではまさに悪ふざけが好きでたまらない悪ガキだ。

ミッカはカナビスに関する本を3冊書いている。その一つが「ヘンプ、カナビスのルネサンス」で最近発行されたばかりだ。 ミッカは2001年にパリで「スモーカー・ミュジアム」を開館した。 ナハスのほうは、ラットや猿、パイロットの話を聞いてくれる人に向かって今だ虚偽をまき散らしている。


●アメリカから嘘を込めて・・・

ダッチ・システムに対するもう一人の有名な反対者にバーリ・マカフェリーがいる。 彼は、湾岸戦争の元軍司令官で、1996年、 「吸い込んでいない」 ビル・クリントンに 「ドラッグ皇帝」 として指名され、ドラッグの製造、流通、販売、使用を止めさせるためのアメリカ・ドラッグ戦争を指揮した。 しかし、これは1930年代のアルコール戦争と同じ効果をもたらした。禁酒法は、うまく立ち回った人間をより金持ちにして禁酒法の指導者たちが高給を得ただけで、アルコールの値段を高くしただけだった。

アメリカ軍司令官バーリ・マカフェリーは3月6日、国家麻薬統制政策局(ONDCP)の指揮官として迎入れられた。マカフェリーは、ウイリアム・ベネット(1989-1991)、ローバート・マーチンズ(1991-1993)、リー・ブラウン(1993-1996)に続く4代目の 「ドラッグ皇帝」 になった。 マカフェリーは、実際にはオランダのコーヒーショップを見たこともないのに、世界中でおこなったスピーチでダッチ・システムの地獄と破滅についていい立てた。

●マカフェリーの普通の嘘、すぐ分かる嘘、統計の嘘

そしてこのアメリカのドラッグ皇帝マカフェリーはオランダにも来たが、見た現実を無視して今だに嘘を喋り続けている。当然、評判はいいはずがない。 イギリスの政治家で著作者であるベンジャミン・ディスラエリー(1804-1881)は示唆に富む言葉を残している。「嘘には、普通の嘘、すぐ分かる嘘、統計の嘘がある。」 アメリカ・ドラッグ皇帝マカフェリーがこの3つを効果的に組み合わせているが、それまでこのような芸当は誰れにもできなかった。

オランダ訪問に先立って、マカフェリーはアメリカ国民向けに調子よく聞こえるように仕組んだ不正確で扇動的な声明を出しながら、ヨーロッパであちこちの政府を小バカにして歩いた。

彼の言っていることは実際にあまりにバカげていて、オランダ政府の要人たちはマカフェリーの入国を許可すべきではないとまで考えていた。いずれにしてもヨーロッパ訪問の一週間前にCNNの視聴者たちに、オランダのマリファナの寛容政策は 「紛れもない大災害」 だとでっち上げて繰り返し非難した。オランダに入る直前には、オランダの殺人率がアメリカの2倍であると主張して、それをドラッグが原因だと非難した。

●オランダの殺人の率はアメリカの2倍?

「オランダの殺人の率はアメリカの2倍もある」 マカフェリーはスエーデンの記者に語った。「犯罪全体での率はオランダはアメリカよりもおそらく40%は高い。ドラッグのせいだ。」    ロイター 1998年7月14日

しかしロスアンジェルス・タイムスは 「ドラッグ戦争は公正な統計を語らない」 と題する社説で次ぎのように述べている。 「実際は、人口当たりのアメリカの殺人率はオランダの4.5倍だ。」     ロスアンジェルス・タイムス 1998年7月21日

さすがに、この退役した軍司令官も、自身で蒔いた言葉の地雷をつま先立ちでかわそうとして何やらぼそぼそ取り消したりしてたが、結局、自分のついた嘘を正確に訂正しようとはしなかった。後悔するどころか開き直って、8月5日にはロスアンジェルスの財界人たちを前にマカフェリーは次のように述べた。

