ナハス教授の聖戦、虚報の技術 ミッカ 「メインテナント」1993年10月 「カナビス中毒」キャンペーン の始まりは何だったのだろうか? その源を調査してみようという思い付きは無駄にはならなかった・・・ ナハス教授は、研究を始める前から結果がどうなるのか分かっているという、とんでもない科学者だ。1950年代にアメリカのコロンビア大学で始められた彼の調査研究は、彼の言葉を借りれば 「生物学のあらゆる分野でマリファナが大変危険なものであることを証明」 するために行われた。ここでのキーワードは 「証明」 で、 「研究」 するのではなく証明するというのだ。 さらにナハス博士は明言している。「私はカナビスの敵だ。カナビスと闘うためにはあらゆる方法を使う。」 そして実際この闘いにおいて考えられるあらゆる方法をくり出している。カナビスに対する戦争は公衆衛生を守る戦争ということになっているが、実際は全く違う。価値感に対する戦争なのだ。それもまともに顔を上げて発言できるようなものではなく、仮に討論しても議論は歪められ事の本質には迫ろうとは決してしない。 こうしたやり方で闘う人たちは、価値観の内容についてはあえて明らかにせず、自らのモラルの優越性を確信して最終的にはその手段を正当化してしまう。少なくとも目的は初めからはっきり決まっていて、それはカナビスを脅威として認知させ、西側社会さらにこの地球上からカナビスそのものを抹殺することなのだ。 真実を知るにはこうしたことを見据えて、ナハス教授の刊行物がまき散らしている些細ななフレーズも見逃さないように心してかからなければならない。例えば、彼によればジョイントを吸う人は 「価値のある目標へのあらゆる興味を失う」 と書いてある。しかし、価値ある、というのは何らかの特定の価値と結び付いているようだが正確にはどんな価値感なのかには明示的な説明はなく、誰でもが受け入れられるような価値感ではない可能性が極めて高い。 虐待される科学 もっと無難に戦える分野がある。一見して中立であると思わせる利点のある分野、科学だ。誰でも自らの価値観を持っているが、科学は事実に基づいているので基本的にはすべての人に受け入れられると思われてる。科学にはさらに利点がある。閉鎖性だ。そのために一般大衆にはその経過は知らされず、目前の科学的研究の結果だけを福音書として受け取るように強要される。 1975年当時、コロンビア大学が記者会見でナハスのマリファナ研究と大学とは無関係だと公式に表明したが、普通の人はこの事実をどのようにして知ることができたというのだろうか? ナハス教授の理論に基づいた研究の多くが、方法論的に深刻な誤りがあり誤魔化しの疑いがある、としてアメリカ内外で信用を無くしたという過去の事実を再調査しないで知ることは難しい。 こうした例は随所に見られるが、分かり易い例を上げて、一見して科学的にみえる研究も、合理性の全くない概念を一般化する手段として使われることを例示しよう。ここで問題にしている実験は、それ以外の実験も含めて、今だにナハスやその追随者たちにカナビスが脳に回復不能な損傷を与える証拠として使いまわされている。 この実験では、研究用の猿にガスマスク を装着してカナビスの煙りの中で無理矢理呼吸させる。そのあとで安楽死させ脳の損傷で苦しんでいたことが発見されたというものだ。 話はこれで終わるはずだったが、その後の展開はとても暗示的だ。 彼らとは別の研究者たちは、この分野でこれまで行われてきた他の多くの研究結果とは違っていることに触発されて、どのように実験したらこの結果が得られるのか知ろうと何年も努力した。 こうして明らかになったのは、猿たちが63倍相当のジョイントのカナビスの煙りのなかに5分間入れられ、その場所だけで呼吸することが強要されていたのだ。このような条件下ではほとんどの動物は窒息して死んでしまう。木材を燃やした煙りであっても同じような脳損傷が起こるだろう。 カナビスが脳の損傷を引き起こすという別の研究の例では、実験用ラット がカナビス喫煙者の摂取量の1200倍相当の純粋のTHCを注射された。 これらの実験で分かることがあるとすれば、それはカナビスの中毒性が際だっで少ないということだ。もし合法化されているドラッグ、ニコチンやアルコールあるいはカフェインでさえそのような量の注射をされればどんな動物もすぐに死んでしまう。 ナハスは不気味な実験で何百匹のもラットに注射した 「専門家に権威があるのは権力にとって役に立つときだけ」 とステンガーとラレットは的確に指摘している。ナハス教授は先進工業国の禁止論者の政策遂行に都合がよかったので、長期間に渡りWHOのドラッグ委員会の特別顧問という栄誉あるの地位が与えられていたに過ぎない。 もちろんこの地位に指名されたのは彼の科学的な業績が認められたわけでは決してなく、伝統的にカナビスに寛容的でアルコールを嫌うアラブ諸国に比べて西側諸国では「科学的」であることが重視されるので、彼は政治の要求に沿っていただけなのだ。 国連におけるこの地位は、年次報告を書く役割をナハス教授に与えただけではなく、否定しようもない威信を授け、何も言わなくても大国は彼の思う方向に研究費を割り当てるようになった。80年代にアメリカで信用を失うとナハスは身を引いてフランスに戻ったが、ジャック・シラクのドラッグ顧問という地位で彼はいくつかの顕著な成功を収め、さらなる成果を狙った。 ハイジャックされた学会セミナー 1992年4月、専門家ナハスに口説かれてパリ市議会は違法ドラッグに関してフランス医薬品学会のセミナーを開催した。一般演説が終わり、ナハスのカナビス中毒のプレゼンテーションを皮切りに作業部会が始まった。プレゼンテーションはいつもの話題をいつもの証拠で焼き直したものだった。 興味のある者ならば誰でもパリ市議会が発行した文書でこれらのプレゼンテーションのテキストを入手することができるようになっていた。引用が自分の文献ばかりという驚くべき無味乾燥なナハスの論文に混じって、この本には様々な人たちの貢献も含まれていた。特にF・R・インゴールドやM・トーシートの論文は興味深い。 しかしナハスにとっては他の論文の重要性など無関係だ。要はセミナーを開催して、無垢な観衆を前に専門家としての役割をもう一度果たす機会を得ることなのだ。 セミナーから反カナビス十字軍をつくりだし、科学的と称する後ろ盾を授けてもらうことなのだ。 最後のページには、医薬品学会の会長ヘンリー・バイロン教授が書いたセミナーの全体結論が載っているがこれは必見だ。結論はこれまでに公式化されたステレオタイプな理論の焼き直しに過ぎないが、セミナーがカナビスだけではなくすべての違法ドラッグを対象にしていたことすら忘れている。 例えば、 「カナビスの毒性はとりわけ中枢神経系に害があることが明らかに立証された。」 誤り 8ページのこの問題に対するジャン・ポール・タッシンのインタビューを読めばわかる。 「カナビス使用者の大部分がコカインかヘロインのユーザーになる。」 誤り カーテット博士は言うに及ばず専門家はおおむね4%前後だと見なしている。 「カナビスが自由に使える地域ではカナビスの使用と関連事故が際だって増加している。」 誤り オランダでのこの25年間を振り返ってみると、カナビスの使用そのものも、関連する事故も増加していない。カナビスを非犯罪化しているアメリカの州では消費が減ったという事実もある。 繰り返すが、このようなセミナーの目的は科学を進歩させることではなく、反カナビス十字軍に効果的な武器を授けることなのだ。 4月になってセミナーの議事録が発行され記者会見が行われたが、反薬物中毒国民会議という団体の後ろ盾で作られていた。プレス・リリースが回されたが、まず気付いたのがセミナーの名前そのものが「違法ドラッグに関する国際セミナー」から「カナビスの精神薬理学に関するセミナー」に変えられていたことだった。 