「オランダの殺人率や犯罪率に関して、私が正しいか間違っているかといろいろわめき声があるが・・・アメリカ人に対して彼らの犯罪率がアメリカより高いと言っているのはすべて皆を目覚めさせるためなのだ。」

彼は今も昔も間違っている。われわれを目覚めさせたのは、ホワイトハウスの国家麻薬統制政策局のこの指揮官が、自らそのような嘘をついても許されると考えている、という事実だ。ついでに言えば、マカフェリー自身がとった態度は怪訝そのものだった。オランダの当局者が随行してアムステルダムの「コーヒーショップ」を視察して現実を自身で確かめることができる機会を設定したのに、それすら拒んだあげくいっそう頑な態度を取った。

●作り話でしょ、ママ

もうすでに彼のやり方は分かっているので、次の疑惑などは小さく感じられるかもしれない。 スイスのヘロイン中毒者対策に対するマカフェリーの発言を見てみよう。

「私はヘロインを保健問題として管理しようとする根拠には非常に懐疑的だ。理性的に考えれは全く逆だと思う。われわれには1920年代にうまく行かなかったという歴史の経験がある。」 ホワイトハウスのドラッグ担当指揮官バリー・マッカフェリーはチューリッヒの記者会見でこのように述べた。     ロイター 1998年7月15日

根拠に懐疑的とは何をさすのか?  理性的な考えとは何か?  1920年代の歴史の経験? ヨーロッパ人の中には、いったいこの男はどんなドラッグを飲んだのだろかといぶかっている人もいた。 スイス連邦保健省長官のトーマス・ツェルトナーはマカフェリーが言っているスイスのヘロイン中毒者率は間違っているというデータを提出している。高率で大変なことになっている?  もちろんそんな事実はない。

マカフェリーのヨーロッパ訪問はアメリカ国民の目を布で目隠しする行動以外の何物でもない。彼が観光大臣にでもなれば、アメリカ人にヨーロッパの水は飲んではならないとでも言いそうだ。(本当は飲んでも大丈夫。念のため。) オランダの元保健大臣エルス・ボーストも、マカフェリーはオランダのドラッグ政策の結果から出てきた事実の受入れを拒んだと報告している。 しかしそれだけでは・・・

●さらなる嘘

最近行われたロスアンジェルスの会合でマカフェリーは強調している。 「オランダを説得しようとしているわけではない。理性的に彼らのモデルをアメリカに適用したくないのだ。」 ロイターのインタビューに答えてバリー・マカフェリーは言った 「彼らは効果もない被害削減政策を堅持して、今やヘロインの保健管理アプローチさえ始めている。」

本当に危険そうに聞こえる?  だか、これも想像の通りマカフェリーのアメリカ国民向けのおとぎ話のひとつだ。 彼が取り上げたヘロインの予備研究プログラムは50人に限定して行なわれ、長期にわたりヘロインに耽溺したユーザーの健康に関して、ヘロインと合成メタドンでの中毒性の差を調べ、代替メタドンの投与で健康が改善されるかどうかを調査研究をするために始められた。

皮肉なことにマカフェリーが発言をしたまさにその日にオランダの日刊紙パルールは、問題のプログラムが被験者が不足していることを掲載した。研究には50人を予定していたのにプログラム開始後でも該当する人は14人しか集まらなかった。 これは別に何かを隠しているわけではない。

ドラッグ戦争でヘロイン・ユーザーたちを犯罪者と見なすアメリカ当局とは違って、オランダではドラッグ中毒は健康問題と見なされており担当者は喜んで救済に努めている。アムステルダムでは警察官がヘロイン・ユーザーと話しながら医者に行くように指導しているのを見かけるのは普通のことだ。 アメリカではドラッグ中毒が健康問題ではなく犯罪と見なされているため当然そのような思いやりはない。