この奇妙な手口はこれも結局は欺瞞なのだ。しかし驚くには当たらない。反薬物中毒国民会議の議長は・・・ガブリエル・ナハス。 ゲストの一覧の中には内務省の薬物中毒顧問ジャン・ポール・セグエラが載っているがこれも特に驚くことでもない。彼はカナビス・スモーカーを攻撃するために「左傾化前線症候群」という言葉を発明したことでひときわ有名だ。 保健省も同じ穴のむじな この時に配布されたプレス・リリースには フライト・シュミレータ を使った飛行機のパイロットの実験も掲載されている。 「たった1本のジョイントで24時間にもわたる精神運動機能障害が見られた」 と指摘している。この驚くべき結果は、ジョイントの効果は1-2時間で弱まり、どんな場合も4時間以内には消失する、という今日まで行われてきたあらゆる研究の結果とは正反対になっている。 この奇妙な結果は、カナビスでわれわれの安全を脅かしている証拠として繰り返し引用されてきた。保健省のフィリッペ・ドウステ・ブラジーはこの研究を解説を分かりやすく表現している。 「4時間後パイロットは滑走路の中央の線よりも5メーター離れたところに着地し、12時間後は20メーター、16時間後には40メーターだった。」 (Le Quotidien du Medecin 1993年9月3日) いくら何でもこれでは風刺マンガだ。論議をかもしているこの実験について、批判精神を持った科学者の目で再び論駁しておかなければならない。本当に興味深い事実が・・・ 問題の実験は、セミナーの議事録によれば3つの段階で行われている。第1段階のフライト・シュミレータ実験では、カナビスを吸ったパイロットとそうでないパイロットの24時間後の結果にはわずかな違いが見られたが、パイロットにとってはとても非現実的な状況をシュミレートしたものになっている。実際、現実に則したフライト・シュミレーターで実験をやり直すとその違いも見られなくなった。 実験者たちは再び違いがでてくるように意図して、パイロットに極めて複雑な作業を課して同時に行うべき操作を増やした。 着陸にあたって、接近している他の飛行機との衝突をさけるための管制タワーとの無線交信、エンジン・トラブル、さらに悪天候という条件を追加した。また念のために確認時間も短縮した。さらに実験者たちから目標結果が確実に得られように、普段は操作途中に組み込まれている逆立ち体操をパイロットに要請しなかった。このようにしてジョイントを吸った者とそうでない者の間に悪名高い24時間後の違いが再現された。 しかしこれには本質的な事実が抜け落ちている。あらゆることを試みたにもかかわらず、科学的にはその差違は極めて小さく、平均年齢が24才のパイロットのグループと37才のグループとの違い程度でしかなかったのだ。マリー・アンゲ・ダッドラーが1993年9月23日号の雑誌 l'Evenement du Jeudi でいみじくも指摘している。 「同じような差違は、2時間多く寝た人とそうでない人、タバコを吸った人と吸わなかった人、前の晩にウイスキーを一杯やった人とそうでない人などの間でも多分見つかるだろう。」 科学を操作 このようにしてガブリエル・ナハスや彼の反薬物中毒国民会議は科学を操作しているのだ。そしてこのことはいかに一般大衆が騙されやすいか、政治家がどのようにして自分に都合の良い言葉をまき散らしているかを示している。この調子では、バーラウダーが約束した情報キャンペーンは、いつものように嘆かわしいほどいい加減なものになるだろう。 こうした大嘘が続いているが、今や、政治家たちがもっと利口になって顧問たちを軽率に選ばないように仕向けなければならない。ガブリエル・ナハスとその軍団は40年にわたり本来あるべき議論を毒してきた。このことを認識し、フランス国民を大人として扱うべき時が来ている。
ナハスは不気味な実験で何百匹のもラットに注射した