●新統計、役所の電話さらに鎮まる

1999年1月、アメリカ司法省は統計で1997年のアメリカの殺人率が最近30年間で最低レベルになったと公表した。 18,209件の殺人があり、これは10万人あたり6.8人で1967年の6.2人以来の低い数字になっている。この率は1980年の10.2人、1991年の9.8人から下がっている。1950年は4.6人だった。     CNN 1999年1月2日

マカフェリー流に書けば、アメリカにおける10万人当たり6.8人の殺人はオランダの1.8人に比べて極めて高い。 マカフェリーはオランダの殺人率をでっち上げてドラッグ使用と結び付けた。ではアメリカの率の高さは何が原因なのか教えてほしいものだ。もしドラッグの使用が原因ならばアメリカとオランダでは本当はどちらが高いことになるのか、何故オランダのようなヨーロッパの国を非難しようとするのか?  アメリカのドラッグへの対応が何も役に立っていないことを隠すための煙幕ではないのか?

私はその通りだと思う。アムステルダム・ドラッグ研究センターが中央統計局の協力を得て行った最近の研究がアムステルダム大学から発行されているが、それによるとオランダにおけるソフトドラッグ・ユーザーの実数は30万人以下になっており、この数字はいままで政府が使ってきた675000人の半分以下になっている。

ドラッグとドラッグ中毒に関するヨーロッパ調査センターの1998年12月の統計では12才以上のオランダ国民の0.6%がコカインの経験があり、ヘロインは0.1%だった。アメリカではこの数字は3倍高い。 人気大統領クリントンの「吸い込んでいない」という嘘はたまたまうまくいったが、ドラッグ皇帝がドラッグ中毒へのアメリカの対応の失敗を覆い隠そうとして虚報に固執したのに対しては、「人でなし!」と叫びながらフィクションではなく事実で鉄槌を下そう。(アントン・ハイン)

●恋愛と戦争ではどんな手段でも許される?

大多数のキリスト教徒は、それが非合法であれ合法であれ黙認であれ、麻薬の使用を容認していない。ドラッグ中毒に関わっている人なら、ドラッグが有害で、しばしばドラッグの使用が個人にとって深く根を張った問題になりうることを知っている。 ドラッグに限らず他の問題に対して見境のない寛容にはオランダの多くのキリスト教徒も大声で反対するだろう。多くのキリスト教徒は、教会の椅子に座り見失ったものを探し求めるのを良しとする。意見のある人たちは問題の理解には時間を費やさない。ドラッグ中毒者の役に立とうとするだけだ。

われわれに不要なのは、それが暗黙のものであれ、アメリカのドラッグ皇帝がわれわれの国をどのように運営せよという御託なのだ。ラジオ番組やテレビの話題、雑誌や新聞のコラムはアメリカ自身の問題で溢れている。ドラッグ戦争に敗れ、犯罪率の高さを招き、学童たちは次は自分が撃たれる番かと怯えている・・・   アメリカの失敗した国際的関心事も加えれば、地雷禁止条約非加入、国際司法裁判所への復帰拒否、死刑制度の存続などもある。

話を戻せば、キリスト教徒が容認できないものとしてさらに嘘をつくことがある。バリー・マカフィーが事実を認めない限り彼のことを本気で期待する人などいない。退役した軍司令官は恋愛と戦争ではどんな手段でも許されると思っていたかもしれないが、この特殊な戦争では彼の戦略は明らかに失敗に終わった。

ドラッグ問題に深く関心を抱くアメリカ人は、アメリカ人向けには嘘も方便とされているマカフェリーの言動は無視して自分自身で事実を調べるべきだ。 いずれにしても、オランダが伝統的寛容さで少しばかりやっかいななドラッグ問題を抱えているからといって、アメリカの指導者は自国民にそれを誇張して伝えるようなロビー活動に励むべきではない、

●来た。敗れた。去った。

マカフェリーは2000年に職を退いた。彼自身が語っていたが、少なくとも自分はうまくやったと思っていた。 この将軍に対する最もふさわしい名言は、彼の退任をレポートしたアリアナ・ヒューフィングトンのものだろう。

来た。敗れた。去った。